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三つの場所、三つの戦い

沈黙する城下町を今、五つの影が疾走していた。常人からすれば目にも留まらぬ早さで市内を駆け巡るそれは、城へ向かって一直線に駆け抜ける。
 所々、彼らを捜して町をうろつく騎士とすれ違うが声をあげる暇も与えず次々と敵の意識を奪っていった。

「エルロイドさん。どうも相手は戦力の主力をほとんど城に固めているみたいですね」

 走りながら、リオーネがエルロイドに問いかけた。今のところは問題もなく進むことができている彼らだが、このまま順調に事が進むはずがないのは誰もがわかっていた。
 現に、彼らが今これまでに遭遇してきたのはあくまでも一隊員たちばかり。騎士団の隊長、あるいは副隊長といった実力者や、今回最も注意しなければならない相手である十二支徒の姿はまだ見当たらない。おそらく、エルロイドたちの反撃があると予想した誰かが戦力となる人間を城の敷地内に集め、襲撃が起こったとしても対応できるようにしたのだろう。

「ああ、そうだろうね。これもおそらくはグラードの仕業だろう。今城にいる人間で彼が他の誰よりも私が考える事を理解しているだろうからね。
 本当に皮肉な話だ。誰よりも近くで自分を支えていると思っていたものが一番の強敵になるなんてな」

 自嘲気味にそう呟くエルロイド。ほんのわずかな間悲しそうな素振りを見せたが、すぐにいつもの彼に戻り、

「だが、泣き言ばかり言っていられない。敵が待ち構えているというのなら我々の力を見せつけてやろう。そのためにはまず軟禁されている仲間の開放が先だ」

 進む、進む。騎士団の宿舎、そして決戦の舞台であろう城に向かって五人は突き進んでゆく。入り組んだ路地を駆け巡り、城の城門が視線の彼方に映りだす。
 だが、そんな彼らの行く手を阻む幾人もの障害が突然現れた。
 通りの中でも比較的大きなそこに現れた騎士団の隊員たち。フィードたちはこれまでに倒してきた隊員と同じように彼らもすぐに倒して先に進もうとするが、そこで異変に気がつく。

「ッ! こいつら……」

 見れば、彼らの目は血走り、正気を既に失っていた。距離を取っていてもわかるその異常性、漂う暴力的な気配。そして、姿は見えずとも隠す気もない絶大な強さの殺気。

「どうやら、本命のお出ましのようだな」

 ここに来てついに剣を鞘から抜き放ち、周囲を警戒しながら呟くエルロイド。

「ああ、そのようだ。だが、全員がこのまま時間を食っている場合じゃないぞ」

 フィードもまた自身の愛剣となった黒剣を抜き放ち、構えた。太陽の光を反射し、光り輝く禍々しき剣。それは今か今かと敵を切る瞬間を待ちわびていた。
 ミレーヌやアイルも剣を抜き、戦闘態勢を整える。どちらが先に動くのか。誰もが機を伺っていたその時、ただ一人剣を抜き放っていないリオーネが全員に告げた。

「みなさん、ここは私に任せてください」

 彼女の発言にフィードたち全員が一瞬目配せする。

「本気か? 言っておくが生半可な敵じゃねーと思うぞ。さっきから肌を突き刺すようなこの気配、直接対峙してねえ俺でもわかる。こいつは俺やお前よりも強い。一対一で戦って勝てると思っているのか?」

 状況を冷静に分析してアイルがリオーネに向かって忠告する。だが、それでもリオーネはその発言に首を横に振った。

「ええ、相手の強さに関しては一度戦った私がよくわかっています。ですが、ここで必要以上に時間をかけても仕方ない。戦力の低下は必要最低限にしなければなりません。
 それに、私も前回の借りを彼女に対して返さないといけませんので。ここは私の顔を立ててください」

 その言葉を聞いてアイルがニヤリと笑みを浮かべる。

「そこまで言われちゃしかたねえ。ならっ!」

 そう言って一番近くにいる騎士に向かってアイルは近づき剣の腹を顔面に向かって叩きつける。

「悪く思うな。操られているのなら意識を奪うしかねえ。――――雑魚は俺らが片付ける! お前は全力で借りを返してこい!」

 リオーネを鼓舞する言葉を投げかけ、アイルは先に向かって走り出す。それに続くようにミレーヌ、エルロイドも騎士たちの意識を奪っていく。

「そうですね、騎士団の副団長が負けっぱなしだなんて性に合いません。勝って汚名を返上しなさい!」

「任せたぞ、かの十二支徒に騎士団を舐めるとどうなるかを身をもって教えてやってくれ」

 ミレーヌ、エルロイドの二人がそう言ってアイルに続く。

「ええ、皆さんもしっかり」

 そう答えるリオーネに左側から一人の騎士が襲いかかる。持っていた剣を振り下ろし、彼女の頭部を切断しようとする。だが、その剣は彼女の身体に届く前にフィードの剣によって受け流され、受け流した際の回転を利用した肘の一撃を後頭部にくらい、その騎士は地面に倒れ伏した。

