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男がエルフに出会うまで

旧エルフがいなくなって、もう一年の月日が経とうとしていた。自分以外の人の温もりのなくなった家で、男は毎日を過ごしていた……。

男「……」モグモグ

あの日以来、なんとなく物事に対するやる気もなくなってしまい、外に出ることもめっきり減った。
一度家に引き篭もってしまうと人との関わりがこれほどまでに希薄で無意味なものだったのかとどこかで納得もしていた。
外に出かけることなんて食材の調達と旧エルフの墓参り。それから戦時中のように酒場で浴びるように酒を飲むことくらい。
それ以外は部屋にある魔法関連の書物を読み漁り、時折来る仕事をこなすことで毎日時間を消費していた。
自分で思っていた以上に旧エルフの死は男に影響を与えていた。瞳に映る世界は灰色に染まり、空虚なものとなった。
人も物資も栄えている都市部とは違い、辺境の一角にあるこの街では、新しいエルフなど来るはずもなく、旧エルフの墓前で誓った約束は、一年が経った今もまだ叶えられずにいた。

男「今日は、何をして過ごそうか……。旧エルフの墓参りでも行こうかな……」ブツブツ

つい先月に行ったばかりの墓参り。いっそのこと日課にしてしまおうかと思うほど、男は頻繁に彼女の元へと通っていた。

男「いい、天気だな……」ジーッ

旧エルフ『男さん、今日はいい天気ですよ! そんなに部屋に篭ってばっかりいないで外に出かけたらどうですか?』ニコッ

聞こえるはずのない声を想像し、男は自虐的な笑みを浮かべた。

男「……出かけよう」テクテク

……



ザワザワ ガヤガヤ

酒場の主「おう、兄ちゃん。なんだい、今日も昼間から飲みに来てるのか?」ニヤッ

男「……」グビッ

酒場の主「相変わらず、愛想が悪いねぇ。まあ、こっちとしては金を使ってもらえるから、愛想がよかろうが、悪かろうがあんまり関係ないんだがね」

男「……」

酒場の主「そういや、兄ちゃん知ってるか? 戦時中の数々の逸話。たとえば、一個小隊でエルフたちの中隊を打ち破っただとかって話があるんだぜ。
 兄ちゃんくらいの年なら志願兵として採用されていたかもしれないが、そんな貧弱な身体つきじゃ前線には出ていないか……」

男「……その話だけど」チラッ

酒場の主「お!? なんだ、興味があるのか? まあ、やっぱり男なら誰しもそういう経験をしてみたいよな。憧れるよな!」キラキラ

男「おい、ちょっとは人の話を聞いてくれ。その話だけどさ、正確には一個小隊じゃなくて分隊だよ」ボソッ

酒場の主「何言ってんだよ。どこでそんな話を聞いたのか知らないけれど、こっちは戦争に出た人間から聞いたんだ。大体分隊と中隊なら人数比が十倍も違うじゃないか。さすがにそれは話を盛りすぎだ……」

ソウダゼ、ソウダゼ ギャハハハ

男「……」スッ

酒場の主「おっ……?」

男「帰る……勘定を頼むよ」

酒場の主「なんだい、もう帰るのか。もっとゆっくりしていってもいいのに」

男「あいにく、今日は長居する気分でもないんだ。また来させてもらうよ」

酒場の主「あいよ。またよろしく頼むよ!」

……



男(酒場を出たものの、特にすることもないな。どうしようか、やっぱり旧エルフの元にでも行こうか……)

男(情けないな、僕は。こんなに引きずるくらいなら、最初から素直に自分の思いを伝えるんだったよ)

男(といっても、それも今となっては後の祭りか。後悔したところで旧エルフが帰ってくるわけない……)

テクテクテク

男(そういえば、僕あいつのこと何にも知らないんだな。好きなもの、嫌いなもの。何が楽しかったとか……)

男(あの部屋もあの日からずっと閉じたままだし。もし、開けたら彼女がいないことを改めて実感してしまうからってずっと開けないで……。未練たらたらじゃないか)

男(あの部屋を開けたら、また昔みたいに笑顔で彼女が迎えてくれるかもなんて夢見て、現実から逃げて)

男(旧エルフ……会いたいよ)

……



男「……ん、ぅんん。もう、朝か……」ムクリ

男「今日は、どうしようかな……」ボーッ

男「とりあえず、朝食を作ろう」スタスタ

ギィィ、バタン

男「……」ジーッ

男(旧エルフの部屋……)

男(いや、あそこはあのままでいいんだ。彼女がいなくなった今、あそこを開ける必要なんて……ない)

