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二人のちっぽけな喧嘩

エルフ「……男さんが言ってた、新しいおうちってここのことなのかな?」コソコソ

エルフ「うわぁ。前よりも大きくて、中も綺麗……。でも、やっぱり前のおうちの方がよかったな……」シュン

男「……」ジーッ

これは、エルフと男がある日の出来事をきっかけに喧嘩をし、仲直りをするまでを描いた物語である。

――数日前――

エルフ「お、と、こ、さ~ん」ボフッ

男「こら、エルフ。またそうやって急に抱きついてきて……」

エルフ「えへへ~すみません」ニコニコ

男「そうやって言葉だけ謝ったって駄目だぞ。全く……」ハァ

ガタガタ、ガタガタ

エルフ「? 今日はやけに風が強いですね……」チラッ

男「そうだな。雲行きも怪しいし、これはもしかしたら一雨来るかもしれないな。エルフ、今のうちに洗濯物を中に仕舞っておこうか」

エルフ「はい、わかりました!」トテテテテ

ギィィ、パタン

ブワッ、ビュ~ッ

エルフ「あわわ、これはすごい強い風です。洗濯物も上下に大きく揺れて、今にも吹き飛ばされそうです。急いで仕舞わないといけません……」イソイソ

エルフ「よいしょ、よいしょ」アセアセ

ギィィ、パタン

エルフ「ふう。どうにか雨が降る前に全部取り込むことができました。一安心です」エッヘン

男「お疲れ、エルフ。今家の窓を全部閉めてきたから、これで雨が降ってきても大丈夫だよ」

エルフ「男さん、ありがとうございます。それじゃあ、私は今から取り込んだ洗濯物を畳んでいきますね」

男「そう、それじゃあ、僕は料理を……」

エルフ「駄目です! 男さんはのんびりしててください! 料理は私が洗濯物を畳んでから作りますから」

男「でも、二人それぞれで別のことをやっていれば効率的だし、ご飯を食べる時間も早くなるよ?」

エルフ「それでも、です! だって、その。私の作った料理を……男さんに食べてもらい……」ゴニョゴニョ

男「えっと、エルフ? ごめん、最後の方声が小さくて聞こえなかったんだけど」

エルフ「と、に、か、く! 料理は私が作るので、男さんはゆっくり休んでいてください」グイグイ

男「もう……わかったよ。それじゃあ、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」

エルフ「はい!」パァァ

ポツ、ポツ ザァァァァ

男「あ~。やっぱり雨降って来ちゃったな……」ジーッ

エルフ「そうですね~。しかも今日は風もすごく強いので外は酷い様子です」ジーッ

男「この家もだいぶ古いからな……。これだけ雨風が強いともしかして雨漏りとかするかもしれないな……」

エルフ「大丈夫ですよ! 今までだって強い雨の日は何度もありましたけど一度だって雨漏りしたことありませんでしたから!」

男「う~ん、確かにそうなんだよね。まあ、なんにも起こらなければいいけど……」

エルフ「それよりも、男さん。今はなんの本を読んでいるんですか?」

男「これかい? これは娯楽小説だよ。少し前に都市部で流行っていたもの流れの商人が売りに来てたから買ってきたんだ」

エルフ「へえぇ。面白いんですか?」

男「うん、面白いよ。読み終わったらエルフに貸してあげるよ」

エルフ「あ、ありがとうございます!」ニコッ

ザァァァァ、ガタガタ ガタガタ

男「……」パラパラ

エルフ「……」チラッ、チラッ

男「……」ジーッ

エルフ(男さん、読書に集中していますね。本を読んでる姿も様になってかっこいいです……なんて)テレテレ

エルフ(……隣で洗濯物畳んでいても気づかないですよね。集中しているみたいですし)コソコソ

エルフ「……」コソコソ スタッ

エルフ「……」タタミ、タタミ

エルフ「えへへ~」

……



トントン、コトコト

ジュ~ッ グツグツ

エルフ「~~♪」ニコニコ

男「エルフ、何か手伝おうか?」

エルフ「いえ、結構です! ここは私にとっての聖域。たとえ男さんであろうとも軽々足を踏み入れさせるわけにはいきません」キッパリ

男「そ、そうか……。それじゃあ仕方ないな。素直に待っておくよ」

エルフ「そうしていただけるとありがたいです。料理のほうはもう少ししたらできますから待っててくださいね!」

