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強者の理

夢か現実かと問われれば、間違いなくこれは夢だとこの町に住むほぼ全ての人間がそう答えるだろう。なにせ、大人数名で開かせる町の門をたった一人で、それも蹴破って町へと侵入されたのだ。これを夢だと言わずになんと言うか。
 これまで盗賊達の幾多の襲撃にも耐えてきたその門は今となっては中央に大きなひび割れた亀裂を生み、その亀裂を打ち破って一人の侵入者を町中へ迎えていた。

「おうおう。しけた町だな」

 背中に身の丈以上の大剣を背負った筋肉質な赤毛の男。悪名高き十二支徒の一員であり、十二支徒の元となった組織の創設者の一人でもある猿哨は我が物顔で町を闊歩する。遠慮も何もそこにはない。己が何をしようが、文句があるのならかかってこいというのが彼の考えだ。それで打ち負かされるのならそもそも文句を言う筋合いもなく、どういう扱いを受けようが仕方のない事だと割り切らなければならない。
 つまり、彼の行動を制限させようとするならば、己の方が強いという事を戦って証明しなければならない。
 まさに弱肉強食。それは、同胞だったからそのような考えに至ったのか、同じ考えだから同胞になったのかは分からないがこの町の領主でもあり元十二支徒のリーダーでもある卯月と全く同じものだった。

「にしても結構広いな。これじゃあ探すのが面倒くせえ」

 周りを見渡し、目的の相手を捜す猿哨。己の身体に傷を負わせ、挙げ句逃げ切って見せた男、フィードを追って彼はこの町へと辿り着いたのだ。

「ま、見つからねえなら出てくるようにあぶり出すだけだけどな」

 そう言って猿哨は背負っていた大剣を手に取り、大通りを歩いて行く。
 平静な様子の彼とは対照的に、この町に住む人々は突然の襲撃者にパニックに陥ってしまっている。騒ぎに気づき、慌てて遠くへと逃げようとする者もいれば、ガタガタと身を震わせてその場に縮こまらせてしまっている人も。
 そんな中、事態に気がついていないのか幼子が猿哨の前に向かって行った。

「あ?」

 己の道を防いだことが気に入らなかったのか、猿哨は不機嫌そうに眉を吊り上げて不快そうに顔を歪めた。そして、幼子はそんな猿哨の心の機敏に気がつくはずがなく、無邪気に笑顔を向けて立ち止まっていた。
 ゆっくりと振り上げられる大剣。幼子に向けてそれは叩き付けられ、命を奪うであろう事はその場にいる誰もが理解していた。

「う、ああああああああああああ!」

 助けたいと思いながらも我が身もまた大事という考えで幼子を助けに誰も動けない中、一人の中年男性が叫び声をあげながら猿哨に向かって突撃していった。その男の後に続くように他にも数名の男や幼子の母親と思われる女性が一斉に走って行く。
 全員で一斉に飛びかかれば。あの大剣を奪い取る事ができれば……。圧倒的な力を持つ相手にほんの僅かに彼らが抱いた勝機がそれだったのだろう。
 猿哨の周りを取り囲むように陣形を取りながら男達が飛びかかる。幼子の母親が何が起こっているのか理解できていない我が子を抱きしめる。
 その光景をつまらなそうに、本当にくだらないと吐き捨てるように猿哨は侮蔑の眼差しで一瞥し、振り上げていた大剣を薙ぎ払うように振り下ろし、一回転させた。
 抉られる肉、飛び散る臓物。血潮は周りに吹き荒れ、背丈が小さく、かろうじて黒剣の獲物にならなかった幼子の頭を赤く染める。
 ピタリと幼子の頭上で止まる大剣。童子を助けようと向かった者は全て絶命し、その光景を見つめていた人々を更に絶望へと叩き込んだ。
 幼子を抱きしめていた母親の身体が崩れる。地面にぶつかり、その衝撃で抱きしめていた幼子は母親の腕から解放される。首から上がなくなった母親を見て不思議そうにする幼子。何度も、何度も横たわる母の身体を叩いて反応を伺うが、何の変化もない。そのことを不安に思ったのか、目に涙を溜めるとすぐさま大声で泣き出した。母の死を理解したのか、それとも相手になってくれなくて悲しかっただけなのかは分からない。ただ、幼子は泣き叫びつづけた。
 しかし、それもすぐさま泣き止む事となる。

