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旧エルフと男

男「旧エルフ……」

旧エルフ「男……さん。泣いてますよ?」

男「バカっ……なんで、僕がそんな」

旧エルフ「うれ、しい。おとこさんが、ないてくれたってことは、わたし、すこしはだいじにおもってもらえたんです……ね」

男「そんな、もう死ぬみたいなこと言うな! 大丈夫、すぐに手当すればまだ……」ギュッ

旧エルフ「だめ、ですよ。わたしを、受け入れてくれるところなんてないです。だから、もうこのまま」フルフル

男「やめろ、そんなこというな。僕はまだお前に……」

旧エルフ「……」パタッ

男「あ、ああ。うあああああぁぁぁぁぁ」

これは、過去の物語。エルフと男が出会う前、彼と共に日々を過ごした一人のエルフの物語。

△月×日

旧エルフ「……男さん、今日の朝食はどうですか?」ニコニコ

男「……普通だ」

旧エルフ「そうですか、普通ですか。では、これからもっと頑張って美味しい料理を出せるように頑張りますね」ニコニコ

男「……」プイッ

旧エルフ「さて、私は洗い物を」テクテク

男(なんなんだ、急に明るくなって。この間まで下をうつむいて僕の言うことに頷くだけだったのに。もしかして、旧エルフのやつ何か変なことを考えているんじゃないだろうな)

男(でも、この料理。普通だなんて言ったけどすごく美味しい。味付けとか僕が好きなように工夫がしてある……)モグモグ

旧エルフ「~~♪」ゴシゴシ

男「……なんだっていうんだよ、ホント」ムスッ

△月□日

旧エルフ「あ、食材がもうありません。買出しに出かけないと」

旧エルフ「男さん、すみません」

男「……なんだよ」ムスッ

旧エルフ「食材の買出しに出かけたいのですが、お金をいただけないでしょうか?」

男「はぁ。ほら、これで足りるだろ」チャリン

旧エルフ「あ、ありがとうございます。すぐに買ってきますね!」パァァ

トテテテテ

男「……何が嬉しいんだか」チッ

旧エルフ「では、行ってきます」ギイィィ、パタン

男「……」

シーン

男「静かだな。……ん? あれは……」ジーッ

男「あいつ、急いで行ったせいで買い物用の袋を忘れてるじゃないか。
 ……くそっ! あいつが買い物をきちんとしないと僕の飯もないからな。仕方ない出かけよう」チッ

……



旧エルフ(今日必要なのは、トマトとジャガイモですね。市場にあるいいモノを見つけて美味しい料理を男さんに振舞わないと。
 美味しいもの食べれば、男さんも喜んでくれますよね……)

ザワザワ ミテ、エルフヨ ナンデコンナトコロニ

旧エルフ「……」

店主B「へいらっしゃい、新鮮な野菜はいかがかな?」

旧エルフ「あ、すみません。トマトとジャガイモをいただけますか?」

店主B「そうだ、そこの奥さん。旦那さんに美味しい野菜料理を食べさせてはどうかい? 胃袋を掴めば男は他所にいきゃしないで家に帰ってくるよ」

旧エルフ「……」

旧エルフ(これって、やっぱり無視、されてますね。分かってはいますけど、辛いです。でも、私は頑張るんです。あの人にきちんと私を見てもらうために)

