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ある男の狂気

これは、物語の中核に絡まないある一人の観察者の話である。


いつからだろう、この街に訪れたある一人の少女の姿を俺が追いかけ続けるようになったのは。

戦時中、幾度も人々から伝え聞いたエルフの悪評や恨み言。実物を見たことのない俺は、実際にこの目でエルフを見るまではそいつらが凶暴で野蛮な存在としか思っておらず、さして興味を持たなかった。

だが、ある日。一人の男がこの街にやってきた。突然現れ、この街に住みだしたそいつを最初街の誰もが警戒していたが、月日が経つごとにそいつはただのいい人間だと分かり、少しずつ街のやつらの警戒を解いていった。

それからしばらく月日が流れた。戦争が終わり、穏やかな日々が続いていた時だ。この街に流れの商人がやってきて、奴隷としてエルフを売りに出した。

初めて見た実物のエルフ。醜悪のものだと思っていたそいつは、一目見た瞬間俺の心を奪っていった。

ああ、なんて美しいんだ。この街にいる豚みたいな女共の数百、数千倍の美しさを持ったエルフ。直視することさえためらう美しい顔立ちを目の前にして、思わず俺は叫びだしそうになった。だが、俺以外の誰もこのエルフの存在を理解していなかった。

 どいつもこいつも、気味が悪いだと言って彼女を忌避した。ああ、理解できない馬鹿はこれだから困る。

この調子では誰もあのエルフの買い手が現れないだろうと俺は確信した。
金、金だ。今家にある全財産を引っ張ってきてでもあのエルフを手に入れたい。俺のものにしたい。
それまで心の奥底に隠され蓋をされていたドス黒い感情が一気に吹き出してきた。

すぐさま、俺は金品を取りに行くために家に向かって駆け出した。だが、金を手にして戻ってきた時にはあのエルフはもういなかった。

村人A「買わ……れた?」

聞けば、俺が家に戻っている最中にあのエルフを買い取ったものがいたというのだ。契約は既に済んでおり、今から金品を上乗せして横取りすることも不可能だった。

誰だ、誰だ!? 俺のエルフを奪った奴は誰だ……。
嫉妬と怒りから気が狂いそうになりながらも、俺はそのエルフを買い取った人物を突き止めた。

そう、エルフを買い取ったのはこの街に移住してきたあの、男だったのだ。

憎い、憎い、憎い。俺からエルフを奪い取ったあの男が憎い。だが、下手に手を出せば俺の身が危うい。俺は仕方なく男に手を出すことを諦め、やつの家に監禁されることになったエルフを見守ることにした。

毎日、毎日。雨の日も、むせ返るような暑さの日も、毎日、毎日見続けた。

次第に、彼女を見守ることが俺の義務になっていった。幸い、男に気づかれた様子はない。

エルフが暴漢に襲われた時も、それを男の奴が助けた時もずっと見守っていた。気づかれないように、優しく。

たとえ男の奴がエルフを見放しても自分だけは、ずっと傍にいるという証明を立てるため……。

だが、そんな幸福な日々も長くは続かなかった。エルフが死んだのだ。馬車に引かれて……。

俺は絶望した。薄暗い自室でありったけの声を張り上げた。彼女を殺した馬車の主に向かって怨嗟と呪詛を呟き続けた。

ああ、これで今までの時間の全てに意味がなくなってしまった。もうだめだ。この街にエルフを売りにくる商人なんていないだろう。これから、俺は抜け殻のようにただ毎日を無駄に過ごしていくのだろう。

そうして一年近くが過ぎた。そして、俺は信じられないものを目にすることになる。

……奇跡が起こったのだ。

エルフが、再びエルフがこの街に訪れたのだ。そのエルフは以前のエルフよりも幼く、保護欲を掻き立てるようなか弱い存在だった。
にもかかわらず、首には奴隷の商品としての証の鎖が繋がれ、まるで神聖な存在を捕え、犯しているような光景を連想させた。

