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地獄からの使者

変わらないものなんて、この世界にはひとつも存在しない。永久不変。受け継がれていく伝統、長い時を経て語り継がれてきた物語や保存されてきた彫刻。さらには、人間関係。
 それら何一つ全く変わらないで同じままなんてことはありえない。伝統は人を変え、物語は受け継がれる過程で改変されたり、曲解されて話自体が変わったり、彫刻も劣化が起こり、元の姿から離れていく。
 人間関係だってそうだ。ずっと同じだと思っていても相手がそう思っているとは限らない。仲の良い友人だって、明日には喧嘩をして別の道を歩むことになるかもしれないし、それまで全く関わりのなかった人と出会うことによってその人生が変わることがある。
 たとえ、長い間友人として一生を共にすることがあっても、その過程で大小様々な人間模様の変化が起こるに違いない。
 そう、永久不変なものなんてこの世には存在しない。だから、平穏な毎日を過ごせていたとしても、そんな平和な日々が突然消え失せてしまったとしても、それは別段不思議なことではないのだ……。



 その日は、見るだけで心が不安になるような曇天だった。下水路を流れるドブ水のように黒く、汚く濁っている。今にでも雨が降りだしそうな天気。そんな天気に引きづられるように下町での売り場はいつもより活気がなかった。
 そして、そんな空気の中物を買うような人は少なく、必然的に酒場や食事場に集まり世間話や日頃の鬱憤を解消するために愚痴の言い合いをするのであった。
 当然、人が集まれば店は忙しくなる。ホールを忙しく駆け回り、食事や飲み物を慌ただしく届け、空になった食器やグラスを片付けて回る二人の少女の姿がとある宿の食事場にもあった。

「ホールは私に任せてくれていいからあんたは先に溜まってる食器の水洗いの方をお願い」

「はい、わかりました!」

「イオちゃん、料理できたわ。持って行ってちょうだい」

「了解です」

 パタパタ、ドタドタ、ガチャガチャ。今がちょうど昼時ということもあってか、それとも目の保養である二人の看板娘を見たいためか次から次へと客が入ってくる。中には昼間から酒盛りを始め、すでにすっかり出来上がっている客の姿も見受けられる。

「ちょっと、こんな昼間からお酒ばっかり飲んでるなんてどうなんですか? そんなに飲みたいならレオードさんの酒場にいけばいいじゃないですか」

 あくまでも客に接する態度であるため、ある程度言葉遣いを整えながらイオが潰れ始めた客に文句を漏らす。それを聞いたほかの客たちは顔を見合わせるとなぜかため息を吐いていた。

「いや~家では妻にどやされ、ここでもイオちゃんに叱られるんじゃ俺の居場所はもうレオードのとこしかねえ」

「ああ、そうだな。目の保養にもなりはしない、あいつの店に行って安酒でもかっくらいてえところなんだがな……」

「なんせ、あいつ数日前から店閉めてんだよな~」

 イオの質問に答えながらもまだ足りないといわんばかりに酒で喉を潤していく男たち。飲んでも飲んでも飲み足りないといった様子だ。

「あれ? レオードさん今この街にいないんですか?」

 そんな彼らの声が聞こえたのか厨房の中で皿洗いをしているアルが陽気な声で彼らに問いかけた。

「おお、そうなんだよアルちゃん。なんでも昔馴染みに会いにいくってことでトリアの方に言ったらしいんだ。それにクルスのやつもこの下町の後を継がせるための修行とかいう理由で最近ジャンの方に奉公に出されたみたいだぞ」

「あいつも最近姿を見かけないと思ってたがそんなことになってたのか」

「らしいな。……そういや、もう長いことフィードの姿を見ていないが、あいつ今なにしているんだ? ほとんどここにいないみたいだけど、何か長期の依頼でも入ったのか?」

 ふいに投げかけられたその質問に答えられるものは誰もいなかった。

「確かに、ここしばらくあいつの顔見てねえな。元気にしてんのかあいつ?」

「そうだ、アルちゃんあいつとよく一緒に旅に出てたんだろ? あいつ今何やってるのか知ってるか?」

 その問いかけにアルは一瞬表情に翳りを見せたが、すぐさま笑顔を取り繕い、なんでも内容に答えた。

「どうでしょう……。今もお節介で人助けをしていると思いますよ。マスターはなんだかんだでお人好しですから、見知らぬ誰かが困っていて、今もその助けをしているんじゃないですかね?」

「ハハッ。人助けねえ、あいつらしいといえばらしいな」

「そういや、俺らもあいつに色々と手伝ってもらったり助けてもらったりしてるよな」

「おお、そういやそうだ。にしてももうあいつがこの下町に滞在するようになってから随分経つんじゃねえか。最初はどんな怪しい奴がきたかなんてお前ら警戒してたよな」

「何言ってやがる。そういうお前だってその一人だったじゃねえか。……ま、実際のとこ付き合ってみればなんてこたあねえ。訳ありかもしれねえがお人好しないい野郎だったじゃねえか」

