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下調べ

 アルが買い出しを終え、グリンの元に向かっている頃、フィードは下町での聞き込みを行っていた。一昨日まで連続で起こっていた盗賊の犯行は何故か昨日は起こらなかった。

「あれじゃねえか。人を殺してビビっちまうような小心者だったんだろ。実際盗られたものもそこまで高価なもんじゃないって聞くぜ。だいたいこんな下町にそんな高価な金品があるわけねーだろうが」

 けだるげに答えるのはフィードより頭一つ低い青年。栗色の髪に緑色の瞳。年はもう20を超えているのだが、身長が同年代の者に比べて低い。そのため、年齢よりも幼く見られるのが悩みである青年だ。

「そう思うか? でも昨日はたまたま現れなかっただけかもしれないだろ。そうやって油断させておいてっていう手かもしれないと思うぞクルス」

 クルスと呼ばれた青年は頭をかき、まじめに考えようとするがどうにも落ち着かない。彼はこのように考えるよりも身体を動かす方が得意なのだ。

「まあ、そうかもしれねーけどよ。第一なんだってここなんだ? そりゃ、フラムでやるよりかセントールみたいな貿易国での盗みの方がリスクも低いし、やりやすいかもしれねーけどよ。わざわざ都市部に来なくたってフラムの端にあるような村に盗みに入った方がもっと金も入るし、楽だと思うんだけどな」

 と、一般人にあるまじき過激な発言をするクルス。こんな事を言っているが、実際彼は盗みを働いた事など一度もない。本人曰く言うだけなら自由という考えに基づいての事だった。

「確かにな。それとも、ここじゃないといけない何かがあったのかもしれないってことかも」

 口元に手を置き、フィードは熟孝する。そもそも、ここ最近特に大きな事件のなかった下町で何故急に盗賊が出るようになったのか、それが問題だ。一番に考えられるのは亡命者の存在。この国が他国からの亡命者を暗黙の了解で受け入れているのは周知の事実だ。事情を知らない亡命者が金品欲しさから金を盗み逃げ回っているというのが現状一番考えられる線だろう。
 しかし、どうにも腑に落ちない。そもそも亡命をするなら余程の事がない限り事前に下準備をして来る場合が多いはずだ。他国の権力者で、その存在が高位であればあるほどこの国の権力者への根回しをしているはずだからだ。
 それに、それほどの権力者でもただの富裕層であるのならば、まず盗みになど入らない。それは彼らの持つ意味のないプライドが大抵の場合は障害になり、行動に移せないし、人を殺した場合は後ろ盾がないので良心の呵責と罪悪感から普通にしていられないからだ。
 となると、この場合は権力者であるかどうかは置いておいて、金銭に余裕がなく、事前に計画をしてなく突発的な結果から亡命する事になった亡命者でそれなりに頭も回る相手だと考えた方がいいだろう。
 相手の頭が回るとフィードが考えたのはそれなりに日数が経ち、毎日犯行を行っているにもかかわらず、相手の特徴が少しも分かっていないという現状を鑑みての事だった。

「これはだいぶめんどくさそうだな」

 事態が思った以上に厄介であるという事にようやく気がついたフィードは思わず愚痴をこぼした。

「おいおい、しっかりしてくれよ。お前にどうにかできない問題だったら俺たちは特に役にも立たない騎士団たちに問題解決の要請をださなくちゃいけないんだぜ。あいつ等に金を払うくらいだったらパーッと酒場で飲み食いした方がまだマシだぜ」

