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薬にも毒にもなりうる男

ふてくされたウィンディの機嫌を直すために試行錯誤を繰り返し、今度二人が一緒に護衛につき、城下町を訪れるということでどうにか納得してもらう事になった。
 正直、機嫌を直す際の妥協案を出した時点でウィンディがニヤニヤと口元を緩めていたため、今更な話だがフィードはあのお姫様にしてやられたと内心思っていた。リオーネも同じように思っているのか、隣を歩きながら疲れたように溜め息を吐き出していた。
 そんな二人は現在、騎士団のトップであるエルロイドに呼ばれ、彼の執務室へ向かっていた。呼ばれた理由にはだいたい察しがついている。おそらくは状況に進展があったのだろう。それが何かまでは分からないが、それも部屋に着けばわかるはずである。
 そして、長い長い渡り廊下を抜けて、二人は目的地に辿り着いた。部屋の戸を叩き、中にいるエルロイドに断りを入れた。

「エルロイドさん、リオーネです。こちらへ来るようにという報告を受けて参りました」

 呼びかけると、少し間を置いて「入って来たまえ」と返事がきた。それを聞いた二人は扉を開き、中へ入る。中に入った二人を迎え入れたのは正面奥、木製の椅子に座ったエルロイド。それから、三名の人物だった。

「おや、意外に早い到着ですね。てっきり姫様がまただだをこねられて二人を離すのを惜しむかと思いましたが」

「おっ! 来たな、噂のルーキー。どうだ、姫様の相手は? めんどくせえだろ、我が侭ばっかり言っててよ」

「アイル。あなたのその発言は姫様に対する不敬と取られますよ。もう少し言葉を慎んでください」

「今更なに言ってるんだよミレーヌ。だいたい、お前エルロイド隊長が同じ事言ったらもう少し柔らかい物腰のくせによ。贔屓はよくないぜ、贔屓は」

「隊長とあなたでは普段の行いが雲泥の差ですから贔屓したところで何も問題はありません。それだけ、私の信頼を得ているということですから」

「ケッ! やだね〜敬虔な信奉者は。隊長ももう少し部下の面倒はしっかりしておいた方がいいんじゃないんですか?」

「アイル! あなたという人は……」

 エルロイドに対して態度の悪いアイルを見て怒りを露にするミレーヌ。普段なら憎しみの籠った視線でフィードを睨みつける彼女だが、今だけはまるで彼のことを気にしている余裕など無いと言わんばかりにアイルの相手に必死になっていた。
 半ば放置気味となったフィードとリオーネはひとまず扉の前から部屋の隅へと移動し、このやり取りを見守る事にした。
 まず、執務室に置かれた無装飾で、実務専用と言った机に両手を置き、困った顔で成り行きを見守っているのは説明の必要も無い騎士団トップ、エルロイド。そんな彼の手前、フィード達から見て右からリオーネの上司でもあり第九部隊隊長グラードがニコリと微笑んでいる。
 そして、グラードから順に左へ向かって並んでいるのは、先日ケインの第二試験の際に試験官として戦った第七部隊副隊長アイル。おどけた様子で隣に立つミレーヌをからかい、エルロイドに不満を投げかけている。
 そんな彼の不真面目な態度に苛立っているのは、第一部隊副隊長ミレーヌ。腰にさげた剣を今にも抜刀しそうなほど肩を振るわせ、どうにかキレるのを我慢している。
 こうして見ると騎士団でも中々見る事のできない、そうそうたる顔ぶれだ。この四人に更にリオーネまで加われば一体何が起こるのだろうと、この状況を見た他の騎士達は思うだろう。
 自分がこの場にいるのがどうにも場違いな感じがしたフィードは、さっさと用件を済ませてここから離れようと思い、肝心の話を切り出した。

「……で? 楽しく漫才するのは構わないんだけど、俺たちは一体何の用で呼ばれたんだ? ここにいるみんなが知っての通り、今の俺が相手をしている姫様は我が侭で、すぐに駄々をこねるような人間だ。
 できることなら、さっさと用件を済ませて姫様のご機嫌を取らないといけないんだ。まあ、お前達が姫様の機嫌を損ねたいのなら俺は止めないが」

 唐突なフィードの発言を聞いたこの部屋にいる五人の反応は多種多様であった。
 まず、エルロイドはこの発言を面白いと捉えたのか、感嘆した様子で微笑んでいる。グラードは先程から一切様子を変えず、笑顔を浮かべたままだ。その様子をフィードは少し不気味だと感じた。
 アイルは部屋に響く程の大きさで口笛を吹き、この状況で発言をしたフィードを褒めたたえるように、二、三度拍手した。だが、おもしろがっている態度とは別に彼がフィードに対して向けている視線は少しも笑っておらず、むしろ警戒するような意図が含まれていた。
 ミレーヌは先程のアイルとの口論を漫才と告げられた事が実に不服なのか肩をプルプルと震わせて俯いていた。まさに爆発一歩手前の状況である。
 そして、最後に全員の反応を見ていたリオーネが隣で呆れ果て、

