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暗躍する者

 夜が更け、外を歩く人々が家路へと帰り始めた。酒場での騎士たちの宴も佳境を過ぎ、だいぶ落ち着き始めていた。結局、酒場の常連客も交えた飲み比べは、騎士や常連客を酔い潰し、酒場は死屍累々の状況となった。

「こりゃあ酷い有様だな」

 酒場の入り口で騎士の様子を見つめながらフィードは一人呟いた。久しぶりに外で食事を取ろうと思い、レオードの元へ食事を取りにきたフィードだったが、入り口を開けてすぐに目に入ってきた状況に思わず呆気に取られてしまった。まるで一ヶ月前の再現のように床に突っ伏したり、理性を失い笑い声を上げ続けたり、吐き気を催しているのか、裏口から外へ出て行く者たち。それ以外は、この惨状など知ったことではないと言わんばかりに、気持ちよさそうに寝ている。
 この場で素面なのはフィードを含めて三人だけ。フィード以外は、今回は酒を飲まなかったレオードと、寝ている騎士や常連客に毛布をかけて回っているアルだ。そんな風にして入り口に立って、アルの様子を見ているフィードに気が付いたレオードが声をかけた。

「おう、フィード。久しぶりだな。ちょうど少し前にアルのやつに顔を見せるようお前に伝えておいてくれって言っていたんだが、お前から来るとは、伝える手間が省けたな」

「そうなのか? まあ、俺がここに来たのはただの気まぐれなんだが、こんな状況になっていると分かっていたら来ようとは思わなかったよ」

 フィードの言葉に、レオードは顔に手を当てて目の前にある惨状から目を逸らした。たまにしか酒場に飲みに来ない客はこういった騒がしい出来事も楽しんで歓迎するのだが、酒場の店主であるレオードにしてみれば今回ほどではないにしろ、毎日のように騒ぎ、物を壊され、客に寝そべられるのだ。たまったものではないのだろう。
 その証拠に、今回は酒が入っていないため、我慢はしているもののこめかみに筋が浮かんでいるのが分かる。新しく町に来た騎士との友好関係を築くため、湧き上がる怒りを必死に抑えているのだろう。
 こうなってしまえば、もはや常連客となってもらうために丁重に騎士たちの相手をしようなどという考えはレオードにはないだろう。ここは酒場なのだ。中に入って酒を飲んでしまえば、騎士だろうがなんだろうがただの酔っ払いの集まり。そうなれば遠慮など不要である。
 おそらく、次にこんな騒ぎを起こしたら騎士たちはレオードによって容赦なく店からつまみ出されることになるだろう。

「それで、何か食べるのか? それとも飲みにきただけか?」

 パンと手のひらを合わせて叩き、気分を切り替えるレオード。先ほどまでとは違い、落ち着いた様子でフィードに注文を聞くが、

「いや、そんな雰囲気じゃないだろ。こんな光景を見せられて、食欲なんてすっかりなくなっちまったよ」

 手をひらひらと振り、フィードは断りを入れる。

「なんだ、それじゃあもう帰るのか?」

「……そうだなぁ。最初はそう思ったけど、頑張ってるアルを置いて帰るのも、ちょっとな……」

 忙しく動き回るアルを優しい眼差しで見つめるフィード。視線を感じたのか、アルは動きを止め、フィードのほうへと振り向く。二人の視線は一瞬交わったが、気まずいのかアルは視線を逸らして再び作業に戻ってしまった。そんなアルの態度にフィードは苦笑いを浮かべるしかなく、ただその場に突っ立っていた。

「なんだ、お前ら喧嘩でもしたのか? そう言えばアルのやつ今リオーネのとこにいるって言ってたな」

「あ、それ聞いたのか。もしかして本人から?」

「いや、そこで眠っているリオーネからだが?」

 そう言ってレオードは酒場の隅で熟睡しているリオーネを指差した。

「あちゃ~。あいつ酒飲んでたのか」

 その姿を見て、フィードがしまったというように顔をしかめる。

「なにか悪いことがあるのか? というかお前たち知り合いだったのか」

 フィードが顔をしかめた理由が分からないレオードは不思議そうにしている。そして同時に二人が知り合いであるという事実に驚いていた。

「まあ、その話はあまり踏み込まないでおいてくれると助かる。それはそうとリーネのやつ酒飲んで寝ると次の日まで全く起きないんだよ。無理やり起こそうとすると身体に染み込んだ戦闘技能で無意識のまま反撃してくる。それはもう理性がないぶん手酷くやられる。
 そんなだから、誰かが連れて帰るしかないんだが……」

