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エルフ「……そ~っ」 男「こらっ!」

エルフ「ひゃっ!」

男「また勝手に包丁使おうとして。危ないから触っちゃダメだろ!」

エルフ「で、でも私奴隷ですから料理とかしないと……」

男「そんなことはしなくていいの。君はまだ小さいんだから下手なことして怪我でもしたら困るんだ」

エルフ「だったら何をすればいいですか? よ、夜のお世話とか……」テレテレ

男「料理ができるまで黙って座っていなさい」

エルフ「……」

男「料理できたよ~」

エルフ「は~い」トコトコ

男「ほら、たんとお食べ」

エルフ「うわぁ~! とっても美味しそうです。いただきます!」モグモグ

男「……」ジーッ

エルフ「えへへ~」モグモグ

男「君は本当にいつも美味しそうに食べてくれるね」

エルフ「はいっ! だって出される料理全部が美味しいですから!」

男「そうか。ならよかった」

エルフ「……」モグモグ

男「……」ニコニコ

エルフ「――ハッ! いけません、料理の誘惑につい負けて忘れてましたけど、本来これを作るのは私の役目です。今日こそはそのことについて話し合いましょう!」ダンッ!

男「そうだね~。あ、スープもあるけど飲む?」

エルフ「いただきます!」

男「はい、どうぞ」コトリ

エルフ「わ~い」

エルフ「昨日はまたしても失態を犯してしまいました。今日はまだあの人も起きていませんし、今のうちに洗濯物でも洗いましょう」トテテテ

エルフ「洗濯物……洗濯物」

男「どうかしたの?」

エルフ「あ、おはようございます。実は洗濯物が見つからないんですよ」

男「そうなの? まあ、僕がさっき洗ったからもうないと思うけれど」

エルフ「そうなんですか~」

男「そうなんだよ。それじゃあ、僕は朝食を作るから出来上がるまで待っててね」

エルフ「分かりました~」トテトテ

男「~~♪」ジューッ

エルフ「……あれっ?」

エルフ「ようやくお買い物を任せてもらえました。今まで役目を取られていた分頑張ります!」トコトコ

――市場――

エルフ「すみません~。このお肉もらえますか?」

店主A「ん~? チッ、何だエルフじゃねえか。帰れ、帰れ。敗戦した一族が店の前をうろついてたら辛気臭くて客が寄り付かねえ」

エルフ「あ、あの! お肉を……」

店主A「帰れってんだろうが! とっとと失せやがれ」

エルフ「すみません……」ショボーン

?「……」ジーッ

エルフ「こんにちは!」

店主B「……チッ」チラッ

エルフ「あ……。すみません、お野菜売ってもらえませんか?」

店主B「エルフなんぞに売るもんなんてないね。ほら、後ろがつかえてんだからとっとと消えてくれ」

エルフ「……」

?「……」ジーッ

エルフ「うう……。結局買い物ができませんでした。このままじゃあの人に合わせる顔がありません」トボトボ

?「もし、そこの子」

エルフ「えっ!? 私ですか?」

?「そうです。何やらお困りな様子、よろしければお話しくだされ」

エルフ(ローブを被ってて顔が見えないや。でも、あんまり悪い人には見えないですし……)