男「うん、楽しみにしてるよ」ニコッ

エルフ「~~♪」ニコニコ

……



男「ごちそうさま~。きょうの料理も美味しかったよ」

エルフ「ありがとうございます。完食していただけるのが作った身としては一番嬉しいです」

男「さて、さすがに洗い物くらいはやるよ。いつもエルフに任せてばかりなのも悪いしね」

エルフ「それじゃあ、一緒にやりましょう!」

男「うん、いいよ」

ジャブ、ジャブ キュッ、キュッ

ザァァァァ、ガタガタ

男「うん、これでよし。さて、一度部屋に戻るとしようかな……」テクテク

エルフ「私も、ちょっと今日の日記を書くので戻ります」テクテク

テクテク、テクテク

男「……あれ?」

エルフ「あっ……」

ピチャッ、ピチャッ

男「雨漏り……してるな」ジーッ

エルフ「それも、結構な量ですね……」ジーッ

男「まさか、部屋も?」

エルフ「それは……ないんじゃないですか?」

ギィィ、パタン

ギィィ、パタン

男「!」

エルフ「!」

男「これは……」

エルフ「ひどいです」

ピチャッ、ピチャッ、ピチャピチャッ

……



男「さて、問題が発生した」

エルフ「はい」

男「現在、二階は雨漏りのせいで水が滴り落ちてきている状態だ。一階はまだ大丈夫だから避難してきているけれど、雨漏りの被害が大きすぎて防ごうにも防ぎきれない」

エルフ「原因はやっぱり……」

男「うん、建物の老朽化。まあ、僕がこの家に来たときもだいぶボロボロだったけど、さすがに限界が来たみたいだな~」

エルフ「えと、それでこれからどうするんですか?」

男「ひとまず二階にあるもので、手で運べる物を一階に持ってくる。特に僕の部屋なんて濡らしたら駄目になっちゃう書物が沢山あるからね」

エルフ「了解しました」トテテテテ

ヨイショ、ヨイショ

男「よし、ひとまず絶対に確保しておくべきものは全部運んで来れた」

エルフ「明日にはこの雨も止みますかね……」

男「どうだろうね、それよりも二階の後始末のことを考えないとな……。それに、雨が止んだあとの補修とか……」

エルフ「ひとまず、今日は寝ましょうか」

男「そうだね」

……



チュン、チュン

男「……ふぁ。朝……か。雨は、止んだみたいだな」チラッ

エルフ「……」スースー

男「エルフのやつはまだ寝ちゃってるみたいだな。もう少し寝かせておいてあげようか」テクテク

テクテク、テクテク

男「うわぁ~。思っている以上に水浸しになってるな……」

男「こりゃ、床に使っている木とか天井に使われている木が駄目になってそうだな……」ウーン

男「一度、建築の親方の元を訪れてみようか」テクテク

男「さて、一階に戻ったもののまだエルフは寝てるな」フフッ

男「いつも頑張ってくれてるし、たまには僕が料理を作ってあげるかな」

――朝食――

エルフ「いただきます!」ハムッ、モグモグ

男「どうぞ……って、もう食いついてるのね」

エルフ「しゅみまふぇん、おとこふぁん、ちょうひょふをつふっていただひて」モグモグ

男「行儀が悪いぞ、エルフ。ちゃんと口の中の物をなくしてから話すように」

エルフ「……すみません。でも、男さんに食事を作ってもらったのが嬉しくて」

男「昨日だって作ろうとしたじゃないか」

エルフ「あれはもう私が台所に入っていたので駄目ですよ。そうじゃなくて、朝起きて男さんが料理を作って私を待ってくれていたのが嬉しかったんです」テレテレ

男「……それって前に読んだ娯楽小説にあったようなシーンだね」

エルフ「ギクッ!? そ、そんなことないです。男さんから借りた小説を読んで、こんな風な朝があったらいいな~って思ってなんていません」

男「まあいいや。それよりも今日は建築業の職人さんの所に行くとするよ」

エルフ「私はお留守番していたほうがいいですかね」

男「いや、別に好きにしていていいよ。この間会ったおじいさんのところに行ってきたらどうだ? あの人は感じもよさそうだったし、エルフのこと差別してなかったし」

エルフ「……でも、男さん一人に任せるのは心苦しいです」シュン

男「気にしない、気にしない。それよりも、朝食が冷めないうちに食べちゃおうか」

エルフ「は~い」

……



エルフ「では、男さん。出かけてきますね!」ブンブン

男「はいはい。あんまり夜遅くまで遊んで来ないようにね」