「リーネ」

 フィードは彼女の名前を呼ぶと右手を突き出す。視線は既に先を見据え、彼は彼女の返事を待っている。

「ええ、フィード」

 彼女は彼の右手に己の左手をぶつけた。言葉にせずともこの二人にはこれだけで通じるのであろう。

「勝てよ」

「当然! あなたもご無事で」

「ああ、任せろ!」

 そう言ってフィードも先に進んでいったエルロイドたちの後を追っていった。残されたリオーネはその場に留まり声を張り上げる。

「来なさい、十二支徒! フラム国騎士団第九隊副隊長リオーネが相手になる!」

 その宣言を挑発と受け取ったのか、先ほどよりも密度の増した敵意を彼女にぶつけながら〝彼女〟は路地の暗闇の中から姿を現した。

「なめんなよ、格下が! あたしの顔につけてくれやがったこの傷の礼。万倍にして返してやるよ!」

 互いに凄まじい速さで相手に向かって走り出す。ぶつかり合う剣と鉄扇。フラム騎士リオーネ対十二支徒エンリカ。その二人の戦いの火蓋が今、切って落とされた。


 一方、リオーネに後を任せ先へと向かった四人。先に進んで行った三人にフィードはすぐに追いつき少しずつ白への距離を縮めてゆく。

「ったく、こうも人数が多いと嫌になるぜ。同じ騎士団だってのに馬鹿野郎が」

 あまりの敵の多さにアイルが苛立ちを顕にする。

「そう言うな。それを言うなら私に責任がある。貴族派と平民派などといつまでもくだらない対決を終わらせることができず、騎士団を纏めることができなかったのだからな」

「そんなことありません。隊長がいたからこそここまで騎士団は強固な組織となったのです。悪いのは民衆のことを省みようとせずに自分たちの保身や欲望を成就させることしか考えられない貴族たちです」

「それも踏まえて、私の責任だミレーヌ。結果として事は起こってしまったのだ。なら、今の私に出来るのはイチ早くこの事態を収集し、民衆に安心を取り戻すことだ」

「なら、急がないとな。ケインの方もいつまでも無事だとは思えない。いざとなったらクラリスを連れて逃げてくれるだろうが、早くあいつらの元に戻ってやらないと」

「そうだな。急ぐぞ!」

 そうして彼らは先ほどよりもさらに走る速度を上げた。彼方にあった城門はもう目の前まで近づいていた。だが、門の前に立つ一つの人影が彼らの足を止めさせる。

「……また化物のお出ましかよ」

 彼らの視線の先にあるのはローブを深くかぶり悠然とその場に立つ一人の男。あまりにもこの場に似つかわしくないその格好に違和感を覚えると同時に敵意もさっきもまるで感じない相手に対して不気味さを感じる。

「奴は……」

 エルロイドが問いかけるよりも早くフィードが答える。

「ああ、十二支徒の一人だ」

 告げると同時に目の前に現れた敵を睨みつけるフィード。この相手はフィードにとって縁のある相手であった。お互いに動かず、膠着状態を続けていると門の前に立つ男が彼らに向かって話しかけてきた。


「ああ、別にあなたたちはこの先を通っても構いませんよ。私が用があるのは一人だけなので」

 自身を睨みつけるフィードを指差し話す男。エルロイドたちはその言葉をどう捉えていいかと思っていたが、フィードが彼らに向かって答えた。

「行け。おそらくやつはお前たちに手を出すつもりはない。それに、この展開は予想していたことだろう? こっちもむこうが来るのを待っていたんだ。お前たちがいつまでも動かないと俺たちはいつまでもお預けをくらうことになる」

 行けという彼の言葉に促されエルロイドたちは顔を見合わせ頷く。

「わかった。だが、死ぬなよ。私との死闘はまだ決着がついていないのだからな」

「それはもう勝負はついただろ。そんなにしたいのなら今度は上司の命令として下せばいい。まあ、それまで俺が騎士団にいるとは思えないけどな」

「フッ。なら、君が騎士団を辞める前にもう一度戦いを挑むとしよう」

 そう言ってエルロイドたちは走り出した。立ち尽くす男の横をすり抜けるが男は微塵も動く気配がない。やはり、彼が行っていた通り目的はフィードただ一人だったのだろう。
 やがて、走り去った三人の姿が見えなくなるとフィードは抑えていた気を外に向かって爆散させた。

「待たせたな。こうして対峙するのは久しぶりだな。……死ぬ覚悟はできたか?」

 ギュッと力を込めて剣を握り締めるフィード。男は彼が持つ黒剣を見て驚いた様子を見せるがすぐにそれまでと同じ態度に戻り、戦闘態勢に入る。

「いいえ、そのような覚悟は私には不要です。それよりも、あれからあなたの牙がどれほど鋭いものになったか、見させてもらいますよ」

 そう言うと何もない空間に彼は手を伸ばした。直後、彼が手を伸ばした先の空間がひび割れ、その中から彼はあるものを取り出した。
 フィードの持つ剣と同じ色をした黒色のワンド。それを見て今度はフィードが驚くが、今はそれを気にしないよう努め、目の前の相手に集中する。

