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知られざる真実、少女の決意

 その日、フィードが宿に帰り出したのは、いつもよりも時間の遅い夜中のことだった。レオードの所で依頼を紹介してもらったフィードは中階層へと赴き、そこで依頼をこなしていたのだ。といっても依頼の内容はそんなに難しいものではなく、むしろ簡単なものだった。単に出かける両親の代わりに子供の面倒を見てくれとの依頼だったのだ。
 そして、外がすっかり暗闇に包まれて人の気配もなくなった時間になってようやく帰ってきた両親から依頼の報酬をもらい、フィードは宿に帰っていた。

「にしても今回の依頼はある意味今までで一番の強敵だったかもな」

 子供の面倒は今まで二度ほど、それもかなり長期の間面倒を見た事のあったフィードは、今回の依頼は楽なものだと軽い気持ちで挑んでいた。しかし、依頼主の子供に会ってみれば、その傍若無人さに思わず唖然。わがままし放題のお嬢様がフィードを待ち受けていたのだ。
 フィードのことをまるで都合のいい従者としか思わない少女に、始めは我慢していたフィードだったが、やがて我慢の限界が来たのか、

『よし、少しこの子に現実を思い知らせて上げよう』

 と、決意し口ではあまり言えない方法で少女を折檻し、少しだけ再教育した。本来なら依頼主に頼まれたのは子供の面倒を見る事であるため、その子供に手を出すなど言語道断である。しかし、フィードは独自の解釈で少女の再教育も将来の事を思えば面倒を見ていると詭弁を立て、自分の好きなようにしていた。
 結局、フィードによって少しだけ再教育された少女はわがままがなくなり、家に帰ってきた両親はそんな娘を見て非常に驚いていた。その後は両親にどのような手を使って娘を教育したのかを問いつめられ、あまりいい方法ではなかったフィードは答えに困り、報酬を貰うと逃げるように帰ってきたのだ。

(あの子は昔のリーネに似ていたな。あの時のリーネもわがままで、俺に対して上から目線で常に話しかけてきたっけ。まあ、今回はリーネの時の経験が役に立ったから、あの時のリーネとの日々も役に立たないわけじゃなかったってことだよな)

 懐かしい過去を思い出してフィードの口元から思わず笑みが零れでる。これまでアルと一緒に居たせいか、あまり思い出す事のなかったリオーネと過ごした日々が、ここ数日はよく思い出されるようになった。
 もちろん、彼女とフィードの関係は昔と違いずいぶんと変わってしまい、その原因を作ったのも彼自身なのだが、それでもフィードはリオーネの事を昔と変わらず気にかけていた。

(あいつ、あの後から一度も姿見てないけど、体調とか崩してないだろうな。まあ、もし何かあっても今はあいつの力になってくれる仲間が大勢居るから大丈夫か……)

 三日前、酒場で出会ったリオーネの部下である騎士たちの姿を思い出してフィードはそう思う。彼らはふざけているような一面もあったが、基本的にリオーネを信頼し、尊敬し、仲間として扱っていた。その様子を見てフィードは非常に安心したのを覚えている。フィードの傍にずっと居た彼女が、今となっては多くの仲間に囲まれていたのだ。フィードは表面上には出さなかったが、内心ではその事をとても喜んでいた。
 自分のやった事は確かにリオーネにしてみれば酷い裏切りで、恨まれるようなことだった。しかし、その一方で彼女は新しい居場所を見つけ、表の世界で功績を積み、地位を上げ、人に恵まれて、新しい人生を掴む事ができたのだ。彼女の幸せを願っていたフィードとしてはこの結末は望むものだった。たとえリオーネから生涯恨まれることになろうとも……。
 考え事を一旦終えると、宿はもう目の前にあった。中に入るとここ最近はいつものようにフィードを出迎えてくれるイオがいた。

