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予想外の報告

 フィードがセントールからトリアへと行こうと決めてから二週間ほど経った。あれからクローディア宛ての手紙を書き、トリアへと向かう郵送屋に手紙を渡し、その返事が来るまでの間のんびりと毎日を過ごしていた。手紙を送った後、普段誰かと連絡をとることのないフィードにアルが軽い気持ちで手紙の相手との連絡はどれほどのものかと聞いたところ、なんと二年ぶりだという。
 どうやら、リオーネと旅をしていた頃にフィードがトリアへ立ち寄った際、交流を持ったのだそうだが、それでいても二年も音信不通だった相手にいきなり連絡を取るのはいささか失礼ではないかとアルが文句を言うと、

『まあ、いきなり押しかけるわけでもないし駄目なら駄目で他を探すだけだ。といっても俺はあいつに一つ貸しがあるからたぶん了承してくれると思うぞ』

 と、笑いながら返事をした。フィードの言っていることについてアルが知ることになるのは、これから一週間後、手紙の返事が来たときであった。

「ほら、アル。なにボーっとしてるんだ。あの牛車の荷台に乗るぞ」

 フィードに声をかけられて、アルは現実に引き戻される。ここしばらくのことを思い返していて意識が想像の世界へと旅立っていた。首を振り、意識を現実のピントと合わせる。
 青い空の中、漂うさまざまな形をした雲。穏やかな風が辺りに生えている草木を揺らし、アルたちの着ている衣服をたなびかせる。己の前には彼女のしたう青年フィードと彼らを待ってくれている牛車。そして、その牛車の主である小太りな男がいた。牛車の荷台には陶芸品や大量の麻袋が乗せられており、男がそれらの品をどこかへと運ぶ途中なのだと分かった。

「えっと、マスター。どうしたのですか?」

 ボーっとしていたため、話についていけていないアルは戸惑い、ついフィードへと尋ねる。

「話を聞いていなかったのか? えっとな、今このオジサンがトリアへ向かっている途中なんだよ。で、俺たちも向かう場所は同じだろ? だから荷台に乗せていって一緒に連れて行ってもらえないかって頼んだんだよ。それで、向こうの了承が得られたから、荷台に乗るぞって言ってたんだよ」

「あ、なるほど。そうだったんですか……」

 ようやく事態を飲み込めたアルは、フィードに手を引かれて牛車の荷台に乗り込む。二人が後ろに乗ったことを確認した男は、止めていた牛を動かし、トリアへと向け移動し始めた。

 荷台に乗った二人は流れ行く景色を眺めていたが、先ほどのアルの様子をみて心配したフィードが思わず声をかける。

「なあ、アル。お前本当に大丈夫か?」

 これまで旅を続けてきたフィードと違い、アルは旅にそこまでなれていない。フィードによって救い出されたあと、ほんの少しの期間だけ旅をしていただけだ。そのため、今回のトリアへの移動もフィードはペースを落とし、アルの体調を気遣いながら行なっていた。

「いえ、大丈夫です。それにこのままなら後一日で着く予定なんですよね。それなら、少し無理をしたところでどうってことないです」

 アルの返答にフィードはあまり納得していない様子だったが、やがてそれ以上の追及はやめた。そして、持っている荷物の中から一枚の封筒を取り出す。それは、トリアから送られてきたフィードの旧友、クローディアからの手紙だった。
 封を開け、もう何度も読み返した手紙の内容を改めて読み返すフィード。隣に座っているアルも、フィードの傍により、覗き込む形で書かれている内容を見た。

『久しぶりだね、フィード。早いもので君とリオーネがこの国を去ってからもう二年が過ぎたよ。しばらくの間君たちがどうしているのかってことはまったくわからなかったけれど、ここ最近の噂で君たちの事を耳にしたよ。
 相変わらず破天荒な日々を生きているんだね。この手紙を書きながら、君たちとの日々を思い出して思わず笑ってしまったよ。
 ひとまず君が頼みたい用件は了解したよ。たぶんどうにかできると思うから、いつでも来てくれ。話したいことがたくさんあるんだ。
 そうそう、クラリスも君に会いたがっていたよ。最近はちょっと訳があって僕とは話してくれなくなって、塞ぎがちなんだけど、君が来てくれるのならまた前みたいに明るいクラリスに戻ると思うんだ。その件についてもまた会ったときに話そう。それじゃあ、また。
 君の友人クローディアより』

 手紙を読み終えたフィードはそれを封筒に入れてカバンに閉まった。旧友に会えるのがよほど楽しみなのか、その表情は笑顔が絶えず、フィードにしては珍しく落ち着きがなかった。

「マスター。前から聞きたかったのですけれど、このクローディアさんという方とはどういう経緯で知り合ったのですか? どうもマスターがリーネさんと旅をしていたときに知り合ったみたいですけれど」