?「どうかされましたか?」

エルフ「いえ。実は……」

?「ほうほう。エルフだからといって食べ物を売ってもらえなかったと」

エルフ「はい……。私だけならいいんですけれど、このままじゃご主人である男さんに迷惑をかけてしまうので、どうにかしたいんです」

?「……ぅぅっ」

エルフ「どうかしました?」

?「いえいえ、あなたのその心意気に少し感動しただけです」

エルフ「そうですか? でも、私は奴隷ですから当然のことをしてるだけなんですけれど」

?「そんなことはありません。もしよろしければ、これをお受け取りください」

エルフ「これは?」

?「あなたが必要としているものですよ」

エルフ「あっ! お肉にお野菜。いいんですか、いただいても」

?「ええ、それを持って帰ればあなたの主人も喜ぶことでしょう」

エルフ「ありがとうございます! このご恩は忘れません」

?「いえ、気にしないでください。では、僕はここで……」スタスタ

エルフ「本当にいい人でした。でも、どこかで聞いたような声でしたけれど、きっと気のせいですね。私も早く帰りましょう」トテテテ

エルフ「帰りました~」

男「お帰り。どうだった?」

エルフ「えと、親切な方が食材を譲ってくれました。それと……街の人も親切にしてくれましたよ」ニコリ

男「……そっか。そうだ、少しこっちに来てくれるかな」

エルフ「はい、なんでしょう?」トコトコ

男「はい、今日買い物に行ってくれたお礼。クッキーを焼いたから食べて」

エルフ「わ~い。ありがとうございます」

男「それじゃあ、まずは手を洗ってこようか」ナデナデ

エルフ「えへへ~。行ってきまーす」

男「今日は森にある小川にでかけよう」

エルフ「暑いですもんね~」

男「水遊びするのならちゃんと準備してきなよ」

エルフ「馬鹿にしないでください。もう水遊びで喜ぶような年じゃありません」ニコニコ

男「表情と言動が一致してないんだけどな~……」

――小川――

エルフ「ようやく着きました~」

男「さて、持ってきた荷物を置いて……。川で遊ぶならちゃんと身体をほぐさないとダメだぞ」

エルフ「うわ~。ここの水すごく冷たいです。男さんも早く中に入りましょうよ~」

男「聞いてないや……」

エルフ「冷たいですね」チャプチャプ

男「だね。ひんやりとしていて気持ちいいや」

エルフ「男さんもそんな足だけ水につけてないで泳ぎましょうよ~」

男「もう、そんなにはしゃぐような年でもないしな~」

エルフ「そんなことないです! 水遊びは童心に帰ります!」

男「出かける前の発言を一度思い出そうか……」

エルフ「お昼ご飯です! 今日は作るのを手伝わせてもらいました!」

男「サンドイッチだね~」

エルフ「バスケットを開けて……。ほら! 私が作ったのですよ!」

男「そうだね、頑張って具材を挟んでくれてたね」ニコニコ

エルフ「美味しそうです」クキュルル

男「空腹を隠す気が微塵もないね」

エルフ「あうぅぅ///」テレテレ

男「それじゃあ、一緒に食べようか」ニコッ

エルフ「はいっ!」

エルフ「今日は楽しかったです。また遊びに行きたいです」テクテク

男「そうだね。暇ができたらまた行こうか」テクテク

エルフ「やった! あ……でもお仕事も頑張りますから!」

男「そっか。まあ、できることを頑張ってくれれば僕はそれでいいよ」ニコニコ

エルフ「でも男さん私に仕事あまりくれないじゃないですか~」プンプン

男「気のせい、気のせい」

エルフ「も~またそうやって誤魔化して」プンプン

男「あはは。でも、ご主人は僕なんだから命令にはちゃんと従わないと駄目でしょ?」

エルフ「ぐぬぬ。それを言われると何も言い返せません」

男「そうそう。子供はのんびりするのが一番なんだから。……そうしたくてもできなかった奴もいるんだから」

エルフ「何か言いましたか?」

男「いや、何でもないよ。日が沈む前には家に帰ろうか」ギュッ

エルフ(あ……男さんの手)

男「どうかした?」ニコッ

エルフ「いえっ! な、なんでも……」テレテレ

エルフ「今日は男さんの友人さんが来るそうです。精一杯おもてなししなければ!」

エルフ「ですけれど、どうすればいいのかさっぱりです」

エルフ「男さ~ん。今日私は何をしていればいいですか?」

男「ん? ああ、好きにしてくれていいよ」

エルフ「好きにと言われても……」

男「そうだな~。じゃあ、僕が話をしている間部屋の掃除してくれるかな」

エルフ「えっ!? いいんですか?」

男「うん、いいよ。ただ、なるべく置いてあるものは動かさないでおいてね」

エルフ「分かりました。それじゃあ、掃除してきますね~」トコトコ

エルフ(ここが男さんの部屋……。初めて入るので緊張します)ドキドキ

エルフ「失礼しま~す」ギイィィ

エルフ「うわあぁぁ! 本がいっぱいあります。本棚がビッシリ埋まってます」

エルフ「これどんな本なんでしょう。気になります」ジーッ

エルフ「でも、勝手に見たらいけないですし……」

エルフ「ちょ、ちょっとだけならいいですよね! たまたまページが捲れてただけってことで」ソワソワ

エルフ「とりあえず、適当に取って……」パラパラ

エルフ「わぁ。これ魔法関係の本です。あ、こっちも。男さん魔法関係の本をたくさん持ってるんですね」パラパラ

エルフ「……」ジーッ

エルフ「……」パラパラ

エルフ「……はっ! つい読みふけって本来の目的を忘れていました。急いで掃除しないと」ササッ

パタパタパタパタ

エルフ「ふぅ。これで一通りは掃除を終えました。男さんの友人はもう来たでしょうか?」トテトテ

男「久しぶりだね、騎士」

騎士「おう、久しぶりだな。相変わらず貧相な体つきしてんな。ちゃんと食ってるのか?」

男「ひどいなぁ。これでも昔に比べて食べるようになったんだよ?」

騎士「そうか? 肉食って身体動かしておけばもっと体格よくなるだろ」

男「それは騎士だけだと思うよ。僕は頭脳労働専門なんだ」

騎士「それもそうか」アハハ

エルフ(なんだか、すごく楽しそうな雰囲気です。ちょっと、声をかけづらいです)

男「……あれ? どうしたの、そんなところで立って。ほら、こっちに来なよ」

エルフ「あ、はい……」トトトト

騎士「お前……まだエルフを手元に置いているのか?」

男「そうだよ、悪いかな?」

騎士「いや、だってお前……」

男「……」

騎士「いや、お前が決めていることだ。俺が口を出す必要もないか」

エルフ「えっと、もしかしてご迷惑でしたか?」

男「そんなことないよ。ごめんね、それで何か言いたいことがあったのかな?」

エルフ「そうでした。あのですね、掃除が終わったんですけれどどうすればいいですか?」

男「う~ん、特にやることもないから部屋でのんびりしていてくれればいいよ」

エルフ「わかりました。それじゃあ、失礼します」トテテテ

男「お疲れ様」

騎士「……」

男「……」

騎士「変わった……な」

男「そうだね、変わらざるをえなかったんだよ。彼女がいてくれたから……ね」

騎士「そうか。その様子じゃ、隊に戻りそうになさそうだな」

男「ごめんね」

騎士「謝るなよ。お前が幸せそうにしているならいいんだよ。今だから言うが、昔のお前は酷くって見ていられたものじゃなかった」

男「そうかな?」

騎士「そうだよ。あ~あ、これで帰ったらまたお偉いさんの小言に付き合わされるな」

男「ごめんってば。あ、そうだお詫びといったらなんだけど焼き菓子があるんだ。よかったら持って帰って」

騎士「まったく……。まあ、また近いうちに顔を出すからな」

男「うん、またね」

――エルフ自室――

エルフ(なんだか、私が間に入れないほど真剣な雰囲気が二人の間にありました)

エルフ(それに、あの騎士さんが言っていたこと……)

エルフ(まだエルフを置いているってどういうことでしょう?)

エルフ(私がここに来てからあの人に会ったことは一度もありませんし……)

エルフ(もしかして、私の前にも誰かが同じようにしてこの家にいたんでしょうか?)

