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「夢の始まり」

設定、制約:・作品キーワードのひとつに「イヴに世界とキミと」を入れる。
・文字数は30,000文字以内とする。
・作中、どこかに必ず「メリークリスマス○○」(○○は任意)の台詞をいれること。
・地球滅亡の危機が迫っており、主人公の活躍なくして危機回避できない。
・主人公とその仲間たちには特殊能力がない。
・地球温暖化を抑止するといったものはNG。
  殺人ウイルスの拡散を防ぐといったものならOK。
  (なるべく緊迫した、厨二な状況)
・PG-12……○
・R-15……○
・R-18……△(ノクターンかムーンライトでの公開とする)
・BLやGL……○
・二次創作……×
・連載からの外伝……×

 これは、ありえるかもしれない未来の話。

 度重なる自然災害によって荒廃した地球。かねてより地球を捨て、月への移住計画を立てていた世界政府は移住のための準備を着々と進めていた。
 少しずつテラフォーミングされていく月。そんな中、地球上にいる生物は荒廃した環境に対応しようと進化していった。それまで大人しかった生物は凶暴化し、異常な進化を遂げ、それまで被食の関係にいた生物が捕食者として人間を狩るようにまでなった。
 少しずつ減少する人類。壊されて行く移星のための施設。異常な事態が次々と起こる中、ある二つの団体が生まれた。
 一つは地球に留まり環境を元に戻す研究を続ける事を決めた人類「Earth」
 もう一つは移星を決断し、月での生活を決めた人類「Luna」
 二つの団体が生まれて数十年が経ち、地球には残り一つの脱出船とわずかな人類のみが残されていた。
 地球に残った研究員の予測ではあと一週間ほどで、これまでにない大規模での自然災害が起こり、完全に人が住める環境ではなくなるという。
 しかし、その災害を防ぐための機械がつい先日ようやく完成した。
 機械は全部で六つ。これをアフリカ、アジア、ヨーロッパ、南アメリカ、オーストラリア、南極の六つの大陸に設置する。そうすることで、機械間での共鳴を起こし、災害をコントロールするというものだ。
 一つの機械の設置には地球に残った人類の中から六人のエージェントが選ばれ、命をかけてそれを設置場所にまで運び、起動までの間機会を守るという役割を与えられている。
 残された期間は一週間。失敗は地球の滅亡を招く事になる。
 アジア大陸に機械を設置するメンバーの一人となった少年フィーアも、与えられた重大な責任と周りの期待に押しつぶされそうになりながら、命を共にするメンバーと共に作戦会議室にて説明を受けていた。
「残る時間はおよそ168時間だ。このミーティングが終わり次第俺たちは目的場所に向けて出発する。目的地までは約三日で着く予定だが、おそらく道中でトラブルが起こると思われる。最悪一人でも目的地にたどり着けば俺たちのミッションは達成だ。いいか、誰が死のうと振り返るな。気に留めるな。一瞬のためらいで死ぬ事になるのは自分だ! そこのところを常に気をつけておけ。――以上だ」
 メンバーのリーダーであるアインスが皆に激を飛ばして締めくくる。フィーアと十も年が変わらないアインスだが、持ち合わせたカリスマ性がそうさせるのか、そこにいるだけで皆に安心を与え、どんな状況でも的確な判断を下してきた事から、自然とメンバーのリーダーになっていた。
 そして、そんな彼から厳しい口調でありながら皆を気遣う激を飛ばされたことに気がついたフィーアは先ほどまで身に纏わりついていたプレッシャーが薄れたのを実感した。