 先日別れることになった女性の姿を思い出してアルは微笑みながら尋ねる。彼女との出会いがあったおかげでアルはフィードの過去の一端に触れることができ、そして自分の存在を改めて肯定してもらえることになった。そのおかげもあって今もこうして彼の過去に触れることができる。

「そうだな……。こいつとは俺がリーネと旅をしてトリアを訪れたときに知り合ったんだ。とはいっても到底普通の出会いじゃなかったけどな」

「どんな出会い方だったんですか?」

「いやさ、こいつ学院の講師の他に魔術の研究をしているっていったろ? クローディアってば研究に熱が入ると不眠不休。たまに飯まで抜いて研究に没頭するんだよ。俺たちが最初に出会ったのはクローディアの研究が一息ついて飯食いに外に出てきたときなんだ。
 あいつ自分が休んでいなかったことも忘れてて道を歩いている俺たちにぶつかったと思ったら急に倒れるんだよ。見捨てるわけにもいかないから、どうにか家を突き止めてクローディアを送り届けたのが最初だな」

 その出会いがよほどおかしなものだったのか、フィードは笑いを堪えながら話をした。

「ふむふむ。そんな風にして出会ったんですね。こんなことを言うと失礼ですけど、クローディアって人はその……ずいぶん変わっていますね」

 さすがにまだ会ったことのない人物を『変人』というわけにもいかないアルは、表現をぼかして呟いた。

「ま、まあ確かに変わったやつだけど、いいやつっていうのは保障するぞ。ただ、お人好し過ぎて心配になるときもあるけどな」

「なるほど、類は友を呼ぶというやつですね」

「おいおい……」

 アルの呟きに思わず言葉を失うフィード。だが、アルにしてみれば、フィードも相当なお人好しなのである。

「そういえば、さっきの手紙にあったクラリスというのは誰のことなのですか?」

 封筒の入った荷物に視線を移し、アルは問いかける。クローディアのことについてはフィードから説明を受けていたが、クラリスという人物については初めて聞いたのだ。

「ああ、クラリスか。こいつはクローディアの妹だよ。歳は確か……アルよりも三つか四つ上だったかな。クローディアと一緒に住んでいるんだ。……そうだ、ちょうどいい。アル、お前向こうに着いたらクラリスと友達になれよ。セントールじゃイオくらいしか同年代の友人いないだろ。この際に交友関係を広げるのもいいんじゃないか?」

 フィードの急な提案にアルは戸惑う。

「その……会ってみてから考えさせてもらってもいいでしょうか?」

「構わないぞ。まあ、全部はトリアに着いてからってことだな」

「そうですね。あ、それとマスター一つだけ訂正します。私とイオさんは決して友達なんかじゃありません! あの人はただの仕事仲間です!」

「お前まだそんなこと言ってるのか。いい加減あいつと仲良くなれよ」

「嫌です! 絶対に嫌です!」

 呆れるフィードと必死に友人関係を否定するアル。そんな二人を乗せて牛車はゆっくり、ゆっくりとトリアへと向けて進んでいくのだった。



 夕日が地平線の彼方へと沈み、夜が訪れた。空は薄っすらと暗がりが現れ、小さな星の数々が現れ始めた。そんな星の下、篝火に照らされた歩道を歩く二つの影。

「う~ん。確かこの辺りだったと思うんだが」

 辺りを見渡しながら、目的の家屋を探すフィード。もうかれこれ一時間ほど歩き尽くめだった。燃え上がる炎によって明るく照らされる歩道。そのすぐ傍には綺麗に整備された水路がある。そこを流れる水をぼんやりと眺めながら、アルはフィードの後についていた。
 日が沈む前にトリアに到着した二人だったが、二年もの間に増えた建物とフィードの記憶にある街との差異から道に迷ってしまい、目的地であるクローディアの家に中々辿りつけずにいた。もっとも困っているのはフィードだけで、アルは道に迷ったこともお構いなしに新しい国、新しい街を見て興奮していた。暗くなってしまい、街全体がはっきり見えるわけではないが、それでもセントールとはまた違った街並みに目を光らせ、心躍らせていた。
 いくつもの路地を通り、ある通りに差し掛かったとき、アルの前を歩くフィードが思わず声を上げた。

「おっ! この通り覚えがあるぞ。たしか、クローディアと最初に会った場所だ」

 ようやく見覚えのある場所を見つけたのか、フィードは少し早足になり、記憶にある道を進んでいく。そして、ある一軒家にたどり着いたところでその足は止まった。玄関の前に立ち、胸に手を当てて深呼吸をするフィード。そして、玄関の扉を二、三度ノックした。しばらく何も反応が返ってこなかったが、やがて扉に向かって走ってくる誰かの足音が聞こえ、扉の前に着くとその音が一度消える。そして、夜遅くの訪問者を警戒するように少しずつ扉を開けながら外にいる人物に向かって問いかける。

