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言伝

入り組んだ路地を抜け、城下町に住む住人達に道を聞き、どうにか城の前に辿り着いた二人。巨大な塔のようにそびえ立つ城はそれだけで威圧感を与える。もしここが戦場になったのならば、この城は味方には絶大の守りを、敵からは難攻不落の城塞として恐れられるだろう。
 そんな城の入り口に立つ衛兵に近づきケインが話しかける。

「あ、あの。騎士団の試験を受けに来たのですけれど」

 そう聞くと品定めするようにケインを見回す兵士。しばらくそうしていたかと思うとニカッと明るい笑顔を浮かべて雑談を始めた。

「見ろよ、昔の俺たちもこんな感じだったんだな」

「ああ、当時の衛兵が俺たちのことを笑っていた理由もよくわかるぜ」

 何故か納得したように苦笑する二人の衛兵。おそらく、彼らもケインと同じように試験を受けるためにこの街に来た時のことを思い出しているのだろう。そんな彼らの態度にケインが戸惑っていると、それに気がついた衛兵が我に返りケインの質問に答えた。

「おっと、すまなかったな。騎士団試験の手続きだったな。この入り口を通ってしばらく進んだ先に試験の案内をしている別の衛兵が立っているはずだ。彼らの案内に従って説明を受けてくれ」

「はい、わかりました」

 用を済ませたケインはそのまま先に進もうとする。だが、フィードはその場に立ち止まり、動こうとはしなかった。その事に気がついたケインが後ろを振り返る。

「フィード?」

「悪いな、ケイン。ここでお別れだ。俺の用事はここで済む」

 フィードがそう告げると、ケインはほんの少し驚いた表情を浮かべた。

「そっか、それじゃあ仕方ないね。短い間だったけど一緒に旅ができて楽しかったよフィード」

「ああ、俺もだ。騎士団の試験頑張れよ」

「機会があればまた」

「ああ……また」

 そう言ってお互いに別れをすませる。ケインは入り口の門を潜り奥へ。フィードはその場に残った。

「ん? なんだ、お前は試験を受けにきたんじゃないのか?」

 ケインと同じくフィードもまた騎士団の試験を受けにきたと思っていた衛兵は意外そうな顔をして彼を見た。

「いいや、俺は人に会いにここに来たんだ」

「へえ……。もしかして騎士団に所属している者で誰か家族や友人がいるのか? 俺たちが分かる範囲の人間なら話を通しておくぞ」

 こういった訪問は珍しくないのか二人の衛兵は顔を合わせてフィードに伝える。思ったよりもことがすんなりと行きそうだと思ったフィードはほんの少し安心した。

「それなら大丈夫。この国に住んでいる人間ならおそらく誰もが知っているやつだから」

 フィードのその言葉を聞いて衛兵達は僅かに訝しんだ。一体それは誰の事を言っているのだろうかと気になっているのだろう。そんな彼らの疑問に答えるためフィードは話を続ける。

「フラム騎士団のエルロイドに伝えてくれ。リオーネに会いにフィードが来たと」

 何でも無いようにフラムでは有名なその二人の名前を出された衛兵達は驚き、ニ、三度フィードを見返した。

「エルロイドって、うちのトップのエルロイドさんのことか?」

「ああ、そうだ。フィードが来たと言ってもらえれば多分通じると思う。よろしく頼む」

 そう言ってフィードは入り口の壁に移動し、背中を預けて腰を降ろした。そんな彼の様子を見てしばらく戸惑っていた衛兵達だったが、一応確認のために一人を騎士団本部の事務部署へと向かわせたのだった。


 その時、彼は自室にて書類を見ていた。そこに書かれているのは先日起こった出来事に関して纏められたものだ。今やフラム騎士団の若きエース、または象徴として扱われているリオーネについてのもの。
 凶刃に襲われたと噂されている彼女のその時に起こった出来事に着いて詳しく書かれているものがそれだ。書類に書かれた内容を見て彼は深いため息を吐き出した。

