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私情混じりの夜の任務

空は暗く深い闇に染まり、町を照らす酒場や街灯の明かりが空に向かって光を放っている。昼間の人々が入り交じり、声が辺り一面に向かって飛び交う騒がしさとはまた違った、一日の終わりを互いにたたえ合う労働者達の明るい声が明かりの灯る幾つもの店から外に向かって響いていた。
 人通りの少なくなった通り。店の外にテーブルや椅子を出し、わざわざ外で酒盛りをする男や女達。彼らの表情は喜びに満ちており、平和を感じさせる。
 そんな中、酒を飲むわけでもなく、食事をするわけでもなく、観察するように通りを歩く二つの人影があった。

「なあ、本当にこんな堂々と歩いてていいのか?」

 現在城下町を駆け巡る噂の中心人物の一人となったフィードは隣を歩くリオーネに向かって尋ねた。

「ええ、構いません。むしろ、普通に食事を取りにきたと思われるんじゃないですかね。その方がこちらとしてもカモフラージュになっていいですし」

 ニコリと微笑みリオーネは質問に答える。心なしか、どこか浮かれているように彼女は見える。

「まあ、確かに。あまりコソコソと動いてこちらの動きを相手に悟られても困るしな」

「ええ、ですから特に意識せずに目的地に向かいましょう。ついでにどこかで食事の方も取っておきましょう」

 やはり、どこか妙に機嫌のいいリオーネを見てフィードは肩をすくめる。今は一応任務中であるにも関わらず、彼女はそんなことを気にした様子も無く、むしろこの時間を楽しんでいるようにフィードは感じた。
 いつもであれば、このような任務に生真面目に対処し、即座に終わらせるリオーネであるが、フィードとの再会で気分が良くなっているのか、普段の彼女ではあまり見る事のできない姿を晒していた。
 かくいうフィードもまた、姫のお守りから外されこうしてリオーネと二人でいる時間を心のどこかで喜んでいた。こうして二人で同じ時間を共有するのは、セントールでの別れを除けば、リオーネをこの国に置き去りにする前にまで遡る事になる。
 その事を思い出し、思わず微笑むフィード。そんな彼の様子に気がついたのか、不思議そうにリオーネがフィードの顔を覗き込んだ。

「どうしたんですか、フィード。急に笑い出したりして」

「いや、なに。なんだかこんなやり取りも懐かしいなって思ってさ。もうずいぶん長い事リーネと二人だけでこうやって町を巡ったりしていなかったなって」

「そう言われてみれば、確かにそうですね」

「昔はあれだけ一緒にいたのに、不思議なもんだよな」

「まあ、そうなった原因はフィードにあるんですけどね」

「馬鹿、それを言うなよ。せっかくいい事言ったと思ったのに台無しだろうが」

「だったら、最初っから私を置いてかなければよかったんですよ。もう……」

 プイッと顔を背けて拗ねたような態度を取るリオーネ。ただ、実際に拗ねているわけではなくそれがあくまで形だけのものだとフィードは気づいている。

「まあ、その件は俺が悪かったって何度も言ってるけどさ。でも、今はこうしてまた一緒にいられるんだからいいだろ?」

 そう呟くフィードだったが、リオーネはその返事では納得できないのか、未だ顔を背けたまま言葉を返した。

「でも、フィードは今回の件が終わったらこの国を離れるんですよね?」

「そりゃ、まあな……」

 そればかりはどうする事もできない。フィードの今いるべき場所はセントールであり、そこでは待ってくれている人たちがいるのだ。もしかしたら、別れる事になってしまうアルにしても、もう一度話し合えと隣にいるリオーネに文句を言われたばかりだ。だから、最終的にはフィードはセントールに帰ることになる。

「やっぱり、不思議です。あんなに離れないと思って、ずっと傍にいると思っていたのに、気がつけばこうして二人とも別々の道を歩んでいるんですから。昔の私は今みたいにこうやって、ずっとフィードと町を巡って、旅をして行くものだと思っていたのに……」

 再び前を向き、遠い過去を懐かしむようにリオーネが語る。しんみりとした空気に当てられたのか、フィードもまた似合わないようなクサイ言葉を紡いでいく。

「変わらないものなんて無いさ。色々あって、すれ違って、でもこうやって昔みたいに一緒に歩いている。別々の道を歩いたってそうできる。変わらないものもあるってことだろ?」

「そうですね。でも、もしかしたらこうやって同じ道を歩けなかったかもしれないんですよね。私たちがすれ違ったままで、私はフィードの事をずっと憎んだままで、フィードは真実を言わないままなんて未来もあったかもしれません」