「間違いねえな。ったく、うちの放蕩息子にもあいつの爪の垢煎じて飲ませてやりてえぜ」

 口々にフィードを褒める下町の住人たち。それを聞いてグリンは誇らしげに、イオは同意の頷きをし、アルは自分のことでもないのに気恥かしさを感じ頬を染めていた。

「そんなに立派な人じゃないですよマスターは。あれで結構面倒くさがりやですし、仕事なんて全然しないでどこかに行ってばかりですし。
 人のことばかり考えて自分のことなんて後回しにしますし……」

 そんな風に、アルがこれまで見てきたフィルターのかかっていないあるがままの彼の姿を口にすると、それを聞いていた人々はきょとんとした目で彼女を見ていた。

「ど、どうかしましたか?」

 変なことを行ってしまっただろうかとアルが不安になっていると、誰かが笑い出したのをきっかけに連鎖的に食事場にいた人々の周りに笑い声が響き渡った。

「あっはっは、アルちゃん。今の言い方うちのかみさんと言ってることが一緒だよ。なんだい、もうあいつの女房気取りかい。そりゃ、ちょっと気が早いんじゃないのか?」

「そりゃ、そうだ。いや~フィードも憎い男だね。こんな幼い子の心を手込めにしちまってんだからな」

「おいおい、そりゃ困るぜ。こっちは、アルちゃんにはまだここの看板娘を続けてもらいたいんだ。こんなに早くあいつに独り占めされちゃたまらないぜ」

「って言ってもよ。なんかもう既に夫の帰りを待つ妻の風格が出てんじゃないか?」

 男たちは次々とアルを茶化す言葉を宙に向かって放っていく。それを聞いているアルは溜まったものではないと手をブンブンと宙で交差し、皆の言葉を否定する。

「ちょ、ちょっと。違います! 私とマスターはそんな関係じゃありません!」

 そう言いながらも心の内になにか温かいものが生まれるのをアルは感じていた。ここ暫くの間、彼女を悩ませていた今後の身の振り方について、その答えが今のやりとりで見つかったような気がしたのだ。

(……そうだ。例え、マスターがこの街から離れても、私が隣についていけなくても、私はマスターの帰る場所を作ることができる。
 グリンさんやイオさんがいるこの宿。レオードさんやクルスさん、そして下町の皆がいてくれるこの街でマスターを待つことができるんだ。
 戦いに疲れたり、なんの気なしにふらりと現れたマスターに最大級の笑顔を向けて、旅の疲れを癒すことだって。旅の最中に何があったかの話を聞かせてもらうなんてことも……)

 そのことに気がつくと、胸に使えていたシコリが消えたようにアルは感じた。

(うん。マスターが帰ってきたら、こんな生き方もあるって話をしてみましょう。どんな反応をされるかもわからない。もしかしたら今までみたいにずっと隣で旅をさせてもらえるかもしれないですし)

 気づけばいつの間にか彼女の表情には笑みがこぼれていた。それを見たグリンが料理を作りながらアルに問いかける。

「どうしたの、アルちゃん。なんだか嬉しそうね」

「はい! ちょっと悩んでいたことが解決したので」

「そう、それはよかったわね。……あ、そうだ。今ちょうど調理に使うお酒が切れちゃったのよ。悪いんだけれど、買ってきてもらえないかしら?」

「わかりました。直ぐに買いに行ってきますね」

 グリンから酒を買ってくるためのお金を受け取り、アルは店から出ようとする。

「寄り道なんてするんじゃないわよ。こっちはまだまだ忙しいんだから」

 宿を出る前にイオから飛ばされたいつもの軽口。それに対し、アルもまたいつものように彼女へ軽口を返す。

「そんなことしませんよ~だ。イオさんこそ私がいなくなったからって、手が回らないようにならないでくださいね!」

 お互いにベーッと舌を突き出し、直後に苦笑する。そして、今度こそアルは宿を出た。そんな彼女の姿をこの場の誰もが笑顔で見送るのだった。
 店を出たアルは駆け足で酒屋に向かった。ニコニコと笑顔を浮かべたまま行ったせいか、酒場の主は少々戸惑っていたが今の彼女にはそんなこともまるで気にならなかった。

「ふふふ。早く、マスター帰ってこないかな」

 足取りは軽く、スキップしながらグリンたちの待つ宿へ買ってきた酒が入った袋を持ちながら向かうアル。
 だが、その途中。路地裏に向かう見慣れた後ろ姿を見かけ、思わず立ち止まり声をかけた。

「イヴちゃん!」

 ここしばらく中々会うことができなかった少女の姿を目にしたアルはほとんど反射的にその名を叫んでいた。そして、自身の名を呼ばれた少女はピタリとその場に立ち止まり後ろを振り返った。

「あ……アルさん」

 面を被った方だけをアルの方へと向けながらイヴは返事をした。そんな彼女にアルは高揚した気分のまま近づいていく。

「どうしたんですか? 最近全然顔を見せてくれなかったから体調でも悪いのかと心配していたんですよ?」

 光の差し込まない路地裏へと近づくアル。そんな彼女にイヴは立ち止まったまま言葉を紡いだ。

「すみません、色々とすることがあったので。でも、それも今日で終わりです」

 路地裏の入口まで近づいたところでアルはようやく違和感に気づいた。イヴの様子が今までとはまるで違うということに。そう、幼いながらもどこか大人びていると思っていた今までの少女は今彼女の目の前に存在しなかった。
 例えるなら、目の前にいる今の彼女は得体の知れない人の皮を被ったなにかのように思えたのだ。