「どうしたあ! 今更ビビっちまってんのか、フィーアよう」
 ドンと勢いよく背中を叩く衝撃と共に横に座っているフェンフが笑いながら話しかける。
「ちょっと、フェンフ。急に叩かないでよ。痛いってば」
「おうおう。なんだかお前が今にも逃げ出しそうなほど青い顔をしていたもんでな。ちょっとばかし気合いを入れてやったんだ。ありがたく思え」
 長く伸びた自慢の髭をフェンフは触りながら、カッカッカッと高笑いしていた。
 やれやれとフィーアが肩をすくめていると、フィーアの前に座っているドライが冷たい声で、
「何を笑っているんですか? 私たちにはもう残された時間はないんですよ。選ばれたものとしての自覚をもっと持ってもらわないと困ります」
「いいじゃねえか。残された時間が少ないからって悲観的にしたっていいことなんてなんにもねえぜい。そんな気を張ってばっかじゃいざって時に大事な判断を見誤る事になるぞ」
「余計なお世話です。そんなに気を緩ませているあなたこそ大事な時に気を抜きすぎて死ぬなんてことにならないように気をつけてください」
 フィーアと年も変わらない少女ドライは中年の男性であるフェンフにそう言い捨てると口を閉ざしてしまった。
「まあ、まあ。二人とも言い争いはそこまでね。ミーティングはもう終わりよ。今からあたしたちは人類の今後を決めるための任務につくの。気を張りすぎてもいけないし、逆に緩みすぎてもいけないわ。だから、油断せず、それでいて緊張しすぎずに任務に臨みましょ」
 そう言って二人にフォローを入れるのはメンバーのサブリーダーであるツヴァイだ。彼女は様々な人種が入り交じるこの会議室の中で唯一他とかぶる事のない黒色のロングヘアーをした女性である。もちろん瞳の色も黒で、これからフィーアたちがいく事になるアジア大陸には、かつて彼女のような人種がたくさん住んでいたと言われている。
 ちなみにツヴァイ以外のメンバーの髪色、瞳色ははアインスとフィーアが金髪青瞳。ツヴァイとゼクスが銀髪赤瞳。フェンフは茶髪緑瞳だ。
「ふん。なんでもいいが、外には俺たちを狩ろうとするモンスター共が大量にうろついているんだ。せいぜい怪我をしないように気をつけてもらわないと俺の仕事が増えて困るんだよ」
 と、それまで黙っていたゼクスが嫌味ったらしく皆に告げる。
「そんな事言うなよ、ゼクス。お前がいるからこそ皆安心して戦闘に集中できるんだから。」
「気軽に言ってくれるなアインス。怪我人なんて重傷なら捨て置く、軽症ならそもそも俺の手を煩わせてまで治療する時間は無駄以外のなんでもない」
「とは言っても何もしなかったら後一週間で世界は終わるんだ。一週間くらいは我慢して治療をしてくれ」
「ふん、仕方ない」
 腕を組み、椅子にふんぞり返り尊大な態度を取りながらゼクスは渋々納得した。メンバーの医療担当である彼は外にいるモンスターなどとの戦闘などで仮に誰かが怪我を負った場合などの医療を担当している。
「まあ、そんな怪我を負う前にわしがモンスターを狩ってやるから心配するな」
「フェンフがそう言ってくれると心強いよ」
 メンバーの護衛担当のフェンフは主に戦闘をメインにこれまで修練してきた。他の皆も戦闘訓練は受けてきたが、一番適正の高かったフェンフがより特化した訓練を受けてきたため、他のメンバーと比べてその腕は雲泥の差と言えるだろう。
「さて、おしゃべりはこれくらいにしておいて、そろそろ皆準備に入ろうか。三十分後にエントランスルームに集合だ」
『了解!』

