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十二支徒、その真の力

大気が震える。凄まじい勢いでぶつかり合う剣と鉄扇。それが交わりあうたびに地は揺れ、それによって生まれた衝撃の余波が空気を震わせる。
 最初の一手より今までずっとこの状況が続いていた。相手に力を出させる前に、少しでも戦況を有利に、少しでも相手に一撃を。そう思ったリオーネは一切手を緩めることなく立て続けに剣撃をエンリカに叩き込んでいた。そして、攻められ続けるエンリカは自分が攻められないことへの苛立ちを募らせながら守りを固めていた。

「ちょこまかちょこまかと、うっざいんだよ!」

 攻撃と攻撃の僅かな間を見極め、エンリカは蹴りを繰り出した。しかしリオーネもそれが来ることを予測していたのか余裕をもって回避し一旦距離を取ると、すぐにまた距離を詰め、相手に攻撃をする暇を与えない。
 リオーネは前回の戦いを思いだしエンリカは有効な攻撃手段を持っていないのではないかと考えていた。元々がフィードとの戦いによってリオーネが消耗していたためまともな戦いができていなかったのが前の一戦だ。だが、あの時もエンリカは魔術により騎士を操り、敵が消耗しているところで直接対峙してきた。
 もちろん、消耗していなかったとしても強くないわけではない。現にリオーネの剣擊は彼女の持つ鉄扇によって防ぎ、受け流されるなどして未だに有効的なダメージを与えられていない。一見、攻め続けるリオーネが優勢のように見えるこの戦いだが、実際のところ体力を消耗しているのはリオーネだけだ。エンリカにはまだまだ余裕が見られ、どうにかこの防御を崩せなければジリ貧になっていくのは目に見えていた。
 ならば、どうすればいいか? リオーネは攻め手を緩めず同時に思考する。選択肢は二つ。今よりも速く攻めることによって防御をする暇も与えないか、強力な一撃を叩き込むことによって、その防御を打ち崩すかである。
 一瞬の思考。その末にリオーネは前者を選択した。
 先ほどよりもさらに互いの距離を詰め、鍔を使って均衡状態を作り出す。そして二人の動きが止まったその時を見計らい、彼女は魔術を詠唱した。

「――詠唱――」

 身体の内側から湧き上がる魔力は、その言葉を口にすると、次に紡がれる詠唱に合わせてその形を変えていく。

「速さを。効率を求め、より単純、より俊敏に――インプロスピード――」

 身体強化の魔術が全身を覆っていく。持っている剣はまるで羽のように軽くなり、踏みしめる足元は飛び出せばどこまでも遠くにいけそうだと錯覚させるほど力強かった。
 目の前で彼女の詠唱は耳にしたエンリカはますます表情を歪め、まるで親の敵を見るように眉をつり上げリオーネを睨みつけた。

「行きます!」

 強化された腕力に物言わせ、強引に剣を押し込む。均衡が崩されるまでのわずかな時間、一瞬エンリカはこのまま防御に徹しようかと迷ったが、ここで無理をすれば防御が完全に崩れると判断し、リオーネの剣を鉄扇で流し、すぐさま距離をとった。
 剣を受け流され体勢を崩され、前へ倒れこむように進むリオーネ。だが、踏みしめた片足を無理やりその場に留まらせ、強制的にエンリカの回避した方向へと身体を捻って彼女の元へと飛び出した。

「ハアッ!」

 横一閃の鋭い一撃が凄まじい速さで打ち込まれる。咄嗟に鉄扇を広げ、腹部を覆うようにして刃が身体を切り裂くのを防いだエンリカ。ぶつかった際に生じた衝撃もステップを踏むことによって殺そうとするが、魔術によって強化された一撃は重く、その全てを殺しきることができず、後方へと大きく吹き飛ばされた。
 結果、土を固めて作られた家屋の外壁に勢い良くぶつかり、壁を砕いて家屋の中へと押し込まれた。巻き上がる土煙により、どのような状態かは見ることができなかったが、リオーネは彼女がこの程度で勝てる相手ではないと考え、次の一撃を与えるために動き出す。