「……イヴ、ちゃん? どうか、したんですか?」

 光と闇の境目に立ち、そう問いかけるアル。この先にあるのは単に光が届いていないだけの路地裏だというのに、それがアルには底の見えない暗闇に感じられた。

「……大丈夫です。何も変なことはないですよ」

 アルに向かって微笑みながらそう告げるイヴ。

「そ、そうですか? ……あ、そうだ。イヴちゃん。よかったら、今から私の働いているお店に来ませんか?
 今まで一度も来たことないですよね? 私の働いている宿の女将さん、グリンさんって言うんですけれどもとっても美味しい料理を作ってくれるんですよ。きっと、イヴちゃんも気に入りますよ。
 それに、マスターもきっともうすぐ帰ってくると思います。まだ、イヴちゃんに会わせたことないですけれど、私の自慢のマスターなんです。だから……」

 この場の雰囲気にそぐわない話を次々と口にしていくアル。そう、彼女は気がついていた。こんな風に〝いつも〟の会話を口にしていないと目の前にいる少女の口から〝非現実〟的な何かがあっさりと口にされてしまうかもしれないということを。

「ふふ。そうですね、わたしもそうしたかったです。でも、ごめんなさい。それはできないんです。
 アルさんは私にとって特別だから教えちゃいます。わたし、今日でこの町とお別れするんです。本当はこのこと誰にも言っちゃいけないですし、もし言うのなら伝えた相手を殺さないといけないんですけれど……。
 でも、アルさんだけはやっぱり特別に許しちゃおうと思います。だって、アルさんはこの町に来たわたしに唯一偏見を持たないで接してくれましたから。わたしが面を付けてる理由を聞いても少しも気味悪がらなかったですし、対等な存在として接してくれましたから……。
 だからこそ、今からわたしが行うことにアルさんだけは巻き込みたくないんです。だから……」

 そう語り、イヴはゆっくりとアルへと近づいていく。そしてアルは今イヴの口から発せられた物騒な言葉の数々を理解するので精一杯でその場から一歩も動くことができなかった。
 一歩、一歩と距離は縮まり、とうとう互の距離は零になった。だが、路地裏の中と外、光と闇の狭間に見えない壁があるかのように二人がその場から内にも外にもさらなる一歩を踏み出すことはなかった。

「アルさん。今までありがとうございました。わたし、アルさんと一緒に過ごせれて楽しかったです」

 今までで一番の笑顔をアルに見せたイヴ。そんな彼女になにか言葉を返そうとするアルだったが、その口からはかすれた声が出るだけで言葉にならなかった。
 そして、次の瞬間。イヴは目の前にいるアルに向かってある魔術の詠唱を始めた。

「空と大地、その全て。
 我は空間と空間を繋ぐもの。全てを阻むその距離を零にする門を開きし者。
 ――ゲート――」

 詠唱と同時にアルの足元に魔力により淡く光る魔法陣が現れた。それに驚く暇もなく、アルは姿を消していった。

「さようなら、アルさん」

 最後にそれだけを呟き、イヴは暗闇の方へと再び視線を向けた。そして、彼女の視線の先からは褐色の肌をした隻腕の青年が現れた。

「お別れは済んだか? 言っておくが、見逃すのはその一人だけだぜ」

「はい、わかってます。わたしの我が儘を聞いてくれてありがとうございます、猿哨お兄ちゃん!」

「ハンッ。んなこたどうでもいいんだよ。それよりも、さっさと魔術を発動させろ」

「はい!」

 乱暴な物言いの猿哨の命令を満面の笑みで聞き入れると、イヴは先ほどアルに向かって発動させたのとまったく同じ魔術を発動させた。……先程とは比べ物にならない規模で。
 彼女だけに知覚できる空間と空間を繋ぐ魔術の魔法陣がこのセントールの下町部分のあちこちに現れる。そして、光り輝く魔法陣の中からは鎧を着込み、獲物を狩るために舌なめずりをして機を待っていた者達が次々と現れる。
 それは猿哨とイヴの背後の闇からも現れていた。

「さて、お前ら。せいぜい暴れてくれよ。俺たちの為になあッ!」

 黒の大剣を天に掲げ、セントールの上層を睨みつける猿哨。そして、そんな彼を崇拝するようにうっとりとした眼差しで見つめるイヴ。彼の背後に現れた猟犬たちは野太い雄叫びを上げた。
 黒雲が覆うこの国に大きな落雷が一つ落ちた。地獄の門は現世に繋がり、彼の国に繋がれていた無法者の囚人たちの鎖は解き放たれた。
 門が開き数分。大地は血に染まり、絶望の悲鳴が幾つも天に向かって響き渡るのだった。
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好きな小説:ダレンシャン
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