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不倶戴天

盗賊討伐の命を受けた翌日。朝日が昇り始めた頃、町を守る門を抜け、フィードは馬に跨がり、盗賊達の拠点があると思われる場所へ向かおうとしていた。そして、そんな彼を見送りにきた人物が三名、フィードの後方で彼の出立を見守っていた。
 一人は、香林。彼女は卯月の命を受けてフィードの出立を見届けにきた。
 その横には李明。彼は昨日フィードから盗賊討伐の依頼を受けた話を聞いて、自分たちも力になるとフィードに公言したのだったが、卯月が出した盗賊討伐の条件にフィード一人でこれを退治せよというものが入っていたため、 結局彼の力になるために加勢する事は叶わず、せめて見送りだけはと思いこの場に来た。
 そして、最後の一人は彼のパートナーのアル。不安そうな表情を浮かべ、フィードに視線を注いでいる。

「……はぁ」

 その視線に気がついたのか、フィードは一度馬を下り、手綱を李明に預け、アルの傍へと歩いて行く。

「そんなに不安そうにするなって。心配しなくても大丈夫だよ、アル」

 彼女の不安を紛らわせようと、肩に手を置き優しく説くフィード。だが、アルの表情は一向に晴れない。

「で、でもマスター……。この間見た盗賊達はたくさん人数がいたんですよ。それを一人で退治するだなんて。いくらマスターでもあの人数は……」

 フィードの言葉を信じられないわけではないが、分かっていても不安が拭えないアル。できることなら彼と一緒に付いて行きたいと思ってはいるものの、今の彼女にできることなど何もなく、足手まといになるのが分かっているため、この場に留まることにしているのだ。

「そうだなぁ……それじゃあ一つ約束事をしようか。この町に来てからはろくにアルのしたいことさせてあげられていないから、俺が無事に帰ってこれたらアルの言う事を何でも一個聞いてあげるよ。好きなものを買ってほしいっていうお願いごとでも、どこかに連れて行ってほしいってお願いごとでもいいよ」

 そう言うと、フィードはアルの眼前に小指を突き出した。

「ほら、指切りしよう。俺は……約束を守るよ」

 その時、一瞬寂しげな表情を見せたフィードだったが、すぐさま平常時の表情に戻り、アルに対して笑顔を見せた。そんなフィードにアルはどこか納得しきれていない様子だったが、彼が無事に帰ってきてくれるならばと己の小指をフィードのものに絡ませた。
 重なり合う指と指。シンと静まる周り。二人だからこそ分かり合える約束の大切さを胸に抱き、互いの指が離れるまでの僅かな時間を堪能した。
 数秒後、どちらともなく指は離れ、フィードは預けてあった馬の手綱を李明から受け取り、再び馬上に跨がった。

「それじゃあ、行って来る。李明、香林。アルの事、よろしくな」

「はい、責任もって面倒見させていただきます」

「任されました。フィードさんもお気をつけてください」

 フィードの言葉に李明、香林がそれぞれ返事をし、それを聞いたフィードはついにその場から盗賊達の拠点に向かって馬を駆け出した。
 勢い良く大地を蹴り、凄まじい速度でその場を離れて行くフィード。そんな彼の背が小さくなって見えなくなるまで、アルはその場で見続けているのだった。



 駆け出してから数時間。休憩を挟みながらもかなりの速さで盗賊達の元へとフィードは向かっていた。事前に卯月や香林から聞いていた盗賊達の拠点。今までその場所が分かっていながらも、倭東に住む警護人たちがそこを責められなかったのには理由がある。
 一つは、人数差。それほど大きな町でない倭東は、その町を守る警護人の数が圧倒的に少ない。腕に覚えのあるものこそそれなりにいるが、その絶対数が盗賊に比べると半分近くしかいないのだ。
 それに対して盗賊の側は戦闘に関しては素人同然だが数が多い。しかも、金品や食料を奪うのにほとんどためらいがないのだ。そんな彼らの邪魔をする警護人たちの命など奪って当然と思っても過言ではない。
 倭東付近であれば、警護人達に地の利があり、数の差で負けてはいても、盗賊達を撃退する事ができた。しかし、逆に彼らの拠点を攻めるとなると、いくら腕に覚えがある彼らでも多対一になってしまったとき、なす術無く殺されるという可能性があった。
 そのため、迂闊に彼らの拠点を攻める事ができず、これまで攻められては守るという膠着状態が続いていたのだ。
 そんな場所に卯月はフィードを一人放り込むことを命じた。そして、一人で彼らを討伐せよと。

