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妹みたいなお姫様

フラム皇女、ウィンディの元にフィードが配属となって二日が過ぎようとしていた。騎士団試験に合格した新人がいきなり姫様の傍付きとなったこともそうだが、先日のエルロイドとの一件の噂もあり、民衆はたちまち彼に関する情報を集め始めた。
 いわく、セントールの何でも屋だったと。いわく、かつては人殺しをした人物だったと。いやいや、実はエルロイドとはかつての親友で、実力が伴った今彼を支えるために騎士団に入団したなど様々な噂が町を飛び交った。
 そしてそれとは別に現在騎士団の顔になりつつあるリオーネの無事も確認され、彼女の世話になったことのある町の人々は安堵するとともに彼女もまたウィンディの傍付きとして転属したことに驚いた。
 年若い乙女達は騎士団の内情を勝手に妄想し、今回のフィードとの同時就任に関してこんな憶測を立てたりもしていた。
 実は前回のセントール訪問で彼女はフィードと顔を合わせており、そこで恋に落ちたのだと。いや、実は二人はかつて別れた恋人同士で、今回の就任で互いに気まずい状況なのだと。
 そんな、真実でもあり妄想でもある噂の数々が町を駆け巡る中、当の本人達は今日もまた姫の機嫌を取るために話に付き合わされていた。

「ねえ、ねえ。今城下町では二人の噂がこんな風に言われているんだけど、実際のところどうなの? 私としてはその辺がものすごい気になっているんだけど!」

 部屋に置かれた巨大なベッドに一人寝転がり、扉の前にて立ったまま警護をするフィードとリオーネに問いかけるウィンディ。ここ二日でさんざん彼らが経験した戦いやフィードのセントールでの日々を語ったというのに、それでもまだ少女の好奇心は満たされないらしい。
 今となってはそこまで気まずさはないものの、どう話していいものか悩む二人の過去について触れられ正直フィード達は困っていた。

「おい、リーネ。これは話さなきゃならないのか?」

 ウィンディに聞こえないように小声で会話するフィード。そんな彼にリオーネも困り顔で答える。

「答えないと駄目……なんでしょうね。拗ねて機嫌を損ねられて困りますし」

 予想通りの返答にフィードは肩を落とす。ちらりとウィンディの方を盗み見ると、彼女はまだか、まだかと二人が語りだすのを待ちわびていた。

「それじゃあ、話させていただきますが……」

 そう言ってフィードが話を切り出そうとした時、唐突にウィンディがむっとした表情を浮かべて、話を遮った。

「ちょっと、また口調が変になってる。もう、私たちしかいない時は前みたいな話し方でいいって言ったでしょ!」

「あ〜しかしな」

「いいの! だいたい、私はこの国の皇女なんだから。私のやる事に堂々と文句を言っていいのはお母様くらいなんだから」

 そう言って、フィードの似合わない敬語口調を改めさせようとするウィンディ。どうも彼女は先日の宿でのフィードの接し方を気に入っているらしく、仰々しくかしこまった今の彼の態度がお気に召さないようであった。
 ともかく、姫の許可が出ているのならば変に取り繕う事もないかとフィードは勝手に納得し、気を悪くしない程度に口調を噛み砕く事にした。

「んじゃ、話させてもらうけど。元々リーネが富裕層の家系だったってのは知っているか?」

「いえ、知らないわ? そうだったの?」

 視線をフィードからリオーネに移し、問いかけるウィンディ。それに対してリオーネは微笑みながら答える。

「ええ、そうですよ。今は没落してしまってもう家柄も地位もなにもありませんけどね」

「へえ〜そうだったんだ。それで、それで? どうして二人は出会ったの? まさか、幼いながらの逃避行?」

「いや、そういうわけじゃないよ。実は、家に借金があったリーネは身売りされて奴隷になりかけてたんだ。それで奴隷商に連れて行かれそうになっているのをたまたま俺が見つけてさ、成り行きでリーネを引き取る事になったんだ」

「ええ。あの時私がフィードに出会っていなければ今こうして私は姫様の傍にいることもなく、ただの奴隷として一生を終えていたでしょうね。
 本当にこの恩は一生かかっても返しきれません」

「よせよ。別に俺はそんなつもりでお前を引き取ったわけじゃない」

「いいえ。それでも私はあなたに感謝しているんです」

 改めて感謝の言葉を口にするリオーネ。そして、毎度の事ながらそれを素直に受け取るのがむず痒くて遠慮するフィード。そんな二人を見てウィンディは先程よりも更に興奮した様子で話を促す。