その光景に、俺は、たまらなく、興奮した。

欲しい、欲しい。どうしても彼女が欲しい。彼女の、幼く、未発達な身体をこの手で蹂躙したい。そう思った。

だが、その時の俺にはエルフを買うほどの金はなかった。当然だ、働きもせずにずっと前のエルフを見守ってきたのだから。

だからこそ、再びあの男がエルフを買ったときは血が流れるほど強く唇を噛み締めた。屈辱だった。

許さない、またそうして俺からエルフを奪って己の傍に縛り上げるのか? そんなことは断じて認めない。見守るのは、もうやめだ。彼女を、あの男の手から俺が救い出す。

――The day of fate ――

機は熟した。これより、行動を開始する。

朝。いつものようにエルフが男の洗濯物を干している。可哀想に、あんなに無理やり働かされて。男に言われて作っている笑顔が痛々しくて見ていられない。

だが、そんな痛々しい笑顔ももうすぐ無くなる。俺の手で本当の笑顔を取り戻してやる。

昼。彼女が男にこき使われて買出しに出された。どうせ断られるのは分かっているのに、なんて酷い奴だ。今すぐにでも殺してやりたい。だが、今は彼女を救い出す方が先だ。男を殺すのはいつでも出来る。

村人A「……」ジーッ

エルフ「親切な人でした~。お野菜も、お肉も譲ってもらえるなんて。でも、男さんが今まで私に一人で買い出しをさせなかった理由がなんとなくわかった気がします……」トテテテテ

村人A「……エルフ……俺の、エルフ……」フフフフ

村人A「今から、俺が君を救ってあげるからね……」スッ

?「……」サッ

村人A「なんだ、お前? 邪魔だよ、そこをどけ」

?「あの子に何か用か?」

村人A「はぁ!? なんだよ、何わけのわからないこと言ってるんだよ! いいから、さっさとそこどけよ! 俺はあの子を救い出さないといけないんだ。そして、俺の傍でずっと幸せにさせないといけないんだよ。ああ、もう。彼女の姿が遠のいていく。どけっ! どけよ!」ダッ

スッ

?「ここ最近、ずっと変な視線を感じると思っていたけど、お前のせいだったんだな」パサッ

村人A「はぁ!? 何言って……」ハッ

男「……」

村人A「また……またお前か。またお前は俺の邪魔をするのか。ああ、ホントに、ホントニイヤナヤツダ」ガリガリガリガリ

男「……」

村人A「あは、あはははははははははっ! そうだ、ちょうどいい。彼女を助けるためにもお前は殺しておかなきゃならないとは思ってたし、順番は逆になるけれどここで死ねよ。 しね、シネ、死ね! くはっ! くははははっ!」ブンッ

男「……」パシッ

村人A「……へ?」

男「悪いけど、僕は旧エルフの墓前での約束を果たし続けるためにも死ぬわけにはいかないんだ。お前がこのまま引かないっていうならこっちにも考えがある。それでもまだ、あの子に手を出すというのなら地獄を見てもらう」

村人A「な、なにを……」ギリギリ

男「引く気は……ないみたいだな。なら、宣言通り地獄を見せてやるよ」スッ

男がそう呟くと、目の前に変な模様をした円が現れた。そして……。

村人A「へ、あ、ああ。ああああああああああああああああああああああああああ」ドサッ

俺の意識は消えた。

……



明るい。そうだ、俺は男に変な円を見せられて……。

あれ? おかしいな、何も見えない。真っ白だ。見えない、見えない。彼女の姿が見えない!? どこだ、どこにいるんだ?

村人A「……どこだ、どこだっ!」ドンッ

ゴロツキ「いテーな。なんだよ、どこ見て歩いてんだ!?」

村人A「……」チッ

ゴロツキ「おい、待てよ。てめえ人にぶつかっておいて謝罪の一言もなしか」グッ

ドカッ、バキッ、ドコッ

村人A「カハッ!」

ゴロツキ「けっ! これに懲りたら二度と俺の目の前に現れるんじゃねえぞ」ペッ

村人A(くっ……身体が重い。そういえば、ここ数日何も食べていなかったな……)

その時、ふとある考えが思い浮かんだ。

村人A「ああ、そうだ。死ねば俺は誰からも手出しされずに彼女をずっと見守っていられるじゃないか。なんで、こんな簡単なことに今まで気がつかなかったんだろう」

その結論を出してしまってからの行動はすぐだった。近くにあった割れて尖った石片を拾い、胸の前に構える。

村人A「彼女は、永遠に俺が見守り続ける」フフッ、アハハハハ!

グサッ!

こうして、狂気をその身の内に秘めた一人の観察者は死んだ。死してなお、彼の追い求める少女を追いかけ続けるために……。

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 side story 「ある男の狂気」
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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