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鎮火

 下町での少年の探索を続けていたフィードだったが、一向に少年を見つける事ができずにいた。少年の手がかりになりそうな物があれば探査魔術で居場所を見つけられる事もできるのだが、手がかりが一つもない現状では聞き込みと足を使った探索方法以外にない。
 気づけば、太陽は空に昇りきり、グリンの元を出てから、もうずいぶん時間が経っていた。

(そういえば食事もろくにとっていないな。一度グリンさんの所に戻るか)

 強くなる日射しに手で影を作って光を遮る。フィードはグリンの元へ食事をとりに戻った。

「あら、フィードさんお帰りなさい。成果はあった?」

 戻ってきたフィードを笑顔で出迎え、グリンが厨房から声をかける。

「ただいま、グリンさん。成果のほうはあったといえば、あったかな。事件解決の糸口は見えているからもう少し待ってくれればどうにかできると思います」

「そうなのかい、それは頼もしい! それじゃ、これは私からの激励だよ」

 そう言ってグリンが厨房から取り出したのは鶏肉の蒸し焼き、焼きたてのパン、それからヴィシソワーズだった。フィードはそれらが並べられたカウンターの席に座った。どれも食欲をそそる香りを漂わせており、フィードの口内で唾液の量が増える。

「これ、いただいても?」

「もちろん、そのために取っておいたんだから」

 軽快な笑みでグリンが答える。その様子は早くフィードの食べた反応が見たいといったところだ。

「じゃあ、いただきますね」

 そう言って、フィードは鶏肉をスプーンで口に運んだ。

「うん、おいしいですよこれ」

 いつも通りというとありがたみがないように聞こえるが、フィードにはグリンの料理はいつもおいしく食べられて満足のいく物だった。この下町に下宿するようになって最初の頃、フィードは酒場などで食事をとっていたが、グリンの、

『当分の間ここに滞在するつもりなんだろ? だったら食材さえ用意してもらえればうちで料理を作るよ。もちろん、サービスの一環として普通に料理も出すけどね。ただ、そっちは料理も決まってるし、別で料金を取るよ。さあ、どうするんだい?』

 と、ありがたい提案をしてもらってからというものの、食材の買い出しをしてきてはグリンに調理してもらっていたのだ。

「そう言えば、アルの姿が見えないんですけど、あいつもう部屋に戻りました?」

 いつもなら自分が食事を終えていても、フィードのすぐ横に座って傍を離れようとしない少女の姿が見当たらず、フィードはなんだか居心地が悪くなっていた。慣れ親しんだ存在がすぐ近くにいるということを当たり前に思っていたせいだろう。
 フィードにとって、アルはそれほどまでに傍にいて当たり前の存在になっていた。

(子供の面倒を見るのはこれで二度目だな)

 気の強かった、かつての少女の姿を思い出してフィードは知らぬ間に笑みを零していた。一年ほど前に訳あって別れた『彼女』だが、元気にしているのだろうか? そう思ったが、すぐさま自分にはそんな心配をする資格はないと否定する。

 ……いや、きっと恨まれてるだろうな。

 何も話さずに、知人と呼ぶには薄い縁の相手の元に置き去りにして別れた。それまで自分の事を家族のように慕っていた彼女を裏切ったのだ。恨まれない方がおかしいだろう。その事を考えると胃の辺りが急にドッシリと重みを増し、おいしかったはずの料理が急に味気ない物に変わってしまった。食欲もなくなり、料理を運んでいた手も止まった。

「おやおや、なんだい。アルちゃんの姿がないからって食欲をなくされちゃ、せっかくおいしい料理の材料を買ってきてくれたアルちゃんがかわいそうだよ」

「あ、この料理の材料アルのやつが買ってきたんですか……」

「そうだよ。だから残すなんて真似をしたらアルちゃんに失礼ってね。それと、さっき部屋の掃除をさせてもらった時に気がついたんだけどね、部屋の机の上にあんたの硬貨袋が置いてあったよ」

 グリンの予想外の一言にフィードは思わず座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「それ、本当ですか!」

