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迷い

 酒場での出来事から三日が過ぎた。騎士団の巡回は隊のメンバーをいくつかの班に分け、時間を決めて巡回をしていた。今回の遠征における隊長であるリオーネもそれは例外ではなく、エリオードや他の隊員のいる班とともに下町を回っている。
 すれ違う下町の人々と、隊員達は最近の近況について語り合い、少しずつ下町に馴染んで行く部下を見て一安心をするリオーネ。しかし、彼女だけは下町の人々と話をしていても終始浮かない顔をしていた。

(いったいどうするべきでしょう……。いえ、そもそも隊を預かる身である私がしっかりと皆の模範となる行動をするべきだったのです。それなのに、羽目を外して酔っぱらったあげくに寝てしまうなんて……。おまけにあの人に借りまで作ってしまって)

 酒場で部下たちと酒を飲み交わし、酔っぱらって寝てしまったリオーネが目を覚ましたのは翌日の昼頃だった。わずかに残ったアルコールによって頭を痛ませながら、隊員がいる宿舎に行ったリオーネは、そこで昨晩の出来事を聞いた。自分の代わりに、フィードが飲み代を立て替え、眠っていたリオーネを宿へと運んだという事。
 それを最初に聞いた時は、自分の失態と恨んでいる相手に借りを作ったてしまったという後悔で気を落としていた。他の者ならともかく、よりにもよってフィードに借りを作る事になったことが嫌だったのだ。
 話を聞いて、すぐさま立て替えられた金を返しに行こうと思ったリオーネは宿に戻った。もやもやとした気分のまま硬貨袋を手に取り、部屋を出ようとした時、壁に付けられている鏡に写った自分の姿を見たリオーネはつい立ち止まってしまった。
 鏡に映るリオーネの頬は緩んでいたのだ。そのことに気がついてリオーネは驚愕する。憎んでいるはずなのに、もう二度と会いたくないと思っているはずのフィードに、このような形でも会いに行くことができて嬉しいと思っている自分がいたのだ。
 なぜ? どうして? 戸惑うリオーネの耳に幻聴といえるもう一人の自分の声が聞こえる。

『どうして? そんなこと決まってる。心の底ではあの人の事を私はまだ信じたいんじゃないの?』

 違う、違うと必死にリオーネは否定する。しかし、声は止まることなく次々と聞きたくない言葉を紡いで行く。

『あの子、アルちゃんと一緒にいるあの人を見て思わなかったの? この人は何も変わっていないって。あの頃と同じままなんだって……』

 それなら、何故あの人は私を捨てたのか? これ以上は聞きたくないと心は悲鳴を上げるが、語るのも自分なのだ、耳を塞ぐ事も語る事を止める事はできなかった。

『本当に大事なことはいつもあの人は内緒にしていたのをもう忘れたの? それとも、捨てられたという事実を彼の口から改めて聞くのが怖い?』

 その自問自答を最後にリオーネの足はフィードの元へと向かう事はなかった。硬貨袋をもとあった場所へと置き、リオーネはベッドに倒れ込む。今この場にアルが居なくて良かったとリオーネはこの時一番思った。もしアルが居たのなら、本当にフィードは自分を捨てたのかという疑問を投げかけてしまいそうだったからだ。
 彼女はリオーネの質問に困り、悩んでしまうだろう。適切な言葉を選び、顔色を伺いながら一言、一言ゆっくりと呟くだろう。だが、アルはきっとこのように言うだろうとリオーネは予想していた。

『リーネさん、もう一度マスターと話をしませんか? じっくり話してみて分かる事もあると思います』

 それを聞くのがリオーネは怖かった。もし聞いてしまえば、自分はもう一度フィードの元へと話をしに行くだろうという事がリオーネには分かっていたからだ。あれだけ憎んでいたはずなのに、彼の顔を見て、懐かしい声を聞いて、彼の優しさに触れただけで心はこんなにも簡単に揺らいでしまった。
 せっかく騎士団という新しい居場所ができ、自分を慕ってくれる部下や町の人々との縁もできた。にもかかわらず、心はかつて存在したもう一つの居場所、今は自分の代わりに彼の隣にいる少女の居場所にも向いている。
 それが傷ついた自分の心を癒してくれた騎士団への裏切りだと分かっているからこそ、リオーネは迷い、揺れ動く心を必死に押さえつけた。

