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潜入

深夜、人の視界を遮る暗闇に紛れて幾つかの人影が凄まじい速度で動いていた。人影は街の中心部から徐々に離れ、彼らの目的地に向かって歩を進める。
 揺ら揺らと篝火が燃ゆる。それは走り去る彼らの速度がどれほどのものかを象徴していると同時に、この国を覆う不穏な影を映し出しているようにも見えた。
 もう長いこと走りづくめだというのに根を上げるものはひとりもいない。それも当然、これはエルロイドによって託された任務なのだ。内容は、例のクーリックという貴族の屋敷に忍び込み、リオーネが襲われた件についての証拠を掴んでくるということだった。
今回ばかりは「失敗しました」では話にならない。例の事件の核心に一気に近づくための大事な仕事。ようやく巡ってきた機会だ。これを取りこぼしては次があるかもわからない。

「なあ、本当にこんだけ人数がいるのか?」

 そう告げるのは今回の任務において組まれた部隊の二番手を走るフィード。彼は自分の周りにいる他の人々を見回し、改めて今回の件にこれほどの人数がいるのかどうかを問いかけた。

「そうは言っても、今回の件は失敗したらそこで御終いかもしれないんです。下手に中途半端な状態で向かうより、万全の体制で挑んでも損はないと思いますよ」

 問いかけに答えるのは彼の一歩後ろを走るリオーネ。引き立て役でありながら彼が行き過ぎないようにするお目付け役でもある彼女はどうにかフィードと周りの距離を縮めようとこっそり努めていた。

「確かに俺もそこのルーキーと同じ意見だぜ。たかが貴族。実力もなく金とそれまでの伝統とやらでたまたま残っているだけの奴の家に忍び込むのにこんなメンツはいらねえだろ。なんだよ、この隊長格揃いはよ。今からどっかの賊の殲滅戦でも行うのか?」

 一列に纏まって移動する隊の殿にはアイルが付き、飄々とした様子で後ろから前にいる三人を眺めている。

「アイル、言葉が過ぎますよ。隊長の言うことです、この人員配置にも何かしら意味があるのでしょう。この中ではリオーネの意見が一番まともですね。本当に、どうしてこのように優秀な者の師があなたのような人なんでしょうね。いえ、反面教師にしてきたのなら、この優秀さも納得ですが」

 そして、先頭を進むのはリオーネを褒めながらも、同時にフィードに嫌味を言うことを忘れないミレーヌだ。何かしらの反応が返ってくることを少なからず期待する彼女だが、フィードの方はそろそろこのやりとりも不毛だと思い始めているため、一方的に話を聞き流していた。
 その代わりにアイルの方が大げさに反応し、リオーネの気を引く。

「お~怖っ。なんだよ、なんだよ。もうちっと気楽に行こうぜ。今からの任務は隠密だろ? そんな気を貼ってちゃいざ行動するときに相手に自分の気配が丸分かりだぜ」

 冗談交じりに話しながらも、正論を投げかけるアイル。その点に関してはミレーヌも承知しているのか、

「わかってます。悪ふざけはここまでです」

 そう告げ、それ以降は無駄な挑発を口にすることは一度もなかった。

 それから一時ほど彼らは走り続けた。さすがに息は切れていたが、それも少しの休息によって元に戻る。
 目の前には巨大な屋敷が立っていた。町から外れたことによって拓けた広大な敷地を存分に使った屋敷。贅沢の限りを尽くしているそれを見ただけで誰もが思う。
 もう夜更けにも関わらず、屋敷からは眩い明かりが外に向かって溢れている。夜の静けさに似合わない歓声が、風に乗って屋敷の中から遠く離れた彼らの元にまで響き渡る。

「全く、いい気なもんだ。きっと頭空っぽで毎日過ごしてんだろうな」

 明かりの中で揺れる影を見つめながらアイルがボソリと呟く。

「たしかに、アイルの言う通りかもしれませんね。ですが、今の私たちにはそれはむしろ好都合です。せいぜい、気を緩めておいて欲しいものです。私たちの任務を遂行するのがより楽になりますからね」

 ミレーヌはそう言うと、自分の傍にいたリオーネをフィードの側に寄せ、代わりにフィードの横にいたアイルを引っ張って自分の隣に立たせた。

「ん? どうした」

 不思議そうに彼女の行動の意味を考えるフィードにミレーヌは告げる。

「鈍いですね。今からは二手に別れようという意味です。四人とはいえ、何も固まって居てはどうしても見つかる確立が高くなる。かといってそれぞれバラバラになっては何かあった時に行動が起こしづらい。そのため、二人一組で今からは行動します。
 私は、アイルと。あなたはリオーネと組んでください。お互いその方が動きやすいでしょう」

 フィードとリオーネの関係性を理解して、その提案を出したミレーヌ。リオーネという若き才能に目をかけているミレーヌとしては彼女自身が思う悪い芽であるフィードと行動させたいとは本心では思っていないだろうが任務だと割り切っての判断だろう。実際に付き合いの長さであればミレーヌはアイルがリオーネはフィードが長いと理解しているのだ。

