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告げられる過去

多くの人で賑わう大通りを一人の少女が歩いていた。この三年でもはや着慣れた和装を身にまとい、当初は何一つ理解できなかった異国の言葉を使い、通りを歩く人たちと挨拶を交わす。
 籠の中の鳥となっている今の自分にとって唯一の安らぎの場である屋敷の外。行き交う町の人たちはあの卯月が領主をしているとは思えないほど幸せそうに笑みを浮かべ、楽しそうに日々を過ごしている。

「おや、アルちゃん。久しぶりだねえ、元気にしていたかい」

 茶屋を営む女将が通りを歩くアルに声をかける。ここでの彼女の身分は領主である卯月が知り合いから預かった娘でその身を鍛えているとされている。
 だからこそ、今もこうして腫れの引かない頬を見せて歩いていても向こうはさして気に止める様子を見せず気軽に話しかけてくるのだ。

「ええ、それなりに」

「その様子じゃまた卯月様にしごかれたようだね。ほら、ここでお茶でも飲んでいきな。まあ、少し口にしみるかもしれないけれどね」

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」

 そう言うとアルは女将の誘いを受けて茶屋の中へと入っていった。既に昼時に差し掛かり、店の中は客で賑わっていた。他国からジャンの街々へと向かうため、一時滞在所として様々な国や地域の行商人たちがここで休息をとっていた。
 案内された席へと座り、女将が品を持ってくるのを静かに待っていると、彼女より先にこの店に入っていた行商人たちは物珍しげに彼女の姿をジッと見つめた。
 それもそのはず、白髪赤目などというただでさえ人目を引く容姿に加え、三年という月日を経たことにより女性としての魅力に磨きのかかった少女がそこにはいるのだ。
 しかも、奇抜な容姿に相乗効果を加えるような和装。一見アンバランスな組み合わせだが、妙にしっくりとくるその姿はまさに高嶺の花。手の届かないような存在であるそれが不意に手の届きそうな距離に現れれば目を奪われても仕方ない。

「はい、おまちどう。団子はおまけだから気にしないでおくれ。それと、お客さん。そんなにジロジロと年頃の女を見回すもんじゃないよ! 居心地が悪くなるだろ。ほら、止めた、止めた」

 女将のその一言で一時的に人々の視線はアル外れるが、やはり気になるのかチラチラと機を伺っては彼女の方を皆見ていた。

(うっ……もう何度目かになるかわかりませんけど、やっぱり慣れないです)

 自分が人とは違う姿であるということも、それが注目を集めるということをアルが再確認したのはこの町に来てからのことだった。
 セントールの下町では彼女の容姿についてあまり触れるものはそう多くはなかった。さすがに最初は少し興味を持って見る者もいたが、訳ありが集まるあの国ではそのような者はそう珍しくもなかったからだ。
 だが、この町は違う。流れの行商人だけでなく三年間過ごしていても未だに彼女を受け入れられない者も多い。それには様々な理由はあるが、彼女の素性が明らかでないのと、その特異な容姿。そしてなによりの原因は……。
 三年前、アルがマスターと呼び慕う一人の青年がこの町を訪れた。彼は己の復讐相手の一人であり、戦闘技術を教え込まれた師である卯月に呼び出され町の外れに巣食う盗賊の討伐を依頼された。
 だが、その盗賊は卯月のかつての同胞である十二支徒の一人、猿哨により殺害されており、紆余曲折の末フィードは仇敵である猿哨とこの町で対決し、これを退けた。
 だが、その爪痕は大きく。その戦いの後すぐにこの町を離れたアルは知り得なかったが犠牲となった者の家族たちは彼とアルの姿を覚えていた。
 そして、家族や友人を失った悲しみを猿哨だけでなくフィードに対しても抱いていた。逆恨みもいいところであるが、彼らはフィードがもっと早く駆けつけていればあのような事態にならなかったのではないかと考えたのだ。だが、彼はあれ以降一度もこの町を訪れず、結果としてこの町に滞在することになったアルに対しフィードの代わりに怒りを抱いているのだ。
 もちろん、そのような人たちばかりでなく、あるがままの彼女を受け入れてくれているものの方が実際は多い。それでも偏見の目で見られることは少なくない。
 そのため、アルにとってここは安らぎの場であると同時に少しだけ居心地が悪く感じる場所でもあるのだ。

「……ごちそうさまです。どうも、ありがとうございました」

 厨房で仕込みをしている女将にお礼の言葉を述べ、足早にアルは茶屋から去っていった。

「……アルちゃん?」

 そして、そんな彼女の後ろ姿を一人の青年が入れ違いに見つめていた。


 町の大通りから屋敷へと戻ったアルは自室へと戻り、一息ついていた。だが心は一向に晴れない。むしろ、チリのように長い時間をかけて幾重にも積もっていく。一つ一つは微量でも、時間をかけ、量を重ねることによりそれは蓄積する。不満は苛立ちへと代わり、苛立ちは心を乱す。何も変えられない己の無力感が、変わらない現状がアルを苦しめていた。

「一体私はどうすればいいのでしょう……」

 部屋に敷かれた布団の上で横になり、身体を丸めて寝転がるアル。そうしてしばし無為な時を過ごしていた彼女だったが、やがて屋敷に使える侍女の一人香林が部屋の前に訪れ彼女を呼んだ。