旧エルフ「あの! お願いします。私に野菜を売ってください!」ジッ

店主B「……」

旧エルフ「……」ソワソワ

店主B「ふ~ん。よく見たらなかなかいい身体してるじゃねえか。お前ちょっとこっちに来てみろよ」

旧エルフ「……」ムッ

店主B「へえ、結構大きな胸だな。これで、今まで幾度男をたぶらかしてきたんだか」

旧エルフ「そ、そんなことしてません!」

店主B「嘘言ってんじゃねえよ! お前らエルフ、特に女共は誰彼構わず股開くような売女だろうがよ。そうでなきゃ非力な女が殺されずに生き延びているわけないもんな」

旧エルフ「ひどい……。そんなこと……」

店主B「だいたいよ、敗戦した一族が戦に買った俺たちに頼み事するならそれ相応の頼み方ってもんがあんだろ。例えば、こうしたりな!」ギュッ

旧エルフ「きゃっ! 急になにを」

店主B「なにって、そのいやらしく張ったてめえの尻を揉んでんだよ。こういうのが好きなんだろ?」

旧エルフ「やめ、やめてください!」ドン

店主B「うおっと。……てめえっ」

旧エルフ「……はぁ、はぁ。お願いします、私に野菜を売ってください」ペコリ

店主B「はぁ、つまらねえ奴だな。いいぜ、売ってやるよ」ニヤリ

旧エルフ「ほ、ほんとうですか!?」

店主B「ただし、胸を揉ませろ。それが条件だ」ニヤニヤ

旧エルフ「……えっ」

店主B「それができなきゃ商品は売れねえな。もっとも、ほかの場所じゃ俺みたいに商品を売るような親切な奴はいないだろうけどな」ガハハハハ

旧エルフ(なんて、やつ。こんな気持ち悪い人間にベタベタと身体を触られるなんて想像しただけで吐き気がする。
 でも、このままだとあの人の食事を作ることができない……。
 あの人が笑ってくれるなら、これくらいのことっ!)

旧エルフ「……わかりました」

店主B「あ?」

旧エルフ「好きにしてくれて構いません。その代わり商品を売っていただいた後にしてください」プルプル

店主B「はっ! 話がわかるじゃねえか。ほれ、トマトとジャガイモだ。とっとと金をよこせ」

旧エルフ「……」ソッ

店主B「ほらよ」ヒョイ

旧エルフ「……ありがとうございます」

店主B「礼を言うにはまだ早いんじゃねえか? ほらっ、とっととこっちに来い」グイッ

旧エルフ「あっ!?」

店主B「立派な胸してんな。張りがヤベえぜ」モミモミ

旧エルフ「――くっ、あっ……」

店主B「へへっ……」

男「……」ジーッ

……



旧エルフ「……うぇぇぇ」ビチャビチャ

旧エルフ(ようやく、解放してもらえました。あの男、人の胸をいやらしく何度も、何度も揉んで。ずっと悪寒が走りました。我慢も限界だったみたいですね、吐いてしまいました。
 買い物袋を置いてきたのは本当に失敗でした。あやうく、買った野菜を私の嘔吐物で汚してしまうところでした。
 はやく、帰りましょう。帰って、あの人の顔を見たい……)

……



店主B「へへっ、あの女エルフいい乳してやがったぜ。どこに住んでんのか知らねえが、今度会ったときは最後までやらせてもらうとするか」ヘヘッ

男「……おい」

店主B「ん? なんだい、兄ちゃん。なんか野菜買ってくか? どれも新鮮で美味いよ!」

男「ちょっと、話があるんだがいいか?」ジロリ

店主B「あ? なんだ、もしかしてさっきの女エルフのことか? お前も混ざりたかったとかか? まあ、いいや。店があるからなるべく早く話を済ませてくれよ」

男「ああ……すぐに終わる」

ドカ、バキ、ドンッ!

店主B「ひ、ひぃぃぃ」

男「お前、誰に断って人のもんに手出してんだよ。ぶっ殺すぞ」

店主B「す、すまねえ。あんたのもんだって知らなかったんだ。おれぁてっきり生き延びて行き場のないエルフが市場をうろついてるもんだと思ってよ……」

男「ふざけるな。いいか、二度とあいつに手を出すな。もし次同じようなことがあったらてめえの四肢を切り刻んでやるからな!」ギロッ

店主B「わ、わかったから。これ以上は勘弁してくれ!」ヒイイィィ

男「クソッ、胸糞悪すぎる」チッ

男「あいつ……もう家に着いたころか? そろそろ帰るとするか……」テクテク

男「ただいま……」ギイィィ

旧エルフ「……」スースー

男(こいつ、寝てるのか。しかも、顔色が結構よくない。やっぱりさっきの件が原因……だろうな)