エルフ「ううぅ……。なんでしょう、胸のあたりがモヤモヤします」

エルフ「おはようございます」トボトボ

男「おはよう。今日はいつもより遅くまで眠っていたね」

エルフ「すみません……」シュン

男(なんだか元気がないな……)

男「どうかした? もしかして体調が悪いの?」

エルフ「いえ……。そうじゃないんですけれど」

男「ちょっと、こっちに来てみて」

エルフ「はい」トコトコ

男「う~ん。熱はなさそうだね」ピトリ

エルフ(あうぅ。男さんの手が額に……)

男「でも、顔が結構赤いね。もしかしたら疲れが出たのかもしれないから今日は一日寝ていようか」ニコッ

エルフ「……はい///」

エルフ(ベッドに連れてきてもらったもののまったく眠気がありません)

エルフ(男さんは買い出しにでかけてしまいましたし……)

エルフ(暇ですね~。……そういえば、男さんの部屋にたくさん本が置いてありましたね)

エルフ(こっそり一つ持ってきてもバレませんよね?)

エルフ「……」トコトコ

エルフ「失礼しま~す」ギイイィィ

エルフ「相変わらずたくさん本があります」

エルフ「ど~れ~に~し~よ~う~か~な」ジーッ

エルフ「これだけ多いと迷いますね」トテトテ

エルフ「ん? これは……」

――エルフ自室――

エルフ「なんだか、ずいぶんと綺麗に保管されている本を見つけました」パンパカパーン

エルフ「なんだか、男さんが大事にしているものを盗み見る背徳感がすごいです。いただきます」ドキドキ

エルフ「……」パラリ

 私が生きた証をここに残す。

○月×日 この家に奴隷として引き取られて早数日が過ぎた。相変わらず私の主人の見る目は冷たい。きっと私がエルフだからだろう。

エルフ「……」パラリ

○月△日 今日、買出しのために街に出たら子供に石を投げつけられた。敗戦した一族の扱いはどこに行ってもこんなものだ。
 奴隷として引き取られて命の保証がある程度ある分は私の立場はまだいいものなんだろう。

エルフ「……」パラリ

○月□日 今日、主人の友人が家を訪れた。私を見て最初は驚いていたものの、私に対する主人の態度を見てどこか納得した様子だった。
 仕事を終えたことを報告しに主人に声をかけたが、いつものように無視された。
 仕方がないので、主人と友人の話が終わるまでその場でずっと立っていることにした。

エルフ「……これって」パラリ

△月○日 みんなに会いたい……。ここでは私はひとりぼっちだ。この家にいたくなくて主人にバレないようにコッソリと家を抜け出した。
 街に出た私をほかの人々が忌避の目で見る。ローブを被ってくればよかったと後悔した。
 目立たないように路地裏を通ることにしたが、失敗した。
 いやらしい目つきで私をジロジロと見る男が数名後をつけてくる。最初は早歩き、次に駆け足で逃げようとしたが、振り払えない。
 行き止まりにたどり着いてしまい、私は男達に囲まれた。

エルフ「……」パラリ

 私の身体を気持ち悪くベタベタと触ってくる。いやだ、いやだ。こんなのは嫌だ。
 助けて! と大きな声を上げて叫ぶが、路地を見るほかの人々は、私がエルフだとわかると即座に目を背けた。
 ああ……もう駄目なんだ。そう理解するのに時間はかからなかった。目を閉じてこのあとに起こることに少しでも楽になれるように身を任せる。
 だけど、いつまで経ってもその瞬間がくることはなかった。

エルフ「……」パラパラ

 恐る恐る目を開けると、そこには主人がいた。その時のあの人は本当に怒った顔をしていて、怒鳴り声とを上げて「こいつは僕のものだ!」って叫び声を上げた。
 最初は強気に出ていた男たちも、主人が魔法を使うところを見てすぐさま逃げ出した。
 ゆっくりと私の傍に向かって近づいてくる主人。私は怒られると思って再び目を閉じた。

エルフ「……」パラリ

でもあの人は何も言わずに私を起き上がらせてその場を後にするだけだった。
なんで? どうして? 疑問がいくつも湧き出ては消えていく。その時になって始めた私は彼を本当の意味で見るようになった。

エルフ「……ふう。なんだかものすごいモノを見てしまいました」

エルフ「これって、きっと私の前にここにいた人の日記ですよね……」

エルフ「このことを男さんに聞いてみたいですけれど、こっそり持ち出して日記を見たことをバラしてしまうことになりますし」
エルフ「ひとまずこれは見なかったことに……」