「大気を漂う数多の液体。その欠片を集め、固め、作り上げた鋭い刃は敵を突き刺す。
 その冷気で我に仇なす者を罰せよ――フロストエッジ――」

 詠唱と共に大気中に存在する水分を集め、凝固した氷の刃がいくつも現れる。その数全部で五。リオーネはそれをコントロールするように腕を振り上げ、エンリカが飛んで行った方に向けて力強く腕を振り下ろした。
 それと同時に五つの氷の刃が一斉に家屋に向かって飛んでゆく。
――仕留めたか? 
 そう考えながらもリオーネは反撃があった場合を想定してさらに三つの氷の刃を上空に待機させた。
 一秒、二秒、三秒。警戒しながらエンリカがいるであろう方角をジッと見つめる。だが、一向に復活し、襲いかかってくる気配が見られない。

(これで終わり? いや、でもこんなにあっけなく……?)

 あまりにもあっさりと着いた戦いの幕切れにリオーネは戸惑った。気配を探ってみてもエンリカの気配は微塵も感じられない。釈然としないもののこれで終わりならばと、先に向かった四人の手助けに向かおうと、彼らが向かっていった先へと視線を向けた。
 だが、その瞬間。まるで心臓を鷲掴みにされたような絶大な殺気がリオーネの身体を一瞬にして覆い尽くした。

「――ァ。――ッ」

 息ができない。まるで底の見えない湖の中へと沈められでもしたかのようだった。酸素を得ようとパクパクと口を動かすが、一向に身体の中に空気が入ってこない。その苦しさに耐えかね、思わず剣を落とし、首元に手を当て、必死に酸素を取り込もうとする。だが結局苦しさばかりが増すだけで、まともに呼吸をすることができない。

「あ~。全く、この服お気に入りだったのに……。どうしてくれんのよ、あんた?」

 まるで、無事なのが当然のようであるかのように、巻き上がった土煙の中からエンリカが姿を表す。衣服は破れ、身体に付いた土欠片を見ると少しはダメージがあるようにも見える。だが、鬱陶しそうに土欠片を身体から叩き落すと無表情のまま、苦しそうに地に伏せるリオーネを見つめた。

「あたしの顔に傷をつけてくれただけじゃ飽き足らず、お気に入りの服もボロボロにしてくれちゃってさ……。あんた、自分がやったことがどんだけあたしの癇に触ってるか理解してないでしょ。
 そうでしょうね……。理解してたらそもそもあたしの相手をしようだなんて思い上がりも湧かないもんね」

 少し前まで怒りを顕にして、子供のように癇癪を起こしていた彼女の姿はもうそこにはなかった。その顔から既に感情は消え失せ、絶対的強者である己に対し、無謀にも立ち向かってきた弱者を見下す冷たい眼差しと、完全に相手を駆逐することを決意したことにより生まれる、尋常ではない殺気が身体から放たれていた。
 それを直接身体で感じたリオーネは襲いかかる絶大な恐怖に押しつぶされそうになっていた。確かに、戦いを始める前にエンリカと自分を比較し、その強さには差があると理解はしていた。だが、それでもフィードと同等かそれより少し上くらいではないかと想定したのだ。ならば、自分の全力を出し、なおかつ相手に攻撃させる暇も与えないほどの短期決戦を挑めばどうにか勝てるのではないかと考えたのだ。