「アルさん、屋敷の門番から伝達であなたと面会したいとおっしゃる男性がいらっしゃるようです」

「――ッ!?」

 香林のその言葉を聞いて、霧散しかけていた意識が急速に鮮明になる。

「も、もしかして……」

 それはフィードではないかと口にしようとしたアルであったがそれよりも先に香林が否定の言葉を口にした。

「いいえ、あの人ではありません。そもそも、あの人であればわざわざ断りを入れる必要もありませんし」

 妙に棘のある言い方で香林は呟く。そして、その言葉にアルもまた苛立ちを覚える。彼女は三年前の戦いにより最愛の男性を失った。そして、そのことによってフィードのことを酷く恨んでいるとアルが感じたのはこの町で過ごすようになってから少ししてからのことだ。最初は、彼について気兼ねなく語れる相手としてアルは香林を認識していた。だが、彼の名を活躍を、共に過ごした日々を口にする度香林の苛立たしげな態度と拒絶するような口ぶりが彼女にそれを悟らせた。
 そして、それ以降。アルは必要なことがなければ彼女との接触を取るのを嫌うようになった。彼女にとって敬愛する人が逆恨みで酷く言われるのを我慢することができなかったからだ。

「そうですか。それで、その男性の名前はわからないんですか?」

「いえ、それはわかっています。なんでも、クルスという名の行商人だそうです」

「クルス! もしかして、クルスさんッ!」

 久方ぶりに耳にした知人の名にアルの心が一気に明るくなった。

「すみません、今すぐに会いにいきます。ああ、言伝は結構です。私が行きますので」

「分かりました。失礼いたします」

 そうしてアルは勢い良く部屋を飛び出し、クルスの待つ屋敷の門前へと駆け出した。

「……遅いな。本当に言伝を伝えてもらえてるのか?」

 一方、門の前でアルへの言伝を頼んだクルスは不安そうに門の奥にある屋敷を眺めていた。三年前の事件以来行方の知れなくなった知人に似た姿を見かけた彼は、すぐさまこの町の住人に聞き込みを始めた。結果、アルという少女がこの町の領主の屋敷に滞在しているということが判明し、すぐさまクルスはこの屋敷に足を運んだ。
 もう死んでいるかもしれないと思っていた相手が生きていたとわかり、ここしばらく落ち込む出来事が多かった彼に久しぶりに良い出来事が訪れた。もしかしたら、彼女を通じて彼にとって良き友人であった青年にも会うことができるかもしれないという期待も込めて彼女がここに現れることを待っていた。
 だが、彼が言伝を頼んでから早一時間。もしや話が伝わっていないのではと思い始めていた。

「仕方ない。一度宿に戻って出直すとしよう」

 そう思い、門の前から離れようとした彼の背後でドンッと凄まじい勢いで力づくで門を開く音が聞こえた。

「はぁっ、はあっ、はあっ」

 息を切らし、クルスに近づく気配が一つ。その正体を確かめようとゆっくりと後ろを振り返り、クルスは微笑んだ。

「やっぱり……アルちゃんか」

「クルスさん!」

 互いに笑顔を見せて近づいていく。

「やっと、やっと見つけたよ。よかった、無事だったんだね」

「クルスさんこそよくご無事で」

「僕はあの時にセントールにいなかったからね。たまたま難を逃れたんだ。でも、君は一体どうやってあの地獄から生き延びたんだい?」

「……えっ?」

 クルスの問いかけにアルは虚を突かれた。

「それは、どういうことですか? 確かに、セントールでの大虐殺が起こったとは聞きましたが」

 そしてクルスもまた当たり前のように質問を投げかけるアルに戸惑いを覚える。

「ちょ、ちょっと待った。アルちゃんはあの時セントールにいたんじゃないのか? もしかして、君はあの惨状を目にしていないのか?」

 まるで、互いの間にある認識がズレているかのように慌てふためくクルス。そんな彼にアルはあの時自分に何が起こったのかを告げる。

「私は、あの日セントールの下町で何が起こったのか知りません。あの時、イヴちゃんによってここから少し離れた土地に飛ばされた私は三日間歩き続けてこの町へたどり着きました。意識を戻したのはそれから二日後で、セントールに起こった事件を聞いたのはそれからまたさらに時間が経ってからです。
 そして私はそれ以降一度もこの町から離れられません。せいぜいが数キロ以内しかこの町から出ていないんです」

「それじゃあ……君はあの惨状を目にしていないんだね……」

 そう呟くクルスはどこか寂しそうな笑みを見せた。

「それはどういう……」

「いや、別にいいんだ。アルちゃんがこうして無事にいてくれただけでみんなにとって朗報だよ」

 先程までに見せていた感情とは違い努めて明るく振舞うクルス。アルはそんな彼の態度に疑問を感じたが、今はそれよりも聞くべきことがあると思い、気にするのを止めた。

「そうです。みんなはどうなったんですか? グリンさんは? イオさんは? レオードさんは? マスターは?」

「……本当に何も知らないんだね。いいよ、教えてあげる。
 グリンさんとイオちゃんは死んだよ。アルちゃんのいた宿は跡形もなく壊されてそこにいた人たちはぐちゃぐちゃの死体になって出てきた。
 レオードは無事だ。今は僕ともう数名の仲間とセントールの復興に当たってる。
 それから、おそらくこれは一番聞きたいことなんだろうけど、フィードは……」

 既に起こった事実を告げるのを躊躇うように、言葉を詰まらせるクルス。だが、それも一瞬。意を決してクルスは彼女に疑問の答えを与えた。

「フィードは行方不明になっている。三年前フラムを去り、セントールに向かってからずっと……」

 それらの答えにアルは驚愕し、無言のままその場に崩れ落ちるのだった。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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