男「ただいま~」ギイィィ

エルフ「ひゃわっ!」ササッ

男「あれ? なんだ、寝ていなかったのか。駄目だろ、疲れが取れないままになるんだから」

エルフ「す、すみません」ションボリ

男「ほら、早く横になって。今日は一日ゆっくりしてなさい」ナデナデ

エルフ「あううぅ。わかりましたから、そんなに頭を撫でないでください」

男「あはは。ごめん、ごめん。それじゃあ、僕は粥を作ってくるからちゃんと寝てるんだよ」

エルフ「ううぅ。とっさに嘘をついて日記も隠してしまいました。罪悪感でいっぱいです」ウワーン

エルフ「これはきっと男さんの大事なものでしょうし、バレないように元に戻しましょう。続きが気になりますけれど、もう見ません」

エルフ「今なら男さんは料理を作ることに集中しているでしょうし、今のうちに……」トテトテ

エルフ「えっと……これがあったところは」ギイィィ

エルフ「……あ、ここです。よかった、男さんに気づかれずに戻せました」

エルフ「いないですよね」キョロキョロ

エルフ「よし、部屋に戻って。任務完了です」

……



男「粥できたよ~。……って寝入っちゃってるな」コトリ

男「気持ちよさそうに寝てるな~」ナデナデ

男「起こすのも悪いし、粥はまた起きてから食べさせてあげればいいか……。それじゃ、おやすみ」パタン

――男自室――

男「ふう。とりあえず、これでやることはなくなったかな」

男「この部屋もだいぶ散らかっちゃったし、そろそろ一度整理しないとね」ゴソゴソ

男「この本はこの段で、これはあっち……と」トントン

男「あれ……? おかしいな、この日記は動かした覚えはないんだけど……」ジーッ

男「……」

エルフ「ふわあああ、よく眠りました。いつの間にかもう外が真っ暗です」

エルフ「喉が少し乾きましたね。ちょっと、水を飲みに行きましょう」トテトテ

エルフ「んぐ、んぐ。――ぷはぁ。身体の隅々まで水分が行き渡るようです!」

エルフ「もう男さんも寝ているでしょうし、音を立てないようにして部屋に戻らないと」

ギイィィ、パタン。

エルフ「ふう、どうにか音を立てずに戻れました。さて、もう一度寝て明日からはきちんとお仕事頑張りましょう」

……



キイィィ、パタン。

エルフ「……うぅん? なんですか? 今どこかで扉が閉まる音が聞こえました」ムクリ

エルフ「あれ? 男さんの部屋が少し開いています」キョロキョロ

キイィィ、パタン。

エルフ「また、音がしました。今度は玄関の方です」トコトコ

――外――

男「……」スタスタ

エルフ「こんな夜遅くに男さん一体どこに向かっているんでしょう?」ジーッ

エルフ「見つかったら駄目な雰囲気ですし、こっそりと後を付けましょう」テクテク

男「……」スタスタ

エルフ「家を出てからだいぶ時間が経ってます。もう街を出てしまいましたし、このままだとこのあいだ行った森の方に着きますね」テクテク

男「……」キョロキョロ

エルフ(……急に立ち止まってどうしたんでしょう? もしかして、ここが目的地なんでしょうか?)

エルフ(でも、ここは森の入口付近で別段何かがあるようには思えませんが……)

男「…さし…り。…きにやってるよ。…新しい同…増えて」

エルフ(男さん、何かに向かって話しかけています。暗くてよく見えないです。それに、声もちょっと距離があって聞き取りづらいです)

男「……れじゃあまた来るよ」

エルフ(あ……話が終わったみたいです。こっちに来ます、どうしましょう!? ど、どこか隠れられる場所に……)コソコソ

男「……」スタスタ

エルフ(……ふぅ。どうにか、見つからずにすみました。それにしても、男さんは一体何に向かって話しかけていたんでしょう?)トコトコ

エルフ「四角い石の前に花が置かれています。もしかしてこれはお墓……でしょうか?」

エルフ「それにしても、一体誰の……?」

……



エルフ「おはようございます!」

男「おはよう。今日は体調良さそう?」

エルフ「はい! バッチリです。今日はお仕事頑張ります!」

男「そんなに張り切らなくても……。まあ、元気になったからいいかな」クスリ

エルフ「それで、今日は何をすればいいですか?」

男「そうだね……。実は今日仕事の関係で出かけないといけなくなっちゃったからその間留守番をしていてくれるかな?
 留守番をしている間は好きなことをしていていいよ」

エルフ「それじゃあ、仕事にならないじゃないですか! 男さんは甘いです。甘甘です!
 私、奴隷として買われたのに仕事を貰えないんじゃここにいる意味がないですよ……」シクシク

男「……そんなことないよ。君がこの家に居てくれるってことに意味があるんだ。僕としては、ただのんびりと過ごしていてもらいたいんだよ」ナデナデ

エルフ「あうぅぅ。で、でも!」

男「……ん?」

エルフ「……なんでもないです。それじゃあ、今日はおとなしく留守番しています」

男「うん、言うことを聞いてくれてありがとう」ニコリ

エルフ「そ、その代わり帰ってきたら男さんは何もしないでくださいね。この家の仕事は私が全部やりますから」

男「仕方ないな~。いいよ、わかった。僕が家に帰ってきたら仕事は全部任せるよ」

エルフ「やった! それじゃあ、今日のお仕事頑張ってくださいね!」

男「気が早いよ。まだ、朝食も食べてないんだから」クスリ

エルフ「あ、そうでした///」カァァ

男「それじゃあ、行ってくるね。しっかり留守番しててよ」

エルフ「はい! 頑張ってきてください!」

キイィィ、パタン。

エルフ「行っちゃいました……。急に家の中が静かになって寂しいです」ショボーン

エルフ「で、でもでも! 夕方くらいに帰ってくるって言っていましたし、それまで頑張ってお留守番していればいいんです」

エルフ「でも、何をしていればいいんでしょう……」ウーン

エルフ「ひとまず洗濯物でも洗いましょう……」トテトテ

エルフ「おっせんたく~。おっせんたく~♪」チャプチャプ

エルフ「今日もいい天気です。絶好の洗濯日和です」ゴシゴシ

エルフ「~~♪ あ、これ男さんの上着です」

エルフ(……あれっ? な、なんでしょう。なんでか胸のあたりがドキドキしてきました。それに、身体も熱くなって……)

エルフ「……」キョロキョロ

エルフ「何故だかわからないですけれど、無性にこの上着に顔をうずめたい気分です。だ、誰も見てないですよね……」キョロキョロ

エルフ「……えいっ!」モフッ

エルフ「……ふわぁっ。えへへ~これが男さんの匂い……」モフリ

エルフ「……」モフモフ

……



エルフ「……はっ! 私は一体何を!? こ、これじゃただの変態です! ……洗濯の続きをしましょう」チャプチャプ

エルフ「洗濯物を洗い終わったらやることがなくなってしまいました。しかたないので、掃除でもしましょう」ハキハキ

エルフ「ううぅ。やっぱり暇です、やることがないって困ります……」フキフキ

エルフ「ほとんど毎日掃除しているせいか、細かい汚れ以外見当たりませんし……。掃除もすぐに終わってしまいました」ハァ……

エルフ「そういえば、好きなことをしていいって男さんが言ってましたけど、もしかして本を読むのもいいんでしょうか?
 それなら、いくらでも時間が使えますし……。ひとまず男さんの部屋に向いましょう」トテトテ

