05
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
23
24
25
26
27
31
   

世間知らずなお嬢様

熱気のこもった酒場を後にし、フィードと少女は路地の一角に来ていた。先程の怒りがまだ収まらないのか少女は何度も地面を踏みつけていた。

「もうっ! もうっ! ほんっ……と最低! あの男、思い出しただけで腹が立つわ!」

 ブンブンと腕を振り回し、地面を踏んで怒りを解消する彼女を見てフィードは苦笑する。先程から感じていたデジャブの正体を彼女を見ていて思い立ったからだった。

(そうだ、この子昔のリーネに似ているんだ)

 出会った当初、まだ富裕層だったときの癖やプライドが抜けていなかったリオーネは何度も我が侭を言ったりしてフィードを困らせた。やれ金は払いたくないだとか、こんな汚い服は着れないだとか。
 その事を思い出して懐かしさを感じると同時に、ある疑問が浮かんだフィードはストレスを吐き出し満足したのか、少しだけ大人しくなった少女に問いかける。

「なあ、お前こんな場所にいるようなやつじゃないだろ。富裕層の家系の人間じゃないのか?」

 その問いかけに少女の表情が凍り付く。

「えっ……な、なんでそう思うの?」

「いや、お前に似たようなやつが俺の知り合いにいてさ。一時期一緒に生活していたんだけど、最初の頃に見せた世間知らずっぷりや、他の人への対応がお前にそっくりだったから」

 フィードの言葉にあからさまに動揺する少女。おそらくは彼の予想通り彼女は裕福な家庭の人間なのだろう。あの店には興味本位で訪れたのだろう。

「別にこういった場所に来るなとはいわないけど、もうちょっと考えて行動した方がいいぞ。女一人で歩くのは結構危ないんだから。家ではどんな過ごし方をしているかはわからないけど、ここはお前の思っている常識が全部通用する場所じゃないんだから。せめて護衛かなにか付けて来た方がいいぞ」

 フィードの指摘を聞いて、それが事実なのが恥ずかしいのか、少女は顔を真っ赤にして叫ぶように反論する。

「うっさい! わかってるわよ、そんなこと。さっきだってあなたに助けてもらわなかったら痛い目に遭ってたって事も、自分の思い通りにならないってことも!
 ええ、ええ。ごめんなさいね! どうせ私は世間知らずですよ。それがわかってて、今の状態が嫌だからこうして街に出てきてるんでしょうが!」

 目尻に涙を浮かべて悔しそうにする少女にフィードは自分が少女をいじめているような気分になって心中複雑なものになっていた。

「あ、あ〜。そうか、わかっているならそれでいいんだ。別に責めるつもりはなかったんだが、そう聞こえたのなら悪かった」

 フィードの謝罪の言葉を聞いて再び表に出そうになった怒りを抑えた少女。そして、一度溜め息をついた後、落ち着いた様子で今度はお礼の言葉を述べた。

「なにはともかく、助けてもらったお礼はきちんとしないとね。私はウィンディ……じゃなかった。ウィン、よ。この度は危ないところを助けていただき感謝いたしております」

 それまでとは違って急に丁寧な口調で礼をする少女、ウィン。その仕草はまさしく富裕層の挨拶に近いもので、今は普通の服を着ているが、まるでドレスの裾を掴んで礼をしているようなその仕草にフィードは一瞬見蕩れた。
 だが、本当にそれまでの粗雑な口調とはまるっきり違う彼女の仕草に驚いてしまい、思わず言わなくてもいい余計な一言が彼の口から零れ出た。

「お、おぉ。ちゃんとお礼が言えるんだな」

 それを聞いたウィンは心外と言わんばかりに文句を告げる。

「失礼な! 私だってちゃんと感謝をしていたらお礼を述べるわ! もう……せっかくちゃんとお礼の言葉を口にしたのに。私に感謝の言葉を与えられるなんて滅多に無い事なのよ! 今回の件を誇りに思ってもいいのよ!」

 自信満々にそう言う彼女にフィードは、

「ああ、そうか。うん、わかったから早いとこ家に帰れ。家までなら送ってあげるから」

 と冷たく話を流した。

「なっ! ちょっと、もっときちんと聞きなさいよ」

 予想外の反応に傷ついたのか、ウィンはムッとしてフィードを睨みつける。だが、そんな少女の鋭い眼光を受け流し、フィードは話を進める。

「それとも家出でもしているのか? そんなことしてもいつかは家に帰らないといけないんだから。子供一人で生きてくのにウィンが思っている以上に大変なんだぞ」

 優しく諭すフィード。彼の言っている事は事実であり、悪気が無い事も彼女はわかっているため、彼女もあまり文句を言わない。

「わかってるってば。それに、家出じゃないし! ちょっと外に出てるだけだし!」

 大人に黙って勝手にこうして出ているのならそれは家出というんじゃないのだろうかとフィードは思ったが、これ以上何かを言っても事態がややこしくなると思ったため、何も言わない事にした。