リミットまで残り167時間。

 三十分後、準備を終えた六人はエントランスルームに集合していた。
「準備はいいか? と今更確認するまでもないよな」
 アインスの言葉にフィーアを含めた誰もが頷く。
「今から俺たちはヘリに乗り込み目的地近くまで移動する事になる。比較的モンスターが少ない地点で降ろしてもらい、そこからは徒歩での移動だ。各自自分に与えられた役割を自覚し、行動をとるように。もし、モンスターが出たとしても慌てずに対処するんだ。いいな?」
「わかりました」
 アインスの言葉にフィーアが答え、アインスが納得したかのように頷く。
「よし。それじゃあ今からヘリに乗り込むぞ」
 アインスを先頭に六人はエントランスルームを出てヘリポートまで歩いて行く。待機していたヘリに乗り込み、空へと飛び立った。
 フィーアは徐々に離れてく大地をほんの少し惜しみながら、空高く舞い上がったヘリの窓から荒れ果てた大地を見下ろす。
(この大地を、僕たちの手でかつてあった緑豊かな大地に戻すんだ)
 そのためにはまず終わりに近づいている世界を止めなければならない。この任務絶対に成功させてみせる。
 心の中で一人そう誓い、無意識に拳に力が入った。
「……」
 そんなフィーアの手にそっと手が重なった。
「……えっ」
 驚いて重ねられた手を見ると、それはフィーアの隣に座っているドライのものだった。
「全く。あなたは余計な事まで考え過ぎです。そんな背負ったところであなたにできることなんて限られているんですから、できることをしてください。緊張するなんてことは一人前の人がする事です。そんなものはあなたには必要ありません。わかりましたか?」
 きつい物言いだが、どうやら励ましてくれているらしい。年も近く、自分よりも要領のいい少女の言葉に情けなくも安心するフィーアだった。
「うん。ありがとうドライ」
 そう言うとドライは重ねていた手を離し、下を向いて黙り込んだ。
「おうおう。わしとはずいぶん対応が違うのう、フィーア~」
 茶化すようにフェンフがフィーアの肩を小突く。
「ちょっと、フェンフ。変な事言わないでよ」
「いいじゃあねえか。こっちは女日照りしとるんだからのう。なあ、ゼクス?」
「はっ! お前と一緒にするなフェンフ。俺は女なんてものに興味はない。俺が興味あるのは医療だけだ」
「なんだ、つまらんのう。お前さん人生を損しとるぞ。絶対」
「余計なお世話だ。人の価値観に口を出すな」
「ちょっと、二人とも止めてよ」
 言い争う二人と、それを止めるフィーア。そんな三人を見てツヴァイがくすりと微笑んだ。
「この任務が成功したらみんなでこうやって馬鹿みたいに話しているのも悪くないでしょうね」
「そうだのう。きっとその時の酒は格別だぞ! 今度は絶対に潰れるまで飲ませるからなフィーア」
「勘弁してよフェンフ。そう言っていつも最初に潰れるのフェンフじゃないか」
「そうだったかのう」
「またそうやって誤魔化そうとして。最初の一杯で酔っぱらうくせに」
「それはきっとお前さんの思い過ごしだと思うがの」
「全く、騒がしい奴らだ。少しは黙れ」
「お前さんは黙り過ぎじゃ、根暗」
「なっ! 誰が根暗だっ!」
 徐々に騒がしくなっていく機内。緊張や不安、そしてこれから起こるであろう様々な事への恐怖から無理をして明るく振る舞っている事をきっと誰もがわかっていた。
 しかし、誰もそこに触れようとしない。なぜなら、この六人は運命共同体で、誰かの不安は誰かが支えると決めているからだ。普段は仲が悪いように見えるフェンフとゼクスも心の底ではそれを理解している。
「そろそろ着くぞ」
 それまで騒がしかった機内がアインスの一言で静まり返る。皆呼吸を整え、気を張りつめ、意識を集中させる。
「連絡が入りました。各大陸のメンバーも所定位置に到着したようです」
 連絡役であるドライがアインスに報告する。
「よし、それじゃあみんな後五分後に着陸。ミッションスタートだ」
『了解!』


