10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

プロローグ 始まりの回想

 始まりはそう、シンと静まり返った夜の事だった。
 冷たく、人気のない地下牢に閉じ込められてもう何時間が経ったのだろう。一度も人が来ていないから、一体今が朝なのか昼なのかもわからない。
 さっきからお腹は鳴り続けているけど、そんなことは今までいくらでもあったから気にしない。そもそも、今こんな風になってしまったのも、元を辿ればこの空腹に耐えきれなかった自分がいけなかったのだ
 叔母からの嫌がらせに耐えて、お腹が減るのを我慢して、露店に置いてあった果物なんて盗らなければ、こうして惨めに奴隷になんてなる事はなかった。
 暗闇に慣れた目で左肩を見ると、そこには奴隷の証である烙印の紋章がくっきりと刻まれていた。簡易魔法で刻まれた契約の証、人以下である存在の紋章が。 罪を犯した自分を叔母は喜んで引き渡した。そして、売りに出された私はその容姿の珍しさから、あっさりと富裕層の人間に買われる事になった。

 そこまではよかった。そう、そこまでは。

 案の定というべきか、私の容姿が珍しいのを他の富裕層に自慢したかったのか、私を買った少し小太りな男は私の首に繋がれた鎖を引いて私を引き連れ回した。周りの人々は私を見るなり、

「ほう、これは珍しい。一体どこで手に入れたので?」

「いやいや、立派な買い物をなさりましたね。この者はおいくらでなら譲っていただけますかな?」

「あなたもまた変わった趣味をしていらっしゃる。見たところまだ十かそこらの少女ではありませんか。そのような趣味をしていらっしゃるとは知りませんでしたな」

 などと、私をじろじろと見つめ、奇異なものを見るかのように接した。その中には一つも好印象なものは見られなかった。私は自分の容姿に誇りを持っていた。死んだ母が私に唯一残してくれたのがこの容姿だったから、たとえ人とは違っても、その事を卑下したことは一度もなかった。
 だけど、それでも。見せ物になるのだけは嫌だった。母から譲り受けたこの姿がこんな風にして晒されるのだけは我慢ならなかった。だから、この時になって私は自分を掴んでいる男に向かって反抗の意思を表した体当たりをした。
 しかし、結果は惨敗。男はよろめいただけで、自分に向かって反抗的な態度を取った私に、正確には私の烙印に命じて私を地に這いつくばらせた。

「この、奴隷風情が。そんなナリでも買ってやったというのに、この私に楯突くなんて……。せっかく話の種ができたと思ったが、こんな反抗的な奴隷では仕方ない。すぐにでも売りに出すとしよう。
 おい! 誰かこいつを地下牢に閉じ込めておけ。明日には市の売りに出すから傷はつけるなよ!」

 そう言って男に付き従っている数名が私を捕らえて地下牢に閉じ込めた。 そして、それから地下牢の扉が開く事はなかった。
 男の話を聞くと、私はまた売りに出されるらしい。またあの壇上に上がらされて、買い手の奇異なものを見る視線に晒されるかと思うと気が沈んで仕方がなかった。 せめて次に買う人はもう少しまともな人であってほしい。そんなことを考えて身体を丸めて顔を伏せたときだった。
 遠くから重い地下へと続く扉が開く音が聞こえ、ゆらゆらと揺れる蝋燭の明かりが、部屋の奥にある階段の上に見えた。もしかして、いつの間にか朝になっていたのだろうか? 
 コツ、コツと石段を歩く足音が周りに反響する。そして、しばらくして灯りとともに現れたのは一人の若い青年だった。彼は地下牢に入っている私を見つけると、