――甘かった。

 そう、彼女の予想はあまりにも楽観的なものだった。十年以上も世界各地で争いを起こしながら、それでも生き延びてきた十二支徒という存在がどうしてこれまで生き延びてくることができたのかを彼女はもっと考えるべきだったのだ。だが、そこに思い至らなかったのはある意味で当然だった。彼女が直接戦った十二支徒はエンリカただ一人。そして、そのエンリカもフィードと二人がかりで傷を負わせることに成功した。
 それが、彼女を慢心させた。もしかしたら、勝てるのではないか? その見込みがあるのではないか? そう、思わせたのだ。
 彼女たちが絶対的な強者足り得る理由。それはたとえ傷を負い、腕を失ったとしても、命ある限り彼らの中では負けにならず、最終的に生き残るのは彼女たちであるからだからだ。そして、彼女たちと戦い、生き残っているのは現在二人だけ。それ以外は全ての者は無残に命を散らした。
 リオーネは知らない。今までフィードが倒してきた十二支徒と、エンリカやログが本質的に違う存在であるということに。
 十二支徒を旗揚げした始まりの五人。エンリカ、ログ、猿哨、卯月、そして残りの一人。十二支徒は一人一人が平等の立場という名目上、後から入ってきた同胞を同格として扱っていた。だが、後から入った同胞と、最初期から存在した彼女たちの力には圧倒的な力の差があったのだ。
 身体が恐怖に支配される。逃げろ、逃げろと本能的な叫びが脳内に響く。だが、蛇に睨まれた蛙のようになり、指一本動かすこともままならない。
 近づく、恐怖の塊。死が形を持って、一歩ずつ音を立てて近づいてくる。

「巳童、見てるんでしょ? あたし、もう我慢するの無理だから。計画のために力残しておこうと思ったけどもう無理。
 あたしよりも遥かに弱い存在に勝てるかもなんて思い込ませて、これ以上調子に乗らせておくなんてあたしには耐えられない。
 自分がどれほど思い上がっていたのかこの女に分からせないといけない。弱者はどこまで行っても弱者のままだってことを骨の髄まで染み込ませてやらないと」

 視線を路地にある闇に向け、そう語りかけるエンリカ。誰かそこにいるのだろうか? などと考える余裕すら、今のリオーネにはなかった。今はただ、目の前に立つ死の化身から逃れる術だけが彼女の思考の全てを占めていた。

「さて、当然覚悟はできているわよね。今からあんたに死なんて軽いと思わせるほどの痛みと恐怖を与えてやる」

 そう言って彼女は手に持った鉄扇を前に突き出した。禍々しく光り輝くそれは、武器などではなく、まるで悪意を押し込め形を成しただけの何かにしか今のリオーネには見えなかった。

「――詠唱――」

 その一言で周りに濃密な魔力が溢れかえった。だが、これで終わりではない。これはあくまでも前段階に過ぎない。他を寄せ付けることのない絶対の力を生み出すための……。


「ほらほら、どうしました? 攻めてこないと意味がないですよ」

 周囲に溢れるように現れた炎の塊。それが一斉にフィードに向かって襲いかかる。その全てを神懸かり的な回避で躱しながら、隙を見つけては反撃の魔術を放つフィード。今も腹部を掠めていった炎の塊を回避した直後に詠唱した水の魔術であるアクアで作った水の鞭をログに向かって打ち付けるが周囲に漂う炎の塊を一箇所に集めてそれを防がれてしまう。

「チッ!」

 舌打ちをしながらフィードはログの周りを疾走する。一箇所にとどまった瞬間、丸焦げにされることがわかっているため、こうして走り続けて的を絞らせないようにするしかない。ログの魔術に対抗しようにも作り出せる水の球の限界は明らかに相手の方が遥かに多く、無駄な魔力を消耗するだけであると判断したため、行動に移さなかった。
 それに、以前対峙した時とは魔術の質も生み出す量もまるで桁が違うログを目の当たりにし、相手の強さがどれほどのものなのかこの間に測るという考えもあった。今はできるだけ時間を多く稼ぎ、ログを打ち倒すための手段を探らなければならない。
 以前戦った時のログは文字通り小手調べのつもりだったのであろう。その証拠に彼は先程から一度も動いていない。同じ場所にとどまり続け、まるで遊ぶようにフィードの相手をしていた。