(まったく、無茶苦茶なことを言ってくれるよ)

 フィードは改めて事態の困難さを理解し、内心で愚痴を呟いた。卯月のことだ、呼び寄せたフィードを都合のいい己の駒と考え、面倒に思っている問題を解決させようと思ったのだろう。

(まあ、あいつのことだからそれ以外にも理由があるんだろうな)

 おそらくは、今現在のフィードの腕試しも含めているのだろう。結果次第ではまた昨日のように仕置きをするかもしれない。
 昨日のダメージは完全に抜けていない。ズキリ、ズキリと痛む腹部を押さえるフィード。
 不老の彼はその特異さもあってか、身体に刻まれた痛みや傷は常人に比べて早く回復するのだ。しかし、それはあくまでも速度が速くなっただけであり、身体が治しきれないような深い傷を受けた場合などはそれがそのまま身体に残る。
 世の中に伝わる不老という噂にはもれなく不死という言葉がセットで付いてくる場合が多い。だが、実際に不老となった彼は不死ではない。
 傷を負えば、治るのに時間はかかる。命を落とせば蘇らない。病気にもかかるし、苦しみもする。寿命という概念がなくなった事以外何ら他の人間と変わりないのだ。
 だからこそ、力を付けたと自惚れて、油断をすれば思いもよらず命を失う事になる。今回の討伐はその最たるものだろう。

(アルの奴と“約束”したんだ。約束は守る、守らないといけない……)

 かつて果たせなかった約束が彼を縛る。呪縛のように幾重に身体に絡み付く見えない糸。それは、彼を縛ると同時に、意思を強く保つための鎧にもなる。

(油断はしない。容赦も一切しない。慈悲は残さず、一人も逃がさない)

 生死は問わないと言っていた卯月だが、実際には皆殺しにしろと言っているようなものだ。なぜなら、ここで慈悲をかけて彼らを生かした場合、その後に倭東に被害をもたらさないという保証はないのだ。その時に倭東にフィードがいるとは限らない。そうなってしまったら今回の件を完全にこなしたとは言いがたい。
 それに、卯月はアルの事もフィードに対する牽制として使っていた。もし、フィードが完全にこの依頼をこなせないならば卯月はアルを己の好きなようにするだろう。見世物小屋に売るのも、己のために慰めものにするのも、気まぐれに殺してしまう事もできる。今の彼女の傍にフィードはいないのだ。
 今回の件、フィードは様々な意味で彼女に試されている。それは、今の彼が今後の彼女にとって利用価値のあるかどうかを見極めるためだ。利用価値のなくなったものは容赦なく切り捨てる。弱肉強食の掟を掲げる彼女だからこそ、そう言えるのだ。
 そして、フィード自身はまだ彼女に及ばない。それは昨日の対決で分かった事だ。
 力が欲しい。誰にも負けない強さが欲しい……。そんな渇望が彼の内から沸き上がる。
 それは、ここしばらく彼の周りで起こった出来事や、昨日の敗北によってより強いものになっていった。

 後になってみれば、おそらくここが分岐点であったのだろう。
 強さを求め、守りたい者達をその胸に抱いた彼の。そして、彼の帰りを待ち続ける少女の……。



 しばらくして目的地である盗賊達の拠点が視界に入った。徐々に大きくなっていく建物だが、それと同時に異変にフィードは気がついた。

(やけに静かだ……。それに、人影もまるで見当たらない。どういうことだ?)

 疑問を抱きながら、ゆっくりと建物に近づく。周りに遮蔽物がないため、こちらが接近すれば向こうも己の存在に気がつくだろうということは予想していた。にもかかわらず、盗賊達が動く気配がまるで見当たらない。それどころか、人一人も周りには存在しなかった。

(おかしいな。まさか、まだこの拠点に戻っていないのか?)

