04
1
2
3
4
5
6
7
8
10
11
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
30
   

魔力酔い

 アルに魔術の基礎を教え始めたフィード。実技は当分先に教えるつもりだったフィードはまずは魔術の構成とその流れ、それから知識について順番にアルに説明していた。
 教える事に熱中していたためか、いつの間にか時間はあっという間に過ぎており、気がつけばクラリスを迎えに行く時間が迫っていた。

「ちょっとクラリスのところに行って来るよ、アル」

 アルを家に置いて、一人クラリスを迎えに行くフィード。行きと違い自分のペースで、それでいて少しだけ急ぎながら学院へと向かって駆けて行く。落ちて行く夕日が街に幾多も存在する住宅の窓に当たって様々な方向へと反射する。その中のいくつかの光は水路を通る水面にぶつかり、乱反射した。光の線が街中を照らし、子供達がその光の間を抜けて走り去って行くのをフィードは微笑ましく見守っていた。
 しばらくして、クラリスのいる学院前に到着した。学院に入るための門の前には中へ入る人に不審者がいないかどうか確認するための門番が右と左、それぞれ片門の前で立っていた。フィードは右門の門番の近くへと近づき、そこでクラリスを待つ事にした。
 門の奥、学院の中からは様々な年代の学院生、そして彼らに魔術についての知識を与える講師がこちらに向かって歩いてきていた。フィードはその中にクラリスの姿がないか見渡すが、どうもまだ学院の校舎内にいるようだった。じっとしているのは性に合わないため、門の前に立っている壮年の男性にフィードは声をかけた。

「どうも、こんばんは。お仕事の方は大変ですか?」

 急に話しかけてきたフィードを門番は怪訝そうな顔をして見ていたが、声をかけられて無視をするわけにもいかないため、律儀に返事をする。

「大変と言われましても、これがわしの仕事なもので」

 返事をし、すぐさま先程までのように門を通る人々に目を向ける門番。部外者に構っている暇はないと、いかにも言いたげだった。そんな門番の行動にフィードは苦笑し、それ以上話しかけるのを止め、再びクラリスを待つ。それから十数分がし、学院の生徒が門の前で立ち止まるフィードを噂し始めた頃、少女二人と一緒に楽しそうに話しながら歩いて来るクラリスの姿が見えた。やっと来てくれたとフィードは思い、クラリスに向かって手を振った。その行動にクラリスと一緒にいた少女の一人が気づき、一緒にいるクラリスの肩を叩いてクラリスに教えていた。ようやくフィードが門の前にいることに気がついたクラリスは勢い良く門の前に走ってきた。

「ふ、フィードさん!? どうしてここに?」

 慌てふためき、おろおろとするクラリス。少し離れた場所にいる友人と思われる少女二人が気になるのか、チラチラと何度も振り返りながら、何故かクラリスはフィードを少しずつ門の前から離していく。

「どうしてって、朝に言わなかったか? トリアは最近物騒だから朝と夕方は迎えに来るって」

 フィードの言葉を聞いてクラリスがハッとする。その様子を見ると、どうやら朝話していたことを彼女は忘れていたらしい。

「そ、そうでした。ですけれど、今はちょっとマズいです」

「マズい? それってどういうこと?」

 フィードがクラリスに問いかけるのと同時に、先程まで二人からは慣れた位置にいた少女二人がクラリスの後ろに立っていた。

「クラリス~。これ、どういうことなのかな?」

 クラリスよりも少し背の高い眼鏡をかけた少女が肩を掴んで問いかける。

「い、いや~。どうって言われても……」

 乾いた笑みを浮かべながら、クラリスは返答に詰まっていた。

「……あれだけ抜け駆けは禁止と言っていましたのに、クラリスさんは嘘つきですね。近いうちにお仕置きです」

 クラリスや眼鏡の少女と違い、どこか高貴な雰囲気を漂わせる少女は、その雰囲気に似つかわしくない笑みを浮かべて呟く。

「う、嘘っ! 違うよ、私抜け駆けなんてしていないよ」

「じゃあ、この男の人はなんなのよ!」

「そうですね、まさかクラリスさんの追っかけをしている男性というわけでもありませんよね」

「そ、それは……そうだけど」

 ポツンとその場に立つフィードを取り残し、あれやこれやと言い争い、白熱する少女達。しばらくその光景を見守っていたフィードだったが、あまり長くなると帰る時間が遅くなってしまうと思ったため、クラリス達の話が一旦途切れたところで口を挟んだ。

「ちょっと、いいかな? 話が掴めないようで悪いんだが、みんなは何の話をしているんだ?」

 その言葉に二人の少女が反応する。そして、クラリスはしまったとフィードの事を放置してしまっていた事を後悔するのだった。

「お兄さん、お兄さん。クラリスの事を待っていたみたいですけれど、どうしてですか?」

 眼鏡をかけた少女が、クラリスの横を抜けてぐっと身を乗り出し、フィードに迫りながら尋ねる。そんな少女を手で制し、あまり近寄りすぎないようにしながらフィードは答える。