「おかえり、フィード!」

 それまで退屈そうに椅子に腰掛けていたイオは、フィードが帰ってきたと分かった途端、勢い良く立ち上がり、フィードの傍へと駆け寄ってきた。

「ただいま、イオ。グリンさんはもう寝ちゃったかな?」

「いや、まだ起きてるよ。今は厨房で明日の仕込みをやってる」

「そっか。でももう遅い時間で客もほとんど寝てるだろうし、イオも早く寝とけよ。明日も仕事なんだからあまり遅くまで起きてると疲れが出るぞ」

 イオを気遣ってフィードが窘めるが、それにイオは舌を出してかわいらしく答えた。
「は~い。それじゃあ、私はそろそろ寝るね」

 そう言って自室へと向かうイオ。フィードはその背を見送っていたが、ふとイオが立ち止まり、フィードの方を振り向いた。

「あ~。そういえばさ。今ね、あの子が来てるよ」

 それだけを伝えるとイオは駆け足でフィードの前から去って行った。そして、その一言だけでフィードはイオの言わんとした事を理解した。

(アルのやつが帰ってきてるのか……)

 二階へと上がったフィードは自室の前で立ち止まり、一度呼吸を整えてから扉を開けた。



 扉を開けた先にはベッドに腰掛けているアルの姿があった。

「おかえりなさい、マスター」

「ただいま、アル」

 お互いにそれだけ口にし、続く言葉はしばらく出なかった。元々リオーネの元に居るアルがここに来たという事は、何か聞きたい事があって来たのだろうとフィードは予測していたからだ。そのため、アルが話を切り出すまではフィードは黙って待つ事にしたのだった。
 アルと同じように、空いているベッドに腰掛けるフィード。そんな彼を二、三度チラチラと遠慮がちに見た後、アルはギュッと膝の上に乗せてある手を強く握りしめて、話を切り出した。

「マスター! 改めて、リーネさんとマスターについて教えてもらえませんか? 私にはマスターがリーネさんを捨てたなんてどうしても信じられません!」

 アルの真剣な態度、そして自分とリオーネのことを本当に心配し、気にかけてくれているアルにフィードは、

「言ったろ、アル。俺がリーネの傍に居るとあいつの人生が無駄になるって思ったって」

「——ッ! マスターッ!」

「まあ、話は最後まで聞け。俺はさ、それこそリーネに会うまでは本当に何も持っていなくてさ、十二支徒を追いかける事に人生のすべてを費やしていたんだ」

 昔の話を語りだすフィードをアルはじっと見つめ、その話を一言でも逃さぬようにじっと聞き耳を立てる。これはリーネのためだけでなく、フィードの過去をほとんど知らないアルにとっても彼の過去を知るいい機会なのだ。

「旅を始めて三年近く経った頃だったかな。それまでの間に十二支徒の三人を俺はこの手で殺した」

 ゾッとするほど底冷えする声色でフィードは語る。それだけで彼が十二支徒に対してどれほどの憎しみを募らせているのかアルは理解した。

「でもさ、ずっと気を張りつめて殺気を周りにまき散らして憎しみだけを糧に生きている生活っていうのも長くは持たなくてさ。いつからか少しずつ心が擦り切れ始めてたんだよ。
 でもそんなことに構わず俺は旅を続けた。そんなある日俺の前に現れたのがリーネだったんだ」

 リオーネとの最初の出逢いをしみじみと思い出しているのか、フィードは一度口を閉じ、天井を見上げた。そして、一拍を置いた後、続きを語りだした。

「たまたま立ち寄った町でさ、奴隷商に連れて行かれそうになっている一人の女の子がいたんだ」

「それが……」

「そう、それがリーネだった。服装からして富裕層の子だっていうのは分かったけど、奴隷商に連れてかれているところを見ると、何か罪を犯したか身売りすることになったんだなってすぐに理解したよ。
 どっちかって思っていたらリーネのやつが声高に『助けて!』って叫んでるんだ。罪を犯した奴が助けてなんて言わないだろうし、身売りされたんだろうなって俺は思った。
 でも助けを求めるリーネに手を差し伸べる奴は居なかった。
 そりゃそうだよな。普通の人にしてみれば面倒ごとに関わりたくないと思うし、リーネみたいな富裕層の人間の身売りなんて借金がいくらあるのか分からないからな」

「でも、マスターはリーネさんを助けたんですよね? どうして、手を差し伸べたんですか?」

 アルは自分がフィードに手を差し伸べてもらったことを思い出しながら尋ねた。自分の前に同じように助けてもらった人がいるということは、おそらくフィードがアルを助けた理由もリーネと同じ理由なのだろうと思っていたからだ。

