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三章「トリアの魔術師」 トリアへの手紙

 鋭い日差しが肌を刺す。夏季に入ったためか、町を歩く人々の格好は薄着となり、行商人が売る品物もひんやりとした冷たい果実や暑さ対策のための帽子、肌着が多く売られるようになった。
 うだるような暑さに耐え切れず、日陰に隠れる者もいれば、涼しさを求めて町にある噴水広場にあつまり、吹き上がる冷たい水しぶきを浴びながら一休みしている者もいた。

「暑いですね~。マスタ~」

「そうだな、暑いな」

 噴水広場で休む人々の中には、ベンチに座る二人の人物の姿も見受けられる。この暑さの中でも長袖の服を着ている少女と、その隣で、腕を扇いで少しでも風を送ろうとする青年。ここ最近の出来事によって、下町ではすっかり知られた顔となったフィードとその従者とも呼べる少女、アルの二人だ。
 だが、周りの視線を集めていることに気が付きながらも、二人は全く気にした様子を見せず会話を続ける

「なあ、アル。お前もそろそろ薄着にしないか? さすがにいつまでもその格好ってわけにいかないだろ」

 滝のように汗を流しながら、それでも何でもないというように意地を張るアルにフィードは尋ねる。

「そうしたいのはやまやまですけど、私が薄着になってしまうと肩の烙印が見えてしまうじゃないですか」

 そっと、己の肩を抑えてアルは呟く。長袖によって隠れたその肩には、かつて魔術によって刻まれた奴隷としての烙印が存在する。とはいっても、その烙印は今となっては『意味を成さない』のだが、それに気がつけるのは魔術についての知識がある程度ある者だけであり、一般人では気が付くことができない。
 そのため、うかつに烙印を晒すわけにもいかないのだ。

「お前の烙印を消してやりたいけれど、俺じゃあそれができないからな。かといってこの町に優秀で、口の堅い魔術師の知り合いなんて俺にはいないからな……」

 困ったように頭を掻き、アルの烙印についての処置をどうするべきかと考えるフィード。彼女と一緒に過ごすようになってから早数ヶ月。元々セントールでの暮らしが落ち着いてからどうにかしようと考えてはいたフィードだったが、ここ最近の事件によってそんなことを考える余裕もなくなり、ようやく訪れた平穏によってアルの件について考えるようになれた。

「いいんですよ、マスター。私は気にしていませんから。夏季が過ぎるまで長袖で過ごさないといけないのはちょっぴり辛いですけれど、それだけです。今は私の烙印について知られて冷たい目で見られることになるほうが私にとってはよっぽど辛いです。
 だから、夏季が過ぎるまでの間、ちょっと我慢すればいいんです」

 グッと両手を握り締め、自分は大丈夫だとフィードにアピールするアル。しかし、そんな言葉とは裏腹に滲み出る汗は止まらず、たまにだが貧血も起こしている。

(アルがこういっても、今まで運がよかっただけで隠していることはいつか知られることになるよな。その時に傷つくのはアルだし、早いうちに手を打っておくのがいいだろうな。
 それに……)

 アルの心配をしながら、フィードは噴水広場に集まっている人々を見回す。見ると、その中には鎧こそつけていないものの、二月ほど前に見たセントールの騎士の姿がいくつもあった。

(アルは気が付いていないけれど、もう何日もこんな状態だからな……)

 十二支徒エンリカを撃退し、フィードがリオーネと別れた後、セントールの騎士たちはフィードたちの監視を始めた。理由として最も考えられるのが、フィードが実は十二支徒との間に繋がりがあるのではないかということだ。フィードにとってみれば十二支徒は仇敵であり、そんな考えなど即座に否定できる。しかし、あの十二支徒とこの短期間に二度も接触し、傷を負ったものの生きながらえているフィードを見て、セントールの騎士団は疑問を抱いたのだろう
 フィードにとって不幸だったのは、十二支徒との件に関してセントールの騎士団が直接関わりを持たなかったことにある。最初の時はフィードだけが関わり、町長を通じての事後報告となり、二度目の事件の際はリオーネやフラム騎士の一部が関わったとはいえ、その殆どが操られていた状態であったため、きちんとした報告ができたのはフィードとリオーネだけだった。
 さすがに、この件に関してはリオーネの信用が高かったおかげもあって大事には至らなかったが、それでも疑惑の目を向けられる理由としては十分であった。
 おかげでここ数日の間フィードとアルはどこに行くにしても騎士に付け回されることとなり、せっかく訪れた平穏をフィードは心から喜べなかったのだ。

「マスター。どうかしましたか?」

 そんなフィードの心境を知るはずもないアルは、不思議そうな顔をしてフィードを見つめていた。

「いや、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだ」

 フィードはアルの問いかけの答えを誤魔化す。アルには余計な心配をさせたくないとの配慮からだった。そんな風にして再びゆったりとした時間の中で涼み、休憩を続ける二人。暑い季節、飛び散る水滴、広場を走り回る子供たち。そんな光景をボーっと見つめているフィードの脳裏にはある場所と、かつて一時を共に過ごした青年の顔が浮かび上がる。

「そうだ……あいつがいた!」

 突然立ち上がり、声を上げるフィードに隣にいたアルはびくりと身体を震わせる。広場にいる人々の視線がフィードの元へと一斉に集まり、静寂が訪れる。

「あ……」

 自分の行動が周囲の視線を集めていることに気が付いたフィードは顔を赤くし、恥ずかしさとともに再びベンチに座った。

「マスター……あまり変な行動を取られると私まで冷めた眼差しでみなさんに見られるのでやめてください」

「すまん。ちょっと、ある事を思い出してな」

「ある事って何ですか?」

「えっとな、アル。ちょっと時間はかかるかもしれないけど、その烙印消せるっていったらもちろん消したいよな?」

「……はい。できることなら消したいです。何かいい案があるのですか?」

「ああ。実はな、トリアに腕の立つ魔術師の知り合いがいるんだよ。そいつなら口も堅いし、アルの烙印も消せるはずだ。だからな、しばらくの間この国を離れることになるけれど、トリアに行こうと思うんだ。もちろん、そいつに連絡を取ってからだけどな」

 さっそく手紙を送ろうと、ベンチから立ち上がり、宿へと戻り始めるフィード。そんな彼の後を一歩引いた状態で付いていくアル。烙印を消せる希望が出てきたため、アルの表情は明るくなっていた。

「それで、その知り合いの方はなんと言う名前なのですか?」

 後ろから声をかけたアルにフィードは振り向き、微笑みながら答える。

「そいつの名前はクローディア。トリアの魔術学院で講師をしながら魔術の研究を続けてる俺の友人さ」

  
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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

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     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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