 フィードは改めて辺りを見回すが、そこには頼りになりそうな人物は一人もいなかった。

「こんな状況じゃ、誰も連れて帰ってくれないだろうな」

「まあ、当然だな。言っておくが、俺は一晩こいつらをここに置いておくつもりもないぞ。無理やりにでも起こして帰らせる」

「だよなぁ。せめて女性の騎士が他にもいれば連れて帰るの頼めるんだが……」

 深いため息を吐き、フィードは悩んでいた。

「とりあえず、アルのやつに任せてないでお前も介抱を手伝え。このままじゃ店が閉められん」

 そう言って水の入ったピッチャーをカウンターに幾つも置いていくレオード。

「仮にも客に酔いつぶれてる他の客の介抱なんて頼むなよな。手間賃とるぞ」

「うるせえ。どうせ何も注文しねえならお前は客じゃねえ。知人のよしみで手伝え」

「ひでえな。手伝えばいいんだろ、手伝えば」

 フィードはカウンターに向かいピッチャーを手にすると、空いているグラスに水を注ぎ、頭を抑えて呻いている青年に水を手渡した。

「ほら、これでも飲んでおけ。仮にも騎士が二日酔いで職務怠慢になるなんてことになったら、町のみんなから文句を言われるぞ。親しみやすいのはいいことだけど、ほどほどにな」

 フィードは一応この下町で警護に付く騎士へ激励の意を込めて注意を促す。しかし、青年はあまりにも頭が痛いのか、フィードから水を貰うだけで返事をしなかった。

(こいつ一体どれだけ飲んでるんだよ。返事もできないくらい飲むなら休憩でも挟んで酔いを醒ましておけばいいのに……)

 常連客をも巻き込んだ飲み比べの発端がこの青年、エリオードにあるということを知らないフィードはやれやれと嘆息し、他の騎士や客に水を配っていった。
 しばらくして、水を配り終えたフィードは空いている椅子に腰掛け、一息ついた。

「これで少しはマシになったかな?」

 水を飲み、酔いが少し醒めた人々が、眠っている他の人々を起こし始めた。先ほど頭を抱えていたエリオードもだいぶ楽になったのか、近くで寝そべっている獣のような男、ラスクを蹴っ飛ばして起こしていた。

「いってぇな! なにすんだよ」

「うるさいな、いいから他の寝てるやつら起こせよ。結局負けたのお前だろ?」

「チッ! 体力ないのに酒には強いってどういうことだよ」

「ぶつぶつ言ってないでさっさと動けよ! 負けたら黙ってるのがルールだろ」

「はいはい、わかったよ。起こせしゃいいんだろうが……」

 文句を言いながら、他の騎士を起こし始めたラスク。次々に起きていく騎士を見て、フィードは安堵する。だが、一番の問題は未だに解決していない。

「あとは……リーネのやつだよな」

 チラッと眠っているリオーネを見るフィードだが、リオーネは先ほどから微動だにせず、安らかな寝息を立てて眠ったままだった。酔いが醒めていない騎士たちは、そんなリオーネを見て思わず生唾を飲んでいた。

「おい、隊長のあんな無防備な姿めったに見られないぞ」

「こら、副隊長だろうが。また怒られるぞ。いや、今は寝ているから聞こえていないか。それはともかく、副隊長って酔い潰れるとあんなふうになるんだな」

「なあ、誰か起こせよ」

 その一言に騎士たちはたちまち挙動不審になる。

「いや、起こしていいなら俺が起こすぞ?」

「いいや、俺が起こす。お前さっきまで吐いてただろ。無理しないで先に帰ってろ」

 そんなやり取りがそこらから聞こえ、言い争いはやがて喧騒へと変わり、再び酒場の中は騒がしくなった。騎士たちは誰がリオーネを連れて帰るかという話で盛り上がり、レオードはそんな彼らを見て頭を抑えた。

(これじゃあ、いつまでたっても終わりそうにないな。しょうがない、騎士たちの恨み、それとリーネからもまた恨みを買うが俺が連れて帰るか)

