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別れの時、新しい居場所へ

 十二支徒の一人、エンリカを撃退してから一週間が経った。あの後、リオーネによって呼び寄せられた騎士たちは、負傷しているフィードや他の騎士たちを宿へと運び、傷の手当をした。
 リオーネが戻った時には既に気絶していたフィードは血をかなり流しており、二日間意識が戻らず眠り続けることになった。そんな彼の見舞いには下町からたくさんの人々が訪れ、彼の復帰を願っていた。
 そして、二日後の朝、意識の戻った彼はしばらくの間、宿で療養する事になり、一部の者を除いて面会謝絶となった。その間、再びセントールの騎士たちに事情説明を受け、うんざりとしながら、フィードは問いかけられる質問に丁寧に答えた。結局、今回の件はセントールの騎士が何もしていないという事は明白なため、フラムの騎士団が十二支徒を撃退したという事で落ち着く……はずだった。
 しかし、その話を聞いたリオーネが激怒し、結局フラム騎士団主導のもと、フィードの助力もあって解決したということで話は落ち着いた。
 それから五日が経ち、ようやく傷もほとんど癒え、外出を許可されたフィードは真っ先にリオーネのいる宿に向かっていた。

 一週間前の戦いでリオーネと交わした約束を果たすために。

 宿から少し離れた場所でフィードは荷物を持って宿の前に立っているリオーネを見つける。見ると、なにやらリオーネは挙動不審だった。キョロキョロと周りを見回しては、ハンチングを深く被っては少し上げ、こっそりと周囲の様子を伺っている。

「おい、何やってるんだ。リーネ」

 見ていられないと思ったフィードは思わず声をかけた。

「あ!? フィード。ど、どうも。久しぶりですね」

 何故かどもるリオーネ。どうにも様子がおかしかった。

「なあ、何でそんなに周りを警戒してるんだ? それに、気を張りすぎてて、今のお前ただの不審者になってるぞ」

「そんな事言っても、この間の件でまた私の噂が広まってしまって、ここ数日色んな人に取り囲まれて困っていたんです」

 本当に困っていたのだと力説するリオーネにフィードは思わず笑ってしまう。

「そうか。まあ、あんなことがあった後じゃ、しょうがないよな……」

「ええ。本当に……」

 リオーネに会ったら本題に入ろうと思っていたフィードだったが、どうにも上手く話を切り出せずにいた。しかたなく他愛無い会話で時間を稼ごうとするが、それも上手くいかない。
 息を大きく吸い込み、覚悟を決めると、意を決して本題を口にした。

「リーネ……あのさ、あの時のことなんだが」

 しかし、フィードの予想に反して、リオーネは首を振り、その話を続けさせようとはしなかった。

「フィード、私はまず一つあなたに謝らなければならないことがあります」

「なんだ?」

 話を遮られたフィードは出鼻を挫かれる形となり、その勢いをなくしてしまった。そして、先に話をしようとするリーネの言葉に耳を傾ける。

「実は、あなたが眠っている二日間に私はアルちゃんから全部話を聞いてしまいました」

 それを聞いてフィードは思わず顔をしかめた。

「すみません。でも、あの時はこのままあなたが目を覚まさないと思ったら永遠の謎になってしまうと思って、私はなりふり構っていられなかったんです」

「あれぐらいじゃ死に至らないってくらい、お前なら分かるだろ?」

「もしかしたらってことがあるじゃないですか! そりゃあ寝てただけの人はいいですよ。みんなが心配している事も知らないで目を瞑っていればいいだけですから」

「酷い言われようだな。それで? お前はアルから話を聞いて何か言いたい事があるんじゃないか?」

 フィードの言葉にリオーネは一度深呼吸をし、呼吸を落ち着けて答える。

「私、やっぱりあなたのことを許しません。理由は確かにあったのかもしれませんが、それを私に話してくれてもよかったじゃないですか」

「でも、話したらお前絶対に付いてきたろ?」

「当たり前です。それに、あれだけ一緒にいて背中を預けてくれていたのに、ちょっと十二支徒に脅されたからって私を手放した事が許せません。
 これじゃあ信頼も何もなかったって事じゃないですか」

「いや、それはな……」

「そして一番許せないのは私の意思を全く無視して一人で勝手に結論を出して行動した事です。前にもいいましたが、私の人生は私のものです。いくらこればっかりは助けてもらったあなたでも好きにはさせたくありませんでした」

「……」

「だから私はあなたの事を許してあげません」

「そうか……」

 リオーネの言葉に僅かながらも気を落とすフィード。心のどこかでは彼女と和解できるという望みがあったのだろう。
 だが、そんなフィードを見たリオーネはいじわるそうな笑みを浮かべ、

「でも、もう恨み言を募らせるのも止めます」

 と、話を続けた。

「——えっ?」

 突然のリオーネの発言に思わず呆気にとられるフィード。そんなフィードの様子をみてリオーネは満足そうにしていた。

「話を聞いて許せないという気持ちは変わりませんでした。でも、同時にあなたがどれだけ私の事を考えて心配してくれていたかも理解しました。
 だから、もう泣き言を言ったり、恨み言をあなたにぶつけることはありません」

 リオーネの発言にフィードは照れくさそうに視線を外して頬をかいていた。

「お前……不意打ちすぎるだろ、それ。俺もう二度とお前と話できないんじゃないかって思ったぞ」

「本当にそのつもりなら、今日こうして会って話をすることもありませんよ、フィード」

 それもそうかと呟くフィードにリオーネは終始笑顔のままフィードを見つめていた。そんな二人を通りを歩く人々がチラチラと見始めるようになってきた。少しは変装をしているリオーネはともかく、フィードはいつも通りなため、道行く人が噂の二人だということに気がつきだしたのだろう。