「それで、家に帰るつもりはあるのか?」

「……今日は帰らない」

「そう……。で、宿はあるの?」

「……さっきのとこ」

 ウィンの返事を聞いて深い溜め息を吐き出すフィード。一体どうしてこんな事になってしまったのかとほんの少しだけ後悔する。

「そっか、それじゃあとりあえずさっきの店に戻ろうか」

 なるべく先程もめ事を起こした男と顔をあわせないようにして彼女を戻そうとフィードは思い、宿に向かって足を進めようとする。だが、そこで唐突にそれまで気にかけていなかったある事を思い出した。

「ウィン……ウィン?」

 彼女の名前をどこかで聞いたことがあると思い、記憶の隅から忘れている何かを掘り起こす。そして、それを思い出したフィードは思わず驚きの声を上げた。

「ああ! ウィンってもしかして!」

「えっ? な、なによ」

 確か宿屋の女性店員が口にした相部屋にできるかもしれない相手の名前がウィンだった。しかも先程の宿屋に部屋を取っているところを見ると、彼女が本人と見て間違いないだろう。もうだいぶ日も暮れ、今から新しい宿を探しても空き部屋が見つかる可能性は低いだろう。最悪野宿をしても構わないが、ここ数日温かなベッドの上で寝ていないフィードとしてはその選択は避けたいところだった。

「こんな時に言うのは非常に申し訳ないと思うんだけど、ウィンに頼みがある」

 あくまで頼み事をする立場なため、下手にでるフィード。先程まで説教に近い忠告を聞かされていたウィンは彼が下手にでてお願いごとをしはじめたことに機嫌を良くし、強気の態度にでた。

「ふ〜ん、まあそのお願いごと次第だけど聞いてあげない事も無いわ」

「ああ、実は今日の宿を探しているんだけどあいにくどこの宿も一杯で。さっきの宿の店員に聞いたら相部屋だったら一部屋空いてるって言っていたんだよ。で、それがウィンの部屋だったんだけど、ウィンさえよかったら相部屋をお願いしたいんだが」

 断られることを覚悟してフィードはウィンに相部屋の許可を貰おうとお願いするが、ウィンの返事は彼の予想の斜め上をいっていた。

「えっと、ごめん。相部屋ってなに?」

 彼女の世間知らずぶりに再度呆れるフィードだったが、一応説明をしておく。

「相部屋って言うのは同じ部屋に他の客と泊まることをいうんだ。今みたいな騎士団試験を受けに来た人が多くいる時期なんかは一人につき一部屋だと泊まる人が限られるだろ? そんな時に他の客と同じ部屋を使う事でそういったことを防いだりもするんだ」

「ふ、ふ〜ん。そうなんだ。でも、それって問題とか起こるんじゃないの?」

「まあ、もちろん問題が無いわけじゃないけどな。荷物の盗難だったり、人同士のトラブルとか。でも宿泊代は安くなるし、寝床も確保できる。利点もきちんとあるんだ」

「それで、あんたは私にそれを頼みたいって言う事?」

「まあ、男と同室で一夜を過ごすって言うのは抵抗あるだろうし、無理なら構わない。探せば他の宿に空き部屋もあるかもしれないし」

 フィードがそう告げると、しばらくウィンは悩んだ素振りを見せた。それも当然、会ったばかりの男と同室で寝るというだけでも女性からしてみれば精神的に苦痛を伴う場合があるからだ。軍などの特殊な環境でなければそれは普通の反応だろう。
 やっぱりいいとフィードが声をかけようとしたところで、答えが出たのか、ウィンが彼の顔をジッと見つめて香告げた。

「……別にいいわよ。その代わり、絶対に変なことしないでよ! もし何かしたらあんたの命ないから」

「あ、ああ。わかった、ありがとうな」

 ウィンの気迫に僅かに後ずさりながらもフィードはお礼を述べる。ひとまずこれで今日の宿は確保する事ができた。
 お礼の言葉を受け取ったウィンは恥ずかしそうにもじもじとしていた。不思議に思ったフィードがどうかしたのかと様子を伺う。