 決断すると、フィードは他の騎士たちの間をすり抜けてリオーネの元へと行き、彼女をその背に背負った。それを見た騎士は「あ……」と間が抜けた声を漏らし、アルの元へと歩くフィードをただ眺めていた。

「アル、悪いんだけどリーネのやつの宿を教えてくれないか? こいつどこに泊まってるか分からないからさ」

 他の騎士と同じように、一瞬呆気に取られていたアルだったが、フィードの言葉を意味を理解したのか、

「あっ、わかりました。私も一緒に行くので付いてきてもらっていいですか?」

 と少しだけ嬉しさの滲んだ声色で返事をした。入り口へと向かい、そのまま外へ出ようとするアルに付いて行こうとしたところで、ようやく我に返った騎士たちが、リオーネを連れて行こうとするフィードを引き止めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。さっきから勝手に話を進めてますけど、あなた一体誰なんです?」

 真っ先に冷静になったエリオードがフィードの前に立ち、進行を妨害する。

「俺か? 俺はこの下町に滞在しているフィードって言うものだ。一応ここでは何でも屋として依頼を受けている。これから顔を合わせることもあるだろうし、よろしく頼む。
 それと、リーネのことだけどお前たちが連れて帰ってくれるなら任せるぞ。ただし、こいつ無理やり起こそうとすると無意識に襲ってくるから腕っ節がないやつだと手酷い目にあうけどな」

 自己紹介と忠告を兼ねて話をしたフィードだったが、エリオードや他の騎士はフィードの素性よりもリオーネのことを愛称で呼んでいることや、騎士たちが知らないことをフィードが知っていることに意識がいっていた。

「もしかして、副隊長の知人か何かですか?」

 おそるおそるエリオードがフィードに尋ねる。しかし、フィードはその質問に困ったように口をへの字に曲げて、

「知人といえば確かにそうだけど……。この場合なんて説明すればいいのかな。まあ、かいつまんで言えば昔馴染みみたいなものだ」

「そうですか。もしかしたら、あなたは本当に副隊長の知人なのかもしれないのですけれど、本人の確認が取れないので信じることはできません」

 いかにも堅物そうなエリオードの返答にフィードは内心面倒なことになったなと自分の行動を後悔していた。

(こんなことなら、騎士隊に任せておけばよかったな。リーネとの関係について根掘り葉掘り聞かれるのも勘弁して欲しいし……)

 目の前の青年にリオーネを渡して帰ろうかとフィードが思った時、意外にもエリオードの方からフィードへの提案が出された。

「信じることは……できません。しかし、僕も一緒に副隊長の宿にまで付いていけば問題ありません。本当なら僕たちが副隊長を連れて帰るべきなんでしょうけど、お恥ずかしながら皆酔い潰れていて、人一人背負って普通に歩けるとは思いません。
 ですので、まことに申し訳ないのですが、あなたに副隊長を連れて行ってもらいたいんですが、よろしいでしょうか?」

 頭を下げるエリオードにフィードは少し驚いた。堅物で話が通じないという印象を持っていたが、意外と物分りはいいようだ。エリオードへの印象を改めて、フィードは話を進める。

「ああ。そっちがそれでいいなら、俺はその通りにするよ。それで、できれば名前を教えて欲しいんだが」

 フィードがそう言うと、名前を名乗っていなかったことに気が付いたのか、エリオードが慌てて答える。

「これはすみません。僕はフラム騎士団第九隊所属エリオードといいます。これから下町の警護に付かせてもらいますので、しばらくの間よろしくお願いします」

 握手を交わそうと手を差し出したエリオードだったが、フィードの手が塞がっていることに気が付いて、差し出した手を引っ込めた。

「それじゃあ、早いとこ宿に行くとするか。あまり長居してても悪いし」

 そう言って再び外へ出ようとするフィードを今度はレオードが止めた。

「なんだよ、オッサン。そこどいてくれよ。俺こいつ連れてかないといけないんだから」

 レオードの横をすり抜けていこうとしたフィードだったが、レオードにがっしりと肩を掴まれて身動きが取れなくなる。そして、そんなフィードにレオードはただ一言、

「お代、払ってもらおうか?」

 と呟いた。フィードはまさかと思い後ろを振り返るが、今回の遠征では隊長になっているリオーネが資金管理をしているため、今日の飲み会は彼女が出すと思っていたらしい。一応硬貨袋を持ってきている騎士もちらほらといたのだが、彼ら全員のお金を合わせても支払いの金額には届かなかった。
 リオーネのズボンのポケットに入っている硬貨袋を出せればいいのだが、寝ている女性の身体を勝手に触るのもどうかと思われる。