「かもな、だがそれは仮定の話だ。『もし』の話をしたところでなんの意味も無いさ」

「ふふっ、そうですね。確かにそうです。私たちは今こうして一緒にいられるんですから」

 いつの間にか二人の存在に気がついた民衆達がジッと視線を向けていた。普段であれば、所構わず質問攻めにし、情け容赦なく無遠慮に絡んでくるはずの人々だが、フィードとリオーネが作り出している世界が余りにも余人の侵入を許さない無意識の壁を作っており、近付き難いと感じてしまっていた。
 そのため、彼らは遠巻きに二人を見守りながら、その関係を邪推して酒のつまみにしているのだった。

「それはそうとさ。俺たちは今からリーネの知り合いだっていう情報屋のところに行って、めぼしい情報がないか確認にするからいいとして、他の三人はどうやって調査するつもりなんだ?」

 素朴な疑問を投げかけるフィードにリオーネはくすりと笑みを浮かべて答える。

「そうですね、アイルさんはその辺りの酒場にでも行って、最近不審な人物を見なかったかどうか確認するんじゃないでしょうか? まあ、あの人の場合はそれをダシにしてただお酒を飲みたい気もしますけど」

「まあ、少ししか見ていないけどあいつはそういう感じの奴っぽいな」

「それで、ミレーヌさんの場合ですけれどあの人は町に出たりはしないでしょうね。仕事に厳しい人ですから。おそらく、他の騎士に聞いて情報を収集するでしょうね」

「ふ〜ん。まあ、ある程度予想通りと言えば予想通りだな。で、最後の一人のお前の上司は?」

「グラードさんですか? う〜ん、あの人はちょっとよくわからないですね。私たちの知らないルートで情報を仕入れていそうです。しかも、その上で素知らぬ顔をしてそうですね」

「なんていうか、お前の上司ってタチが悪そうだな。ちょっと、不気味な感じがするし」

「そんな事言ってはいけませんよ、フィード。あれで隊のみんなからの人望も厚いんですから。まあ、ちょっと隊長に見られない事もあって困りますが。欲を言えばもう少しだけ威厳が欲しいところですね」

 ハァと溜め息を立ち、副隊長として隊長を支えてきたこれまでの苦労を滲ませるリオーネ。そんな彼女がなんだかとても不憫に見えて、フィードは慌ててフォローを入れる。

「ま、まあ……その分お前が頑張ってるってことだろ。とりあえず、元気出せ。飯でも奢ってやるから」

 そう言うや否や、下を向いていた顔がおもむろに上を向き、キラキラと輝く瞳でフィードを見つめた。

「言いましたね! 丁度お腹が空きはじめたところだったんです。情報屋のところにいく前に腹ごなしをするとしましょう」

 急に元気になったリオーネに手を引かれ、そのまま、ずるずると町を引きずられて行くフィード。今夜はどこまでもリオーネに振り回されそうだと胸の内で彼は呟くのだった。


 リオーネがよく行くという食事場で二人は少し遅めの夕食をとった。手を繋ぎ、店内に入って来た二人を見て、店主と女将は意味深な笑みを浮かべて、妙に機嫌良く接してくれた。注文の際に、まだ頼んでもいない飲み物や料理を出し、二人を引き止めると同時に、サービスの対価として二人の関係を根掘り葉掘り聞こうとして来た。他の客達もその話が気になっていたのか、遠くからこっそりと聞き耳を立てて質問をジッと聞いていた。
 どうも、リオーネは以前からここでフィードの話を出していたらしく、飲み物を運んできた粋のいい店主にバンバンと勢いよく背中を何度も叩かれ、「お前が噂の兄ちゃんか。話は聞いてるぞ、一時期はここであんたの愚痴を散々聞かされたからな!」と高笑いを上げながら飲み物を置いてカウンターの中へと戻って行った。
 フィードがその事に対してどういう意味だ? とリオーネに睨みを利かせると、肝心のリオーネは顔を赤くして、そっぽを向いていた。都合が悪い事からは目を背けたいようだ。
 次に、料理を運んで来た女将さんも店主と同じく、口元に手を当てて含み笑いをし、「よかったね、リーネちゃん。愛しのフィードさんが来てくれて」とわざとらしくフィードにも聞こえるようにリオーネに対して呟いた。それを聞いたリオーネは手をあたふたとさせ、必死にそんなことはないと誤魔化そうとしていた。
 ここまで来ては、フィードはもう諦めるしか無いと思い、余計な事だけは口にしないでおこうと黙って、テーブルに置かれた飲み物を口に含んだ。
 先程までの元気はどこに行ったのか、リオーネは借りて来た猫のように大人しく縮こまり、常連客からの茶化しの声に慌てふためいたり、女将からの質問に顔を真っ赤にして俯いたりしていた。時折フィードの方に視線を向けては気の抜けた笑みを浮かべた。
 まるで任務の事など忘れているかのようなその振る舞いにフィードは呆れるとともに、絡んで来る客達の対処に追われていた。さばいてもさばいても減らない客達。飲めや、食えやと要求して来る人々を若干うっとうしく思いながらも、どこか懐かしく感じる。
 そう、この店はセントールにあるレオードの店を思い起こさせた。
 懐かしいと思えるほどには彼の酒場を訪れていないと思うフィード。長い事顔を合わせていないセントールの町の人々の顔がふいに思い浮かんだ。
 ここしばらくは本格的に町長の仕事を手伝わされ、以前のように顔を合わせる事が少なくなったクルス。旅を続けている中でも元気に酒場を経営して、相変わらず客達に怒声を浴びせているであろうレオード。
 根無し草であったフィードが一時的とはいえ今までで一番長い間滞在している宿の女店主グリン。かつては敵の奴隷でありながら、今はフィードと同じ宿にて看板娘の一角を背負うまでに成長したイオ。そう言えば、彼女と約束したプレゼントの件について今まですっかり忘れていた事をフィードは思い出す。この際、フラムの工芸品を何か探しておこうと考える。
 そして、最後に。リオーネと別れてからこれまでずっと一緒に旅をして来た少女、アルの姿が思い浮かぶ。元気にしているだろうか? 病気にはなっていないだろうか? 頑張っているのだろうか? 
 今、彼女は何をしているのだろうか。そんなことがフィードは気になった。だが、そんな風に考えにふけっていると、隣からクイッと彼の裾が引かれた。