エルフ「も~。いつまでも子供扱いして! ちゃんと、帰ってきますよーだ」トテテテテ

男「……ふう。とりあえずエルフも出かけたことだし、僕の方も職人のところに行こうか」テクテク

……スッ

男「……この家も、思えば色々あったな」ジーッ

旧エルフ『……はじめ、まして。よろしく、お願いします』

旧エルフ『男さん、きょうの料理の出来具合はどうですか? お口に合ってます?』

旧エルフ『ほら、天気がいいんですからそんな部屋に引きこもってばかりいないで散歩とかしましょ。きっと気持ちいいですよ~』

男「本当に……」スッ

テクテクテク

――建築屋――

親方「らっしゃい。今日はどんな用で?」

男「いや、実は昨日の大雨で雨漏りがひどくて。補修しようにも素人が手を加えてもロクなことにならないと思ってね。それと、できれば一度家の状態を確認してもらおうかなと……」

親方「なるほどな。よし、わかった。ちょいと待っててくれ。すぐに準備をするから」

男「ああ。よろしく頼むよ」

――老紳士の店――

エルフ「おじいさ~ん」ギィィ、パタン

老紳士「おや、エルフさん。今日はどうしたんですか?」

エルフ「今日はですね、おじいさんのところに遊びにきました!」パンパカパーン

老紳士「これは、これは。嬉しいですね、このような年寄りの元を訪れてくれるだなんて」

エルフ「そんな……私が好きで来ているんですから! それに、私おじいさんとお話するの楽しいですよ」

老紳士「ありがとうございます。そうだ、さっき焼き菓子を買ってきたんだけどよかったら一緒に食べませんか? 私一人で食べるには少々量が多くて……」

エルフ「いいんですか?」

老紳士「ええ。一人で食べるよりも二人で食べたほうが美味しさも増しますしね」

エルフ「じゃあ、お言葉に甘えて……」

老紳士「では、そこの椅子に座って待っていてください。すぐに紅茶とお菓子を持ってきます」スタスタ

エルフ「とりあえず、おじいさんが来るまで待っていましょう」テクテク ポフッ

エルフ「それにしても、おじいさんのお店古そうな品物が一杯ありますね。これが俗にいう骨董品というものでしょうか……」キョロキョロ

エルフ「う~ん。何がなんだかさっぱりです」

老紳士「どうかしました?」

エルフ「あ、おじいさん」

老紳士「どうぞ、紅茶は少し熱いかもしれないのでお気をつけて」

エルフ「ありがとうございます。あの、ちょっとおじいさんに聞きたいことがあるんですけれど、いいですか?」

老紳士「なんですか?」

エルフ「このお店に置いてある物ってずいぶん古いものですよね。どうして、こんな古いものばかり置いているんですか?」

老紳士「ああ、そのことですか。確かにここに置いてあるものは古い家具だったり小物ばかりですよね」

エルフ「はい」

老紳士「これらは、今ならもっと使いやすくて強度のあるものがきっと市場に出ていると思います。ですけど、中には多少不便であったとしても昔の物を使いたがる人がいるんですよ。
 私がこの店にこうした古いものを置いているのは、そういった人たちに、これらの品物を提供できたらよいなと思っているからなんです」

エルフ「う~ん、ちょっとよくわからないです」

老紳士「少し話が難しかったかもしれませんね。エルフさんももう少し大人になったらわかると思いますよ」クスッ

エルフ「そういうものなんでしょうか……」

老紳士「そうですね。さて、今なら紅茶もだいぶ飲みやすい温かさになっているでしょう。今日はゆっくりしていってください」

エルフ「はい! では、いただきますね」

――自宅――

男「どう……です?」

親方「あ~。こりゃ、ちょっと駄目かもしれないな。所々支えに使われてる木が腐り出してる。こりゃ、家を建て直すか引っ越したほうがいいと思うぞ」

男「そうですか。ちなみにどっちのほうが費用は安くすみますかね」

親方「そりゃ、引っ越したほうがいいだろうな。知り合いに空き屋を紹介している奴がいるから、よかったら話をつけておいてやろうか?」

男「そうですね……。お願いしてもらってもいいですか?」

親方「おう、任せておけ」

男「……引越し、か」ジーッ

親方「兄ちゃん、どうかしたのかい?」

男「いえ、何でもありません」スッ

旧エルフ『男さ~ん』

男(別れを告げなきゃいけない時が来たのかな……)