ギイィィ、パタン。

エルフ「うわあぁぁっ! 相変わらず、すごい本の数です」ワクワク

エルフ「でもこの前と違って今日は本が散らかっていないですね……。整理整頓されて綺麗になってます。
 どうせなら私を使って片付けをしてもいいのに……」ションボリ

エルフ「そんなことより、読書です。適当に本を取りましょう」ゴソゴソ

エルフ「ちょうど読書をするのにいいベッドもありますし……」ジュルリ

エルフ「はっ! いけません。なんだか、このままだとさっきの二の舞いになるような気がします。
 居間に本を持って行ってそこで本を読まねば……」テクテク

エルフ「……」ポフリ

エルフ「あ、足が勝手にベッドの方に……。これはきっと男さんがこのベッドに向かう魔法をかけたに違いありません」ゴロゴロ

エルフ「こ、このままではこのベッドの上から抜け出せずに読書をする羽目になります。それだけは避けなければ」グヌヌヌ

……



エルフ「……ふむふむ」ゴロゴロ

エルフ「……はっ!? またやってしまいました~! こんなはずじゃなかったのに……」ウワーン

エルフ「あっという間に時間が過ぎてしまいました。もう少ししたら男さんも帰ってくるでしょう……」

エルフ「結局今日一日本を洗濯と簡単な掃除をしただけであとは本を読んで過ごしてしまいました」

エルフ「そもそもあんなところに私の興味を引くような本をたくさん置く男さんがいけません! さてはこれも仕事をさせないための手段の一つですね」プンプン

エルフ「もう許しません! 帰ってきたら一言物申します!」

男「ただいま~」ガチャリ

エルフ「うひゃっ! お、おかえりなさい!?」

男「どうしたの? 変な顔して」

エルフ「い、いえ驚いただけです。そんなことより……」

男「あ、これお土産。帰りに美味しい果物を売っていた露店があったんだ。早速細かく切って食べようか」ナデナデ

エルフ「……はうっ。し、仕方ありませんね! 早く食べないと鮮度が落ちて悪くなりますしね。食べてあげますよ!」ニコニコ

男「相変わらず素直じゃないな~。そんなこと言ってるとあげないよ」ヒョイッ

エルフ「ああっ!?」

男「素直に食べたいって言ったら?」ニヤニヤ

エルフ「べ、べつにいりませんよ~だ」

男「ホントに?」ジーッ

エルフ「い、いりません……よ」ウルウル

エルフ「……」ウルウルウル

男「欲しいんだね……」

男「ほら、カットしたよ。一緒に食べようか」コトッ

エルフ「わ~い。いただきます!」シャリシャリ

男「今日はどんなことしていたの?」

エルフ「えっとですね……。洗濯物を干して、簡単な掃除をして……それから男さんの部屋で本を読んでました」

男「なるほど、なるほど。……あれっ?」

エルフ「……あっ!?」ビクッ

男「本を読んだの?」

エルフ「い、いえ。それは……」アウアウ

男「別に怒ったりしないから言ってみて」クスッ

エルフ「よ、よみました……」ビクビク

男「そっか。面白い本はあった?」

エルフ「はい! たくさんありました。読みふけっちゃってつい時間が過ぎてしまいました」

男(へ~。結構難しい本があるんだけどな。エルフはやっぱりそう言った知識欲が強いのかもしれないな)

男「とはいえ勝手に部屋に入ったのは駄目だからちょっとお仕置き。目をつぶって……」ニコリ

エルフ「す、すみません~」メトジル

エルフ「……」ドキドキ

男「……ふふ」ソーッ

コツン

エルフ「あうっ」

男「これでお仕置きは終わり。今度からは勝手に部屋に入らないこと」

エルフ「お仕置きされるからどんなことかと思ったらデコピンですか?」キョトン

男「そうだよ。何されると思ったの」

エルフ「そ、それは……///」ハウゥ

男「暴力なんか振るったりしないって。ひどいな~」

エルフ(い、言えないです。その……えっちなことされると思ったなんて……///)ハウッ

男「それよりもわかった? 次からはちゃんと事前に言うこと。本ならいつでも読ませてあげるから」

エルフ「はい、わかりました。それじゃあ、次からはちゃんと男さんに許可をとります」

男「それじゃあ、この話はここでおしまい。果物食べよっか」シャリシャリ

エルフ「はい! 食べましょう」シャリシャリ

……



エルフ「今日は雨です……。お出かけもできませんし、一日家の中で過ごします」

エルフ「やることも特にないので男さんの部屋に行きましょう!」

エルフ「男さ~ん」ギイィィ

エルフ「あれ? まだ寝てます。珍しいです」

エルフ「そういえば、男さんいつも私より早く起きていたので、こうして寝ている姿を見るのは初めてかもしれません」ホワー

エルフ「……」ジーッ

エルフ(な、なんでしょう。また前みたいに胸のあたりがモヤモヤして締め付けられるような感じがします。もしかして、何か変な病気になったんでしょうか)ハウッ

エルフ(ど、どうしましょう……。男さんを見ていると苦しくなってしまいます)

エルフ「お、男さん、男さん。起きてください」ユサユサ

男「……ぅ……ん」

エルフ「おとこさ~ん」アウゥ

男「……」スースー

エルフ(……うぅ。揺すっても起きてくれません。このままじゃ困ります)アタフタ

エルフ「……男さ~ん起きてくださいよ~」

男「うぅ~ん。旧エルフ……」

エルフ「……!」

男「……」スースー

エルフ「……」トテトテ、パタン

――エルフ自室――

エルフ(旧エルフ? 一体誰の名前ですか。私以外にエルフの知り合いがいたなんて……。なんでしょう、男さんはただその人の名前を呼んだだけなのに、胸がとても痛いです)

エルフ(そういえば前に読んだ日記を書いた人もエルフだったような……。もしかしてその人のことなんでしょうか)

エルフ(あの日記ってに出てくる主人ってたぶん男さんのことですよね……。でも、書いてあるのを読んだ限り今と全然性格がちがいます。私はあんなに冷たい男さんを見たことがないです)

エルフ(前は途中までしか日記を読むことができませんでしたけれど、最後まであの日記を読めばこの胸の痛みもなくなるでしょうか?)