「フィード。ちょっと、聞いてますか〜」

 見れば、リオーネが顔を真っ赤にさせ、視点の定まらない瞳でこちらを見ていた。このような状況になっては仕方ない、早いところ外に出ようと判断し、フィードは彼女の腕を肩に回して勘定を済ませて外に出た。

「また来るよ」

 今はセントールの事を考えている時ではない。そう思いながらフィードはリオーネを抱きかかえながら店を後にした。
 外に出ると冷えた夜風が身に染みた。だが、酒が入り、身体が火照ったリオーネから伝わる体温がその寒さを打ち消した。

「はぁ……。で? どこに行けばいいんだ、リーネ?」

 そう問いかけると、リオーネはろれつの回らない口でこれからの行き先を示した。大通りを外れ、うねうねと迷路のように入り組んでいる路地を抜けて行く。そして、町の中心地から外れ、夜の欲望が渦巻く裏路地に存在する歓楽区域へと辿り着く。
 あくまでも合法と認可されている店だけが人目を忍びつつ、それでも華やかさを忘れずに店の前に明かりを灯す。見れば、休みを貰った男達が嬉々とした顔で店を見て回っている。
 フィードはこの光景を見て、思わず頭を抱えた。

「なあ、リーネ。本当にここでいいのか?」

「はい〜。あ、あそこの店です。早く入りましょう〜」

 赤みを帯びた顔で指差す目的地。そこは男女二人が夜に入ったとすればやる事は一つしか無いような店であった。

「もう、どうにでもなってくれ」

 ただでさえ広まる尾ひれ付きの噂がこれから更に酷くなる事を考えながら、フィードは目的地の店の中に入った。

「いらっしゃいませ。ようこそ、キクへ。リオーネ様に、フィード様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 中に入ると案内人であろう女中が待っていた。連絡も何も取っていないにも関わらず、二人が来る事を分かっていたというように淡々と語り、奥の部屋に向かって案内する。
 未だに力を抜いて、自身の身体をフィードに預けてへばりつくリオーネにいい加減苛立ち、フィードは思わずリオーネの頭部に手刀を叩き込んだ。

「イタッ!」

 と、はっきりとした声が室内に響き、リオーネが上目遣いにフィードを見つめていた。その表情には先程までの赤みはなく、酔っぱらってあやふやとなっていたはずだった視点はきちんと定まっていた。

「一体いつまでお前のヘタクソな演技に付き合わなきゃいけないんだよ。だいたい、そんな風にしてここに来たせいで、俺の噂がまた変に立ったりする可能性が大だぞ!」

「いえ、すみません。こうしたほうがより敵の目を欺けると思いまして……」

「お前、絶対私情をはさんでたろ」

 酔っぱらったふりをしてここまで彼女を連れてくることになったフィードはジロリと彼女を睨みつけた。

「……なんのことでしょう」

 自身の行動を誤魔化すために顔を背けて視線を合わせないようにするリオーネ。今日だけで、何度この行動をとられた事か。

「ガキか、お前は」

 いい加減怒るのも時間の無駄だと判断したフィードは、先を歩く女中の後を追った。リオーネもそれに続く。そして、案内された先はこの店の最奥。明らかに他にある部屋とは異質な雰囲気が漂う部屋だった。

「では、よいお時間を」

 そう言い残し、女中は元来た道を引き返して行った。残されたフィードは顔を合わせ、最後の確認をリオーネに取る。

「中に入っていいのか?」

「ええ。そこで情報屋が待っています」

 目の前にある取っ手に手をとり、扉を開く。そして、視界に映る先にいたのは、

「よく来たね、二人とも。とりあえず座りんさい」

 優雅に椅子に座り、二人を迎える小太りな老婆だった。
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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