「わかった。それで、合流の際はどうする?」

「合流は今いるこの場所で。潜入の制限時間は一時ほどです。それ以上は危険ですから。もし、誰かが見つかった場合は一斉にその場から退去。万が一誰かが捕まるような事があったとしても助けることなどしないで離脱すること。
 まあ、仮に捕まるようなことがあっても、このメンバーに対抗できるような相手があの屋敷の中にいるとは思えませんけど……」

 チラリと三人を見たミレーヌ。悪態をついているもののフィードの実力自体は彼女も認めているのだ。

「わかりました。では、私とフィードは裏側から潜入します」

「んじゃ、俺らは表側からだな。任務の成功を祈るぜ」

「ああ、全力を尽くさせてもらうよ」

 二手に分かれた二組。フィードとリオーネは宣言通り屋敷の裏手に周りこみ、潜入するために最適な場所を伺っていた。

「にしても、少し意外だ」

「どうしました?」

「いや、これだけ大きな屋敷を持っているんだ。当然巡回している警護人がいるかと思っていたんだが、今のところ一人も姿を見かけないからさ」

「ああ、そのことですか。いえ、それにはきちんと理由があるんですよ」

「と、言うと?」

「前にクーリック氏が反平民主義の貴族であることは話しましたよね。彼はその中でも徹底した反対派でして……。自宅の警護を任せるのも伝統ある純潔な騎士でないと駄目だと口にするような人なんですよ。
 かといって、騎士も一人の人間に付きっきりでいるわけにも行きませんから、決められた日時以外は彼の家の警護は最低限に留められているんです」

「ふうん。それで、賊に忍び込まれることになったら本末転倒もいいとこだけどな」

「ええ、その通りです。その代わりにそれだけ拘る分、彼が採用するのは純潔の中でもとりわけ有能な人間です。そんな人間を彼がわざわざ屋敷の外に配置するとも思えません」

「そうなると、問題はやっぱり屋敷の中か」

「ええ。ただ屋敷に潜入して証拠を掴むだけならどうにかなったかもしれませんが、もし屋敷の中に私たちと同じくらいの力を持った警護人がいるとなるとかなり厄介なことになります」

「だけど、ここまで来て尻込みするわけにもいかない。後のことは実際にことが起こってからどうにかすればいい」

 そう言ってフィードは屋敷の裏側で右端にある、とりわけ人の手がしばらく入っていない場所の窓へと移動した。物音は最小限に留め、周囲を警戒しながら後から来るリオーネを誘導する。

「よし、行くぞ」

 窓の内側にかかった金属製の貫木その周りを風の魔法を使って器用にくり抜き、中へと侵入する。
 入った部屋は予想通り人の手があまり入っていない物置であった。窓から降り立っただけで床に溜まった埃が舞うほどには放置されているようだ。
 暗がりの中、明かりをつけずに目を凝らし部屋を確認する。装飾品や書物、物珍しい工芸品などが一応形だけは整えられて置かれていた。おそらくは衝動的に買った品々だが、すぐに飽きがきたためこうして一箇所に保管されているのだろう。人の手があまり入っていないところを見ると、ここは忘れられた宝物庫とでも言うべき場所だろう。

「ったく、貴族様の考えることはよくわからんな。ここにあるものだけで一体いくらの金を無駄に使ったのやら」

 文句を言いながら窓の対面にある扉に向かうフィード。その間リオーネは窓を元のように閉め、窓横の壁に身を接して外を警戒していた。

「こちらは大丈夫です」

 外の安全をリオーネはフィードに伝える。それを聞いたフィードは外に人の気配がないか確かめる。周囲に人の気配がないことを確認すると先ほどと同じように扉の鍵を切り抜き、僅かに扉を開けて先の様子を伺った。
 細長い廊下。こちらは今いる部屋と違い、丁寧に清掃されていた。床に敷かれた高級そうな絨毯の踏み心地に少しだけ感心すると同時に足音が響かないことに気がつき、好都合だとフィードは思った。
 先に進んでも大丈夫だとリオーネを手招きして自身の後ろに付かせ、フィードは部屋の外へと出た。廊下は一本道。今いる場所から五つ部屋を通り過ぎて、ようやく分かれ道が生まれる。
 事前に支給された懐中時計を見て残り時間を確認する。制限時間は一時しかない。少なくとも全ての部屋を見て回っている暇はない。
 そうなると、探索範囲を絞らなければならない。まず、クーリックの部屋は当然探索することになる。今のところ聞いた彼の性格からすると、自分にとって大事な物をそう簡単に他人に預けるような性格であるとは思えなかったからだ。
 残った候補は書斎、客間となるがこれだけ広大な屋敷の中からその部屋を見つけるのだけでも時間がかかる。最優先すべきは彼の自室だ。それを頭に置き、フィードは先に進み始める。

「任務開始だ」

 彼らの潜入は始まり、短くも長い一時が始まりを告げた。
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建野海

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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
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      向日葵の咲かない夏
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好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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