「――――ぃちょう。隊長!」

 耳元で自分を呼びかける声が聞こえ、リオーネはハッとする。

「どうしましたか? 先程からボーッとしているみたいですけれど。もしかして気分でも悪いのですか?」

 見ると、声をかけたエリオードを始め、一緒にいる隊員のほとんどが心配そうにリオーネを見つめていた。巡回をしているはずなのに、またしても別の、フィードのことに意識がいっていたことに、リオーネは気がついて反省をする。今は任務中で、別の事に意識を向けている場合ではない。
 気を取り直し、集中するリオーネ。思考を切り替え、任務だけを優先する。

「ごめんなさい、みんな。ちょっと気が散っていたわ。今からはいつもみたいにきちんと集中するから」

 その言葉に隊員たちは頷き、巡回を続ける。リオーネもまた、切り替わった思考で町の様子異常はないか気を張るのだった。



 異常が起こったのは巡回の交代時間が迫った夕刻の頃だった。路地裏に入り、人の通りも少なくなったさびれた地区を歩いていたところ、リオーネたちから離れた場所から男の叫び声が聞こえた。リオーネは即座に隊員に視線を送り、

「行くわよ!」

 と、一言だけ口にすると、すばやく移動を始めた。他の隊員に比べて身軽で速さのあるリオーネは誰よりも早く声のした場所へと辿り着く。入り組んだ路地裏には一人の男性を囲み暴行を加える三人の男たちの姿があった。

「あなたたち、その人に暴行を加えるのをやめなさい!」

 まず始めに言葉での説得をするリオーネだが、男たちはまるでリオーネの声が聞こえていないかのように、そのまま暴行を続けた。

(仕方ないわ。言っても分からないような輩にはキツイ制裁が必要ね)

 決断したリオーネの行動は素早い。まず暴行を加えている男の一人の横腹を殴り、くの字に折れた身体に回し蹴りを叩き込む。吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ男を一瞥した後、両脇にいる男へ目標を変更する。今の一連の行動を見ても逃げようともせず、ただこちらを見つける男たちを不気味に思いながらも、リオーネは動いた。
 リオーネから見て右側にいる男の顔面に拳底を叩き込み、仰け反った際にがら空きになった鳩尾へ右拳を思い切り入れる。吐瀉物をまき散らしながら吹き飛ばされる男。しかし、リオーネの後ろにいる男はその光景を見ても微動だにしない。恐怖から呆然としているのではない。ただ虚ろな瞳でリオーネを見ているだけだった。

(なに、こいつら。目の前で仲間が酷い状況になっているっていうのに動揺もしないなんて。まるで誰かに操られて感情を抑えられているみたい)

 異常な様子に気づいたリオーネは残された男をじっと見つめる。しかし、男はそれまで暴力を振るっていたのがまるで嘘のように、ただじっとリオーネを見返すだけだった。その場に立ち尽くすだけの男を放置し、リオーネは倒れている男性に手を差し伸べる。

「立てますか? ここは危険です。私と一緒にこの場を離れましょう」

 俯く男性に声をかけるリオーネ。それまで暴行を加えていた男たち相手に浮かべていた険しい顔つきではなく、弱者を労る優しい微笑みを浮かべて。
 だが、男性が顔を上げた瞬間、リオーネの表情が凍り付く。倒れていた男性の瞳もまた虚ろでどこを見ているのかわからないものだったのだ。頭の中が一瞬真っ白になる。その空白を縫うようにしてそれまで動かなかった男と倒れていた男性がリオーネの虚を突いた。
 リオーネの腹部に痛みが走った。背後に居た男の攻撃的な気配を察知し、避けたりオーネだったが、倒れていた男性がその後を追うようにリオーネの腹部めがけて隠し持っていた短刀を斬り込んできた。
 かろうじてその短刀を避けたリオーネだったが、虚を突かれた攻撃は致命傷にはならずともリオーネの腹部を浅く切り裂き、着ているコートに血をにじませた。

(油断しました。最初からこれが目的だったのですね! おそらく、この人たちは魔術によって操られています。攻撃をしても何のリアクションがなかったのもこれで納得がいきます)

 リオーネが体勢を立て直している間に路地の両側を塞ぎ、逃げ場を防ぐ男たち。それを見てリオーネは深呼吸をして呼吸を整える。

(まずは、この場を抜け出す事が先決。操られているとなれば、なるべく手荒にはしたくないのですが、この状況ではそうも言っていられません。となると、しばらくの間身動きを取れないようにするのが一番ですね)

 現状で最も最善の手を考えるリオーネだったが、先程とまでと違い、身構える男たちに隙はあまりない。一対一に持ち込めるならともかく、二対一になれば狭い路地裏ではかなり不利になる。

(なら、一対一になるようにするのみ!)