 不審に思うと同時に、まだ盗賊達が帰っていないならば先に拠点を調べておこうと考え、更に建物へと近づくフィード。だが、彼がそこに近づき始めたところで異変の正体に気づいた。

「これは……!?」

 見れば、建物の近辺は血の海ができていた。まき散らされた死肉。それをついばむカラス達。遠目では分からなかった異常な事態の原因がそこにはあった。
 すでにあらかたの肉を食い荒して満足しているのか、カラスの大半は遠くからこの光景を見守っているだけだった。それもそのはず、突如として彼らの元に降って湧いた食料は多すぎたのだ。
 死体はこれまで何度も目にして、平気だと思っていたはずのフィードだったが、これほど大量の人の死を目の当たりにしたのはほとんどなかったため、思わず口元を押さえる。
 こんな光景を目の当たりにしたのは、ただ一度。そう、彼が全てを失った日以来だった。
 それを思い出し、彼の脳裏に浮かぶある予想。それは……。

(まさか、まさか、まさかっ!)

 不意に現れた人の気配を察し、フィードは振り向く。そこには徳利を片手に、もう片方に身の丈以上の大剣を持った男が立っていた。
 見覚えのある。いや、ありすぎるその男を見てフィードは硬直する。
 燃え上がる劫火。その火中にて愉悦の笑みを浮かべながら大剣を振り回し、人々を惨殺した悪魔。力なく、命が奪われるのを見る事しかできなかったあの頃の自分をあざけ笑った剣士。まるで、虫けらを踏みつぶすほどしか人の命を奪う事を考えていないその男は……。

「見つけたぞ……」

 氷のように冷たい声色でフィードは呟く。そんな彼の様子に気がついているのか、それとも気づいていてなおとぼけているのか、赤毛の男は彼に問いかける。

「なんだよ、お前こいつらの仲間か? 結構な殺気飛ばすところからしてある程度腕は立つみたいだけど、俺には勝てねえから止めておけ。今なら俺の機嫌もいいし見逃してやるよ」

 あくまでも余裕は崩さず、上からの目線で話しかける男にフィードはますます苛立つ。同胞を殺してきた己の事などまるで知らず、興味すらないと言わんばかりの態度。それにフィードは耐えきる事ができなかった。
 一瞬の加速と抜刀。男との距離を大幅に詰め、抜き出した剣を男に向かって全力で振り抜く。だが、戯けた態度をとっていた男もその様子を見てようやく真面目な表情を見せ、持っていた大剣でフィードの斬撃を防いだ。

「へえ、結構やるじゃねえか。お前、名は?」

 ここに来てようやく彼を本当の意味で見据えた男は問いかける。

「俺の名はフィード。お前達十二支徒を殺す者だ」

 その宣言を聞いて、男は思い当たる節があったのか、ニヤリと口元を釣り上げた。

「なるほど、お前か。ここ最近俺たちの仲間を狩ってやがったのは。面白い、一度会ってみたいと思っていたんだよ。どれほどの腕か試させてもらうぜ」

 そう言うと男は徳利を捨て、両手で大剣を支える。均衡していた刃と刃。だが、それも男が大剣に込めた協力な力によって崩れさる。

「ちぃっ!」

 状況の不利を察したフィードはすぐに後退し、男から距離をとる。力任せの薙ぎ払い。その場から一歩も動くことなく男はフィードの一撃を防ぎ、反撃したのだ。

「思ったよりやるじゃねえか! 他の奴らを倒してきたってのもまんざら嘘じゃなさそうだな!」

 己とマトモに戦える相手がいる事が余程嬉しいのか、男は大剣を大仰に振っている。だが、フィードにとってはそれすらも苛立の一因にしかならなかった。

「殺す。お前達十二支徒は全員俺の手で殺してやるっ!」

 表面に現れるどす黒い感情。それを隠そうともせず、フィードは男へと立ち向かう。

「おう、おう。生きがいいねえ。そうこなくっちゃな。いいぜ、来いよ。せっかく名を語ってくれたんだ。俺も名乗らねえと礼議に反するよな。
 俺の名は猿哨! 十二支徒が一の猿哨だ! 
 かかって来な、復讐鬼。頼むからとっととくたばってくれんなよ」

 そう言って、猿哨もまたフィードに向かって駆け出した。再び交差する剣と剣。辺りに響き渡る金属音が激闘の始まりを告げた。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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      スロウハイツの神様
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      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
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      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
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