「まったく、ただでさえ最近頭痛の種が増えているというのにこれ以上厄介事を持ってきてもらいたくないものだな」

 普段の彼からは想像もできないような弱気な発言。目頭を抑え、木製の執務椅子に深く腰掛ける。指を重ね合わせ、目蓋を閉じ、自分の気を重くしている出来事をどうにか解消できまいかと考えにふける。だが、そんなことすらも許さないと部屋の扉をノックする音によって現実に引き戻された。

「入りたまえ」

 彼の了承を得て、室内に一人の女性が入ってくる。耳にかかるくらいの短い金髪にやや釣り上がり気味の目がどことなく冷たい印象を与える。

「やあ、ミレーヌ。また報告書の山かな? いい加減私も休みたいんだがな」

 ミレーヌと呼ばれた女性は皮肉を口にする彼の様子を見て僅かにため息を吐いた。そして、たった今皮肉られたように持っていた報告書の束を彼の机の上に置いた。

「そうはいっても、今あなたに休まれては業務が差し支えてしまいます。もう少しだけ我慢していてください、隊長」

 事務的に告げる女性にやれやれと彼は苦笑する。

「二人でいる時くらい昔のように名前で呼んでくれて構わないんだと以前言わなかったかな?」

「ええ、そんなことも言いましたね。ですが、今は職務中ですので。プライベートの時であればいくらでも御呼びしますよ“エルロイド隊長”」

 どこまでも堅物な彼女の態度に男、エルロイドは呆れるしかなかった。そして、先程まで憂鬱で仕方のなかった作業がまだまだ終わらない事が余計に彼の気を重くした。

「まあ、まだ作業が続くのなら早く終わらせるように努力するしかないか。それで、新しい報告の方は?」

 エルロイドが話を続けるよう促すとミレーユがほんの僅かに嫌そうな顔を見せた。だが、すぐに元の無表情な彼女に戻り、報告を始める。

「新しい報告というのならそれほど多くはありません。街中で起こった些細ないざこざが数件。多くは酒場でよった勢いで喧嘩になったものです。それから違法な取引を行おうとしていた商人の確保が一件。街中で起こった出来事はこのくらいです」

「ふむ……。まあ、これくらいはいつもとそう変わりないか。大きな事件が起こっていないだけマシだろう。それで、他の報告の方はどうかね」

「続けさせていただきます。現在ここ、ハイル城の中庭にて行われている騎士団試験の受付には今日だけで二十名ほど志願者が訪れたとの報告を受けました」

「ほう、試験の募集は毎回試験開始日の一週間前から行っているが、今年は特に志願者が多いな」

「リオーネの影響も少なからずあるのでしょうね。今年の志願者には女性の姿が例年よりも多く見られます」

「それはいい傾向だな。実力を持っているのに女性だからという理由で差別されてきた人たちがここに来て動いたのかもしれない。君や彼女のような優秀な女性隊員が増えてくれるのなら大歓迎だ」

「まあ、その辺は当人達の実力次第という事で。それからこれが少し問題なのですが……」

 思わず顔をしかめるミレーヌ。そんな彼女の様子を見てエルロイドはなにを言わんとしているのか悟った。

「まさか、また“姫様”か?」

 その問いかけにミレーヌは頷いた。

「ええ、そのまさかです。また城を抜け出して城下町の方に出かけていらしたようです」

 その報告を聞いてエルロイドは思わず肩を落とし、顔に手を当てた。

「全く、これで一体何度目だ……。そもそも、今回姫様の警護をしていた者はなにをしていたんだ」

 愚痴をこぼすエルロイドにミレーヌがその件に関しての報告を続けた。

「今回はどうも色仕掛けを迫って、その後に脅迫をしたみたいですね。もちろん、立場をわきまえている警護者は何もしていなかったのですが、上着を脱がれた姫様に『もしもここで私が逃げるのを見逃さなかったら、叫び声を上げて貴方に犯されそうになったって泣きわめくわよ』と申されたようです」

