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少女のために交わす新たなる約束

情報を交換し始めた彼らは現在自身が置かれている状況、そして最終的にどのようにして事態を打破するのかを提案しだした。
 現状、城は貴族派に占拠されている。そのため、この国を実質治めている女王が彼らの手の内にあるため、うかつには動くことができない。しかし、それは貴族派も同じである。彼らはあくまでエルロイドを反逆者として仕立て上げてこの状況を作り上げているため、そこで女王に手を出したとなれば国民は元より、騎士や女王を崇拝している一部貴族たちを敵に回すことになる。
 にもかかわらず、ここまでの強攻策を取るというのにはやはり十二支徒という存在があるからだろう。おそらくは一時的な協力体制であろうが、あの十二支徒が味方についているという事実は、力を持たないその他の勢力を黙らせるのには有効なのだろう。エンリカの力を使えば、騎士たちを操ることもでき、実質この国で一番の武力を持つことになるからだ。
 結局のところ優先されるべきは十二支徒の撃退であり、それと同時に今回の首謀者であろうクーリックの捕獲、それから騎士たちを纏めあげているグラードを退けなければならない。想像するとこれがどれだけ困難なことなのかと思い、この場にいる全員が口を閉ざした。
 暗く、重い雰囲気が周りに流れる。敵は強大、こちらの戦力は脆弱。一人一人の実力は心強いが、それは相手にも言えることである。
 では、何をもってしてこの戦いを終わらせることができるのか。そう誰もが考えたとき、二階へと続く階段から一つの人影が降りながら呟いた。

「私が、この戦いを止めるわ」

 そう宣言したのはこの国の皇女であるウィンだった。

「姫様、まだ休まれていたほうが……」

 恭しくエルロイドが言葉を返す。だが、それに対してウィンは首を横に振った。

「いえ、この戦いは私でしか止められない。エルロイド、あなた今自分が裏切り者扱いされていることをちゃんとわかってる?」

「それは重々承知しております。ですが、あなたこそ城での一件をお忘れですか? 彼らはこの機に乗じてあなたを暗殺しようとしたのですよ?」

 衝撃的なエルロイドの発言にその場にいた誰もが驚いた。

「おい、それはどういうことだ?」

 驚きのあまり思わずフィードが口をはさんだ。

「どうもこうも、言ったままだよフィード。彼女は今回の件で私が反乱を起こした際に犠牲になるという名目で殺されそうになったのだよ。犯人は私になる予定だったが、ギリギリのところで救出することができてね」

「ええ、危ないところだったわ。感謝してるわよ、エルロイド」

「光栄です、姫様」

 自分たちの知らぬところでそのような事態が起こっていたのかということを皆理解した。もし、エルロイドがいなかったら目の前の少女は無残な死体へと成り果てていただろう。そうならなかっただけでも、状況は少しは良いと言える。

「それで、ウィンディ様。あなたがこの戦いを止めるとはどういうことですか?」

「それなんだけど、つまりいまの状況になってしまっているのはエルロイドが裏切り者ということになっていて、誰もそれを否定できる人間がいないからよね?
 なら、話は簡単よ。相手が力で道理を通そうというのなら、こちらもその流儀に合わせてやればいいの。力には力で。こちらのやり方で敵戦力を打破して、その上で私が宣言するの。『裏切り者は彼らにあらず、この者たちこそ真の反逆者なり』ってね。
 街の人たちもまだ状況が受け入れられていないのと、下手に不満や文句を口にしたらその矛先が自分たちに向かうんじゃないかっていう可能性に怯えているから大人しくなってしまっていると思うのよ。なら、私たちがこの状況を変えてしまえばあとは民衆を味方にするだけよ」

 年に不相応な大胆な提案を打ち出すウィンディ。その場にいた一同は一人残らずその提案に耳を傾けていた。

「確かに、そのやり方なら上手くいく可能性も少なくないと思う。でも、それは戦力が拮抗している場合じゃねーか? 正直、このメンバーでそれをやるのにはかなり無理があるぜ」