 フィードの反応に面食らったのか、グリンは言葉に詰まりながらも、

「あ、ああ。ホントだよ。買い出しに出かける前には何も言ってなかったから、出かけた時に拾ったんじゃないのかい。中身もちゃんと入っていたし。見つけてくれたアルちゃんに、きちんとお礼を言うんだよ」

 グリンはアルにお礼を言うようにフィードに促すが既にフィードの耳には言葉は届いていなかった。

(アルが俺の硬貨袋を拾った? しかも中身があったっていうことは相手はまだ金を使っていなかったのか。いや、それはいい。これはチャンスだ。もし硬貨袋を持っていた相手と接触していたのなら、相手はアルと俺の関係を知らない。それなら、アルに手伝ってもらって……)

 そう考えたところで、フィードは自分の考えがこれまでの行動と矛盾している事に気がつく。

(――ッ! そうじゃないだろ! アルはこういった荒事から無関係の場所にいさせるって決めていたはずだ。そのために今まで依頼があっても遠ざけていたんじゃないか。ちょっとの気持ちで首を突っ込ませた結果は『彼女』で懲りたはずだろ)

 フィードの並々ならぬ雰囲気を察したのか、グリンは黙ってフィードの傍を離れて厨房へと戻っていった。

(しかたない、少し遠回りになるかもしれないが、ひとまずアルに話を聞いてみよう。それにまだ相手と会ったと決まった訳じゃない……)

 残った食事を一気に胃の中にかき込み、フィードはその場を後にし、二階にある自室に向かった。

「アル~ちょっといいか? 聞きたい事があるんだが」

 扉を開けながら声をかけるが、室内にはアルの姿は見当たらなかった。

(あれ、いないのか? しかたない、グリンさんにちょっと聞いてみるか)

 再び一階へと降りたフィードは厨房の中にいるグリンへ声をかけた。

「すみません、グリンさん。アルの姿が見当たらないんですけど、どこへ行ったかわかりますか?」

「アルちゃん? そう言えば、食事場の掃除を頼んでから姿が見当たらないね。……そう言えば、外にゴミを捨てに行った時、何か見つけたのか箒を放り出して勢いよく走り出したのを見たような……」

 グリンの言葉にフィードは背筋が寒くなるのを感じた。

(まさか、アルの奴。一人でなにかしてるんじゃないんだろうな……)

 アルがフィードの力になりたいと思っていたことをフィードは以前から気づいていた。かといってフィードもアルを荒事に巻き込むつもりはなかったので、グリンの手伝いをさせるという理由を与えて自分の力になっていると言い聞かせてきた。しかし、アルはどことなく不満げだという事も感じていたのだ。

(頼むぞ、頼むから今回の依頼に巻き込まれてくれてるなよ。下手をするとこの件はかなり大事なんだ……)

 先ほどから何度も速いテンポで拍動する心臓を掌で抑え、不安を隠そうとする。そして、フィードが不安を抱くのと同時に外から大きな声で、

「おい、盗賊が出たぞ! 今度は家に火を放ちやがった! 誰か水を、水を持ってこい! このままじゃ他の家にも燃え広がっちまう」

 フィードの不安を更に増大させる声が聞こえてきた。

(ったく、こんな時に……。まさか狙ってやってるんじゃないだろうな。いや、そんなことより今ならまだ盗みに入った奴もそう遠くにいっていないはずだ。この犯人が俺の予想通りなら近くにいれば捕まえられるはずだ)

 勢い良く宿を飛び出し、フィードは煙の上がる方角へと走り出した。


 フィードが現場に着いたときには、既に火の手は高々と上がり、民家一軒を丸々包み込んでいた。燃え盛る炎は隣接する家屋に進行しようとし始めている。そんな強大な力に必死に抗うように下町の人々は用水路や噴水から汲み上げてきた水を火の中に投げ入れていた。しかし、それも焼け石に水。火の手は収まるどころか、より一層その強さを増している。

「くそっ! どうにかなんねえのか。このままじゃ、町中が火の海になっちまう」

 緊迫した空気の中、声を張り上げるのは下町でも顔が広く知られているクルス。いつものような調子ものの雰囲気はそこにはなく、今はただ町の危機を乗り越えようと真剣な面持ちだ。