「えっと、最近トリアの方も事件が起こっているみたいで物騒だろ? それで、クラリスに何かあるといけないから、朝と夕方に迎えにきているんだよ」

 その言葉に眼鏡をかけた少女はキャーっと甲高い声を上げ、クラリスは顔を赤くして俯いていた。そして、次はもう一人の少女がフィードに向かって問いかけた。

「初めまして、私はリームと申します。クラリスさんとは同じ学友として仲良くさせていただいています」

「あ、どうもご丁寧に。俺はフィードっていう者だ。少しの間このトリアに滞在する事になっている」

「滞在? ということはフィードさんはこの国の人間ではないのですね」

「ああ。一応普段はセントールにいる。少し用事があってこっちに来ているんだ」

「そうなのですか。どちらの宿に宿泊しているのですか?」

「いや、実は宿は取っていないんだ。クラリスの家に厄介になっていてね」

 その返答にまたもや眼鏡の少女が悲鳴に近い喚声を上げる。そしてもう一人の少女はクラリスに向かって親指だけを突き出した拳を突き付ける。二人の反応にクラリスはますます顔を赤くしてしまい、その身体はどんどん小さくなっているようだった。
 そこまで来てようやく二人の少女がクラリスと自分の関係を誤解していることに気がついたフィードは慌てて弁解する。

「いや、勘違いしているようだから言っておくけれど、俺とクラリスはそんな関係じゃないぞ。君たちも知っているかもしれないけれど、クラリスのお兄さんのクローディアがいるだろ。俺とあいつは友人なんだ。それで、彼の好意に甘える形でクラリスの家に泊めてもらっているんだよ」

 しかし、フィードの弁解を聞いても少女たちは火のついたかのように話を盛り上げる。

「ふむふむ、そういう設定にしておくということですね」

「年頃の男性と同棲……それもお兄さん公認とは、クラリスさんは一足早く大人になってしまわれたのですね」

 なおも盛り上がる二人に、それまで黙っていたクラリスがとうとう叫ぶ。

「もう! 二人ともいい加減にして、フィードさんとはそんな関係じゃないの!」

 夕日の光が頬に当たりながら、二人の少女を追い掛け回すクラリス。そんな三人をフィードは遠くから見守るしかできないのだった。


 フィードがクラリスを迎えに家を出て行ってから、一人取り残されたアルは、フィードに教えてもらっていたことを復習していた。まずは基礎の基礎、魔術というものの流れを知ることから始めることになった。
 魔術とは、己の内にある普段使われていない力、魔力を用いることから始まる。最終的にはその魔力を詠唱によって世界に存在する幾多もの元素と交わらせ魔術という型にはめて形作るとフィードはアルに教えてくれていた。

「むむむむむ……」

 そのためには、最初に自分の中に存在する魔力を知らねばならない。これが分からないと魔術を覚えることができず、世間で魔術が使えない人の大半はここで挫折する。
 椅子に座りながらお腹に力を入れて、必死に踏ん張り、掌を広げて何かを手の先から出そうとするアル。この格好に意味はないが、力を入れた結果自然とこうなってしまった。

(魔力の流れ、流れ、流れ……)

 意識を集中させて流れがどんなものなのか掴もうとするが、流れはおろか、魔力が自分の中にあるのかどうかすらも分からない。分かるのは力を入れすぎて息が詰まっているということだけだった。

「……ぷはぁ。全然分かりません」

 全身の力を抜き、息を吐き出すアル。フィードが隣にいたときからかれこれ数時間はずっとこの動作を繰り返していた。しかし、一向に成果を見せる気配がないのでアルはテーブルの上に頭を乗せてちょっぴりふてくされていた。

(全然できませんよぉ。マスターも流れを掴むことしか教えてくれませんし、もうちょっとなにか言ってくださればいいのに。でも、教えてくださいって言ったのは私ですから、文句を言える立場でもないですし……)

 ごろごろとテーブルの上でアルがだらけていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。聞こえてくるのは男女それぞれ一人の声。クラリスと彼女を迎えにいっていたフィードが帰ってきたのだ。それに気がついたアルはテーブルから起き上がり、すぐに二人の元へと走り出した。

「おかえりなさい、クラリスさん、マスター」

 玄関へと駆けて来たアルに二人が気がつく。

「ただいま、アル。ちゃんと練習していたか?」

 先ほどまで一緒にいたフィードが魔術の練習をサボっていなかったか確認するが、思い当たる節があったため、アルは視線を逸らして誤魔化していた。その様子に気がついたフィードはアルがサボっていたことに気づいて苦笑した。