 紡ぎだすのは水の派生、氷の魔術。リオーネの最も得意とする魔術の一つであり、かつてフィードと共に鍛えあげたものだ。

「大気を漂う数多の液体。その欠片を集め、固め、作り上げた鋭い刃は敵を突き刺す。
 その冷気で我に仇なす者を罰せよ――フロストエッジ――」

 その詠唱は男たちがリオーネを襲うより早く語られ、己の内から外へと魔力が放出される。外気に晒された魔力は詠唱を通じ、己を魔術という型にはめ、その姿を晒す。
 リオーネに襲いかかろうとした男の一人がその場へ立ち止まる。何が起こったのか分からないのか、先へ進もうとしない己の足を見つめると、そこには地面から生えた氷が自分の足を浸食し、動きを止めていた。本来は攻撃用に使う氷の魔術をリオーネが操作し、相手の動きを止めるだけに留めたのだ。
 身動きの取れない男の代わりに、短刀を持った男性が勢いよくリオーネに襲いかかる。しかし、意識を割かなければならない二対一に対し、一人に集中できる一対一では素人の男とリオーネとでは実力が違った。

「遅い!」

 一喝と共に相手の攻撃を避け、リオーネは帯刀している剣を鞘ごと抜き、相手の首元を殴打した。その一撃で相手は昏倒し、残るは身動きの取れない男一人になった。そして、その男もまた鞘を使って気絶させた。

「隊長! 大丈夫ですか?」

 遅れて現場にたどり着いた隊員に声をかけられ、リオーネは緊張を解いて笑みを作る。

「うん、大丈夫。それよりもみんな気をつけて。どうもこの人たち操られてみたい。術をかけた相手はかなり腕が立つみたいよ。警戒して周りを探索。
 何か異常があればすぐに私に報告して。もし相手を見つけたら無理をせずに合流。
 ひとまず、今伝えるのはこれだけ。何か質問はある?」

 これだけ聞いても動揺の一つもしない隊員にリオーネは感嘆しながら、周りへの警戒を再び始める。誰も質問をしなかったため、探索のために先へ進もうと隊員に背を向けたリオーネにエリオードが声をかけた。

「隊長、一つだけ聞かせてもらえますか?」

「いいわ。それで、なに?」

 任務の際、リオーネの補佐的役割を担う事が多いエリオードのことだから、現状の再確認をするものだとリオーネは思っていた。しかし、彼の口から出た言葉はリオーネの予想とは全く違うものだった。

「こんなことを今聞くべきではないと思いますが、あのフィードという男、一体何者です? 聞けばこの町で何でも屋などという怪しい商売をしているといいます。
 下町の住人が言うには今回の我々が遠征する事になった原因の前副隊長を捕らえたのも、あの十二支徒を撃退したのも彼だというじゃないですか。
 隊長のことも知っているようですが、それもどこまでホントだか。もしかしたら、この件は彼が起こしているんじゃないでしょうか? 下町の人々の信用を得ておいてその裏をかく。実に犯罪者がしそうな手口です。
 僕は、あの男が怪しいと思います。隊長はどう思われますか?」

 エリオードのフィードに対する無礼極まりない言葉の数々にリオーネは驚き、戸惑った。しかし、それ以上に胸の内から沸き上がるものがあった。それは、怒りだ。出会って数日も立たないエリオードがフィードを酷評する理由が分からず、同時に今まで見てきたフィードに対する認識を侮辱された気がしてたまらなかったのだ。

「ふざけないで! あの人の事を何も知らないくせに、そんな事を口にするな! あの人が、あの人が何もしてない一般人にそんな事をするわけない。それは、今まで一緒に旅をしてきた私が一番良く知ってる。
 分かったなら今みたいなことを二度と口にしないで!」

 怒りを吐き出し、息を荒げるリオーネ。そんな彼女にエリオードは動揺する事もなく、平然と話を続ける。

「へえ……今まで一緒に旅をしてきた、ですか。それじゃあ、隊長はどうして今彼と一緒に居ないで僕たちといるんですか?」

 思いがけない言葉にリオーネの心臓が締め付けられる。先程までの怒りはすっかり消え去り、代わりに胸の内をドロドロとした黒い感情が駆け巡る。心臓は先程までより早く鼓動し、耐えられない息苦しさがリオーネを襲う。