 前向きな方向へ向かいだした空気を壊すのが忍びないのか、少しだけ遠慮がちにアイルが呟く。だが、彼の言うとおりこの戦力で確実に敵を打倒することができるかと言われたら、その答えは否定的なものになってしまう確率のが大きいだろう。

「そうかもしれない。たぶん、私はみんなより子供で今言ってることも無謀で無茶なことだと思う。でも、私は今この場にいるみんなを信じている。それは何の根拠もなく言ってるんじゃない。
 若くして騎士団を纏めあげるほどの地位についたエルロイド。その彼が選んだ有能な部下であるミレーヌとアイル。
 様々な任務をこなして一年で騎士団の副隊長まで上り詰めたリオーネ。そして、彼女と旅をして、エルロイドとほぼ同格の力を持ったフィード。こんなに頼もしいメンバーが揃っているんだもの、相手がたとえ貴族派でも負けるとは思えないわ」

 ウィンディのその言葉に皆、不思議と勇気づけられた。幼いとはいえ彼女はやはり王家の血を引くだけのことはある。人を惹きつけ、発する言葉には力が込められ、できないと思っているようなことも彼女と一緒なら実現できるんじゃないかと思わせてくれる。

「ふふ……。確かに、ウィンディ様の言う通りかもしれないな。これだけの実力者が揃っているにもかかわらず、たかだか貴族派や十二支徒に騎士団を奪われておとなしくしている方がどうかしている」

「ええ。私たちの力で本来正しくあるべき騎士団の姿を取り戻すのです」

「面倒なことになっちまったな。まあ、仕方ねえ。ふざけた真似をしてくれる連中にはそれ相応の報いを与えてやらねえとダメだよな」

「街の人々に被害が及ぶ前に迅速に敵を排除すること。そして、速やかにいつもの平和な城下町を取り戻すのですね」

「ああ。そして、その邪魔をする十二支徒。奴らの排除も同時にな」

 それぞれ意気込みを口に出し、彼らはついに動き出そうとしていた。だが、その前に片付けておくべき要件が二つほどあった。

「さて、目的も決まったところでそろそろあえて触れなかったことを聞いておこうか」

 そう話すエルロイドの視線の先にはフィードのすぐ横で放心状態のまま彼にもたれかける少女の姿があった。力なく下へと垂れる彼女の腕をフィードは優しく包み、エルロイドにこれまでの経緯を説明する。

「……なるほど、彼女は君の友人の妹ということか。クーリックの屋敷に置かれることになった理由はわからないがよほど酷い目にあってきたと見える。感情がまともに働いていない。
 彼女を連れてきた理由はよくわかった。それで、君はこのあと彼女をどうするつもりかね? 一番いいのはこの場に匿っていることだがね。まあ、その後どうするかは君次第だが」

 最後の言葉には全てが終わった後にこちらで彼女を保護してもいいという意味合いが含まれているようにフィードは捉えた。だからこそ、彼はこう答える。

「いや、答えは彼女と再会した時に既に決まっている。彼女の手を、俺はもう二度と離さない。それが、亡き友の代わりに俺ができる唯一の事だ」

「そうか、なら君の好きなようにするといい」

 エルロイドはそう言うとそれ以上はクラリスについては何も聞いてこなかった。
 フィードはもう一度だけ隣で力なく座り込む少女を見つめた。進むべき道を見失い、たった一人で暗闇の中に放り出された少女はわずかに差し込む光を見つける。重なる視線、揺らぐ瞳。慈しむようにフィードは彼女を胸に抱き寄せ、頭を撫でた。それに少女は先ほどと同じように力なく身体を預ける。ただ、唯一違う点があるとすれば、それは抱き寄せられた彼の服をわずかにクラリスが掴んだこということであろう……。

「さて、それではもう一つの放置されていた存在について触れようかね」

 そう言うとエルロイドはアイルによって部屋の隅に横たわらされたケインの身体を揺すって起こし始めた。

「……ぅ、……うぅん?」

 少しずつ開いていく瞼。視点の定まらない瞳で周りを見渡すケイン。だが、少ししてこの場にいる面々を正しく認識すると、蛇に睨まれた蛙のように顔を青ざめた。

「え、エルロイド隊長! それに、アイル副隊長も!? い、いったいこれは……」

 突然の事態に動揺しているのかケインはその場に勢い良く立ち上がると胸に手を当てエルロイドたちに敬礼した。そんな彼を見て、このような状況であるにもかかわらず、アイルは思わず苦笑した。