「そうは言ってもクルス、炎は強くなるばかりだし、このままじゃどうにもならねえよ。それに、俺たちもどこかで見切りをつけねえと、いつ巻き込まれるか……」

 クルスと同じく消火作業に当たっている男性が声をあげる。彼の言うとおり、クルスたちの手ではもうどうしようもできないところまで来ていた。

「なら、このまま黙って見てろっていうのかよ!」

「しょうがねえだろ。それに魔術隊を要請すれば時間はかかるが確実に鎮火作業をしてくれる。応援を要請するしかねえよ」

「要請してもここに来るまで時間がかかるだろうが!」

「じゃあ、俺たちに何かできるのかよ! 魔術を覚えてるやつはちらほらいても、力が足りないんだよ、俺たちは!」

 男の正論にクルスは黙り込んでしまう。彼もわかっているのだ、下町には力がない。それがいくら理不尽であろうとも自分たちより上の存在に見下されようとも、彼らに力を借りるしかないのだと。消火作業は止めることなく、それでもどうしようもない現実を前に途方にくれる彼らを見て、フィードは静かに呟く。それはこの町に来てから今まで一度も口にしなかった魔術の詠唱。口から零れる言葉とともに、静かに大気が震える。

「大気を漂う数多の液体。その欠片を集め、我に与えたまえ――アクア――」

 紡ぎだすのは水の魔術。それも、魔術を扱うものならば初歩に習う基礎呪文の一つ。大気中に漂う水分を集め、固める。作られるのは拳一つほどの大きさの水球。
 基礎、初歩、というものはその道を極めていくものにとって存外無下にされがちである。それは、自身が成長するにつれ、その道でできることが増えていくからである。ゆえに最初に覚えたものも、それよりも派手で、効果の高いものが現れると、ついそちらに目がいってしまう。そのため、どれも中途半端な習得になり、応用が利かない。
 しかし、基礎を極めれば、その系統に幅広い応用が利くし、時にはそこから思いもかけない発想が生まれることもある。ゆえに、フィードはどの分野でも基礎を重要視していた。
 空中にできた水球に更に魔力を流し込む。見た目は変わらないが、ものすごい勢いで水球は圧縮され密度を高めていた。やがて、圧縮に耐えられなくなり始めた水球がその形を崩そうとしたとき、

「お前ら、そこから離れろ!」

 いまだ消火作業を続ける人々に向けてフィードは声を張り上げた。そして、宙に浮いていた水球を燃え盛る炎の中へと投げつけた。その瞬間、轟とすさまじい衝撃と過度の圧縮から開放された水流が一気に弾けた。爆散した水の衝撃によって家屋の一部は吹き飛び、先ほどまで目の前で轟々と燃え盛っていた炎は一瞬にして姿を消した。残されたのは半壊した家屋と、焦げたあとの残った隣家。
 いまだ何が起こったか理解できていないのか、周りにいた人々は呆然とその光景を見ていた。次第に何が起こったのか理解し始めたのか、人々の中の一人が声をあげた。

「や、やった! 火が、火が消えたぞ!」

 事情を完全に飲み込めたわけではなかったが、彼らの一番の問題だった燃え盛る炎の鎮火はなされたのだ。喜ぶ彼らを見て、フィードは一息ついた。

(よし、これで問題は一つ片付いた。あとは……)

 衝撃的な出来事を前に呆然としている人々から少し離れた位置で同じように呆けている少年の元へ、フィードは一気に駆けだした。

「なっ!?」

 驚く少年。次の言葉を発しようとするが、腕を後ろにねじられ、そのまま地面に押し倒された。

「さて、陽動のつもりでやってたんだろうが前回と今回は派手に動きすぎたな。悪いが知っていることを話してもらうぞ」

 少年の上から冷たい視線で見下ろすフィード。少年は出し抜かれたことが悔しいのか、それとも自分が犯人だとバレるようなうかつな行動をとったことへの後悔からか、歯軋りをし、自分を押さえつけるフィードを睨み付けていた。
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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
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      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
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