「なんてタチが悪い……。いい加減大人しくしてもらえないものか」

 大人しくという言葉を口にしてミレーヌはついでにある事を思い出し、その事に関してもエルロイドに告げた。

「大人しくと言えば、彼女そろそろ限界ですよ。いい加減軟禁状態に苛立っているみたいで、顔には出していないものの相当ストレスが溜まっているみたいですね」

「だろうな。だが、今この状況で表に出すわけにも行くまい」

「ですね。せめて、例の件について相手側の尻尾がつかめればいいのですが……」

 重ね合わせるように二人して溜め息を吐く。重苦しい雰囲気が室内に漂った。しばらくして、そんな空気を打ち払うようにエルロイドが打開策を切り出す。

「……ひとまず街でのもめ事には通常通り対処してくれ。何か異変等を感じたり、気にかけるような報告があればすぐに私の所に回したまえ」

「わかりました。それで、姫様と彼女のことについてはどうなさいますか?」

「それに関しては現状維持と言うほかあるまい。姫様の行動を止められる者は限られているし、皆自分の立場を失いたくはないだろうからある程度言いなりになるしかあるまい。もっとも、その事があのおてんば姫を調子に乗らせていることの一つだろうが」

「隊長、言葉が過ぎていますよ」

「おっと、すまない。とはいっても、姫様に関しては城の外に出た後にこっそり護衛を付けるという形式の方が合っていそうだからな。もしもの事がないようにだけは気をつけていてくれ」

「了解しました」

「それから、彼女に関してはもう少しだけ耐えるように伝えてくれ」

「そちらに関しても了解しました。せめて彼女が大人しくこの城内にいるような理由があればいいのですけれど」

「そうだな……。とはいっても、ないものを求めていても仕方あるまい。もう少しだけ辛抱してもらうようにお願いするしかないだろうな」

「分かりました。では、わたしはこれで」

 そう言って部屋を出て行くミレーヌ。入り口に向かい扉を開けてそのまま外へ出る。……と、そんな彼女と入れ替わるように中年の男性が中に入って来る。そう、第九隊隊長グラードだ。

「グラードか。どうした?」

 突然現れた別部隊の隊長の姿にさして驚いた様子も見せず、問いかけるエルロイド。彼もまた何か報告があるのだろうとエルロイドは思ったのだ。もしかしたら例の一件に関して何か情報を掴んだのかもしれない。
 そのことにミレーヌも気がついているのか、再び室内に入り、グラードの話を聞こうとする。

「エルロイドくん、急な訪問で申し訳ないんだけれど、少し耳に入れておきたい事があるんだ。今時間は大丈夫ですかね?」

「既に室内に入ってきているのだ時間がないと言って追い返して後で報告を受けるのも二度手間だ。なるべく早く話を終えてくれ。書類の処理がまだ大量に残っているのでな」

「そうですか。では、できるだけ簡潔に述べさせてもらいますね。実はさっき僕の部下から報告を受けたのですが、何でも城の入り口にいる衛兵に君に言伝を頼んだ人がいたそうですよ」

 グラードの言葉に興味が湧いたのか、エルロイドは僅かに身を乗り出し話の続きを促した。

「ほう、それは一体誰なんだね」

 そんなエルロイドの態度が気に入ったのか、グラードはその言伝を頼んだ相手の名を口にした。

「ええ、それはですね。今軟禁状態にある私の部隊の副隊長であるリオーネくんの大事な人、フィードくんだそうですよ。何でもリオーネくんに会わせてほしいだとか」

 その名前を口にすると、エルロイドは何かを考え込む仕草を見せ、やがて素晴らしい事を思いついたように明るい表情を浮かべた。

「……ふむ。これはいい案を思いついたぞ」

 何かに納得したように独り言を呟くエルロイド。嬉々とした様子の彼とは裏腹にフィードの名を聞いたミレーヌは何故か顰め面になった。そして、そんな二人の反応を見てグラードは楽しそうに笑顔を浮かべるのだった。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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