「こりゃ、心配する必要もなかったかもな。どうです、隊長? 俺が思うにこいつ敵に寝返ったようには思えないんですけど」

「うむ、そうだな。まあ、君の部隊隊員だということもあるし私もそう信じたい。ひとまず、彼を落ち着かせて今の状況をどれだけ理解しているのかだけ聞き出しておこう」

 そうして、ケインに対する形だけの尋問が始まったのであった。


「なるほど、騎士団の方は未だに混乱しているのだな」

 ケインから一通りの話を聞き終えたエルロイドはポツリと呟いた。彼から聞いた情報を纏めると、エルロイドが反逆者と告げられた後、しばらく騎士団全体に動揺が走ったそうだ。それも当然だろう、いきなり騎士団のトップが皇女を暗殺しようとしたなどと言われて誰が信じられるだろうか? だが、それまで彼を支えて来たグラードの鬼気迫る表情を見て、この事態は事実ではないかと考えるものも少なからず出たという。
 だが、それでもエルロイドのことを信じ続けるものもいた。特に隊長、副隊長がエルロイドのことを崇拝している者や親しく思っている部隊は誰もがそのようなことはないと否定した。だが流れは悪く、グラードがすぐさま騎士団総隊長の代理権を握るとすぐさまエルロイド、及び協力者であるリオーネ、アイル、ミレーヌ、フィードたちの捜索指示を出したのだ。それを拒否するものは協力者として疑われ、今回の騒動が収まるまでの間、騎士団の宿舎にて待機という命令が降された。
 だが、実際は待機などではなく軟禁という表現が正しいだろう。真実が明るみになる前にこの騒動にケリを付け、全てをうやむやにして自分たちにとって都合のいいようにことを運ぶ。この時点で逆らったものの処罰など、彼らがこの国の実権を真の意味で握ってしまえば後から適当に理由をでっち上げて処分することもできるだろう。
 そうなると、やはり事態を解決するのはこの時しかないだろう。どこか別の国や地方に逃げ延びて体制を整えるということはできないのだ。
 文字通り背水の陣。負けは許されず、勝利することによってのみその尊厳とこの国の未来を勝ち取ることができる。

「ふむ、こうなるとこれ以上時間をかけていることもできないな。今ならまだ騎士団の結束も弱く、騎士たちの不信感も漂っているだろう。上手くいけばこちらに味方を増やすことができる。なにせ、こちらには姫さまがいる。利用するような物言いで失礼だとは思うが、この機会を利用すれば逆にこちらが貴族派を粛清することもできるのだ。
 大義名分は我らに有り。貴族派の虚偽を打ち砕き、我らの騎士団を再び掴み取るぞ」

 そう言うとエルロイドはフィードたちの方を向き、準備はいいかと確認する。

「これより、任務を開始する。部隊は臨時特殊部隊、同行する隊員はアイル、ミレーヌ、リオーネ、フィード。護衛対象はウィンディ様だ。
 目的は貴族派の撃退、及び騎士団の実権を取り戻し、貴族派の監視かにある嬢王様を解放することだ。そのためには姫様を伴った説得が必要不可欠である。
 諸君、死んで勝利を掴もうなどと思うな。生き残り、我らの手で敗北者を裁くのだ」

 エルロイドの言葉に誰もが頷く。フラム国を揺るがすような一大事、それを解決するための任務が今始まろうとしていた。

「ケイン君はここに残り、この少女を守りたまえ。おそらくここが見つかるとは思わないが万が一ということもある。その時は騎士の名に恥じぬよう全力で彼女の命を守るんだ」

「は、はいっ! 全力を尽くさせていただきます!」

 憧れの騎士を前にしてガチガチに緊張したケインの肩に手を当て、エルロイドはクラリスを守るように命令した。
 そんな彼と入れ違うように、今度はフィードがケインの前に現れる。