「二人ともなんだかすごい通じ合っている感じがするわね。あれ? でもちょっと待って……」

 そこまで来て、何かに気がついたのかウィンディが何かに気づいたのか話を一度止めて何かを考える素振りを見せる。二人は彼女が考えを纏め終わるのを黙って待った。

「ねえ、ちょっとおかしな事に気がついたんだけど。聞いてもいい?」

「ん? なんだ?」

「いや、今の話を聞いている限りだとリオーネがフィードに引き取られたのって結構前なようなんだけど、二人とも同じ年くらいよね? 一体それいつの話?」

 そう尋ねられ、フィードは一体それがいつぐらい前だったのかを思い返す。リオーネもまたフィードと同じように出会った時がいつだったのか回想していた。

「たしか……五、六年くらい前じゃなかったか?」

「ええ、そうですね。まだ私が子供の頃でしたし……」

 なんの気なしに二人は呟いた言葉だったが、それを聞いたウィンディは増々困惑した。

「えっ? えっ! だって、リオーネが子供の頃だったらフィードもそうなのよね? もしかして、フィードって別の国ではいいとこの家系なの?」

 と、そこまで言われてようやく目の前にいる少女が根本的な勘違いをしている事に気がついたフィードは苦笑しながら説明する。

「ああ、そういうことか。いや、俺はこんな見た目だから幼く見えるけど、リーネよりもだいぶ年上だぞ。たぶんウィンと俺だと一回りくらい年が離れているぞ」

 それを聞いてウィンが口をポカンと空けたまま呆然とする。てっきり自分よりも少し年上だとフィードのことを思っていたのだろう。
 その事に気がついたリオーネもまた笑いを堪えきれず思わず口元を手で押さえた。

「まあ、そうですよね。普通は勘違いしますもんね。見た目だけならフィードは若いですから」

「うるさいな。事情があるんだから仕方ないだろ?」

 放心状態のウィンディを余所に話を続ける二人だったが、ようやく我に返ったウィンによって再び質問を投げかけられる。

「そ、それじゃあフィードってもしかしてエルロイドと年があまり変わらないの?」

「まあ、そうなるな。あいつの方が二歳か三歳くらい年上なんじゃないか?」

「信じられない! 一体どうしたらそんなに差が出るのよ。だって、あなた今まだ十代くらいの外見じゃない」

「その辺は色々あってな。さすがにちょっと説明できないから聞かないでもらえると嬉しいんだが」

 まさか十二支徒との因縁を話すわけにもいかず、言葉を濁すフィード。この少女にはかつての血なまぐさい過去を語ってあまり幻滅してほしくないという思いが少なからず彼の中にあった。
 そんなフィードの心中を察したのか、釘を刺されては聞くに聞けず、渋々聞くのを諦めたウィンディだった。

「わかったわよ。誰だって聞かれたくない事情の一つや二つはあるだろうし、聞かないでおくわ」

「ありがとう、助かるよ」

「でも、その代わり。もっと、私が楽しめるような話をしてよね!」

「はい、はい。姫様の仰せの通りに」

 意外にも早くこの状況に慣れていることに気がつくフィード。最初は皇女の傍付きなど気を使って、面倒で仕方ないと思っていたものだが、ウィンディが相手となるとそれもあまり気にならなかった。
 親しみやすく、誰に対しても分け隔てない。我が侭こそあるものの、それも彼女の人柄の前では嫌とは思わず、むしろ手のかかる妹の面倒を見ている気分のようであった。

(妹……か)

 そこでフィードはかつて十二支徒に殺された妹のことを思い出していた。年の離れた妹が生きていたのならこのように成長していたのだろうかと。このように明るく笑顔を振りまいて、時には我が侭を言って自分を困らせて、それでも最後には笑って言う事を聞いてあげるような日常があったのかと。
 だが、現実はそんなものは存在しない。彼の目の前で家族は、妹は殺され、ただ一人生き延びた自分に残されたのは復讐という道だけだった。
 それを思い出し、無意識のうちに腕に力が入った。握りしめた拳は爪が深く食い込み、自然と顔は険しいものとなっていた。