……



男「ん……うぅん。よく寝たな。」

男「あの子はもう起きてるかな……」テクテク

エルフ「あ……男さん」

男「おはよう。何してるの?」

エルフ「いえ、昼食の準備をしようかと……」

男「あ、そうなんだ。手伝うよ」

エルフ「いえ! 私に作らせてください。これ以上仕事を取られたら困ります」

男「う~ん。そっか、それじゃあ今日は任せようかな?」

エルフ「本当ですか!」パァァ

男「うん。でも、ちゃんと作っているところは見させてもらうね」

エルフ「~~♪」トントン

男「……」ジーッ

エルフ「あ、あの~」

男「ん? どうかした?」

エルフ「そんなにじっと見つめられると、その……恥ずかしいです///」カアァァ

男「気にしない、気にしない」

エルフ(気にしないって言われても……)アウアウ

男「……」ニコニコ

エルフ「……」コトコト

エルフ(うぅ……間が持ちません。何か話題があればいいんですけれど……)

エルフ(そ、そうだ。さりげなく男さんに旧エルフについて尋ねてみましょう。気になりますし……)

エルフ「あの~男さん」

男「うん?」

エルフ「旧エルフってどんな人ですか? もしかして私がここに来る前ににこの家にいたりしましたか……?」

男「……えっ! な、なんで旧エルフのことを……」オロオロ

エルフ(男さん、すごく驚いています。もしかして聞いちゃいけないことだったのかな……。
 でも、ここで聞いておかないと胸のモヤモヤが消えない気がしますし。日記のことは黙っておいて聞いてみましょう)

エルフ「えっと……今朝男さんを起こしにいったときに寝言で呟かれていたので。それで、ちょっと気になりまして」

男「そ、そうか……」

エルフ(……どうしましょう。男さん黙り込んでしまいました。しかもかなり空気が重たくなってしまいました。やっぱり聞いちゃいけないことだったんでしょうか)

男「……」

エルフ「……」

コトコト、コトコト。

エルフ「すみません、今の質問は聞かなかったことにしてください」

男「……えっ?」

エルフ「私は男さんの奴隷ですし、主人の話せないようなことを聞くなんてことは、厚かましいにもほどがありました。
 男さんがあまりにも優しいので、自分の立場を忘れてつい出過ぎた真似をしてしまいました。すみません」ションボリ

男「……」

エルフ「もう聞かないので安心してください……」トントン

男「……」

エルフ「……」グスッ

……



エルフ「あれから男さんと話をするのが少し気まずくなってしまいました……」

エルフ「せっかく優しくしていただいたのに、男さんの好意を無駄にすることにしてしまいました」グスン

エルフ「今日も男さんはお仕事で外に出かけてるので、私はまた一人でお留守番です」

エルフ「……さみしいです。男さんと前みたいにたくさんお話したいです」グスグス

エルフ「……」フキフキ、ハキハキ

エルフ「掃除も終わってしまいました。留守番中に街に出るわけにも行きませんし、どうしましょう……」

コンコン、コンコン

エルフ「!? は~い」キイィィ

騎士「ん? なんだ、エルフか」

エルフ(あ……この人、男さんの友人の騎士さんです)

エルフ「は、はい。男さんは今お仕事で出かけられています」

騎士「そうか。男が帰ってくるまで少し待たせてもらってもいいかな?」

エルフ「えと、多分大丈夫です。どうぞ、お待ちください」トテトテ

騎士「お邪魔するよ」スタスタ

エルフ「よろしければ、こちら紅茶になります」ススッ

騎士「ああ、わざわざ悪いな」ペコリ

エルフ「よければ焼き菓子もありますけれど……」

騎士「ん? そうだな、もらえるならもらっておくよ」

エルフ「そうですか。それじゃあ、どうぞ」ススッ

モグモグ、モグモグ。ゴクリ

エルフ「……」ジッー

騎士「……」モグモグ

エルフ(沈黙が……沈黙が辛いです。この人と話すのは初めてですし、どう接していいのかわかりません。
 こんな時男さんがいてくれたら間に入って話をしてくださるのに……)オロオロ

騎士「ごちそうさま。美味しかったよ」

エルフ「えっ!? あ、ああ。どういたしまして。お口にあったのでしたら嬉しいです」

騎士「……」

エルフ「……」ウゥ

騎士「そういえば、君さ……」

エルフ「ひゃい! なんですか!?」

騎士「そんなに警戒しないでもいいって。それでさ、君男とはどのくらいの仲なの?」

エルフ「それってどういう……」

騎士「いや、つまり夜伽とかしたのかってこと」

エルフ「――ゲフッ! な、な、な……///」カァァ

騎士「その様子じゃ、特になにもしていないみたいだな」

エルフ「いえ、それは……その」

騎士「いやいや、いいんだ。戦争が終わってエルフを奴隷として買う富裕層とかたくさん見てきたけれど、そういった行為をさせているやつらがほとんどだったから、ちょっと気になっただけだ」

