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満身創痍の合格者

騎士団試験、その第一試験が始まった頃、ハイル城の敷地の一角にある騎士団宿舎に一人の男性が訪れていた。彼とすれ違う騎士たちは皆胸元に手を当て敬礼をし、緊張しながらも言葉を交わす。そんな部下達の態度に男はもう少し気楽に構えられないものだろうかと苦笑いを浮かべながら、目的の部屋に向かって行く。
 信頼できる部下に見張り番を任せたその部屋に辿り着き、男は見張りの衛兵に中の状況を確認した後、室内に入った。

「……やあ、体調の方はどうかな?」

 突然の来客にベッドに腰掛けていた女性が驚く。そんな彼女から少し離れた位置にある椅子に男は座り、調子はどうかと尋ねた。

「体調は元々悪くありません。それよりも、早く外に出していただけるとありがたいのですが。あなたならそれができるじゃないですか、エルロイドさん」

 柔らかな物腰の男に対し、苛立が募っているのか、女性の声は硬く、どこか冷たいものだった。

「私からは、後少し我慢してくれとしかいう事ができない。今君の姿を見せると、敵が中々出てきそうにないからね」

「それは、もうミレーヌさんから聞いています。ですが、こうも部屋に籠りっきりでは気も滅入ります」

「そう言ってくれるな。その事に関しては私もどうにかしたいと思っているんだよ、リオーネ」

 組織としての利を得るために個人を犠牲にしなくてはならない現状をエルロイド自身納得していないのか、困ったように笑いながらリオーネに告げる。彼とて早く彼女を外に出したいと思っているのだろう。そして、リオーネもそれが分かっているからこそ、エルロイドにそれ以上何も言う事ができなかった。

「外に出る事ができないのなら、せめて最近の外の状況を教えてくれませんか? ここにいては何も知る事ができませんから」

「そうだな……時間もあるし、少し話をするとしようか。それで、なにを聞きたい?」

「そうですね、まずは最近の街の状況はどうなっていますか?」

「ふむ、いつも通りといってはおかしいが、特に大きな事件も起こらずに小さないざこざがあるくらいだな。ああ、でも君がどうなっているのか民衆は皆心配しているようだね。まあ、これまで君が街の人たちに行ってきた善行を考えれば当然かもしれないが」

「そう……ですか。できることなら元気でいる事を知らせてあげたいのですが」

「それは現状を考えて非常に困る状況になるので却下だ。だが、君にとって喜ばしい報告もあるぞ」

 もったいぶったエルロイドの口ぶりにリオーネは興味を惹かれた。

「なんですか、それは?」

 何かを予期したのか、リオーネはベッドから身を乗り出しエルロイドに問いかける。そんな彼女を見てエルロイドは苦笑しながら答える。

「今この国で騎士団試験が行われているのは知っているな」

「ええ。ですが、それがなにか?」

「話は最後まで聞くものだ。実は今回の試験、例年よりも参加人数が多くてね。特に女性の受験者が多かったんだが、受験者の中に面白い名前を見つけてね」

 見つけたというものの、試験を受けさせるために誘導させたエルロイドにしてみれば、これは最初から仕組んでいた事であり、今からその名前を告げた際に見られるリオーネの反応を考えると笑いを抑えるのに必死だった。
 そして、リオーネもここまで話して“もしかして”と自分にとって嬉しい出来事を想像し、左手で高鳴る心臓を抑え、落ち着きのない様子を見せていた。

「彼が、来たよ。キミに会いに……ね」

 その一言でリオーネの顔がみるみる赤く染まってゆく。先程までどこか不機嫌そうな雰囲気を滲ませていた彼女はもはやおらず、代わりに突然の訪問者の存在に心乱され、戸惑う乙女がそこにいた。

(まったく、フィードが絡むとなると本当に彼女の反応は面白いな)

 数ヶ月前は怒りや憎しみを露にし、セントールへの派遣から戻ってきた際には心底幸せそうな緩みきった笑みを浮かべ、そして今は恋を覚えたばかりの少女のように狼狽えている。普段はどちらかといえば冷静で、大人なイメージのある彼女が彼の名前を出すだけでこうも幼い一面を見せるのだ。面白いというほかに表現はないだろう。
 ようやく、少し落ち着いたのかリオーネは左手の薬指に視線を移し、まるで独り言のように呟いた。

「そう、ですか。彼が、フィードが……来てくれたんですね」

 そんな彼女に黙って頷くエルロイド。カーテンのかかった窓の隙間から零れ出る光が彼女の左手を照らし出す。そこには、かつて青年が手渡した絆の証が光を反射して輝いていた。