「うるせえ、ガキ」

 ザクッという音が聞こえたと思うと、それまで耳をつんざくほどの大きさで響いていた鳴き声がピタリと止んだ。代わりに、その様子を遠目に見守っていた人々の方から心底怯えた叫び声が幾つか短く空に向かって上がった。
 大通りは一瞬にして血溜まりとなった。人の形をしていない死体が幾つも散らばり、まだ未来のある幼子の命も無惨に刈り取られた。唯一救いと呼べるようなものがあるとするならば母親と幼子寄り添うようにして死ねたことくらいだろうか。

「さて、そろそろ来てくれねえかな。そうじゃねえなら、どんどんと死体の数が増えていくだけだぜ」

 猿哨は目的の人物であるフィード目指して歩み続ける。だが、そんな彼の前に新たに幾つもの影が立ちふさがった。
 弓矢を携え、剣を構え、罪なき町の住民を惨殺した猿哨を鋭く睨みつける警護人達。その表情は怒りに満ちあふれていた。先程の光景をここに辿り着くまでに遠目で見ていた彼らの中には恐怖に怯えるものもいる。しかし、恐れよりも更に強く湧き出る怒りの感情に身を任せる事によって、どうにかこの場から逃げ出さずに猿哨の前に立ちふさがっていた。

「俺たちの町へ侵入し、町の人々を無惨に殺す気狂いめ! お前の悪行もこれまでと思え!」

 警護人達の先頭に立つ男が猿哨に向かって宣言する。周りの警護人たちも気力を振り絞り、恐れに負けまいと声を張り上げる。
 弓を構え、矢を添える。キリキリと音を立て弦を張る音が幾つもし、警護人達の手が弓矢から離れると、それは猿哨めがけて一斉に弓矢が飛んで行った。
 凄まじい勢いで襲いかかる弓矢の数々。だが、猿哨はそれを見ても動じることなく大剣を己の前に突き出して矢を防ぐ盾とした。
 甲高い金属音が周りに響く。ほとんどの矢は地面に突き刺さり、その他は猿哨の剣に弾かれて転がっていた。結果から言えば、警護人達が放った弓矢は何の効果も出すことなく終わったのだ。

「どうした、これで終わりか?」

 欠伸をしながら相手の次の一手を待つ猿哨。その姿を見て警護人達は戦慄する。この男は化け物だ。人の手で葬れる相手等ではない。本能的にそう理解する。だが、ここでこの男を逃してしまえば己の命も、ましてや家族や友人達の命も刈り取られる可能性が高いということにも彼らは気づいていた。
 逃げるわけにはいかない。男を逃がすわけにもいかない。打ち倒す事ができなくともせめて足止めまでは……。警護人の誰もが同じ考えに至ったのか、アイコンタクトをした後、次なる一手に移った。
 近づけば大剣にて真っ二つにされる。しかし、時間は稼がなければならない。ならば……。

「みんな、今すぐこの場から逃げるんだ!」

 恐怖から身動きの取れなくなっている住民達に先程声を張り上げた警護人が指示をした。それを聞いて一目散にこの場から逃げ出す人々。住民を逃がす時間を稼ぐため、警護人たちは全員弓を構え、猿哨へ向かって矢を放った。