男(くそっ、買い物に行かせたのは僕だし、責任がないわけじゃない。しかたない、ベッドに運んで寝かせるとしよう)

男「……」ヨイショ

旧エルフ「……」ギュッ

男「……」テクテク

旧エルフ「……」ホロリ

……



×月○日

旧エルフ「……うぅ。熱い、身体が熱いです……」アセアセ

旧エルフ(熱が出たみたいです。でも、男さんに心配をかけるわけにもいきませんし、起きないと)フラフラ

旧エルフ「……」フラフラ

ギイィィ、パタン

旧エルフ「……」トントン、コトコト

男「ふぁあ。よく寝た」

旧エルフ「……あ、男さん。おはようございます」フラフラ

男「お前……どうかしたのか?」

旧エルフ「え? なんのことですか」

男「いや、なんでもない」

旧エルフ「今、料理を出しますからね。もう少し待っていてください」フラフラ

男(あいつ……やっぱり様子がおかしいな。なにかあったのか?)

旧エルフ「……あぅ」ドタッ

男「……! お、おい!」

旧エルフ「……」キュゥゥッ

男「おい、しっかりしろ。ああ、もう! 世話が焼ける!」

……



旧エルフ(……なんだかひんやりとして気持ちいいです。一体何が……)

男「……」スースー

旧エルフ「あっ……」

旧エルフ(男さん、寝ています。それに、ここは私の自室。今は……もう夜みたいですね。
 ああ、思い出しました。私、朝食を作っている最中に倒れて……。
 もしかして、男さん一日中私の看病してくださったんでしょうか?)

男「……」スー

旧エルフ(そんなに優しくされると、勘違いしますよ? 私のこと大事にしてもらえているだなんて期待しちゃいますよ?
 たとえ冷たくされていても、ずっとあなたの傍に……)ゴソゴソ

ムクリ、テクテク

旧エルフ「男さん……」ソッ

……チュッ

旧エルフ「はむっ、んむっ、はぁ、はぁ……んちゅっ」チュパチュパ

旧エルフ「男さん、男さんっ!」チュッ

旧エルフ「……男さん、ごめんなさい。こんなにいやらしいエルフでごめんなさい。
 こんな私ですけれど、あなたをお慕いすることを許してください」ポロポロ

……



×月×日

昨晩も男さんはお仕事を遅くまでしていました。体調を崩さないか心配です。相変わらず、私と男さんとの距離は縮まりませんが、でも私は満足しています。
毎日、同じ空間で共に生活をして、時折気にかけてもらえて……。男さんの傍にいられるだけで私は幸せです。
できることなら、この瞬間が永遠に続いてくれるといいななんて思います。男さんと、私。この家に二人でずっと、ずっと暮らしていけたら……なんて。
今日は、明日はどんなことをして過ごしましょう。最近は毎日を楽しく過ごせられます。
奴隷だなんて最初は嫌で、嫌でしかたなかったはずなのに、気がついたらそんな身分でも幸せはあるんだと感じます。
願わくば、この幸せな夢が覚めませんように……。

旧エルフ「ふう。こんなところでしょうか」カキカキ

旧エルフ「我ながら恥ずかしいことを書いていますね。これはさすがに人に見せられません」テレテレ

旧エルフ「ひとまず、日記を書くのはこの辺で止めておいて朝食の準備に取り掛かりましょう。男さんももうすぐ起きてくるでしょうし」テクテク

旧エルフ「今日も一日頑張りましょう!」

ギイィィ、パタン

男「……」ファァ

旧エルフ「男さん、おはようございます!」

男「……ああ、おはよう」ムスッ

旧エルフ「……!」パァァ

旧エルフ「おはようございます!」

男「……なんだよ、そんな嬉しそうな顔して」

旧エルフ「そんな顔してますか?」ニコニコ

男「まあ、なんでもいいよ」

旧エルフ「……あ、すみません。起きていただいたのですけれど、実はまだ朝食の準備が出来ていないんですよ。少し材料が足らなくて……。それで、今から市場にいこうと思うのですけれど、お金をいただけますか?」