エルフ「男さんはそんなことしないです……」

騎士「そうだよな……。あいつがそんなことするわけないよな。でも、前のエルフだったら……」

エルフ「……えっ?」

騎士「なんでもない、独り言だよ。お茶ありがとう、男も来る気配がないから今日は一度帰るとするよ」

エルフ「あ、ちょっと待ってください!」

騎士「なんだい?」

エルフ「あの、あなたは私を見てなんとも思わないんですか? その、街の人たちは私がエルフってだけで差別するのに……」

騎士「ああ、そのこと。正直言うと俺はエルフが嫌いだよ。戦争中にあいつらに家族を殺されたし、戦っているときも何度も傷を負わされたからな」

エルフ「……」

騎士「男も俺と同じようにエルフに家族を殺されて復讐のために軍に入ったのに……。一時期は一緒の隊で戦場に出たりもした。
 それなのに、あいつどういう心境の変化があったのか軍をやめてエルフを買って自分の傍に置くようになって……。
 ――と、こんな話を君にするつもりはなかったんだが、つい口が滑ったよ。それじゃあ」ギイィィ

エルフ「……」

エルフ「男さんが、エルフに家族を殺された……?」

……



騎士「あんなことさっきのエルフに言ったけど、最近の男は昔に比べてよく笑うようになったよな」テクテク

騎士「そうなったのは前のエルフがあいつの傍にいた時からか……」

……



男「ただいま~」ガチャリ

エルフ「あ……男さん、お帰りなさい……」シュン

男「……なにかあった?」

エルフ「い、いえ。なにもありません……」ギクシャク

男「そ、そう? ならいいんだけど……」ギクシャク

エルフ「……」

男「……」

エルフ(騎士さんの言っていたことが本当なら、私の前にこの家にいたエルフと何かがあって男さんは変わったんですよね。そのことについて聞きたい……。
 でも、私にはそんなことを聞く資格もないですし……。
 そもそも、私はなんでこんなに男さんに干渉しようとしているんでしょう。これは奴隷としてふさわしい行動じゃありません。
 主人を立てて、過度の干渉をしない。こんな当たり前のこともできないなんて……。私は奴隷失格です。
 でも……それでもっ!)

男「僕は今日はもう寝るから、遅くならないうちに寝なよ」テクテク

エルフ「あっ……ッ!」トテテ

男「えっ……」

エルフ「……」ギュッ

男「どうしたの? やっぱり何かあった?」ジッ

エルフ「……」フルフル

男「え~っと」オロオロ

エルフ(ど、どうしましょう。男さんを行かせたくなくて咄嗟に抱きついてしまいましたけれど、どうするか何も考えていません)

エルフ「あ、あの!」

男「うん?」

エルフ「私も、一緒に寝てもいいですか?」

男「えっ……?」

――男の自室――

男(帰ってきてエルフの様子が少しおかしかったから心配はしていたけれど、一体どうしてこうなった)アセアセ

エルフ「男さん……」ギュッ

男(一つのベッドに二人が寝ているからやたら狭い。それに密着してるから吐息が首元に……)

エルフ(あうぅ。男さんとの距離が近いです。自分から言っておいて言うのもなんですけれど、これはものすごく恥ずかしいです。
 でも、こうでもしないと男さんと話ができませんでしたし……)

男「……」アセアセ

エルフ「……」オロオロ

男「……はぁ。それで、急にこんなことをしてどうしたの? 何か理由があるんでしょ?」

エルフ「それは……」

男「もしかして話せないようなこと?」

エルフ「違います。話せなくはないんですけれど、これを話したら男さんの気分がもしかして悪くなってしまうかもしれなくて……」

男「それって、この間のことかな?」

エルフ「……はい」

男「……」

エルフ「……」

エルフ(うぅ。沈黙が辛いです。でも、今回は前のように途中で引くなんてことはしません。
 たとえこれで嫌われて男さんに冷たくされるようになっても全部話してもらうまではテコでも動きません)

男「そっか……。やっぱり気になるよね。わかった話すよ」

エルフ「あ、私も起きます」

男「旧エルフはね、君がここに来る前にこの家にいた奴隷なんだ」

エルフ(やっぱり……)

男「僕は昔、まだエルフと人間が戦争をしていた時に家族をエルフに殺されたんだ。
 それで、家族の仇を取るために魔法を勉強して軍に入った。もちろん戦争にも参加した」

エルフ「……」

男「たくさんのエルフを殺して、仲間である人を殺されて。戦争の熱に当てられていつの間にか仇を取ることよりも生きることが頭を支配するようになった。
 戦時中じゃ、その日その日を生きるのに精一杯で仇を取るために戦うなんてことは二の次になったんだ」

エルフ「……辛くなかったんですか?」

男「辛かったよ。でもそういった実感を持てたのは戦争が終わってからだよ。戦時中はそんなこと考えもしなかった」

男「しばらくして戦争が終わった。人間側の勝利って形でね。戦争に負けたエルフのほとんどは殺されるか奴隷として扱われるかになった。そして、僕は軍を辞めたよ。
 やることもなくなったし、戦うことに疲れたっていうのが一番の理由だけど」

男「家族のいなくなった世界で一人で生活していたある日、たまたま市場に来ていた奴隷商が売り出していたエルフがいたんだ。それが旧エルフだよ。君の先輩みたいなものだね」

エルフ「……」

男「最初はホントに興味本位だったんだ。たぶん、行き場のなくなった憎しみをぶつける相手が身近に欲しかったっていうのもあった。だから、彼女が売られているのを見たとき、その場で商人と交渉して彼女を買った」

男「思い返せば彼女にはひどいことしかしなかったよ。冷たい態度をとって、あしらったり、無視をしたりもした。
 そんなことばかりしていたせいか、ある日彼女が僕の目を盗んでこの家から抜け出したんだよ」

エルフ(あ……これって日記に書いてあった)

男「その時僕は何故か無性に焦ったよ。彼女が傍にいる生活があまりにも普通になっていたから、急にいなくなられたことに少なからずショックを受けたんだろうね。
 だけど、当時の僕はそんなことを認めたくなくて、自分のものを取り戻すなんて理由で彼女を探したよ。そして、路地裏で男に囲まれてる彼女を見つけた。
 その光景を見た瞬間、やたらと頭に血が上って気づいたら魔法を使って男たちを追い払っていたよ。きっと、あの時は酷い顔をしていたと思う」