(こりゃ、明日から仕事再開だな……)

 フィードはため息と共にポケットから硬貨袋を取り出して騎士隊の飲み代を立て替えておいたのだった。



「今更だが、アルがリーネの硬貨袋を取ればよかったんじゃないか?」

 他の騎士隊のメンバーより一足先に酒場を出たフィードたち。宿へ向かう最中、ふと先ほどの出来事を思い出してフィードが呟く。

「言われてみれば、そうですね……」

 何故かフィードから目を逸らしながらアルが同意する。しかし、今回は酒場のときとは違い、気まずさから視線を逸らしているのではないということをフィードはアルの様子から感じ取った。

「おい、アル。お前もしかして気づいていて何も言わなかったんじゃないだろうな」

 フィードの言葉にますます目を逸らすアル。そんなアルにフィードは呆れながら、

「しょうがないな。まあ、あの金も殆どは運よく貰ったものだしな。なくなっちまったのはそろそろ依頼を受けろってことなのかもな」

 仕方がないと呟いた。しかし、そんなフィードにエリオードが慌てて口を挟んだ。

「いえ、あれは僕たちが原因なので、明日にでも必ず払わせていただきます。民衆を助けるべき騎士が助けられてばかりとあってはフラム騎士団の名折れですから」

「べつに、俺は守られるべき民衆ってような柄でもないし、あの金はホント予期せず手に入ったものだから気にしなくてもいいんだぞ。それに、騎士だからって助けてもらっちゃいけないなんてことはないだろ。
 騎士が助けてくれるからこそ、民衆はそれに感謝してお返しがしたい、助けになりたいって思うんじゃないか? だからフラムは治安がいいし、ここみたいに騎士団と民衆の間に溝がないんだと俺は思うけどな」

 やんわりと断るフィードだったが、エリオードは頑なに自分の意見を退けようとしなかった。

「確かにそうなのかもしれませんが、ここはフラムではなくセントールです。フラムの民衆と同じような関係になるには、まず僕たちがセントールの人々の信頼を得ないといけないんです」

 二人の意見はどこまでも平行線上で交わることはなかった。

「まあ、騎士団には騎士団のやり方があると思うし、俺がとやかく言う必要もないか。よくよく考えたら返さなくていいって言ってるお金を返してくれるんだ。ありがたく貰っておくのが一番だよな」

 急に意見を撤回させたフィードにエリオードは驚くが、それ以上言うこともなかったため、黙ってしまった。

 地面を踏む靴の音だけがフィードたちの周りに響く。一見すると静かで穏やかな雰囲気が漂っていた。そんな中、優しそうな笑みを浮かべて安らかに眠りについているリオーネを見つめるフィードを見て、エリオードの胸がズキリと痛んだ。
 リオーネと出会い、昔のことを語らず、人々のために成果を挙げ、先へ、先へと進んできた彼女を一番近くで見てきたのは自分だという思いがエリオードにはあった。
 今では階級も変わってしまい、上官と部下という関係になってしまっていたが、それでも他の騎士も含め自分が彼女について一番知っていると思っていた。
 しかし、今日現れた目の前の男はエリオードも知らないようなリオーネについて知っていたのだ。昔馴染みとフィードは言っていたが、それはどのような関係だったのか、エリオードは知りたくてたまらなかった。
 だが、それを聞いて彼とリオーネが深い関係にあったのなら、自分も胸の中にある感情は爆発して暴れ狂うだろうと理解していた。そのため、エリオードはフィードに二人の関係について聞きたくても聞けなかった。
 睨みつけるようにずっと見つめていたせいか、視線に気が付いたフィードがエリオードの方を向いた。