「ふむ……あまりちょこまかと動き回られても困るんですがね。かといって、手を緩めればあなたはすぐに私の懐に入ってこようとする。
 そうなられても困りますし、ここは一つ手を打たせてもらいましょうか」

 そう言うとログは現在宙に浮かんでいる炎の塊を一斉にフィードに向かって投げつけた。全方位からの一斉攻撃、それに対してフィードは水の鞭にさらに魔力を込め、自身を囲む炎の一つに向かって思い切りぶつからせた。
 高熱と、低温がぶつかり合い、火傷を負いそうなほどの熱さの水蒸気が生まれる。だが、それにかまう事なくフィードは今の攻撃で相殺した炎の方へと走っていき、ログの一斉攻撃を回避した。
 周囲に漂う白い水蒸気の中から外へと抜け出す。すぐさま、ログの気配を探り、警戒をとる。
 だが、水蒸気の中を抜けたフィードを待っていたのはただ静かに彼が危機的状況を乗り越えるのを待っていたログだった。
 既に次の一手を用意していると思っていたフィードはこの状況に何か嫌な予感を感じていた。
 そんな彼を見たログは嬉々とした様子を見せた。

「いい、いいですよ! 極限下における最適なる判断をくだす冷静な思考。私たちに対する怒りを持ちながらも戦闘を有利なものにしようとする考え。
 そして、すべての状況において対処できるだけの力を兼ね備えているという事。
 すばらしい! 本当にすばらしいですよ、フィード」

「気安く人の名前を呼ぶんじゃねえ」

「おや? それは君も同じだと思うんですがね……。まあ、いいでしょう。それよりも」

 そう言うとログは路地裏の一角に向かって手を伸ばし、招き寄せるように指を手前に引いた。
 すると、死角になっていた路地の中から数名の騎士たちが姿を現した。

「た、助けて……」

 ログの眼前に吹き飛ばされた騎士たちは、一応は同じ騎士であるフィードに向かって助けを求めた。先ほどまでの攻防を見ていて、このままでは自分たちが目の前の男に殺されてしまうのかもしれないと本能的に理解したのだろう。

「残念でした。あなた方は正直言ってこの場にいられても邪魔になるので死んでもらいます」

 そう言うとログは無詠唱で風の刃を生み出し、目の前にいる騎士全員の首を刎ねた。
 思わず、目をそらしたくなるような状況だが、そのような状況においてもフィードは何事もなかったかのようにログを見据えていた。

「ふむ……少しは動揺するかと思ったのですが、予想が外れましたね。彼らは同じ組織に所属する仲間なのに助けようとは思わなかったのですか?」

「それがどうかしたのか。第一俺はこいつらと顔も合わせた事もないんだ。それに、そいつらを助けようとして俺がもしやられることになったら結局は同じ事。助ける事に意味はない」

「意外に冷静……。いや、冷酷といった方がいいですかね? 以前のあなたでしたら見ず知らずの相手であっても助けようとしたと思いましたが 」

「だが、助けなかった。それが全てだろ」

 そう言うと、フィードはこれ以上話し合う気はないと言わんばかりにログに向かって走り出した。

「全く、せっかちな人ですね。これじゃまるであの脳筋男と一緒じゃないですか。人であるならばもう少し話しをするということを楽しんでもいいと思うんですがね」

 自身に向かって強敵が近づいているというのに、まるで焦りを見せないログ。黒のワンドを構えると、不適な笑みを浮かべて向かってくる敵に向かって告げる。

「さて、互いに相手の測り合いはもう済んだでしょう。ここからを本番としましょうか」

 次なる一手のために魔力を練りだすログ。そして、魔術の発動を阻止するために一気に距離を詰めようと足に力を込め、ログに向かって飛び込むフィード。魔術の詠唱が先か、剣による一撃を与えるのが先か。