エルフ(ここから先は日記を見ていないから私の知らない話になります……)

エルフ「それで、そのあとはどうなったんですか?」

男「いや、それだけだよ。ただ、それから旧エルフの態度が変わっていったんだ」

エルフ「どんな風に?」

男「それまでは、黙って僕の言うことを聞いているだけだった彼女がやたらと明るくなって世話を焼きたがったんだ。
 街の人にひどいことをされても泣き顔を見せようともしないで、僕に冷たくされても笑顔を浮かべて受け流していた」

男「正直、その変化に僕は戸惑った。どうして、そんな風に笑っていられるのかもわからなかったし、それが打算的なものじゃないっていうのをなんとなく感じていたから。
 彼女が僕に向けてくる視線が日を増すごとに強くなって、それが好意なんだって気づくのに時間はかからなかった」

エルフ「それで、男さんは旧エルフを受け入れたんですか」

男「……いや。僕は、彼女を受け入れられなかったよ」

エルフ「受け入れられなかった? 受け入れなかったじゃないんですか?」ドキッ

男「ああ。彼女が好意を向けられているのに気づいて、戸惑って。でも、それを心のどこかで喜んでいる自分がいたんだ。僕自身そんな自分の変化に驚いたよ。
 彼女と過ごしているうちに、あれだけ憎かったエルフを受け入れようとしている自分が確かに居るんだってことに気づいてしまったんだ。
 でも、それを認めたくなくて僕は彼女を拒絶し続けた。それでも、彼女は僕に好意を向け続けてくれたんだ」

男「これだけ話して、多分旧エルフがどうなったかなんとなく想像がついているんじゃないかな? 彼女が今、ここにいない現状。それがどう言う意味なのかってことに……」

エルフ「それは……」

エルフ(分かってしまいました。男さんが、あの夜の日に向かっていった場所。あの石の意味も、その相手も……。
 だから、だからそれ以上悲しそうな顔をして話さないでください……)

男「彼女はもうここにいない。随分前に死んだんだ……」

エルフ「……」

男「僕は最後まで彼女を受け入れることができなかった。だから、次にもし奴隷を買うことになったら彼女にできなかったことをしてあげようと思ったんだ。
 今度は自分の心の思うままに……素直に」

エルフ「それが……私なんですね」

男「うん。だから、僕は君には出来るだけ優しくしてる。もちろん、君のことは大事だと思っている」

エルフ「でも、それは旧エルフのことがあるからですよね……」

男「少なからず、そういう面がないとは言い切れない。でも、君は大事な家族だと思っている。だから、こうして全部話したんだ。これで、僕の話は全部だけど、満足したかな?」

エルフ「はい……。ありがとうございます」ペコリ

男「それじゃあ、今日はもう寝よう。もうだいぶ遅い時間になったからね」

エルフ「……」

エルフ(このままでいいんでしょうか……。確かに、男さんに全て話してもらって、どうして男さんが私に優しくしてくれるのか、その理由もわかりました。
 でも、このままじゃ何も変わりません。男さんは旧エルフのことを引きずったままで、私もそれに甘えているだけ。
 そんな、そんな誰かの代わりなだけの私なんて……嫌です!)

エルフ「男さん!」

男「ん?」

エルフ「私、頑張ります! 料理も、お掃除も、お洗濯も。男さんの手伝いもします!
 今は全然仕事も未熟で役に立たないような奴隷ですけれど、いつか絶対に役に立つようになってみせます!
 だから、私を見てください! 誰かの代わりなんかじゃない、ありのままの私を! 
 私、頑張りますから……。だからっ……!」ポロポロ

男「あ……」ハッ

エルフ「あれ? おかしいです……。泣くつもりなんて全然なかったのに……。
 すみません、すみません……」ポロポロ

男「エルフ……」ギュッ

エルフ(あっ……男さん、初めて私の名前呼んでくれました。それに、抱きしめてくれて。男さんの体大きくて温かい……)

男「ごめん、僕はまた同じ間違いをするところだった。大事にしているだなんて言って、エルフのことを本当に見ていなかった」ギュッ

エルフ「いいんです……今はきっと旧エルフさんへの想いの方がきっと強いと思いますから。でも、いつかきっと私の方を向かせてみせます」

エルフ(ああ……。今まで感じていた胸のモヤモヤや締め付けるような苦しみの意味がようやく分かりました。私はきっと旧エルフに嫉妬していたんですね。
 それに、男さんに抱きしめてもらって胸が温かくなるこの感覚。きっと、これが恋なんですね……)

エルフ「私は、絶対にあなたの傍を離れるつもりはありませんから。覚悟してくださいね、男さん」

……



あれから、随分と月日が流れた。相変わらず、穏やかな毎日が続いている。
昔に比べて私はだいぶ仕事もできるようになったと思う。最近は料理を作って男さんが笑顔になってくれるのを見ると嬉しくてたまらない。
旧エルフのお墓にも男さんと一緒に行った。やっぱり、お墓の前に来ると男さんは寂しそうな顔をするけれど、帰る時には笑顔を向けてくれる。
いつかきっと、男さんの傷が癒されて私の方を完全に向いてくれた時には私は……

男「お~い、エルフ。市場に買出しに行くけれど一緒に来るか?」

エルフ「……はい! 少し待ってください!」パタン

 手元にある一つの日記帳と、ペンを置いて私は男さんの元へと歩いていく。玄関の前で前を向いて私を待つ男さんに気づかれないよう、私はその背にこっそりと忍び寄る。

エルフ「……そ~っ」チュッ

男「こらっ!」

 男さんの頬に口づけをし、その背に抱きつく。

エルフ「男さん、大好きです!」


エルフ「……そ~っ」男「こらっ!」 ――完――
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こねこ時計 ver.3

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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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