「実を言うと俺も最初は関わる気はなかったんだよ。でもさ、あんまりにも必死に助けを求めてるリーネを見てたら、昔同じように助けを求めて、それでも救ってもらえなかった自分の姿がリーネに被ったんだ。
 気づいたら俺はあいつの前に出てた。そして尋ねたんだ、『自由に生きたいか?』ってな。
 その後は『自由に生きたい!』って答えたリーネを引き取って一緒に旅をした。ああ見えてあいつ最初はわがままし放題で、これでも結構苦労したんだぜ」

 苦笑しながら語るフィードの様子は当時の苦労など感じられない。口では苦労したと言っているものの、実際はそんな風にあまり思わなかったのではないかとアルは思った。

「それからはずっとリーネさんと旅をしていたんですね?」

「ああ。リーネを引き取ったからって俺の旅の目的が変わるわけでもなかったから、あいつと一緒に旅しながら十二支徒を追ったよ。
 でもさ、あいつホントに箱入りのお嬢様だったから、自分の身を守るなんてこともできなくて、荷物になられても困るから、魔術や剣術、あとは生きるために必要な知識を教えた」

 おそらく、その経験が今のリオーネを形作っているのだとアルは予想した。

「それからしばらく時間が経って、あいつに背中を預けられるようになったころだったかな。いつの間にか俺はリーネにおかげで少しずつ擦り切れた心が癒されている事に気がついたんだ。
 こいつと一緒に居られるなら復讐なんてしなくていいんじゃないか? ってな。二人で穏やかに過ごす人生もいいんじゃないかって」

「それなら、どうしてマスターはリーネさんを置き去りにしたんです?」

 自分よりも遥かに大事にされていたリオーネの話を聞くのはアルにとって悔しく、嫉妬がないわけではなかったが、アルは話を聞き続けた。
 それはアルにとって大事な二人のためでもあったからだ。

 アルの問いかけにフィードは今まで誰にも、それこそリオーネにさえ明かした事のない本当の事実を語った。

「復讐を止めて旅を終えようと考えていたある日、十二支徒の一人と接触したんだよ。こいつが本当に最低の下衆やろうでさ、俺じゃなくてリーネばかりを狙っていたんだ。
 それも俺にだけ気づくように、それでいてリーネには気づかれないように気配を消してな。俺は怖かった。リーネまで失ったら俺は今度こそ本当に壊れてしまいそうだったから。
 だから、あいつには何も言わないで気づかれないようにその十二支徒を始末した」

「でも、それがリーネさんを置き去りにした事にどう繋がるんですか?」

「その十二支徒を殺す直前に言われたんだ。『お前は既に俺たちにとって真の意味での敵になった』ってな。それを聞いて俺は思ったよ。逃げる事はできないって。でも、同時にこうも思った。俺はともかくリーネはこいつらの敵になっていないって」

「……」

「俺の傍に居ればいつかリーネは命を落としてしまうかもしれない。もしそうなったら、俺は自分が許せない。だから、決めたんだ。あいつは俺とは無関係な世界で生きさせようって。
 あいつほど真面目で努力家で才能もあるやつなら、こんな血に塗れた世界じゃなくて華やかな表の世界でも生きていけるって分かっていたから。
 だから、俺はあいつが嫌がっていても、俺自身のわがままであいつをフラムへ置き去りにしたんだ。
 これが……俺がリーネを『捨てた』真実だ」

 そこまで語ってフィードはずっと抱えてた肩の荷が降りたのか、実に穏やかな顔をしていた。しかし、対照的にアルは浮かない顔で今にも泣き出しそうだった。

「どうして! そんな理由があるならなんでリーネさんに話さなかったんですか! そうすれば今みたいにマスターはリーネさんに恨まれる事なんてなくて楽しく笑いあって過ごせたかもしれないのに!」