男「……ん」チャリン

旧エルフ「ありがとうございます。それじゃ、買出しに行ってきますね」ニコッ

男「……おい」

旧エルフ「……はい?」

男「早く帰ってこいよ。その、僕はお腹減ってるから……さ」

旧エルフ「……はいっ!」

トテトテ、ギィィ、パタン

男「……あ~もう。調子狂うな///」カアァァ

旧エルフ(早く帰ってこいって言われちゃいました。えへへっ、嬉しいです。男さん、私のこと必要としてくれているんですね。
 そう考えると口元がニヤけるのを止められないです。嬉しいです、嬉しいですっ!)

ガタガタガタ

旧エルフ(男さん……今なら私の想いを受け入れてくれますか? 決めました、今日帰ったら男さんに告白しましょう。私の想いを、男さんに伝えましょう)

ガタガタガタ

旧エルフ(男さん、私はあなたの奴隷になれて本当に……)

ガタガタ ヒヒーン

旧エルフ(幸せですっ!)

ドカッ

……



男(……遅い。いくらなんでも遅すぎる。まさか、また変な店主に捕まっているんじゃないだろうな……)

男(あんまり空腹のまま待たされても困るし、探しに行くとするか。本当に面倒な奴だよ)

ギィィ、パタン

タッタッタッ

男(……ん? 人だかりができてるな。なにかあったのか?)

ヒソヒソ ミテ、エルフガタオレテルワ

ホントウネ、バシャニヒカレタラシイワヨ

デモマア、イイキミネ

ソウネ

ソウネ

男(馬車に引かれた? それに、エルフだって!? まさかっ……!)

男「すいません、どいて、どいてください!」ズイズイ

男「……あっ」ダダッ

男「旧エルフ……」

旧エルフ「男……さん。泣いてますよ?」

男「バカっ……なんで、僕がそんな」

旧エルフ「うれ、しい。おとこさんが、ないてくれたってことは、わたし、すこしはだいじにおもってもらえたんです……ね」

男「そんな、もう死ぬみたいなこと言うな! 大丈夫、すぐに手当すればまだ……」ギュッ

旧エルフ「だめ、ですよ。わたしを、受け入れてくれるところなんてないです。だから、もうこのまま」フルフル

男「やめろ、そんなこというな。僕はまだお前に……」

旧エルフ「……」パタッ

男「あ、ああ。うあああああぁぁぁぁぁ」

あの日、エルフは馬車に引かれて死んだ。この時ほど今までの自分の態度を後悔した事はなかった。
彼女に惹かれていたはずなのに、それを言葉にして伝えることもできず、僕はただ一人この家に残されることになった。
シンと静まり返った家。明るく笑ってくれた彼女はもういない。
どれほど涙を流そうとも、彼女がこの家に帰ってくることはもうない。
エルフというだけで差別にあい、墓地に入れられることすら許されなかった彼女。僕はそんな彼女の墓を街から離れた森の入口に作ることにした。

男「……ごめんな。結局最後までお前を拒絶することしか、僕にはできなかった」

男「僕のせいで嫌な思いをいっぱいしたと思う。今になって思えばお前にもっと優しくしておくべきだったなんて思うよ」

男「でも、もうそれも無理なんだな。話しかけても、お前はいつものように笑いながら返事をしてくれない……」

男「僕、決めたよ。もし、次にエルフを家に迎えることがあったらお前の分も優しくするって。お前にできなかったことをそいつには全部してやるって……」

男「ここなら、お前に嫌がらせをしたり、いじめたりする人間もいない」

男「僕も時間をあけてここに来るようにするからさ……」

男「だから、ここで……安心して……眠ってくれ……」ボロボロボロ

……



男「さようなら……旧エルフ」

エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 before days 旧エルフと男 ――完――
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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