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慌ただしい朝

 食事を終え、シャワーを浴び、着替えをすませたフィードはアルと共にクラリスの学校へ付いて行くことになった。突然の送迎の申し出にクラリスは驚いていたが、最近のトリアでの事件もあってすぐに納得していた。フィード自身は年頃の少女であるクラリスはもう少し嫌がると思っていたのだが、案外あっさりと納得したため拍子抜けしていた。
 そして、今は学院への準備をしているクラリスをアルと一緒に玄関で待っている。ちなみに、講師であるクローディアは三人よりも一足早く学院へと向かっていた。

「遅いな、クラリスのやつ。もう結構遅い時間なんだが……」

「そうですね~。私、ちょっと様子を見てきましょうか、マスター?」

「う~ん。あとちょっと待ってこないようだったら頼めるか?」

「わかりました」

 それから五分ほど待ってもクラリスは来なかったため、しかたなくフィードはアルに頼んでクラリスの様子を見に行ってもらうことにした。駆け足気味に二階に上がるアル。そして、その姿が見えなくなって少しして、耳をつんざくようなクラリスの叫び声が聞こえた。

「ぁ、あああああああああ! しまったぁ! アルちゃん、今何時!? えっ、もうこんな……。どうしよう、どうしよう!?」

 階段越しでも聞こえるほど大きな声で自らの失態を嘆いているクラリス。その言葉からフィードが理解できるのは彼女が寝坊したということだった。ため息を吐き出し、クラリスが降りてくるのを待つフィード。しばらくして、急ぐ足音と共にアルとクラリスが一階へと降りてきた。

「改めておはよう、クラリス。どうも二度寝してたみたいだな」

 直しきれていない寝癖に、慌てて準備したせいか微妙に乱れた衣服。教材の入った絹袋はだらりと手から垂れ下がっている。

「すみません、すみません。フィードさんたちを待たせていたのに寝てしまってました」

「いや、俺たちは時間があるから別にいいんだが、急がないと講義に遅れるんじゃないか?」

「そうです……。なので、少し急ぎめで学院に向かいます」

「了解。それじゃあ、行こうか」

 自宅の戸締りをし、三人は家を出る。

「あ、そうだ。フィードさん、これ渡しておきますね」

 家を出てすぐ、走り出そうとしたクラリスがポケットから鍵を一つ取り出してフィードに手渡した。

「お、懐かしいなこれ。スペアキーか」

 見ると、先ほどクラリスの家の施錠をした鍵と同じものがフィードの手元にはあった。

「はい、二年前にお渡ししたものです。フィードさんがトリアを出て行くときにお返しいただきましたけど、またこうしてこちらに滞在されるみたいですので、持っていただいてもらおうかと。私と兄さんは日中は家にいないので、用事があるときに家に入れないと困ると思いまして……」

「べつに俺たちは宿を取ってもいいんだけど」

「なに言っているんですか! 二年前は一緒にあの家で過ごしたんです。そんな水臭いこといわないでください」

 怒るクラリスを見て鍵を返すわけにもいかなくなったフィードは、それをポケットへと仕舞い、お礼を言う。

「ありがとう。それじゃあしばらくの間またこの家でお世話になるよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 互いに礼を言い合ったところで、それまで黙っていたアルが一言呟く。

「あの、お話はそれくらいにしておかないと時間のほうが……」

 その言葉に、青ざめるクラリス。フィードとアルはそんな彼女を見て苦笑する。結局学院までの間三人で走って向かうことになったのだった。



 どうにか時間ギリギリにクラリスを学院まで送り届けることができたフィード。だが、体力のないアルが途中でへばってしまい、その足を止めてしまったので、フィードがアルを背負って走った。朝の人通りも多い時間だったせいか、たくさんの人がその光景を見てフィードたちを指差して見ていた。アルは体力の限界が来ていたので、学院に着くまでは何も反応を示さなかったが、徐々に体力が戻って、学院に到着してフィードが背中から下ろしたときは顔を真っ赤にして、頬を大きく膨らませて怒った。