「フィード……」

 そんな彼の様子に気がついたリオーネが思わず彼を嗜める。気づけば、ウィンディが少し怯えた様子でこちらを見ていた。

「……悪い。ちょっと、昔を思い出して」

「そ、そう。ごめんなさい、あまり聞いていい話じゃなかったみたいね」

「そんなことないよ。それに、ウィンは皇女なんだろ? 部下である騎士の機嫌をいちいち伺っていたら女王になった時やってられないぞ」

 この微妙な空気を打ち壊そうとわざと明るく振るまい、話を続けやすくするフィード。彼女もまたそれを察したのか、咄嗟に彼に合わせる。

「間違いないわね! でも、相手の事を気遣えるのも女王としての資質だろうから、今度から気をつけるわ」

「そうそう。その調子で町に出ようとする我が侭も少しは抑えてくれるとこっちとしてはありがたいんだけどな」

「言うじゃない。私じゃなかった即首になっても文句言えない発言よ?」

「でも、ウィンはそんなことじゃ首にしないんだろ? だって、ちゃんと一人一人の実力をきちんと評価してくれる立派な姫様なんだからな」

「ふ〜ん。わかってるじゃない。そうよ、私は見るべきところはちゃんと見ているんだから! 心の広い、この国の皇女として相応しい人間なんだから」

「まあ、その割には酒場で酔っぱらい相手に本気で怒っていたけどな」

 先日の一件を思い出し、フィードがそう突っ込みを入れると、その時の事を思い出したのかウィンディが顔を真っ赤にして怒鳴りだした。

「いい! あの時の事は忘れなさい! だいたい、あのときはこっそり護衛がついてたんだから! 別に問題は何もなかったの!」

「その割には今にも泣きそうな顔で周りに助けを求めていたけどな」

「なっ!? ち、違うわよ。あの時はそう言う演技だっただけだし! 別に助けてほしいだなんて一言も口にしていなかったし」

「そうか? まあ、そういうことにしておくかな。姫様の名誉のためにも……な」

 笑いを堪えきれずにお腹を抑えて視線を逸らすフィードにウィンディの恥ずかしさが頂点に達したのか、ベッドから抜け出しフィードの元へ近寄り、彼の身体をポカポカと何度も叩いた。

「ええい忘れろ! 記憶を消してしまえ!」

「無理、無理。だって、この国の姫がまさか酒場で酔っぱらい相手に喧嘩を売るだなんてきっと誰も想像できないぞ。もしかしたら歴史書に名を刻む事になるかもな。
 女王ウィンディ。若かりし頃は城を抜け出し城下町に繰り出し、酔っぱらい相手に喧嘩を売るってな」

 ついに我慢の限界が来たのか、笑い声を上げるフィード。他の騎士がこの状況を目にすれば顔を青くするに違いない。なんせ、騎士になったばかりの新人が皇女に対しため口で話しをし、挙げ句からかっているのだ。下手をすれば物理的に首が飛んでも可笑しくない。
 そして、そんな状況をあまり笑えないで見守っている人物がこの部屋に一人いた。そう、リオーネである。

「あの、フィード。その辺りにしておいたほうが……」

 おろおろとし、肝を冷やしているリオーネがフィードに忠告するが、調子に乗ったフィードはあろうことかウィンディの肩に手を置き、トドメの一言を口にする。

「まあ、あれもいい人生経験という事で。よかったな、ウィン。我が侭ばっかり言って好き放題やってると罰が当たるっていう経験になったろ。これからはもう少し大人しくするんだな」

 その一言がウィンにとっての我慢の限界であったのか、頬をぷっくりと膨らませぷるぷると身体を震わせ、涙目になりながらキッとリオーネの方を向いた。

「リオーネ。皇女命令よ。今すぐこの馬鹿な男を懲らしめなさい!」

 完全に私情が入っている命令にリオーネもまた困り果てた。皇女の命令を無視するわけにはいかないし、フィードと戦うなど彼女にはしたくない。結局二つの考えの間をうろうろと彷徨いその場で固まってしまう。
 そして、自分の命令を聞いてくれない部下を見てますます不満を募らせたウィンディはついに大声を上げて叫んだ。

「も〜〜〜! 二人とも絶対に許さないんだから!」

 そのままベッドに向かって駆け出し、思いっきり飛び込んだ後。ふてくされてしまう。
 そんな彼女を見て、さすがにやりすぎたかと気を悪くするフィードとそんな彼の横腹を小突いて反省するように文句を言うリオーネ。
 結局、その後二人をエルロイドの元に来るように報告に来た騎士が中に入るまでフィードとリオーネはウィンディの機嫌を直すのに全力を注ぐ事になるのだった。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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