「フィード。もう少し空気を読んで発言をしてください」

 と、言ったところで聞いてもらえないだろう忠告を呟くのだった。
 それから、一瞬室内に静寂が訪れた。誰もが次に紡ぐ言葉を探している中、コホンと咳をする音が聞こえ、視線が一斉にその音を発した主の元へ集まる。

「そうだな。フィードの言う通り、重要な用件があったから君たちを集めたのだ。それぞれの業務もあることだろうし、手短にすませよう」

 そう言ってエルロイドは説明を始めた。

「さて、ここに来てもらった時点で気がついているかもしれないが、状況が動いた。より正確に言えば相手がボロを出したというべきだがね」

 机の上に置いてあった一枚の紙をアイル達の前に出して、書かれている内容が見えるようにする。フィードとリオーネもその内容を確認しようと机の前に歩いて行く。

「これは……貴族のクーリック氏? 彼が事件の黒幕だと?」

 そこに書かれていた内容はクーリックという貴族が怪しげな人物と密会していたという報告が記されていた。そして、その人物に金品を渡しているところを目撃したとも。

「いや、そこまではまだわからない。その怪しげな人物がリオーネ君を襲った人物と同一犯という確信も無いが、実際にクーリック氏が怪しい行動をとっていたのは事実だ。それに彼は元々反平民派だということも大きい」

「反平民派?」

 聞き慣れない単語に思わずフィードが聞き返す。

「ああ、そうか。フィードはまだ知らなかったかね。騎士団の中に派閥があるのは以前話をしただろうが、貴族派と平民派という二つの派閥ができていてね。
 元々この騎士団は貴族達が作ったものだから、貴族など家柄を持つ者こそが真に騎士として相応しいと主張しているものが騎士団の中にいるんだよ。
 だが、家柄などがあったとしても実際に人々の役に立たないのではなんの意味も無い。それで、ここ数年は一般の公募を募り、実力があり、人格的にも的確な人物を騎士として採用しているのだよ。
 だが、そんなどこの血筋かも分からない元農民や町民が騎士になるのが気に入らない貴族派の一部が彼らに嫌がらせをするなどしていてね。それに反発した騎士達が作った派閥が平民派だよ。
 もっとも、貴族の血筋を引いた騎士が全員貴族派というわけではないがね。ここにいるグラードやミレーヌも貴族や富裕層の家柄の人間だが、平民派だ。
 ちなみに、この部屋にいる全員平民派ということになる。特に、リオーネ君は平民派の顔として名を挙げられる事も多い」

 その発言にリオーネはブンブンと身体の前で何度も手を交互させて否定する。実際、本人がそう思っていなくとも、周りの認識ではそのようになっているのだろう。

「ほう、そんな面倒な派閥争いがあるのか。つまり、こういうことか? その貴族派のクーリックとかいう貴族が最近活躍目覚ましい平民派の顔になりつつあるリーネを目障りだと感じて、刺客を向けたと?」

「まあ、そのように考えてもらえば問題ない。だが、実際のところこれで確定と断言するにはあまりにも根拠が弱すぎるのだよ」

 苦笑いを浮かべるエルロイドの様子を見かねたのか、ミレーヌがいつものようにフォローに入る。

「ええ、そうでしょうね。そもそも、リオーネさんを襲ったのは我が隊の騎士で彼は平民派でした。お金で動くような理由もありませんし、報告を聞く限りでは操られていたと言われた方が納得できます。
 しかし、クーリック氏が隠れて金を渡していた人物が今回の件と関係あるという確証もありません。もしかしたら、今回とは別の件で報酬を渡していたのかもしれませんしね」

「でもよ、そんな事言ってたらいつまで経っても何も進まねえだろうがよ。だから、その件が今回の件と関係しているかって確認を取れっていいたいんだろ、エルロイド隊長は? んなこともおめーはわからねえのかよ」

 乱暴な言い方をしてミレーヌを小馬鹿にするアイル。態度が悪い事この上ない。さすがに、これにはミレーヌも頭に来たのか声を荒げてアイルに向かって怒鳴りつける。

「分かっていましたから! いいですか、その程度の事は口にするまでもないと判断したまでです! あなたは少し黙っていてください!」

 ハァ、ハァと息を乱すミレーヌ。突然の事にこの場の誰もが唖然としてしまい言葉を失う。さすがに、これはやりすぎたと思ったミレーヌは咳払いをし、話を戻した。

「ンンッ! えっと、それでですね。確認を取るのは構わないんですが、何もこれほどの人材を集めなくてもよいのではないのでしょうか? あ、新人は除いてですけど」

 さりげなくフィードに対する毒を吐きながらエルロイドに問いかけるミレーヌ。言われてみれば確かに彼女の言う通り、この場にいるメンバーは騎士団の中でも主力を集めた精鋭達。一騎当千の力を兼ね備えた隊長、副隊長たちしかいない。一人の貴族の調査のために揃えるような人材ではない。