「もう! マスター。なんであんなことしたんですか! おかげで道行く人に恥ずかしい姿を見せる羽目になったじゃないですかっ!」

 背伸びをしながら、ポカポカとフィードの胸元を叩くアル。背中に乗っていたときは何も言わなかったが、やはりかなり恥ずかしかったらしい。

「しょうがないだろ。ここはセントールじゃないんだから、下手に置いていくわけにもいかないし。かといって歩いてたらクラリスが講義に間に合わない。お前小さいし、軽いんだから背負っていけばちょうどいいと思ったんだよ」

「そんなこと思わないでいいです! あのまま置いてって後で迎えに来てくれればよかったんです!」

 唇を噛んでじわりと目に涙を浮かべるアル。そんな泣き虫な少女にやれやれとフィードは嘆息する。

「しょうがないな。あとで、お前の好きなお菓子買ってやるから機嫌直せって」

「えっ!? ホントですか! そ、それじゃあ……。って! 別にお菓子なんていりません。食べ物で釣ろうとしないでくださいよ、マスター!」

「もう、どうしろっていうんだよ。いらないのか? それじゃあ俺だけお菓子買って食べるぞ?」

「……ずるいです」

 ようやく意地を張るのをやめたのか、アルは素直になった。怒りも収まったのか、フィードの胸元を叩いていた手も下がる。

(はぁ~。まったく、子守りはいつまで経っても慣れないな。クローディアの苦労が分かるものだ。リーネの時の経験があるとはいえ、やっぱり背伸びしたい年頃なのかもしれないな。素直に甘えてくれるのが一番楽なんだがな~)

 まだまだ子供なアルを見てフィードは内心で呟く。本人は大人として振舞いたいと思っているのだが、肉体的にも精神的に見てもまだまだ子供なため、やはり所々で変に子供っぽさが出る。いっそのこと普通に子供として振舞ってくれるほうがフィードにとっては楽なのだが、今までのアルの生活がそうはさせないのだろう。

(母親を亡くして、俺と出会うまでの間アルも結構苦労してたみたいだし。まだ子供なのにっていう言い訳は通じなかったんだろうな)

 歳相応の生活をできない子供などこの世界にはいくらでも存在する。しかし、目の前の少女は自分が救い、その後の生活に責任を持つことに決めたのだ。辛い思いはさせたくない。できればただの少女として穏やかな生活をしていて欲しい。だが、フィードの今までの人生がアルをそうはさせなかった。

(今まで俺がしてきたことのツケが来ているのかもな。理由はあったといえ人の命を奪ってくるような日々を過ごしてきたんだ。俺の周りにいる人間がそれに巻き込まれて被害を負う可能性だってないとはいえないんだ。そうさせないためにも、俺は……)

「――スター。マスター!」

 自分を呼ぶアルの強い声によって、フィードは現実に戻された。

「どうした、アル?」

「どうしたじゃないですよ。呼びかけてるのに返事してくれないんですもん。マスターこそどうかしたんですか?」

「いや、ちょっとな。それよりも、アル。今から一緒に街を回るとするか。一人になったときに迷子になったらいけないもんな」

 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべてアルをからかうフィード。そんなフィードを見てまたしても頬を膨らませながら怒るアル。

「マスター、いい加減にしてください!」

 逃げるフィードの背を追いかけながら、二人はトリアの街の探索を始めた。



 明るい陽射しに照らされてゆらゆらと揺れる水面をアルは眺めていた。昨晩は暗くてあまり見えなかったが、このトリアでは他の国に比べて水路が整備されている。それは街全体に広がっており、水路の上を渡り、人を運ぶ船の姿も見える。
 昨晩街を照らしていた篝火のあった場所にはなにやら見慣れない球体が備え付けられており、今はそれに両手を置き、何かを込めているような様子の男性がいた。

「マスター、マスター。あの人は一体何をしているんです?」

 不思議に思ったアルは傍で周りの景色を見ているフィードに尋ねた。

「ん? ああ、あれか。あれはな、魔術を溜めておける装置なんだ。といっても簡単な魔術だけしかできないけどな。昨日あれから火が出て足元を照らしてくれていただろ? それは今ああして火の魔術を男の人が込めてくれているから、暗くなったときに魔術が発動して暗闇を照らしてくれるようになってるんだよ」

「そうなんですか~。でもあの装置街中にあるのに、あの人だけで全部やるのは大変じゃないですか?」

「確かに一人でやるのは大変だろうな。だけどな、アル。この国ではああいった街をよくするためのものは魔術を使える人が率先して手を加えるんだよ。仮にもここは魔術の最先端の国だ。自然と魔術を使える人も多く集まる。人には困らないさ。それに、学院の魔術の実習の一環として魔術を込めに街を回ったりするなんてこともあるみたいだしな」