「行くぞ!」

「かかってきなさい」

 リオーネに続き城門前でもまた一つの戦いが始まった。ログとフィード。フィードにとっては因縁の相手の一人である十二支徒。状況的にも、フィードの掲げる復讐という目標においても負けることが許されない一戦。
 その最初の一撃はお互いの放つ魔術のぶつかり合いによって始まりの合図を告げた。


 門を超えたエルロイドたちは目的地である宿舎に向かって駆けていた。あと少し、もう少しで宿舎へと辿りつく。だが、ここまで来ているというのに未だに敵の主力が現れる気配がまるでない。

(おかしい。何故ここまできて動こうとしないのだ? 既に我々が攻めてきているという情報は伝わっているはずだ。にもかかわらずグラードや他の隊の隊長格が出てくる様子も見られない)

 疑問に思いつつも今は捕らわれている同胞たちを助けることが最優先と考え、悪い考えを頭の隅へと追いやった。

「隊長、見えました! 騎士団宿舎です!」

 ついに視線の先に現れた騎士団宿舎。その前に立ち、中へと入ろうとするが何故かエルロイドの胸中から不安が消えない。

(そうだ、何故奴らはわざわざ騎士たちが捕らえられている場所が漏れるようにしたのだ? それに、グラードがわざわざケインを見逃す理由もない。つまり、彼は意図して送られた伝令役。本人にその自覚はないものの結果として伝令役を任されたのだ。
 つまり、ここに居る騎士たちはもう……)

 彼がその結論に達し、中へ入ろうとする二人を止めようとする。だが、時はすでに遅く二人はエルロイドの声がかかるよりも先に寄宿舎の中に入ってしまう。

「みなさん、無事だったのですね」

 ホッとした様子を見せ、同じ隊の仲間が入口を抜けてすぐの場所にて二人を見つめて待っていた。すぐに彼らの元へと駆けようとするミレーヌ。だが、そんな彼女の肩にアイルが手をかけ動きを止める。

「何をするんですか! 離しなさい」

 だがアイルは何も答えず、ジッと二人の訪れを待っている同胞たちを見つめていた。

「アイル……?」

「不味いぜ。やられた!」

 そう言うと同時にアイルは持っていた剣を彼らに向かって構えた。まだ状況が把握できていないミレーヌが再び同胞たちの方を向き、ようやく気づく。
 そう、誰も二人の登場に驚いていないのだ。知らされていたわけでもないのにただ冷静に二人の動きを観察していた。

「これは……まさか」

 そう呟いた次の瞬間、騎士の一人が俊敏な動きでミレーヌの懐へと潜り込んできた。

「チィッ! ミレーヌ!」

 とっさにアイルがミレーヌを横へ吹き飛ばし襲いかかってきた騎士に剣を振り下ろす。だが、騎士もアイルの放った一撃をギリギリで回避し、再びほかの騎士たちの元へと戻った。

「ったく、つくづく自分の考えの至らなさが嫌になるぜ。だいたい力のある騎士たちを何もせずに軟禁なんてするわけねーよな」

 見れば、目の前にいる騎士たちはこれまでに出会った騎士たち同様に正気を失っているように見えた。つまり、アイルたちはまたしても罠にかけられたのだ。彼らの無事を知らせることによってわざとここに誘い込まれたのだった。

「ミレーヌ、ここは一旦引くぞ!」

「了解です」

 そう言うやいなやすぐさま宿舎から外へと飛び出す二人。だが、外へ出た二人を待っていたのは中にいた彼らと同じように大勢の騎士と、彼らを注視するエルロイドの姿だった。

「さて、ここまで場を整えたのだ。そろそろ出てきてもいいんじゃないか、グラード」

 エルロイドが騎士の群れに向かってそう言い放つと、騎士の群れが二つに割れその先にはグラードが立っていた。

「ふむ、それもそうだね。ところで、君は今の自分の状況を理解した上でそのような口を聞いているのかい?」

「ああ、そのつもりだよ。一応ひとつだけ君に聞いておこう。本気か、グラード?」

「……本気さ。騎士団を一つにまとめるためには僕がこうする以外にないんだよ。それが理解できない君じゃないとは思うがね」

「そうか……。なら、これ以上の話は不必要だ。来い、騎士団総隊長エルロイドが迎え撃とう」

「元、だろう? 今の騎士団総隊長は僕だよ、エルロイドくん」

 その言葉を引き金にし、宿舎の中、そして外に待機していた騎士たちが一斉に彼らに襲いかかった。

 三つの場所、三つの戦いがそれぞれ始まり、決着に向けて時を刻み出し始めた。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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