 両手を大きく広げ、金をばらまく仕草をするクルス。その言葉の端々に騎士団に対する嫌悪感がにじみ出ていた。

「お前、相変わらず騎士団が嫌いなんだな」

 思わずフィードは口を挟んだ。

「あったりまえじゃねーか。あいつらが俺たちにしてくれたことなんて糞みて―なもんだぞ。大雨で街が浸水した時も、俺たちが必死に土嚢を積んでる中、酒場でただ酒を飲んでいるくらいで、終わってみれば派遣要請をした分の謝礼を寄越せとか、殺人鬼の亡命者が下町をうろついてた時に要請してみれば、殺人鬼に鉢合わせしてビビって逃げ出す始末。
 それでいて金は要求する。中にはまともな奴もいるけど大半の騎士隊はそんな奴らばかりだ。これでどうやって好きになれって言うんだよ」

 憤りを隠すことなく、心に溜まっているものを思いっきり吐き出すクルス。その大きな声に驚いたのか、通りを歩く他の人々はビクリと一瞬身を震わせたが、誰も彼を注意することなくその場を立ち去る。言葉には出さないが、他の下町の人々も彼と同じような考えなのだろう。

「だからさ、俺たちはお前が来てくれて本当に感謝してるんだよ。腕は立つのに全然金銭を要求したりしねーし。俺たちの事を下に扱ったりしないでいてくれるしさ。なんだかんだ困ってたら助けてくれるのはお前くらいだよ。
 だから俺は今回の件もお前がどうにかしてくれるって信じてる。それはきっと他の下町の奴らも一緒だ。だから、みんなお前が今までどんな風に生きていたか聞かないし、興味もない」

 真っすぐな眼差しでフィードを見据えるクルス。その視線にフィードは自分の視線を交わらせることなく、

「いいのか? そんな事言っているといざ事が起こった時に後悔するぞ」

「そんときはおれや下町の奴らの見る目がなかったってことだ。だいたいお前はそんなことしねーよ」

「どこからくるんだ、その根拠は」

 肩をすくめてフィードは呆れる。

「強いて言えば……勘? 他にも理由はあるけどな」

「勘って……一応お前ここの地区の次期町長だろうが。そんなあやふやなもん信じるなよ。で、他の理由って言うのは?」

「色々あるけど、一つあげるならアルちゃんに対するお前の態度だな。他人に対してあれだけ優しくできる奴が大それた事件とか起こすわけないだろ。それが奴隷ならなおさら……な」

 クルスの思いがけない言葉にフィードの視線が鋭くなる。

「お前、それをどこで……」

 しかし、フィードの鋭い視線を飄々と受け流してクルスは答える。

「そりゃ、お前。これだけ長い間この町に滞在してればそれくらいの事は分かる奴の一人や二人出て来るさ。まあ、この事を知ってるのは俺も含めて数人程度だから安心しろって。べつに言いふらしたりしねえからさ」

 その言葉の真意を探ろうとしたフィードだが、どうやら言葉通りの意味と受け取ってもいいようだ。自分と一緒にいる以上、周りで起こる騒ぎになるべくアルを巻き込まないように心がけている。グリンの元に預けているのもそう言った考えがあるからだ。だからこそ、今のようにクルスがアルの素性を知って、それが公になったときの彼女への被害はかなりのものになるだろう。
 一部の人は理解を示してくれるかもしれないが、ほとんどの人は態度を変えるだろう。まだどこの国でも奴隷というものへの差別的扱いは根深く存在しているのだ。

「ならいい。お前を信用する」

「さすがフィード。下町の何でも屋!」

 ドンドンと肩を叩くクルスの腕をフィードはうっとうしそうに振り払い、

「それじゃあ、なるべく早く問題を解決するよ。みんな迷惑しているみたいだからな」

「おう、よろしく頼むぜ!」

 クルスと別れて再び下町をぶらつくフィード。問題を解決するための糸口はある程度掴めていた。この手の依頼はフィードにとって初めてではないのだ。

「さて、それじゃあ次の被害が出る前に犯人を捕まえるとするか」

 そうしてフィードはある人物を探し始めた。

 その相手はフィードが昨日財布を盗まれた少年だった。
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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     3月のライオン
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     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
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      向日葵の咲かない夏
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      ワイルドスピード
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好きなゲーム:キングダムハーツ
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