「それじゃあ、クラリスさんもああして街をよくするために今学院で頑張っているんですね!」

「まあ、そういう考え方もあるな」

 アルはそれから男が装置に魔術を込め終わるまで、その様子をじっと見つめていた。それも物欲しそうな目をしてずっと。

(……まさか。いや、でもアルのことだからな……)

 フィードはそんなアルを見てある考えが思い浮かぶ。日頃フィードの、そして身近な人の役に立ちたいと思っているアルだからこそ、そんな考えが浮かんだのかもしれない。男がその場を去ってもまだずっと同じ場所を見続けるアルに、フィードは思わず問いかける。

「なあ、アル。お前もしかして、魔術を覚えたいのか?」

 その言葉にアルは傍目から見ても分かるほど動揺する。

「え、え? いえ、別に私はそんなことは……」

 もじもじとし、視線をあらぬ方向へと飛ばすアル。どう見ても図星である。

(たぶん昨晩クラリスと魔術に関しての話でもしたんだろうな。それで少し歳の離れたクラリスが魔術の学院に通っているっていうのを目の前で見て興味が沸いたんだろう)

「あの、マスター。本当に思っていませんから……」

 フィードに気を遣わせまいとアルは先ほどの質問に対しての答えを否定する。だが、その落ち込みようや未練がましく装置を眺めている様子はとても諦め切れているとは思えない。

「アル、もう一度だけ聞くぞ。お前本当は魔術覚えたいんじゃないのか? 俺に対する遠慮とかはいいから言ってみろ」

 その言葉にアルはしばらくの間黙ってしまう。その間何度もフィードの顔を見上げては視線を逸らし、何度も言葉を口にしようとしてしゅんとしてしまう。そして、それが何度か行われた後、意を決したように、

「教えてもらえるなら、教えてもらいたいです!」

 とフィードに頼み込むのだった。そんなアルを見てフィードはかつてリオーネが似たようなことを言って、魔術を教えてくれないかと頼んだことがあったのを思い出す。

(あの時とは状況も違うし、リーネの件に関する反省も十分した。だから今まであえてアルのやつにはこういったものとは縁がないようにしてきたけれど、今のアルは俺が教えなかった理由を分かった上でお願いしているんだよな。滅多に人にお願いなんてしないやつだし、断ったら断ったでまた俺の知らないところでこっそり泣くんだろうな。このまま教えないでいても隠れてどうにかしそうだし、仕方ないか……)

「……分かった。教えてやるよ、魔術」

 フィードの言葉にアルの表情がパァッと明るいものへと代わる。訪れた歓喜に身体を震わせ、今にも飛びついてきそうな少女にフィードは忠告する。

「ただし、条件がある。一つ、戦いだとかそういう物騒なことに魔術を使わないこと。人助けのちょっとしたことに使うのはいいけれど、慣れないうちに魔術を使うとその力を持て余して人を傷つけてしまうことがあるからな」

「はい、分かりました」

「それから、もう一つ。俺に隠れて魔術を覚えようとしないこと。独学で魔術を覚えようとすると失敗して怪我を負うことが多い。俺はアルにそんな風になってほしくないから、どうしても覚えたいことがある場合は俺に聞くこと。教えられる範囲では教えてやるから。
――そうだな。ちょうど学院に通っているクラリスと俺より魔術に詳しいクローディアもいることだし、この国に滞在している間は二人に聞くのもありだ。ただし、クラリスはまだ学生だから二人とも分からないことがあったら無理をせずクローディアか俺に聞けよ」

「はい! マスター!」

 アルは魔術を教えてもらえるのがよほど嬉しいのか、興奮していつにもまして元気な返事をしていた。そんなアルを微笑ましく思いながら、フィードは、

「それじゃあ、お菓子でも買って帰るか。家に着いたら少しだけ魔術について教えてやるよ」

「ありがとうございます。マスタ~」

 感極まって結局フィードの胸へと飛び掛ってきたアルを受け止めた後、二人は帰路を歩き始めた。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
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      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
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好きなアーティスト:福山雅治
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