 駆ける、蹴る、殴る、打ち込む、振り払う。試験の会場である森は現在人と人とが乱れあう混戦地帯となっていた。
 最初は一対一、多くても三つ巴の戦いであったものの、試験の合格枚数に達した受験者を狙う他の受験者が多くなり、それを奪ったところで、また別の受験者が狙ってと、ある意味同じ事の繰り返しをしていることになっていた。
 合格の規定枚数に達したものは素早くこの場を離脱しなければ、餌を持った獲物にめがけて飛びかかる獣のごとくその者へ襲いかかり、意識を刈り取る。だが、そんなことを何度も繰り返して、受験者の絶対数が減らないはずもなく、既に何名かは試験に合格をしているのだった。
 そんな中、フィードは未だ合格することができないでいた。その理由が前述した通りのことだ。

「どけっ!」

 真剣と違い、木刀は脆い。しかも、一撃の殺傷力が弱い上、相手に対しての威圧感も薄れる。既にフィードの手元には合格規定枚数の三枚の板があるのだが、それを狙って次々と襲いかかってくる敵を倒すのに手一杯になりこの場から離れる事が中々できないでいた。
 既に倒した敵の数は二桁に達したが、そんな彼を警戒した他の受験者達が一時的に手を組み、多勢にてフィードに向かってきているのだった。
 一対多数を経験したことがないわけではないが、木刀でさばく人数にも限界がある。魔術を発動させようにも、これだけ敵に入れ替わり密着されては自身をも巻き込みかねないため迂闊に発動させる事もできなかった。

「ほらほら! さっさと板を渡しちまえよ!」

 襲いかかる敵の一人が叫び声を上げながらフィードの背後から襲いかかる。最初に騎士から背後による攻撃は禁止との通告があったが、これだけ混戦状態になってしまえばそんなものを確認している余裕は無いだろう。あんな説明は実際のところあってないようなものだと、ここに至って受験者全員が理解していた。
 上段から振り下ろされる木刀を持っている木刀の腹にて弾き、受け流す。だが、それと同時に次は左右両方から下段からの木刀の振り上げが向かって来る。

「チィッ!」

 舌打ちをしながらフィードは身体を捻り、つい先程木刀を弾いた敵を蹴り飛ばし、右から襲いかかる木刀の主ごと吹き飛ばした。そして、その際の反動を利用し、左から襲いかかる一撃に己の一撃を合わせる。
 衝撃によって互いの木刀が弾かれる。焦りを募らせるフィードとは別に吹き飛ばされた男達は不適な笑みを浮かべている。
 なぜならば、彼らはあくまで前座であり。本番は次に待ち構えているのだから。

「さて、これだけの人数相手に一人で粘るのは驚異的ですが、これで終いです」

「酷いとは思いますが、これも私が試験を勝ち抜くためです」

「んじゃ、兄ちゃんお疲れさま!」

 体勢を崩し、地面へと倒れて行くフィードに向かって今度は三人の敵が襲いかかる前方、そして左右。この状況では受け身をとったところで相手の攻撃を防ぐのは間に合わない。それならば……。

 地面に倒れ込みながら、フィードは片足を地につけ、思い切り踏みこんだ。自身から一番近い右の敵の元へと飛んでいき、中段に構えた敵の獲物を空いているもう片方の足で弾き飛ばすと同時に地を蹴った足を敵の脇腹へと半回転しながら打ち込む。再び空中に投げ出されたフィードは、己に向かって最速で直進する少年に持っていた木刀鋭く投げ込む。突然の攻撃に思わず木刀を前に構え、防御の姿勢をとる少年。
 その間にフィードは地面に降り、先程弾いた木刀を上にかざした片手で掴みとる。それを構え、防御を解き再び襲いかかって来る少年の木刀と合わせる。少年の方はフィードの一撃を受け流そうとしたのだが、フィードがそれをさせなかった。結果つば迫り合いの状態となり、純粋な力比べをすることになった。
 徐々に押し込まれて行く少年。だが、ムキになって木刀を押し込もうと少年が重心を傾けた瞬間、フィードが木刀を引いて少年の体勢を崩した。
 そして横一閃の鋭い一撃を与え、少年を後方へと吹き飛ばす。無様に地面を転がって行く少年に目もくれず、フィードは残った最後の一人である少女の元へと駆けた。
 一瞬の攻防でフィードの実力の高さを思い知ったのか、少女は抵抗らしい抵抗もしなかった。だが、この後にまた襲われても厄介だと考え、フィードは彼女の手の甲に一撃を与え、しばらくは剣を握れない状態にした。
 地力の差を見せつけたフィードにそれ以上襲いかかるものはいなかった。彼に狙いを定めるより、他の者を相手にするほうがいいと思った者や、今の戦いで倒れた者の板を今のうちに奪っておく方が得策だと考える者の方が多かったからだ。
 自分に敵意を向ける者がこれ以上いないことを確認したフィードはこの森の入り口に向かって走り出した。そして、しばらくした後、入り口で待っていた騎士に合格規定枚数の三枚の鉄の板を渡し、第一次試験の合格を受け渡されるのだった。
 既に合格を決め、悠々とそれぞれ好きな事をしている合格者へと視線を移す。地面に腰掛け、雑談を交わす者、次の試験の確認のためか騎士と話し込む者、他の合格者が現れないか入り口に視線を向ける者。十数名のいずれも一筋縄ではいかなさそうな合格者がそこにはいた。
 そして、その中にはまだケインの姿は無く、フィードは思わず森の入り口へ視線を向ける。