……



エルフ「ただいま帰りました~」

男「おかえり、エルフ。どうだった……って聞くまでもないか」

エルフ「えへへっ。すっごく楽しかったですよ! おじいさんと色々とお話をして、私の知らないことをたくさん教えてもらえました」

男「そっか、よかったね。それでね、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

エルフ「……? どうか、したんですか?」テクテク ポフッ

男「んとね、エルフ。今日ね、職人さんにこの家を見てもらったんだけど、どうもこの家は限界みたいなんだって」

エルフ「どういうことです?」

男「つまりね、この家を支えている木が幾つか駄目になっちゃってて、このまま放置してるとよくないんだって。だから、家を新しく建て直すか、引っ越すかのどちらかを早いうちにしたほうがいいみたい。まあ、どっちにしても一度この家を出ないといけないんだ」

エルフ「なるほど、わかりました」

男「それでね、僕はこの家から引っ越して新しい家を探そうと思っているんだけど、エルフはどう思うかな?」

エルフ「あ、はい。それは構わないんですけれど、そうなるとこの家はどうなるんですか?」

男「たぶん、一度壊されて更地になっちゃうんじゃないかな」

エルフ「えっ!? 男さんは、それで……いいんですか?」

男「……仕方ないよ。この家の寿命が来たんだって思うしかないし。それに、書庫も狭くなってきたし、新しい家に移るのはいいかな……って」

エルフ「だって、ここは旧エルフさんと一緒に過ごした場所ですよね? それなのに、いいんですか?」

男「いつまでも、彼女のことを引きずってるわけにもいかないさ。それに、今の僕にはエルフがいるよ」

エルフ「……」

エルフ(男さん、ずっと私の目を見ないで話してる。きっと、この家から移るのは本心じゃないんだ)

男「……エルフ?」

エルフ「本当に、本当に……男さんはそれでいいんですか?」

男「……だから、僕はいいって……」

エルフ「私の目を見ていってください。今の私には、男さんが無理しているようにしか見えません」

男「無理なんて……」

エルフ「男さん!」

旧エルフ『男……さん』

男「……っ!?」ドキッ

男「僕は、いつまでも旧エルフのことを引きずるわけにはいかないんだよ……。じゃなきゃ、彼女に対して申し訳ないんだ!」テクテク

ギィィ、パタン

エルフ「男……さん」

……



男「……はぁ、やっちゃった。八つ当たりなんて、大人げないな……。エルフ、今頃怒ってるかな? いや、あの子のことだから、ショックを受けちゃってるかもな」ハァ

男「エルフの言うこともわかるけど、僕はもうそろそろ旧エルフのことを引きずるのは終わりにしないといけないんだ。それが、彼女を幸せにできずに死なせて、今エルフと共に生きることを選んだ僕の責任だから……」

男「あの家には彼女との思い出がたくさんありすぎる。あそこにいたらどうしたって彼女のことを思い出してしまう。それは、エルフにも旧エルフにも失礼だ」

男「だから、僕は……」

男「ねえ、旧エルフ。僕は、間違っているのかな? こうして、君を置いて先へ進んでいくこと。それでいて、君のことを忘れられずにいるのは……」

……



チュンチュン、チュンチュン

男(結局、悩んだまま街をふらふらして帰ってきたのは朝、か。エルフのやつ怒ってるよな……)

男「ただいま……」ギィィ

男「……エルフ?」テクテク

男「いないや。もしかして、まだ寝てるのかな。……ん?」パラッ

男「これは、手紙?」

エルフ『男さん。私はやっぱり、昨日の男さんの意見は納得いきません。話を聞いていて、私には男さんが無理に旧エルフさんを忘れようとしているように思えました……。
 私は旧エルフさんに会ったことはありませんけど、旧エルフさんの日記を読んで、あの人が男さんと、この家での生活をどれだけ大事にしていたのかは少しは分かっているつもりです。
 だから、たとえ一度この家が取り壊されることになっても、私は男さんにこの家を離れて欲しくないです。だって、この場所が男さんと旧エルフさんが過ごしてきた日々の証なんですから。
 だから、男さんがもう一度考えて結論を出してくださるまで、私はこの家に帰らないことにしました。
 我が儘を言ってすみません。でも、男さん。もう一度、もう一度考えてみてください』

男「エルフ……。これじゃ、家出にならないぞ」

男「エルフが行きそうなところは一つしか思い当たらないし、この手紙に書かれている通りしばらく一人で考えてみようかな」

男「……」キョロキョロ

男「そういえば、この家に来た時はまだ、僕一人だったんだよな……」シミジミ

男「それからしばらくして旧エルフを買って。最初は彼女暗くって、全然話さなくて苦労したっけ。僕もまだエルフを受け入れられるような心持ちじゃなかったから、嫌なことをしょっちゅう言って……」