「射て、射てっ! 弓矢に晒されている間はいくら奴といえども身動きは取れない。住民が逃げるまでの時間を稼ぐんだ!」

 矢を射ては構える警護人達。先程の再現のように猿哨は大剣を己の前に突き出し弓矢を防ぐ。

「おい、おい。つまらねえ事は止めろよ。興ざめしちまうだろうが。まあ、元々お前らには興味も何もないけどよ」

 弓矢の山が猿哨の周りに作られる。住民のほとんどは逃げ終わり、この場に残されたのは猿哨と警護人達だけとなった。弓矢はとうに全て射終わり、持っているのは剣一本のみ。人数では勝っている。普通ならば勝てるだろう。だが、目の前に立っている男が普通ではない事をこの場の誰もが理解していた。

「ん~、あの復讐鬼が来るまでの暇つぶしにでもなるかと思ったが、どうも駄目だ。もういいぞ、お前ら。目障りだ」

 猿哨がそう告げると同時に警護人達の元へ巨大な飛来物が向かってきた。凄まじい勢いで迫るそれに反応することも、ましてや防ぐ事もできず彼らの三分の一はそれに巻き込まれて吹き飛ばされた。
 飛来物が何なのか確認する間もなく、彼らに向かって突進する猿哨。その速さはまさに神速。無手にも関わらず自分たちに襲いかかる害敵に向かって剣を抜き放つ警護人。
 だが、強襲する敵のあまりの威圧感にパニックに陥ってしまったのか一部の警護人が持っていた剣を所構わず振り回した。味方によって切られる他の者たち。集団は一気に瓦解し、単なる烏合の衆へと成り代わった。
 当然、猿哨がそれを見逃すわけもなく、集団の隙間を縫い、先程から隊を纏めているリーダーと思われる男に向かって一直線に走り抜ける。
 迫る害敵に未だ冷静さを保っていた男は剣を上段から振り下ろす。一直線に向かってきた猿哨にその刃は突き刺さるものと思われた。
 しかし、彼らは忘れていた。町へ戻ってきたフィードによって李明に伝えられ、彼らにもまた教えられていた敵の特異性について。
 男の振り下ろした剣は猿哨が頭上にて交差させて構えた両腕によって阻まれていた。僅かに肉にめり込んでいるとはいえ、全力の一撃で振り下ろした剣がこのように防がれると思わなかった男は思わず硬直してしまう。

「へっ! どいつもこいつも。ちったあ違う反応をしろってんだよ!」

 すぐさま腕を横にずらして剣を肉から剥がす猿哨。そしてそのまま男の背後を取り、片腕で彼の首を締め上げた。
 ミシミシと嫌な音が周囲に聞こえる。誰もが唖然として動きを止め、その様子をただ見つめている。

「じゃあな。恨むんなら自分の命も守れない己の弱さを恨むんだな」

 ゴキッと首の骨が折れる音が周りに響き、男の身体が力なく垂れ下がる。それを見た他の警護人達の間に悲鳴が上がる。
 リーダーを潰され、怒りが霧散し恐怖が上回った人々は我先にと逃げ出し始めた。しかし、そんな彼らを猿哨が見逃すはずもなく、先にこちらに投げつけていた大剣を拾うと、逃げ回る人々を一人ずつ確実に殺していった。そして、最後の一人になった警護人にとどめを刺し、次の獲物を探そうとしたところで気づく。
 それまでとは違い、肌がひりつく感覚が彼の内から沸き上がる。背筋がぞくぞくとし、それまで萎えつづけていたやる気が一気に最高潮まで上がる。

「よお、待ってたぜ」

 口元についた血を指で拭い、喜びを露にする猿哨。その視線の先には一人の男が立っていた。数日前、己の身体に傷を負わせ、命を奪う事ができずに逃げられた敵。一度は力ない者と思い失望し、その後すぐにその考えを撤回させた男が。

「準備は万全か? 前と違って逃がすつもりも油断をする気もないぜ」

 猿哨の言葉に男は、フィードは黙って剣を抜く。それを見た猿哨もまた大剣を構える。

「さあ、再戦だ。今度こそ命尽きるまで戦い尽くそうぜ!」

 その言葉を開戦の火蓋とし、二人は相手に向かって駆け出した。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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      向日葵の咲かない夏
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好きな映画:プラダを着た悪魔
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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