(ケイン……)

 未だケインの姿は森から現れなかった。
 そして、それから数時間が経った。フィードが合格を決めてから既に何名も合格者が現れており、タイムリミットの日の入りはもうすぐだった。先に合格を決めた受験者の中には地面に寝転がり眠りにつく者まで現れる始末だ。さっさと解散しろと言わんばかりに、いびきをかいている。
 ただ、それは他の合格者も同じ事でいつまでもこんな場所に残されるよりはさっさと宿に帰って身体を休めて次の試験の準備をしたいと思っているのだろう。だが、試験官でもある騎士は合格者の解散を告げることなく、試験の終わりをただ待っていた。
 そして、合格者の他に怪我等の理由から試験を諦め森の中から人が現れ始め、もう日が完全に沈もうとした時だった。
 森の入り口からボロボロになった一人の青年が現れた。軽装の皮鎧隙間にある下着は酷く割かれており、目元が片方大きく腫れ、身体の至る所に青あざができていた。
 ふらふらとおぼつかない足で必死に騎士の元へと向かう青年。そして、持っていた三枚の板を手渡し、名前を告げると、騎士が彼の肩に手を置き呟いた。

「合格だ」

 たった一言、業務的に言われた一言だったにも関わらず、少年の目からは一筋の涙が流れていた。試験時間残り僅か。そうだとしても、合格できた事が嬉しかったのだろう。
 気が抜けたのか、今にも倒れてしまいそうな青年の元にフィードは向かい、ふらつく彼に肩を貸す。

「お疲れさま。やったな、ケイン」

 祝いの言葉をかけると、ケインは力なく微笑み。

「そういう、フィードは余裕みたいだったね」

 と、皮肉を返してきた。まだ軽口を叩ける余裕があることを確認し、安心したフィードもまた彼に対して軽口を口にする。

「ああ、お前が相手にいなかったおかげでな」

 その言葉にケインは目元を大きく見開き、それから何かを決意したかのように告げた。

「いつか、本当にそう言わせてみせるよ」

 そうして、他の合格者の元へと向かって行く二人。ついに日は完全に沈み、試験の終了を告げた。試験官である騎士の張った声が空気を揺らしながら受験者に向かって響き渡る。

「これにて、騎士団試験の第一次試験は終了とする!
 合格者は明日、正午より順番に二次試験を開始していく。場所は受付を行った中庭だ。次の試験では自身の武器を使用可とするので、各々準備を万全にして来るように!
 では、これにて解散とする。負傷者の手当が必要なら救護班の元にて手当を受けるように」

 その言葉とともに第一次試験は終了した。現段階ではまだ多数の合格者を出している一次試験。二次試験は騎士達との手合わせになる。一対一の勝負ではあるため、一次試験に比べて楽に思えるが、実際のところ自身の真の実力が露になる分、一次試験にて気を失った敵から板を盗んで合格するといった狡い手は使えないだろう。
 そして、ケインのように明日までに完治しない負傷を負ったものにとっては厳しい試験になるだろう。おそらく、試験官となる騎士に勝てなくても合格が貰えるのにはそのような場合を想定して試験を行っているからだろう。
 勝てるのが最善だが、勝てないのなら相手が求めているものを自身が見つけて試験中に出さなければならない。明日の試験はある意味一次試験よりも難しいのかもしれない。

(だが、騎士に負けるつもりは俺にはさらさらない。早いところ合格を決めてリーネに会うんだ)

 そう決意するフィードの横では満身創痍のケインがいつの間にか寝息を立てていた。そんな彼を見てフィードは思わず顔をしかめながら、仕方が無いと腕をしっかりと肩に回し、意識の無い彼を宿に向かって連れていく。

「本当に、お疲れ。ケイン」

 必死に騎士を目指す青年に労いの言葉をかけ、フィードは夜道を歩いて行くのだった。
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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
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好きな小説:ダレンシャン
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