男「しばらくして、旧エルフが明るくなって、そんな彼女に惹かれて。でも、結局別れることになって。エルフが来るまでだいぶ荒れた生活をしてきたよな~」

男「こうやって思い返してみると、ある意味この家ってずっと僕の傍にいてくれたんだよな」

男「僕が荒れてた時も、喜んできた時も、悲しんでいた時もずっとこの家が帰ってくる場所だったってことか」

男「……」

男「……どうするべきなんだろうな、僕は」ハァ

――数日後――

男「さて、結論も出たしエルフのやつを迎えに行かないとな」

男「こっそり様子を見に行ったけど、元気そうにしててよかった。あのおじいさんも優しくしてくれているし、今度一度お礼にいかないとな」

男「……これでいいんだよな」チラッ

シーン

男「……ふふっ」

ギィィ、パタン

――老紳士の店――

エルフ「おじいさん、おじいさん。この品物はどこに置けばいいですか?」

老紳士「それは、あちらに置いてください。それよりも、エルフさん。別に無理して手伝わなくてもいいのですよ」

エルフ「いえ、無理を言ってこちらに身を置かせてもらっている以上、これくらいの手伝いはさせてください。でないと、申し訳なくて……」

老紳士「そうですか。私は別に何もしないでもエルフさんが頼ってくれているだけで嬉しいんですがね……」

エルフ「でも、でも。やっぱり手伝いたいのでやらせてください。私、こういったお仕事手伝うのやっていて楽しいですし」

老紳士「ふむ……。なら、そのご好意に甘えさせていただきますね。おや?」

エルフ「? ……あっ」

男「どうも、こんにちは」

老紳士「男さん。話はエルフさんから聞いていますよ。それで、もうよろしいのですか?」

男「ええ。エルフがお世話になりました。今回のお礼にはまた後日現れますので」

老紳士「いえ、そんな。私としても楽しいひと時を過ごさせていただきましたので。ほら、エルフさん」

エルフ「あ、はい。……あの、男さん」

男「エルフ、行くよ」

エルフ「えっと、どこへ?」

男「それは、新しい僕たちの家に……だよ」

……



男「えっと、そろそろ着くと思うけれど。エルフ、ちょっとこの辺りに庭のある家があるはずだから探してみて」

エルフ「はい」テクテク

エルフ「……」テクテク

エルフ「……あっ! あれ、かな?」

エルフ「……男さんが言ってた、新しいおうちってここのことなのかな?」コソコソ

エルフ「うわぁ。前よりも大きくて、中も綺麗……。でも、やっぱり前のおうちの方がよかったな……」シュン

男「……」ジーッ

男「やっぱり、エルフとしては前の家がよかった?」

エルフ「……はい」

男「そっか。実はね、まだ言っていなかったんだけどここに住むのはちょっとの間だけなんだ」

エルフ「えっ!? それって……」

男「うん。前の家を一度建て直してもらうことにしたんだ。もちろん内装も出来る限り似せてもらってね。色々考えたけど、これが一番いいかなって思って……」

エルフ「男……さん」パァァッ

男「えっと、ね。あの手紙なんだけどさ、エルフの正直な意見を書いてくれて実は嬉しかったんだ。エルフって普段あんまり自分の意見言わないし。それに、旧エルフのことも考えてくれて……。
 もう旧エルフはいないけれど、確かにあの家は彼女と過ごした思い出が詰まってたから。
 でも、本当にいいの? あの家を残すってことは僕はまた旧エルフとのことを引きずっちゃうかもしれない。いや、多分一生引きずることになるかもしれないよ。
 それは、エルフに嫌な思いをさせるかもしれないってことだよ」

エルフ「構いません。不謹慎な言い方かもしれないですけど旧エルフさんがいてくださったからこそ、今の男さんや私がいるんです。
 男さんが旧エルフさんのことを一生引きずったとしても、それは男さんにとっても、私にとっても大事な思い出の一部なんです。
 だから、私はこれからもあの家で男さんと一緒に過ごしていきたいです」ニコッ

男「……そっか。ありがとう、エルフ。そうだ、この家に荷物を移す前にさ、二人で旧エルフのお墓に行こっか。今回のことを報告しに、さ」

エルフ「はい、男さん!」

 かくして、二人のちっぽけな喧嘩は終わり、再び時は流れゆく。男は旧エルフとの過去を引きずり、それでもなおその過去を含めて彼の全てを受け入れるエルフと共に。

 ほんの僅かな時を別の場所で過ごし、再びあの家に戻るその日まで。


エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 after story 二人のちっぽけな喧嘩 ――完――
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
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