「いや、現状敵の規模も目的も分からないこの状態ではこれくらいのメンバーで行動をした方がいいだろう。最悪の場合はあの十二支徒が相手になるかもしれないのだからな。リオーネ君なら私が言いたい事が分かるだろう?」

「はい……」

 重々しく口を開くリオーネにはかつて自身が戦った十二支徒の一人、エンリカの姿が思い浮かぶ。万全の体調ではなかったとはいえ、フィードと二人掛かりで全力で挑んだにもかかわらず彼女の顔に一撃を与えるので精一杯であった。しかも、最後は見逃される形で命を拾った。
 あれから時が経ち、今の自分が当時に比べて強くなっていると思うものの、正直それは向こうにも同じ事がいえるかもしれなかった。そのため、もしこの事件の背後に十二支徒がいるのならば、騎士団の主力をこれだけ集めて行動しても足りないくらいかもしれない。
 そんな風にリオーネが胸中に生まれた不安を抱いていると、そんな彼女の不安を吹き飛ばすようにフィードが肩に手を置き、宣言した。

「安心しろ。十二支徒が出てこようが関係ない。でなかったら、すぐに解決する話だ。そして、もし出て来たのなら……」

 言葉を切り、禍々しいほどの笑みを浮かべてこの場にいる全員に向かって告げる。

「俺が……殺す」

 その言葉に込められた憎悪と敵意にその場にいた全員が反応する。リオーネは悲しそうに目を伏せ、エルロイドは期待を込めた眼差しを向ける。
 言葉に込められた敵意を自分に向けられたものと、思わず錯覚したミレーヌとアイルは、無意識のうちに剣を抜刀してフィードの首元に突きつけていた。
 グラードは目を細め、冷や汗を垂らしながら剣を向ける二人に対して言葉を投げかける。

「二人とも、その辺で剣を収めておきましょうか。大丈夫です、彼は敵ではありません」

 その言葉を聞いてゆっくりと剣を降ろす二人。アイルは先程までのひょうひょうとした態度でフィードに向かって愚痴を呟く。

「ったく、勘弁しろよ。どうやったら、そこまでの敵意を向けられんだよ。思わず身体が反応しちまったじゃねえか」

 額に浮かぶ汗を拭いながら告げるアイル。二次試験の時もフィードの異質さに僅かとはいえ気づいていた彼だったが、ここに来てようやく彼はフィードを構成する本質の一部を垣間みたのだろう。

「やはり、あなたは警戒すべき対象ですね。あなたが騎士団いなければ私がすぐにでも斬りつけています。あなたは、ここにいるにはあまりにも危険すぎる……」

 キッと鋭い視線でフィードを睨みつけるミレーヌ。まるで、今すぐにでも飛びかかってきそうな気配を発していた。

「そりゃ、どうも。俺もこんなところに長居するつもりは無い。用が済めばさっさと消えるさ」

 興味ないと言うようにフィードはそう吐き捨てた。一触即発の空気になりつつあるこの状況を打破しようと必死にリオーネが話を纏める。

「それで、私たち全員でクーリック氏が接触を図った人物の調査を行い、それが前回の件に繋がっているのなら尋問を行うということでよろしいですか?」

「ああ、それで構わない。もし関係なかったとしてもせっかくだから彼の弱みの一つや二つでも手に入れておいてくれ。派閥争いの際に役に立ちそうだからね」

「わかりました。それで、その行動をとるのは一体いつからでしょう?」

 リオーネの質問になんでもない事をいうようにエルロイドは呟いた。

「ん? 今夜から」

 気の抜けた声で発したその発言にその場にいた誰もが思わず毒気を抜かれてしまう。そして、それを見ていたリオーネは「さすがエルロイドさんです」と呟き、安堵した。

 その後、他の報告もなかったため解散となり、リオーネとフィードは再びウィンディの元に戻り、自分たちの代わりに姫の番をしていた騎士達にお礼をいって再び任務に就いた。
 もっとも、二人の代わりをしていた騎士の対応が気に入らなかったのか、ウィンディはまた機嫌を損ねており、さらには今夜別の任務が入って彼女の傍付きをしていられないことを話すと、増々怒ってまたふてくされてしまったのだった。
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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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