「はあああッ!」

 力のこもった袈裟切りがログに向かって放たれる。だが、彼はそれを避けるための動作を行わなかった。
 これにはさすがのフィードも動揺したが、一撃を与え、相手を弱らせる方が先決であると判断をくだし、迷いのない一撃をログの体に与えた。

−−殺った。

 肉を切った際の感触でフィードはそう確信した。剣を通じて手に伝わった切れ味の感触は致命傷な深さのものであった。だが、同時に違和感を覚える。
 切ったはずの剣に本来ついている赤色の血がない。代わりにドロリとした奇妙な液体が付着していた。そして、本来であればログの身体から吹き出すであろう鮮血が宙に撒き散る様子も見られない。
 それを理解した瞬間、全身の毛が逆立つような嫌な予感を感じ、フィードはすぐさまログから距離をとった。そして、その判断は結果として正解だった。

「惜しいですね……。後少しだったのですが」

 笑顔を顔に張り付け、愉快な様子でケタケタと笑い声を上げるログ。フィードによって切られたはずの肩から腰にかけては服が破けていた。だが、そこに本来あるべき傷はなく、代わりにあったのは紫色の巨大な何かだった。
 いったいどこから現れたのか? そう思わせるほど大きな塊。ログの首から腰にかけて覆うそれはこの世のものと思えないほど不気味だった。
 よく見れば、その表面には一筋の鋭い線が刻まれている。おそらく、先ほどフィードが放った一閃は、ログの身体を裂いたのではなく、あの奇妙な物体を切り裂いたのだろう。
 不気味なその塊を観察していると、それまでログの体に張り付いていたそれが急に地面へと落ちた。そして、モゾモゾと細かく震え始めた。生理的に受け付けない嫌悪感を抱かせる物体。
 顔も、口も、手も、足も何もないただの肉の塊。生き物かすらわからないそれは自身の身体を傷つけたフィードに怒りを覚えているのか威嚇するように何度も震え、彼の方へと向いていた。

「これがなんなのかわからないって顔をしていますね。まあ、それも仕方ありませんか。この魔術を使っている人は私以外にいないでしょうからね」

 ログの言葉を聞いてフィードは驚いた。この得体の知れない物体が魔術だと彼は言う。ある程度魔術に精通している彼でさえ、このような魔術は見たことがなかった。
 どのような魔術なのかまるで見当がつかない。見たところ動きは鈍そうに見える。だが、先ほどの一撃を与えた傷が気になった。フィードが感じた感触としては深く切り裂いたはずである傷だったはずだが、今目の前に存在する塊についている傷痕はうっすらとしており、表面を切り裂いただけの浅いものにしか見えなかった。

(まさか、切りつけた傷を再生しているのか?)

 導き出される推測。そして、もしその推測が当たっていた場合、生半可な攻撃を与えてもあの物体を盾にして防がれ、その際につけた傷も時間の経過とともになくなってしまうことになる。
 見た目はともかく、敵の攻撃を防ぐ盾として使われたらあの塊は厄介だ。フィードはそう判断すると、フィードは次の一手を打つために行動を開始した。

(中途半端な攻撃じゃダメだ。そもそも、あれを盾として使われて、さっきのように攻める暇もなく魔術を行使されたらこちらが負ける。
 なら、まずは先にあの塊を跡形もなく消滅させる!」

 考えをまとめ終えたフィードは魔術の詠唱を開始する。それはエルロイドとの戦いで使用した魔術。そして、それを剣に纏わせることで魔を払うほどの威力を兼ね備えた一撃を放つことができる剣を生み出す。