「はいはい。こんな時間にどなたですか……」

 まだ若い少女の声が扉の奥から聞こえる。けだるげな声で問いかけた言葉は、しかしその途中で途切れることになる。そして、扉から少しだけ出した眠そうな顔は訪問者が誰なのか悟ると一瞬にして驚愕の表情へと変わった。

「えっ……え!? フィードさん!? なんで、ここに? というかいつ来たの!」

 突然の再会に驚く少女。事態が把握できないため、パニックに陥ってしまい、言っていることは支離滅裂だった。

「久しぶり、クラリス。もしかしてクローディアから何も聞いてないのか?」

 てっきり話をしているものだと思っていたフィードは予想外の事態に驚く。

「う、うん。だって、ここ最近兄さんとは話していなかったから……。それにしてもビックリした。フィードさんってば突然来るんだもの。とりあえず、こんなところで立ち話もなんだし中に入って」

 扉を完全に開き、家の中へと手招きするクラリス。彼女に案内される形で家の中へと入るフィードとアル。部屋の隅々まで明かりが灯された屋内はそれまでぼんやりとしか見えなかったクラリスの姿をはっきりと現す。
 腰まで届きそうな灰色のロングへアー。真っ黒な暗闇の中でも光り輝きそうな金色の瞳。既に寝巻きに着替えているが、昔に比べて成長した身体つき。身長はかつてよりも十センチ以上は伸びており、未だ膨らみかけの胸は成長途中であることを示している。まだまだ子供っぽさは抜けきっていないが、それでも大人への階段を歩み始めた少女の姿がそこにはあった。

「思っていたよりも大きくなったな」

 たった二年でこれほどまで成長するものなのかとしみじみ思っていると、フィードの後をとことこと付いて来たアルを見てクラリスが不思議そうにする。

「あれ? フィードさん、今日はあの女と一緒じゃないんだ」

「あの女? ……ああ、リーネのことか」

「そうそう。なんだか聞いたところだとフラムの騎士団副隊長なんて立派な地位に着いたみたいね。フィードさんとの旅はもうやめたの?」

「うん。まあ、色々あってな。そこのところはまたクローディアが来てからな。そういえばあいつの姿が見当たらないけれどもしかして研究所か? それともシアに会いに言ってるのか?」

 ニヤニヤとしながらフィードがクラリスに問いかける。シアというのはクローディアの恋人の名前だ。かつてフィードとリオーネがこの街に滞在していた時期にクラリスと協力をしてクローディアとシアの二人を恋人へになる手助けをしたのだ。そのときの思い出があるフィードはこの話を出せばクラリスも話しに乗ってくれると思っていたのだが、予想に反してクラリスの反応は芳しくない。それどころか、その顔は徐々にしかめっ面へと変わっていった。

「あ、あれ……クラリス? どうしたんだよ、ちょっとした冗談だろ。もしかして、あいつら今喧嘩でもしてるのか?」

「その話は、本人に聞いてみたらどうですかね」

 そう言ってクラリスが向いた先にはちょうど二階の自室から降りてくる一人の青年の姿があった。不健康そうな細身の身体に下手をすれば女と見間違うような中性的な顔立ち。妹であるクラリスと同じ灰色の髪に金色の瞳をした青年、クローディアの姿がそこにはあった。そんなクローディアと入れ替わりになるように先ほどまでフィードたちの傍にいたクラリスは階段を昇って二階へと消えていってしまう。
 突然機嫌を悪くしたクラリス、そして困ったように微笑むクローディアを見てフィードは何が起こっているのか訳がわからず、戸惑う。そんなフィードにクローディアが話しかける。

「久しぶり、フィード。ごめんね、クラリスがあんな風で」

「べつにそれはいいんだけど。いったいどうしたんだ? さっきまで普通だったんだけど、お前とシアの話をしたら急に機嫌が悪くなったんだが……」

 フィードの言葉にクローディアがやっぱりかというように苦笑いを浮かべる。

「あのさ、フィード。怒らないで聞いてくれるかな?」

「まあ、保障はしないけど。俺が怒るようなことがあるのか?」

「えっと、実は……僕とシアさ。……別れたんだよ」

 クローディアの告白に、フィードは何か聞き間違えたのかと思った。そして、もう一度クローディアが言った言葉を頭の中で反芻し、ようやくその意味を理解すると。

「な、な、なにぃ――――ッ!」

 と、室内全体に響くほどの叫び声を上げた。そんな旧友の反応にクローディアは再び苦笑いを浮かべるのだった。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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