「こらっ。まだ基礎の基礎なんだからサボってちゃ駄目だろ。教えてくださいって言ったのはお前だろ?」

「……はい、すみません」

 シュンとして肩を落とすアル。フィードの言う事が正論であるためにアルはただただ深く反省するしかなかった。

「えっと、何の話をしているんですか?」

 それまで話を聞いていたクラリスだったが、二人が何についての話をしているのかが分からず、つい口を挟んだ。

「実はアルのやつが魔術を覚えたいって言い出してさ。それでまずは一番最初の覚えなきゃいけない魔力の流れについて教えてるんだ」

「そうなんですか。頑張ってね、アルちゃん。私でも教えられるところがあれば教えてあげるから」

「あ、ありがとうございます。クラリスさん!」

 アルと同じように魔術を習っている身であるクラリスは他人事とは思えないのか、やたらと親身になっていた。

「それじゃあもう一度復習しようか、アル」

「はい、マスター!」

 リビングへと三人で移動し、二つの椅子を向かい合わせにして並べるフィード。その片方にはアルが座り、もう片方にフィードが座る。そして、アルがフィードに向かって両手を伸ばし、その小さな手をフィードが己の手で包み込む。

「今からお前に魔力を流していくから、それを感じ取る練習をしてくれ」

「はい!」

 返事をするアルに、向かい側に座っているフィードは静かに魔力をアルに流し始める。何も知らない状態から魔力の流れについて理解しろと言っても難易度が高すぎるため、フィードはこうして己の魔力をアルに流すことによって、その流れについて理解させようとしていた。

「――ぁ」

 ぴくぴくとアルの身体が小刻みに震えながら口から微かに声が零れでる。魔力の流れは未だ掴めていないものの、魔力が自分の身体に入ってくることを漠然とした感覚で捉えているのだろう。得体の知れないものが身体に入るという未知の体験にアルは戸惑う。

「――ふぁぁ」

「どうだ、アル? 少しは流れが分かったか?」

 問いかけるフィードに対してアルの返事はない。よく見れば顔は赤くなり、瞼は今にも閉じそうなほどとろんとしており、恍惚の表情を浮かべている。熱の篭った目でフィードを見つめていた。それを見てフィードは魔力を流すのをやめる。

「おい、アル。しっかりしろ」

 ぺちぺちとアルの頬を軽く叩くが表情は依然として変わらない。それを見てクラリスがぼそりと呟く。

「もしかして……魔力酔いですか?」

「そうみたいだな。ちょっと強引に教えすぎたかな」

 困ったように頭を掻くフィード。彼の前にいるアルは今魔力酔いという症状に陥っていた。
 魔力酔いとは文字通り魔力に酔う症状である。魔力を使いすぎた者が他の人から魔力を分けてもらうときや、さっきのアルのように魔力の存在に慣れていない人物が魔力を受け流されているとたまに起こるものだ。酒を飲んで酔っ払ったようになってしまう。ただ唯一違う点があるとすれば、それは酒の時にはある二日酔いがないということくらいだ。

「えへへ~。ますたー、ますたー」

 すりすりとフィードの胸元に抱きついて顔をうずめるアル。酔っているせいか、普段は抑えている甘えの感情がここに来て一気に爆発していた。この場にクラリスがいるにも関わらず、酔った勢いに任せる形でフィードに存分に甘え始める。

「ますたー、聞いてるんですか? クラリスさんとばっかり話してないで構ってくださいよぉ」

 駄々をこねる少女にフィードとクラリスは苦笑する。歳相応な嫉妬だということは二人とも理解しているため、何も言わずに少女の言うとおりにすることにする。フィードとしてもこうして純粋な好意をアルが持ってくれて甘えてくれているので、それが酔ってなったものとはいえ大事にしてあげることにした。

「はいはい、わかったよ。とりあえず今日はもう魔術の練習は終わりな。続きはまた明日にでもするぞ」

 抱きついたまま離れようとしないアルをあやしながら相手をするフィード。結局このやりとりはクローディアが帰ってきて、それからしばらくしてアルの酔いが醒めるまで続くのだった。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Secre

こねこ時計 ver.3

CATS
Sweets

プロフィール

建野海

Author:建野海
扉の中の部品たちへようこそ。

名前:建野海

twitter @tateumi よかったらフォローしてください。


好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
          UVERworld
          アンジェラアキ
          

最近の記事

最近のコメント

カウンター

Twitter

 

月別アーカイブ

カテゴリー

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
1128位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
224位
アクセスランキングを見る>>

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧


旅の空でいつか

標準装備で。

CANDY BOX

クリスタルの断章

現実エスケープ

BSR

白と黒の交流所

みくちょんの毎日

木綿湯のぶろぐ

気ままな雑記帳

saichi放送局

とあるゲーマー武装紳士の日常

星のゆりかご

Melt Sugar

小さいにっぽん頑張れ、2ch,大騒ぎ

Twilight of midnight

hana.bana