「天轟き荒れ狂う。
 断罪の光は地へと落ち、罪ある愚者へと降り注ぐ。罰与えるは我が雷。眩い光に捕われ灰燼と化せ
 ――ライトニングジャッジメント――」

 フィードたちの上空へと小さな黒雲が生まれる。そして、そこから目を覆うほどの光がフィードの持つ黒剣に向かって放たれた。
 雷が落ちた際に生じた轟音が周囲の建物に反響して響き渡る。剣に纏った雷はバチバチと音を立てて帯電する。
 今のフィードが持つ、必殺の魔術。
 それを見たログは今までで一番驚いた様子を見せた。それは、今が戦いであるということを忘れているかのような表情だった。
 まるで、子供が本来もらうと思っていた遊具が予想よりもずっといいものであった時のような、そんな様子を見せた。

「はっ、ははっ! いい、いいですよ! さすがに、これは予想外です。
 やはり、あなたはおもしろい!」

 フィードの魔術を見て、何か対処をするかと思いきや意外にもログは何もしなかった。何か狙いがあるのか? それともあの塊でこの一撃を防ぐつもりかなのか。色々と予想は立てたが、フィードはそれらすべてを頭の中からはじき飛ばした。

(まあ、いい。何を考えていようと関係ない。この一撃、防げるものなら防いでみせろ!)

 剣を肩に背負い、高速の突進でログに向かっていくフィード。そんな彼の前にやはりというべきか先ほどから蠢く紫の塊が飛び込んでくる。

「邪魔だッ!」

 そう言うとフィードは塊に向かって剣を振り下ろした。強大な力を持つ一閃がやすやすと塊を切り裂く。だが、絶大な威力を持つはずのそれは塊を切り裂くたびに徐々に威力を失い、全体の半分までしか刃が通らなかった。

「チッ! なら……」

 フィードは右足を上に向かって振り上げ、塊を吹き飛ばした。それと同時に帯電する剣を塊の中から抜き出す。
 そして、上空に飛んだ塊に狙いを定め、腰を低くする。落下してくる塊とのタイミングを測り、剣を腰の位置に構える。

「翔雷閃斬!」

 落ちてきた塊に合わせるように剣を横一閃に振り抜く。そして地に落ちる前に再び頭上に蹴り上げると跳躍し、高速の連撃で塊を細切れにした。そしてトドメとばかりに細切れになった塊に向かって剣を突き出し、纏った雷を放出し、その全てを焼きちらした。
 地面に降りたフィードの周りに残ったのは炭化した細かな塊のみ。それはもはや再生することも叶わず、無残な姿でその場に散っていた。
 邪魔な盾を排除し、すぐさまログに切りかかろうとしたフィードだったが彼の周りにまたしても見たことのないものが浮かんでいるのに気がつき、動きを止める。
 まるで取り囲むようにフィードの周囲をグルグルと回る五つの黒い光球。それを見た時、フィードの中にある直感がログへの追撃を止めた。

「いい反応ですね。直感も鋭い。先ほどの一撃はまさに芸術的出来栄えでした。だからこそ、口惜しい……」

 またしても、両者共に動きを止める。さすがに、これだけ対話を求めてくるログを不思議に思ったフィードが思わず問いかける。

「さっきからブツブツと独り言を呟いているが、そんなにも余裕があるのか? それとも、そういう性分なのか?」

「いえいえ、そういうわけではないですよ。ただ、これだけの強さがあるのにあなたは本当にもったいない素材だと思っただけです」

「素材……だと?」

「ええ、磨けば磨くほど光る原石。本質は私たちに限りなく近い。にも関わらず、私が見た今のあなたの光は濁っている。不純物が紛れ込み、本来あるべき正しき姿が表に出てきていない。それは何故か……」