「あ……フィード」

 以前と変わらずどこか距離のある硬い雰囲気にフィードは思わず苦笑する。

「そんなに緊張されるとさすがに俺も傷つくな」

「ごめん」

「まあ、いいよ。そういう態度をとられるのには慣れているから。ケインもやっぱり俺のことが怖くなったのか?」

 どこか寂しげな表情を浮かべるフィードの言葉をケインは慌てて否定した。

「違うよ、そうじゃないんだ……。ただ、僕が勝手に劣等感を感じているだけなんだよ、フィード」

「なんでまた?」

「最初、僕と出会った時のこと覚えているかい?」

「ああ、覚えているよ」

「あの時は僕は別にフィードのことこんなにすごい人だなんて思っていなかった。ちょっと腕が立つくらいのやつだと思ってたんだ。
 でも、フィードも一緒に試験を受けるようになって、いざ試験が終わってみればフィードはリオーネさんとも知り合いでエルロイド隊長に勝つほどの実力者だって知った。
 そんな凄い人物がすぐ傍にいるって考えただけで息苦しくなったんだ、僕は。なんで、実力もない自分が騎士団に入団出来たんだって考えた。そして思ったんだ、もしかしたらフィードが僕を入団させてくれるように口利きしてくれたんじゃないかって。
 そう思ったら、自分が情けなくなって君の顔を見ることもできなくなったんだ」

 顔を俯け、情けなく視線を逸らすケイン。そんな彼を見たフィードはため息を一度吐き、告げた。

「ばーか、自惚れるなって。俺がそんなことをするわけないだろうが。だいたい、仲良くなったからってそこまでする義理もないぞ。普通に考えたらそれくらいわかるだろうが。
 それに、お前は騎士団に入れたのはお前自身の力があったからだよ。なのにお前自身がそのことを疑ってたら今までお前がしてきた努力を全部否定しているようなもんだぞ。
 もっと自信持て。お前は実力で騎士団の地位を勝ち取ったんだ。そこに俺という存在が割り込む要素はない」

 ニコリと無邪気な子供のような笑顔を浮かべながら語るフィード。そんな彼を見てケインは一瞬呆然としていたが、少しして吹き出した。

「はっ、はははっ。そうだね、そうだよ。全くもって君の言うとおりだよ。うん、ありがとうフィード。僕、もう少し自信を持ってみるよ。
 それと、ごめん。今日まで変に距離とったりして」

「いいんだ。それより、ケイン。クラリスのこと、頼んだ。俺が戻るまで絶対に傷つけたりしないでくれ。
 本当は俺がついていてやりたいんだが状況が状況なだけにそうも言っていられない。だから……頼む」

 フィードの切実な頼みに今度はケインが苦笑を浮かべ、答える。

「当然、騎士の名にかけて彼女の命預からせてもらう。任せて、フィード」

 そうしてお互いに笑いあった。他のメンバーは既に来た道を引き返し、隠し扉の場所に向かい始めていた。

「クラリス、少し待っていてくれ。この件が片付いたら直ぐに君を迎えに来る」

 フィードはそう言ってクラリスの頭をそっと撫でた。やはりというべきかクラリスは言葉を返さなかった。しかし、今までと違いフィードの服の裾をギュッと握りしめて離さなかった。まるで、彼を戦場に向かわせまいとするかのように。
 それは、兄を一人復讐の場に駆り出させ、何も知らぬ間に死別したことからのトラウマからの行動なのか、それともただ純粋に彼を心配しての行動かは今の彼女からはわからなかった。
 だから、フィードは、

「大丈夫。きっと、帰ってくる。約束だ、クローディアの時には果たすことができなかった約束。今度こそ君との約束を俺は守ってみせる」

 彼女の手を取り、自分の小指と彼女の小指を絡めあわせて約束を交わした。約束を交わすと、クラリスは掴んでいた裾から手を離した。

「じゃあ、行ってくる」

 そう言ってフィードはこの場を後にし、先に進んだ仲間たちの元へと向かうのだった。
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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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