男「……」スタスタ

男「……」ジューッ サッサッ

男「……」モグモグ

男「……」カチャカチャ ザーッ

パリンッ

男「しまった、割っちゃった。旧エルフ、替えの皿を……」

シーンッ

男「……あ」ハッ

男「……馬鹿だなぁ、この家には僕しかいないじゃないか」

サッサッ パラパラ

男「割れた皿を捨てて、洗い物の続きっと……」ゴシゴシ

……



男「へえ、この魔法研究の論文面白いな。着眼点と独自の発想がすごくいいや」パラリ

男「……」パラパラ

男「……」パラパラ

男「……しまった、また読みふけっちゃった。昼食食べるの忘れて夜になっちゃったよ。まあ、二食分まとめて食べれば大丈夫か」グウゥゥゥ

ギィィ、バタン

男「……」チラッ

男「このままで……いいんだ」スッ

テクテク

男「……うぅぅ」ビチャビチャ

オイオイ、キタネーナ ハクナラベツノバショデヤレヨ

酒場の主「おいおい、大丈夫か? いくらなんでも飲みすぎだ。とりあえず、水でも飲んで一息ついておけ」スツ

男「……」ゴクゴクゴク

男「はぁ、少し楽になったよありがとう……」

酒場の主「なあ、あんたが何にも話さないから今まで聞かなかったが何かあったのか? 俺でよければ話を聞くぞ?」

男「……あんたは優しいな。だけど、話したところで僕以外に誰も理解できないよ」

酒場の主「いいから話してみなって。話せば楽になることもあるぞ」

男「なら聞くけれど、あんたエルフのことをどう思う?」

酒場の主「エルフ? ああ、あいつらみたいな下等民族が人間様に盾突くなんていい気味だよな」

男「……もういい。これ、勘定だ。僕はもう帰る……」

酒場の主「あ、おい!」

テクテクテク

酒場の主「なんなんだ……?」

ヒューッ、ビューッ

男(うぅぅ、寒い。さすがに飲んだ後の夜風は身に染みる。早く帰ってベッドの温もりに包まれたい……)

ギィィ、バタン

男(マズイな、足元がおぼつかない。それに……意識のほうも、もう)フラフラ

フラフラフラ

ギィィ、バタン

男(あ……ベッド。よかった、何とか部屋までたどり着いた。もう……限界)バタッ

男「……」スースー

……



チュンチュン 

男「……ぅ、もう、朝、か」

男「ってぇ。頭が割れるように痛い。これは、二日酔いだな」ズキズキ

男「水、飲もう……」ムクッ

男「……あっ」ハッ

男「ここ、もしかして」サーッ

男「……旧エルフの、部屋?」

ドクンッ、ドク、ドク

男「あっ、あ、あああ……」

男「は、ははっ。あはははははっ! 入った、入っちゃったよ……。僕は、なんて間抜けなんだ」

男「旧エルフがいないなんてのは分かってた、分かってたさ。でも、それを認めたくなかったのに……。確認しなければ逃げていられたのに……」ポロポロ

男「……」ポロポロ

男「……ん?」チラッ

男「これは……」テクテク

男「……」スッ

パラ、パラパラ

男「これ、旧エルフの日記……」

男「あはは、あいつこんなの毎日書いてたんだ……」パラ

パラ、パラパラ

パラパラパラ

男「旧エルフ、お前ここにずっといたんだね。ここで、僕が来るのを待ってたんだ。ごめん、また永遠に待たせる羽目になるところだったよ」

男「ありがとう、旧エルフ。僕、頑張るよ」

……



商人「さあ、さあ。寄ってらっしゃい、本日の目玉商品エルフの奴隷だよ! まだ幼い少女。働かせようと夜の相手にしようと自由! 使い方はあなたしだい。どうだい、早い者勝ちだよ!」

ワイワイ、ガヤガヤ

エルフデスッテ シヨウニンナラホシイカモシレナイワネ デモキョウボウダッタラドウシヨウ

エルフ(……うぅ、人の視線がいっぱいで息苦しいです。早く終わってください……)

商人「ほら、さっさとお客さんに笑顔を向けな、じゃないとお前さんいつまで経っても売れ残るんだから。処分されるくらいなら買い手に引き取られるほうがお前もいいだろうに」ボソッ

エルフ「……はいっ」ビクビク

エルフ「ど、どなたか私を買ってくださいませんか?」ニコッ

キャッ、シャベッタワ ヤッパリキミガワルイワネ

エルフ「……」シュン

?「あの~」

商人「ん?」

?「もし誰も買い手がいないのなら僕が買いますけど」

商人「お! 買い手が一人あらわれたよ! 他にはいないかい、いないならこれで決まりだよ!?」

シーン

商人「交渉成立! じゃあ、さっそく契約に移ろうか」

エルフ「……あ、ついに私の買い手が決まったみたいですね。どんな人なんでしょう? 優しい人ならいいな……」

商人「毎度! ほら、顔を伏せてないでさっさとこっちにきな! この人がお前のこれからの主人だよ!」

?「えっと、初めまして。これから君の主人になる相手です」

エルフ「……」スッ

男「あ、やっと顔あげてくれた。僕、男って言うんだ。これからよろしく」

エルフ「よろしく……お願いします」

心を覆う長い、長い夜が明け、ここに新しい出会いが訪れた。傷を抱え、それでも前に進んでいく青年とそんな彼の奴隷となったエルフ。
 やがて、過去を乗り越えて共に歩んでいく二人の物語が今、始まる。

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 before days 男がエルフに出会うまで ――完――
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こねこ時計 ver.3

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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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