 そこまで聞いて、フィードはこれ以上この男の話を聞いてはいけないと理解した。なぜかはわからない。だが、強いて言うならば本能が告げたというべきだろう。

「戯言をほざいていたいのなら勝手にしていろ。すぐにその口を閉ざしてやる!」

 そう言うと、フィードは周囲に漂う黒い光球を無視してログに向かって突っ込んでいく。

「仕方ありませんね。人の話を真面目に聞かないような者には少々仕置きを与えておかないと」

 ログはそう呟くと、何かの合図をするように指を鳴らした。その合図に応えるように、フィードの周りを漂っていた光球が変化を見せた。
 五つの光球それぞれから黒い光の線がフィードに向かって飛ばされる。身体を捻り、咄嗟にその全てを避けたフィードだったが避けたことによって地面や家屋にぶつかったその光線が与えた威力を見て血の気が引く。
 それが触れた部分は、焼けるわけでも砕けるわけでもなく、ただ消滅していた。光線自体が細く、小さなものであるから大したことがないように思えるが、もしこれが全て体にあたっていたらと思うとゾッとする。
 そんなフィードの様子を見てログは嗜虐的な笑みを浮かべるていた。彼にとって、これは戦いではない。相手の力を測り、そして極限まで痛めつけることを至上とする遊びなのだ。

「楽しい、楽しいですねぇ。この攻撃も避けるんですね、なら次は……」

 嬉しそうに独り言を呟くログ。だが、その途中でふいに言葉が途切れその表情が険しいものになる。

「……まったく、凛子は堪え性がありませんね。あまりやりすぎるなと言っていたのにこれでは意味がありません。本気を出してしまっては私たちの手の内が明らかになってしまうというのに。
 それに、今のままだと計画について余計なことまで漏らしてしまいそうですね。ここまで来て、それは避けたい」

 ブツブツとフィードには理解できない何かを呟くログ。何事かと思っていると、ログがそれまでの飄々とした態度を崩し、淡々とフィードに向かって宣言した。

「申し訳ありませんが、遊びはここまでとさせてもらいます。これ以上、この場で時間をかけるわけにもいかなくなったもので」

 そう言うと、彼は持っていた黒のワンドを前に突き出し、魔力を練りだした。それは、これまでとは違い背筋が凍りつくような冷たさを持ったものだった。その証拠に、身体から溢れ出た魔力が周囲に漂い、地面には霜が降りていた。
 絶対的な力の片鱗を肌で感じフィードの背筋がゾクリと震える。だが、それは恐怖ではなく、むしろ武者震いであった。
 ついに、目の前にいる仇敵の一人が本気を出し、自分と対峙する。そして、これを乗り越えたのなら己は彼との戦いを糧としてさらに強くなることができるという確信があったからだ。
 暴れ狂う強大な魔力、それが徐々に凝縮されていき、収まっていく。それはつまり強大な魔術の発動が起こるということを意味していた。

「では、行きますよ。できることなら、直ぐに死なないでくださいね」

 ログはそう言うと詠唱を開始した。

「――詠唱――」

 そして同じ時、リオーネと対峙しているエンリカもログと同じように魔術を詠唱していた。

「――詠唱――」

 強敵二人の声は重なり、彼らが持つ必殺の魔術を紡ぐ。

「我、世界に仇なす者なり。
 全てを欺き、その姿は幾多に分たれる。汝が掴むは幻の我。偽りの世界は緩やかな死を与えゆく。
 ミラージュファントム」

「我、世界に仇なす者なり。
 闇を従え、闇を纏い、その全てを導き、操る。哀れな贄は欠片も残らず飲み込まれ、消え去る。
 ――デモンズ・サバス――」

 詠唱を終え、二人の準備は終わる。
 エンリカの周りの風景はゆらりと揺れ、世界を曲げていく。さらに、その姿が二人、三人、四人と次々と増えていく。
 ログの周りには先ほどフィードが消し炭にしたはずの紫の塊が再び現れ、それとは別にフィードの身体二つ分合わせたほどの大きさの巨大な手がひび割れた空間を通してこの世界に現れていた。彼の周りにある黒の光球は留まることなくクルクルと警戒するように回っていた。
 ついに目の前にいる敵を抹殺するため、本気を見せたエンリカとログ。
 この時を持ってようやく、彼らと相対するフィードとリオーネの真の戦いの舞台、その幕が上がった。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
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       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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