 ついに涙を零して訴えるアルにフィードは苦笑し、

「言えるわけないだろ。もしこれを言ったらあいつ絶対に俺についてきたからな。相手の意思を無視して自分のわがままを通すんだから、それに見合った代価は必要だろ?」

 溢れ出る涙を両手で拭うアルをなだめるために、フィードはアルの元へと近づき、その小さな身体を抱きしめた。

「全く、当事者は俺なんだからお前が泣くなよな」

「だって……だってぇ……」

 フィードの胸元を涙で濡らすアル。人のために涙を流す優しい少女の頭をフィードはそっと撫で続けた。
 それからしばらくし、アルはようやく泣き止んだ。

「すみません、マスター」

「いいって。むしろそれだけ俺たちの事を考えて泣いてくれるんだ。俺は嬉しいよ」

 目を赤く腫らし、涙に塗れた顔を見せるのが恥ずかしいのかアルはフィードと視線を合わせようとしなかった。だが、しばらく黙っていたあと、アルは話を聞いていてフィードにどうしても聞いてみたい事があり、それを口にした。

「マスター。最後に一つだけ聞いてもいいですか?」

「ああ、なんだ?」

「リーネさんをフラムへ置いた時にマスターは誰も傍に置かないって思っていたんですよね。それなら、どうして私の事を引き取ってくださったんですか?」

 アルのその言葉にフィードはばつの悪そうにしていた。話を聞いていたアルはずっと思っていた。リオーネをそのような理由で『捨てた』のならどうしてその後フィードはアルの事を引き取ったのだろうかと。そして、それは下手をすれば自分はフィードにとってすぐに失われても傷つかないような軽い存在であると言う不安も孕んでいた。
 どんな答えが返ってきても今度は泣かないようにしようとアルは下を向いて唇を噛み締めてフィードの答えを待っていた。そして、そんなアルにフィードは告げる。

「最初にお前を見つけた時にさ、別れたばっかりのリーネの昔の姿が被ったんだよ。きっと俺はどこかでお前を別れたあいつに被せていたんだ。
 だから、助けようと思ったし、その後の面倒も見てきた」

 どこかで予想していたフィードの言葉にアルは先程よりも強く、強く唇を噛み締める。既に目には薄らと涙が溜まっていた。やっぱりそうかという気持ちが胸の奥からじんわりとアルの身体を浸食していく。しかし、そんなアルを見てフィードは笑いながら話を続けた。

「でもさ、お前と一緒に旅をしてこの町に来て。俺が依頼をこなしている中、ここで頑張ってるお前の姿を見たらさ、自然とお前はリーネと違うんだって事を実感したよ。恥ずかしい話だけどさ、それまで俺は本当にお前をリーネの代わりとしか思ってなかったんだ。軽蔑してくれてもいいぞ」

「そんな……そんなこと。私はマスターに救ってもらったんです。それなのに軽蔑なんてするわけ……ないじゃないですか」

「だけど、今となっては俺にとってお前も守りたい大事な人の一人になんだ、アル。それが分かっていたからお前をなるべく依頼に関わらせないようにしてきたし、戦いに必要になる知識も一切教えなかった。
 リーネの時はそれで失敗したから、お前には最初から穏やかな世界に生きていて欲しかったんだ」

 その言葉にアルは驚愕し、言葉を失って口を開けたまま放心してしまった。どこまでもリオーネの代わりだと思っていたアルだったが、フィード自身にそれを否定され、彼女の代わりではなくアル自身が大事だと言ってもらえたからだった。

「わたし……私、マスターの傍にいてもいいんですか? リーネさんじゃなくて私がいてもいいんですか?」

 嗚咽を漏らしそうになりながら、アルはフィードに問いかける。そんなアルにフィードは答える。

「お前が俺の傍にいてもいいと思ってくれるなら、俺はお前の傍に居続けるよ、アル」

 フィードの答えを聞いたアルは顔を上げてフィードの目を見つめ、

「私は! もしマスターがリーネさんと同じような事を私に思っても絶対に離れません! たとえ離されても絶対にマスターを見つけて、ずっと、ずっと! マスターの傍に居続けます!」

 と、フィードに宣言するのだった。それにフィードは呆然としながらも、やがて苦笑し、

「そっか。それじゃあ、改めてよろしく頼むな、アル」

 フィードの優しい言葉に、必死に泣く事を我慢していたアルだったが、やっぱり最後には泣いてしまった。
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Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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