「それは……」

「それは……なんです? 聞けば、今彼の傍に居るのは、あなたが連れてきたアルという少女だそうじゃないですか? もしかして、昔の自分の居場所を取られるのが嫌で彼女を連れてきたのではないのですか?
 そうだとするなら、あなたはなんて傲慢なんだ。自分の心を満たすためだけに、彼女に下手な言い訳をして彼の元から引き離そうとするなんて。最低の女ですよ」

 考えなかったわけではない、それでも心のどこかでほんの僅かでも思っていた事を指摘されてリオーネは動揺した。

「そんな、そんなわけ……」

「ない、と言い切れますか? 本当に、僅かでも思いませんでした?」

 聞きたくない言葉を次々と投げかけられ、リオーネは徐々に正常な思考ができなくなっていた。そして、そんな彼女にとどめを突き刺すようにエリオードが告げる。

「あなたはね、捨てられたんですよ。彼にとって、あなたは必要のない人間だったということですよ」

 自分で言う事と、人から指摘される事は違う。フィードに対して同じ言葉を投げかけたリオーネだったが、それでも心のどこかで彼を信じていた。だからこそ、認めたくないと思いながらフィードに自分を『捨てた』のかと投げかけていたのだ。
 しかし、今のエリオードの言葉は違う。彼の言葉はただ事実を淡々と投げかけるのみであり、それはリオーネ自信が最も言われたくない言葉だった。
 それ以上エリオードの話を聞くに堪えなかったリオーネはエリオードの口を無理矢理防ごうと彼に向かって行った。

「あらあら。こんなことで動揺してしまうなんて、あなた思っている以上に子供ね。まあ、そんなところに馬鹿な男共は惹かれるんでしょうけど……。
 だけど、ごめんなさい。あたしにとってはあなたのそんな行動ですら吐き気がするほど腹立たしいの」

 突然リオーネの背後に現れた少女により服を引かれるリオーネ。エリオードの元へ勢い良く駆け出した反動もあって、思ったよりも強く引かれ、そのまま壁へと叩き付けられた。

「――――ぁッ!」

 うめき声を漏らし、後頭部を壁にぶつけた衝撃で一瞬意識が飛ぶ。すぐに意識を取り戻すが、一瞬暗くなった視界が次に映したのは自分を囲むように立っている部下たちの姿だった。その瞳は先程までの男たちと同じように虚ろだった。そしてその中の一人、エリオードに壁に押さえつけられ、リオーネは身動きが取れなくなった。

「いいざまね。この私より目立とうとするからこうなるのよ」

 見ると、部下たちの隙間を縫ってリオーネの前に和装の少女が現れた。妖艶な雰囲気を漂わせる少女はリオーネを見下していた。

「お前が今回の件の犯人ね……。一体、いつの間に私の隊の人間に魔術を」

 ギロリと少女を睨みつけるリオーネ。しかし、そんなリオーネの気迫に気圧される事もなく少女は傲慢な態度のままリオーネに答える。

「そんな事も分からないなんて、あなたそれでも女? もっと頭を、身体を使っていれば分かる事でしょ? あなたの部下なんて私がちょっと声をかけて色目を使ったらすぐに食いついてきたわよ。
 男なんて馬鹿ばかりね。ちょっと隙を見せれば餌に食い付く魚のようにすぐに引っかかる」

 少女の言葉にリオーネは悔しそうに唇を噛んだ。自分の部下を馬鹿にされた事もそうだが、少女の言うように罠にかかり、このようになすがままにされてしまった自分が許せないのだ。

「それに、あなた。最近上の空だったみたいだし、おかげで気づかれることなくすんなりと行動に移せたわ」

 その言葉にリオーネはますますきつく唇を噛む。少女の言う事があまりにも正論で、自分がここ数日気を抜いていて油断していたのが事実なため、反論する事もできないのだ。

「あら。意外と素直に自分の非を認めるのね。まあ、認めたところで何も状況は変わらないけどね」

 クスクスと袖を口元に当て笑う少女。少しずつ冷静を取り戻したリオーネは少女を分析しはじめる。

(この女、冷静になってみると隙が全くない。それに、零れ出ている魔力の量が半端じゃない。これだけの魔力がこんな少女にあるなんて。一筋縄じゃ行かないわね)