「少し、歩きませんか?」

 そんな時、リオーネから散歩の提案があった。それがどうしてなのかは、リオーネが持っている荷物を持っている時点である程度フィードには予想がついていた。

「ああ、そうだな」

 それを口にすることなく、フィードはリオーネの提案を肯定した。
 道行く人々に混じり、二人は歩き始めた。端から見れば、友人にも、相棒にも、家族にも、恋人のようにも見える。人目を惹きながら歩く二人。
 二人の間には以前のような溝はなく、その距離は自然と縮まっていた。フィードは歩く人にぶつかるといけないからという名目で。そして、リオーネはそんなフィードの意見を肯定する形で。
 通りを歩く二人は何度か露店の商人に声をかけられた。それを断る事もせず、売られている商品の数々に目を通し、互いに談笑し、楽しい時を過ごしていた。
 そして、幾つ目かの露店、主にアクセサリーが置かれている露店を見ている時になって、ようやくフィードはリオーネに問いかけた。

「帰るんだろ、フラムへ」

 商品を見ていたリオーネは後ろに立っているフィードの方を振り返ることなく答える。

「ええ……今回の件の報告もあるので私だけ先に戻る事になりました。他の隊員はまだしばらくこちらに滞在しますが」

 ネックレスや指輪をその手に取って眺めながらリオーネは話した。フィードはそのことを寂しく思いながらも彼女を引き止める言葉を口にはしなかった。

「そっか……」

「私にとって、今いるべき場所はあそこですから。それに、昔と違って今の私は責任が伴う地位にいます。そう軽々とそれを投げ出す事はできませんよ」

 そう言うとリオーネは一つの指輪を手に取り、フィードに差し出した。

「これ、買ってもらえますか?」

 そんなリオーネのお願いに、フィードは

「ああ、そんなものでよければ」

 と、即座に答えた。商人から指輪を買ったフィードは、それをリオーネに手渡す。

「ほら、大事にしてくれよ」

 受け取ったリオーネはその表情に嬉しさを滲ませながらも、何故か不満そうに頬を膨らませていた。

「もう、相変わらず女心が分からない人ですね! こういう時は買った相手が指輪をはめてくれるのが普通ですよ」

 文句を言って指輪を返すリオーネにフィードは苦笑する。そして、リオーネに言われた通りに指輪をその右手にはめようとするが、今度は頭に手刀を当てられて怒られる。

「もう! 違うって言ってるじゃないですか! それぐらい察してください」

 指輪を買った行商人に暖かい眼差しで見つめられ、気恥ずかしさを覚えながらもフィードはリオーネの言わんとしてる事を察して言う通りにした。

「わかったよ。——ったく。こんなこと、もう二度としてやらないからな」

 顔を真っ赤にしながら、リオーネの左手の薬指に指輪をはめるフィード。その意味するところを知っているからこそ、フィードは指輪をはめたくなかったのだ。
 自分の指にはまった指輪を見て満足そうにしているリオーネ。そんなリオーネにフィードが呟く。

「リーネ、俺は……」

「いいんですよ。あなたがそういった考えを誰にも持っていない事は、ずっと一緒にいた私がよく知っています。言ってしまえばこれは私の自己満足です。他の人には、それこそアルちゃんにもあなたのことを渡さないという私なりの牽制です」

「おいおい、過激な発言だな」

「それくらい言っておかないとあなたはすぐに他の女の子を誑し込むので安心できません。トリアの時だってそうだったじゃないですか……。もう忘れたのですか?」

 呆れるリオーネにフィードはとうとう何も言い返せなくなってしまう。女相手の口論。それも自分をよく知っている相手だと分が悪いという事をフィードは悟り、反論するのを諦めるのだった。



 店を離れた二人は次第に無言になった。しかし、不思議と嫌な気分にはならなかった。むしろどこか心地よい感覚が二人の間に漂っていた。だからこそ、お互いに別れがもうすぐなのだということを理解した。そして、セントールの西門に近づいた時、リオーネがその足を止めてフィードの方を向いた。

「ここまでで大丈夫です。色々とお世話になりました、フィード」

「ああ。お前と会えて嬉しかったよ、リーネ」

 互いに見つめ合い、穏やかな時間が流れて行く。

「フィード。最後に一つだけあなたに伝えておきます」

 別れる前に話を切り出したのはリオーネだった。

「なんだ?」

「確かに、今の私は責任の伴う立場で軽々とフラムを離れるわけにはいきません。
 ですが、もしあなたが本当に助けを求めて、私を必要としてくれるのなら、私はいつだってあなたの元へと駆けつけます。
 それが……私があなたにできる精一杯の恩返しです」

 かつては口にしなかった決意をリオーネは伝える。互いに言葉を重ね合わせるのが足りなかったため起こった以前の反省を活かしてのことだった。そんなリオーネにフィードもまた以前とは違う言葉を口にする。

「もしそうなったら、伝えるよ。お前の事が必要だって……な」

 お互いに伝える事を伝え合い、別れの時がとうとう来た。立ち止まるフィードにリオーネは一歩、また一歩と距離を縮めて、最後にはその距離を零にした。
 触れ合い、重なり合う、互いの唇。脳が痺れるような甘さと、狂おしいほどの切なさの混じった感情にリオーネの胸がかき乱される。一瞬とも、永遠とも思えるような時間が過ぎ、どちらともなく、重なっていた唇は離れた。

「さようなら、フィード。どこにいても私はあなたのことを想っています」

 振り向き、去って行くリオーネの背にフィードもまた告げる。

「さようなら……リーネ」

 そしてその背が遠ざかり、小さくなると、フィードもまた自分の今いるべき場所へと歩き出すのだった。
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
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