「どうしたんだ?」

「……だ〜っ! 私、男の人と同じ部屋で寝た事無いの! 恥ずかしいんだからそんなこと言わせないでよ!」

 それを言っているのは自分だろと思いながらもフィードは口にしなかった。

「ともかく、宿に戻ろう。受付も済ませておきたいし」

 そう言って再び宿に戻ろうと足を進めるフィード。だが、ウィンはそんな彼の服の裾を掴んで動きを止めた。

「ちょっと、私まだあんたの名前聞いていないんだけど」

 言われてみれば確かに名乗っていなかったような気がした。これから同じ部屋に泊まるというのに相手の名前も知らないのは失礼だろうと思い、フィードはウィンに名乗る。

「俺の名前はフィードだ。今日一日よろしく頼む」

「そう、フィードって言うのね。よろしく……」

 そうして今度こそ宿に戻った二人。夜は暗さを増し、僅かな明かりが街を照らしていた。


 宿に戻り、受付を済ませた二人は宿屋の二階にある一番大きな部屋の中にいた。人二人どころか四人は入るほどの大きさの部屋を見てフィードは思わず溜め息を吐いた。

「お前……この部屋に一人で泊まろうとしていたのか?」

「ええ、そうよ。これでもだいぶ狭いんだけど、我慢しているのよ。偉いでしょ」

 自分が世間一般の発言とズレていることを自覚していないのか、ウィンは自慢そうに呟いた。そんな彼女の発言にこれ以上反応しないように努めながらフィードは空いているベッドの一つに腰を降ろし、持っていた荷物を置いた。
 久しぶりの柔らかい毛布の感触に全身を投げ出し身を委ねる。ここに来て長旅の疲れがドッと溢れ出した。目元を腕で隠し、視界を暗くする。身体は休息に努めさせながらも、脳内は今日の出来事を纏めていた。

(エルロイドが俺の言葉を流すのは予想外だった。あの伝言の通りなら俺は騎士団に入らない限りあいつと話ができないようだな。リーネの無事が確認できるか、せめてどんな奴にやられたかとか、その時の情報が手に入ればいいんだけど、それも難しいだろうな。
 となると、一番簡単に状況を確認できるのは騎士団試験に合格して騎士団の一員になることか。まあ、入って目的を達成したらすぐに辞めればいいとして、問題は何故そんな事をエルロイドが俺にさせるかだ)

 思い当たる事がないわけではないが、自分にできる事と言えば剣と魔法の腕がある程度立つという戦力面でしかない。人脈等そんなにあるわけではないし、フィードを必要としているとなると純粋に力が欲しいという事くらいだ。

(つまりは、俺みたいな奴の力でも借りたいような事が起こっているってことだよな。おそらく、リーネの一件もそれが絡んでいるんだろう)

 外部の者の手を借りると不都合なため、フィードを正式に騎士団の一員として迎え、あくまで己の保持する力として扱うということ。そんなことをする状況があるとすれば……。

(この国で何かが起こっているってことなんだろうな……)

 そこまで考えたところで、唐突に眠気が訪れた。やはり、疲れが溜まっていたのだろう。身体の限界がここにきて訪れた。

「ねえ、フィード。フィードはやっぱり騎士団試験を受けにきたの?」

 そんな時、彼の眠気を遮るようにウィンの質問が耳に届いた。

「いや、最初はそのつもりじゃなかったんだけど、受けざるを得ない理由ができた……かな」

 徐々に閉じようとしている目蓋を必死に開き、ウィンの質問に答えるフィード。そんな彼に興味を持ったのか、ウィンは矢継ぎ早に次々と質問を投げかける。

「へえ……。ねえ、フィードはどこの出身なの? 普段は何しているの? 戦った事とかある? 持っている剣はどこで作ったの? やっぱり戦うのって怖い?」

 だが、そんなウィンの質問に答えようとしたところでフィードの眠気は一気に力を増し、

「すまん……限界」

 彼の意識を暗闇へと引っ張って行ったのだった。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Secre

こねこ時計 ver.3

CATS
Sweets

プロフィール

建野海

Author:建野海
扉の中の部品たちへようこそ。

名前:建野海

twitter @tateumi よかったらフォローしてください。


好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
          UVERworld
          アンジェラアキ
          

最近の記事

最近のコメント

カウンター

Twitter

 

月別アーカイブ

カテゴリー

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
1852位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
406位
アクセスランキングを見る>>

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧


旅の空でいつか

標準装備で。

CANDY BOX

クリスタルの断章

現実エスケープ

BSR

白と黒の交流所

みくちょんの毎日

木綿湯のぶろぐ

気ままな雑記帳

saichi放送局

とあるゲーマー武装紳士の日常

星のゆりかご

Melt Sugar

小さいにっぽん頑張れ、2ch,大騒ぎ

Twilight of midnight

hana.bana