「ん? どうした。まだ何かあるのか?」

 振り向いたフィードに驚き、とっさに視線を逸らすエリオード。まるで自分の心を透かされているようなフィードの視線は、エリオードには苦痛だった。エリオードが何も言わなかったため、特に用はないと思ったのか、フィードは再び前を向いた。
 やがて、アルがリオーネの泊まっている宿を見つけ、フィードと共に中へと入っていった。ここまでくれば、エリオードが中にまで付き添う理由はなく、もう自分の宿へと帰るしかなかった。
 何もかも善意で手を差し伸べてくれたフィードに対し、リオーネに抱いている感情からついむきになって対抗してしまったことを今更ながら理解させられたエリオードは、この場に居るのがいたたまれなくなり、宿に向かって駆け出した。

(僕は……僕はなんて意地の悪いやつなんだ。騎士ならもっと人を信頼して、相手の信頼にも応えるのが正しいのに、最初から相手を疑ってかかって。その上副隊長の件でも張り合おうだなんて。あまりにも馬鹿げてる!
 いいじゃないか、副隊長は誰のものでもなく副隊長自身のものなんだ。昔何があったとか、誰とどんな関係を築いていたとか、そんなことは副隊長が話してくれればいい。
 話してもらえないなら、話してくれるように副隊長の信頼を得ればいいんだ!)

 息を切らせ、走り続けるエリオード。宿までもうあと少しだったが、今はあまり宿に帰りたいとは思わなかった。帰ってしまえば、ラスクや他の隊員に胸の中に溜まっている気持ちの数々を吐露してしまいそうだったからだ。息を吐き出し、その場に立ち止まるエリオード。空を見上げれば煌く星たちが地上を見下ろしていた。

「あ~もう。僕って小さい男だな……」

「あら? いいじゃないですか、小さい男。器も心も小さな男は見ていてかわいいわよ」

 独り言のはずが、後ろから返事をされ、エリオードは慌てて振り返る。見ると、そこには長い黒髪を夜風にたなびかせた和装の少女がいた。この辺りでは見かけない珍しい格好をしている少女に興味を持っていると、少女が蔑むような目をしてエリオードを見つめた。

「ふふふ。そんなにジロジロ見られると恥ずかしいわ。これだから我慢できないお猿さんは嫌なのよ。どうせなら、襲ってくればいいのに。襲う勇気もないのなら、そんなに見つめないことね」

 少女の口から出るとは思えない下卑た言葉の数々、そして的外れな発言にエリオードは思わず呆れてしまう。

(なんなんだ、この子? 下町の……いや、ここに滞在しているどこかいいとこのお嬢様か? なんにしてもとても口が悪いな。でも、こんな時間だし何かあったらいけないな。宿に帰る前に、家に送り届けてあげるとしよう)

 いくら侮辱されようが、相手は少女。こんなことで腹を立てるようでは騎士の名折れだと思い、エリオードは少女の言葉を気にかけないようにして、家へと送り届けようと少女へと近づく。

「……あれ?」

 しかし、踏み出した一歩は逆に後ろへと下がっていた。不思議に思い、少女へと近づこうとするが、本能的に身体がそれを拒否する。

「あらあら、鈍いかと思ったら、少しは危険を察知することもできるのね。勘のいい男は嫌いじゃないわ。でも、残念。私から逃げようとしても無駄」

 今すぐにこの場から逃げろと身体が警告をするのだが、目の前の少女が発する不気味で恐ろしい気配に萎縮してしまい、身体が動かない。ガチガチと噛みあわない歯が鳴り、冷や汗がブワッと身体中から吹き出る。

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。あなたたちのことはずっと見ていたから、あなたにも得があるようにしてあげる。
 あの女のこと好きなんでしょ? あたしに任せてちょうだい! あの女を惑わし、彼を殺したあと、あなたと結ばせてあげるから」

 ついに目の前までに迫ってきた少女にエリオードはただただ恐怖の念を抱くことしかできなかった。これから、自分が何をされるのかと思うと、怖くて怖くてたまらないのだ。

「力を抜いて。今からあなたを惑わすのはあたし。他の女になんて目を向けさせないわ。みんなあたしの言うことを聞いて、あたしの都合のいい駒になってもらうのよ」

 少女の手がゆっくりとエリオードの顔に覆いかぶさる。そして、その手が視界を完全に塞ごうとした時、少女は最後に一言呟いた。

「でも、用がすんだらみんな死んでもらうけどね」

 視界が黒一色に塗りつぶされ、エリオードの意識はそこで途切れた。
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プロフィール

建野海

Author:建野海
扉の中の部品たちへようこそ。

名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
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