 リオーネが少女に対する認識をより深めようとしたとき、リオーネの視線に気がついたのか、少女が怒りを表す。

「なにジロジロ人の身体を見てるのよ! 品定めするように見やがって! お前ごときが、あたしの存在を測ろうとするな!」

 そのままエリオードやリオーネの部下に指示を出し、身動きの取れないリオーネを痛めつける。

「なに上から目線であたしを見てんだ! あたしより目立とうなんておこがましい。あんたみたいな売女は黙って日陰に籠ってな!」

 罵声を浴びせ、指示を出したエリオードたちに合わせて、手に持った鉄扇でリオーネの身体を打ち付ける少女。

「お前は……いったい、誰だ?」

 痛めつけられてもなお輝きを失わないその瞳でリオーネは少女に問いかける。そんな彼女に少女は答える。

「あたし? あたしは、十二支徒の『子』、エンリカ。あんたごときとは及びつかない美貌を持ち得る女よ! そしてあんたは今からあたしの駒」

「駒……?」

「そうよ、あんたも今からこいつらと同じように私の言いなりになる駒になるのよ。そして、その手であんたの一番傍にいた人間を殺させる」

 エンリカの言葉にリオーネは青ざめる。それはつまり……。

「そう、あたしたちの仲間を殺してくれやがったあの男。あの『復讐鬼』と呼ばれている男を殺してやるの。それも今までずっと傍にいたっていうあんたの手でね。
 ――――っと、言葉遣いが悪くなってしまいました。つまり、あなたは今からあたしの手足になって、あたしの代わりに彼と殺し合いをしてもらうのよ。
 どう? 理解した?」

 鉄扇を広げ、雅に振る舞うエンリカ。そんな彼女を見てリオーネは怒りをぶちまけた。

「ふざけないで!」

 それまで大人しくなすがままにされていたリオーネだが、ここに来て一気に力を解放した。自分を押さえつけるエリオードに頭突きをし、その際にできた隙を突き、腹部に肘打ちを入れる。吹き飛ばされたエリオードはすぐさま体勢を立て直すが、それよりも先にリオーネが敵の輪から抜け出す。

「あの人に手を出させるなんて……そんなこと、そんなことはこの私が絶対にさせない!」

 憎んでいるはずのフィードを守ろうと、リオーネはエンリカたちに向かって抜刀する。

「へえ、あなたごときがこのあたしとやり合おうっていうの。いいわ、格の違いを思い知らせてあげる」

 エンリカが手を挙げると彼女の周りにいる騎士たちがリオーネと同じように抜刀した。

「速さを。効率を求め、より単純、より俊敏に――インプロスピード――」

 リオーネの口からは身体強化の魔術が零れ出る。彼女の視線は突き刺さるほど鋭く、視線だけで相手を射殺せるほどだ。溢れ出る殺気を隠そうともせずリオーネはエンリカに向けて剣を構える。

 対してエンリカは悠然とその場に立ちどまり続け、ただ一言己が絶対とする魔術を呟いた。

「瞳に映るのは偽りの景色。男を騙し、女を誘惑する。黒く塗りつぶされた世界を支配するのは我が意識。
 その手足を我に捧げ、全ての行動に疑問を抱かず是とせよ――メズマライズ――」 

 その一言で、エンリカの姿がリオーネの視界から消え失せた。周りを警戒するリオーネにどこからかエンリカの声が聞こえる。

「さあ、身の程知らずのお馬鹿さんに本当の強者というものがどんなものだか教えて差し上げましょう」

 エンリカの声を号令とし、エリオードたちがリオーネに向かって襲いかかった。

「上等です、十二支徒。あの人が追い求め続けるあなたたちに、私がどれだけ近づいたのかを見せてあげます」

 こうして戦いは始まった。今はまだ誰も、フィードでさえ十二支徒がこの町に侵入している事に気がつかない。騎士団という同じ環境で過ごしてきた仲間同士が血で血を争う戦いを行っている。
 そんな中、ただ一人戦い合う彼らを傍観し薄らと笑いを刻むのは十二支徒、エンリカ。

「さて、この次はあなたですよ『復讐鬼』」

 勝負の行方もまだ分からない中、エンリカは己の勝利を確信して、人知れず呟くのだった。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
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      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
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      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
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       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
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