「あれ? こんなとこに女の子が閉じ込められてるなんて聞いてないぞ」

 と一人呟いた。そして私の事をじっと見つめた。こいつも他の人間と同じか。みんな私のことをじろじろモノみたいに見て、何が楽しいんだろう?
 そう思っていると、

「なあ、お前ここから出たいか?」

 と、男が思ってもいない事を言い出した。

「べつに俺はどっちでもいいんだ。まあ、出たかったら面倒見てやるから早く出ろ。出たくないならそのままここにいろ」

 一体何を言っているんだろう? 私はこの男の言ってる事が理解できなかった。

「ここを出たとしても、どうせ殺されます。だったら私はここに残っています。どうせ……どこに行っても同じですから」

「ふ〜ん。だったら、ここを出ても安全って言ったらどうする? お前は好きにしていいって言われたらどうする?」

「それは……」

 問いかけられて私は答えに困った。今まで言われた事をやるだけの生活だったから、自分でどうすればいいかだなんてことは考えた事がなかった。
 でも、ここから出て自由になったとして一体自分はなにがしたいのだろう? 結局は変わらずに嫌な視線を向けられるのがオチだろう。それならば、どこか遠く、自分が安心して過ごせるような場所に行ってみたい。

「どこか、遠く。私がいても変に思われない場所に行ってみたい」

 そう男に伝えた瞬間。目の前にあった鉄格子の扉が強引にこじ開けられた。

「そっか。じゃあ、俺と行こうか」

 男の馬鹿力に驚く間もなく、手を引かれ、勢いよく階段を駆け上る。灯りのある場所に上がると、鉄格子をこじ開けた音が地下から上に漏れていたのか、騒ぎに気がついた人々の走り回る足音が少し遠くから聞こえた。

「マズっ! ちょっと派手にやりすぎたなあ」

 マズいといいながらちっとも不安そうな表情を見せない男をどこか不思議に感じながら見上げていると、私の視線に気がついた男が

「ん? なんだ、不安なのか。安心しろって、俺がなんとかしてやるから」

「べつに不安に思っていません! 言いがかりはよしてください」

 私の反論が可笑しいのか、男は笑って私の頭を軽く叩いた。明るい場所に出て私の容姿ははっきり見えるようになっているのに男は何も言わなかった。

「あ、あの。なんで何も言わないんですか。その……」

 灯りに照らされてはっきりと見える白髪に赤眼。これこそが私が奴隷として小太りな男に買われた理由だった。

「いや、べつに姿なんて人それぞれだろ? 多少驚いたけど、それくらいで変に思う要素はないしな」

「そ、そうなんですか……」

 今まで出会った事のある人とはまったく違う反応に私は戸惑ってしまう。

「ああ。そんなんで驚いているようなら俺の秘密なんてもっとすごいぞ。聞いて驚け。実は俺はな……不老なんだ」

 それを聞いて私はこの男は頭がおかしいのだと思う事にした。勝手に出てきて勝手に助けて、私が今まで散々蔑まれて奇異の視線に晒されてきたこの容姿についても何も言わないで、挙げ句の果てには自分は不老だという。これをおかしいと思わないでどう思えばいいのだろう。

「ま、普通は信じねーわな。――っと、そろそろ向こうも来るな。俺からあんまり離れないようにして付いてこいよ」

 そう言って男は私の前に出た。私はこの時そのままここに残るという選択肢もまだ残っていたのに、気づけばいつの間にか男の背を追っていた。

 これが、私と旅人フィードの最初の出逢いだった。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

tag : *

Secre

こねこ時計 ver.3

CATS
Sweets
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。

プロフィール

建野海

Author:建野海
扉の中の部品たちへようこそ。

名前:建野海

twitter @tateumi よかったらフォローしてください。


好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
          UVERworld
          アンジェラアキ
          

最近の記事

最近のコメント

カウンター

Twitter

 

月別アーカイブ

カテゴリー

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
1502位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
305位
アクセスランキングを見る>>

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブロとも一覧


旅の空でいつか

標準装備で。

CANDY BOX

クリスタルの断章

現実エスケープ

BSR

白と黒の交流所

みくちょんの毎日

木綿湯のぶろぐ

気ままな雑記帳

saichi放送局

とあるゲーマー武装紳士の日常

星のゆりかご

Melt Sugar

小さいにっぽん頑張れ、2ch,大騒ぎ

Twilight of midnight

hana.bana
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。