 五分後、目的地に到着した僕たちはヘリから降り、足早にその場を離れた。ヘリもすぐさまフィーア達のいた施設に向けて離陸した。これまでは空を飛ぶモンスターが少ない地域だったが、ここからはそうもいかない。そのため、設置ポイントからモンスターが出ない一番近い距離までヘリで来た後の移動方法は徒歩になる。
「気をつけろ。まだ出てきていないが、ヘリの音を嗅ぎ付けてこちらに向かってきているモンスターがいるかもしれない。各自周囲に気を配りながら進むぞ」
 周囲に目を凝らしながら慎重に、かつ迅速に六人は進んで行く。ドライがアインスとツヴァイに通信の報告をし、二人がルートを確認したり、他のメンバーの状態を見る。フェンフは気楽そうにしているように見えながらも、腰に掛けてある銃に常に手を掛けながら歩き、ゼクスは皆の体調などを確認しながら携帯食料をかじっている。フィーアは肩に背負ったバックパックの中にある機械の重みを実感しながら皆の後ろを歩いていた。
「よし、この辺りで一度休憩しよう」
 ヘリを降り、歩き始めてから約三時間。先頭を歩くアインスがそう告げた。腰を落ち着けれそうな岩をそれぞれ見つけ、そこに座る。
「ここまではなんとか順調にくることができたのう」
「そうだね。今のところはモンスターも出ていないみたいだし、このペースなら予定の三日以内につけるかもしれないね」
「いや、フィーア。気を抜くのはまだ早いぞ。まだまだ目的場所まで距離はあるんだ」
「そうだね、アインス。ごめん、ちょっと気を抜きすぎた」
「いや、いいんだ。俺は指揮官だからな。常に最悪の展開を想像して任務を進めなきゃいけない。だから順調に言っていてもついつい悪い方に考えがいってしまうんだ」
「二人の言っている事はどちらも正しいわよ。それぞれの役割をそれぞれがこなす。それがあたしたちでしょ? アインスは指揮官だから皆にとって厳しい事を言わないといけないし、みんなのサポートが担当のフィーアは今の皆の様子を見て気持ちを代弁してくれてるんだから」
「そうだな。俺もこのまますんなり行けばいいと思っているよ」
 そうアインスが言ったときだった。
「みんな、気をつけろ!」
 フェンフの怒声と銃声が辺りに響き渡った。
「モンスターか!」
 アインスはすぐさま足に掛けてあったホルスターから拳銃を取り出し、構える。他の四人も同じように銃を構える。
 ギャンッ! という鳴き声が聞こえ、フェンフも銃の引き金から手を離す。声のした方を見ると、かつてチーターと呼ばれた動物によく似た生物が茂みに倒れ、血を流して絶命していた。ただ、その生物はかつての生物と違い、牙が伸び、牙の先からはポタポタと液体が零れていた。
「毒持ちだな。早めに気づけてよかった。かすっただけで重傷ものだ」
 絶命した生物を見下ろし、ゼクスが呟く。
「毒に対する薬はあるんだろう?」
「ああ、一応な。ただし、数に限りがあるからいちいち使っていたらキリがないけどな。しかし使わなかったら死ぬ。最悪だな」
「しかも今殺したこいつはまだ子供。大人はこの倍以上の大きさだしのう。移動の速さも毒の強さも桁違いじゃ。今の銃声を聞きつけてここに来るに違いないのう。急いで移動した方がいい」
「わかった。みんな、聞いての通りだ。休憩は終了。直ちにこの場を離れるぞ」
『了解!』
 それからフィーアたちは先ほどよりも更に息を潜め、周りを警戒しながら先へと進んで行った。妙な磁場があるのか、ドライの通信も上手くいかなくなり、ほんの少し前まで順調だった道行きは一気に不安な物へと移り変わって行った。

リミットまで残り158時間。

「交代だ、フィーア」
 暗闇の中、研ぎ澄まされた意識をかき消すようにして不意に聞こえた声でフィーアは目が覚めた。
「うん、わかったよアインス」
 半分起きたように近い眠りだったが、それでも多少は疲れが抜けた。これまでの行進で休んだとマトモにいえるのは結局最初の休息のときだけだった。いつモンスターに襲われるかわからないとのことで、今日は休まず歩き続けたのだ。
 そして今、二人の見張り役を置き、それぞれ二時間おきに交代している。フィーアの前に見張りをしていたアインスとドライが今度は休息を取り、代わりにフィーアが見張りに立つことになる。
 その場を立ち上がり、見張りの定位置へと向かう。フィーアが見張り場所に向かうまでアインスはその背を見守っていた。
(う~ん。やっぱり頼りないのかな? アインスもみんなもいつも僕のこと心配してるし)
 重大な任務に選ばれた一人といえ、フィーアの実技成績はどれも中途半端なものだった。どれもそつなくこなせるが、専門的な役職となるとどれも自分の上に誰かがいる。言ってしまえば器用貧乏だった。
 そのせいか、今回の任務でも支援担当という役職を与えられ、実質誰かのサポートでしかない。しかも、あまりにも重大な任務だからこそ、逆に自分のサポートが他の皆の邪魔にならないかという思いがあった。
 見張り場に着くと、そこには既にもう一人の見張り番のゼクスが座っていた。
「ん? なんだ、フィーアか。そんなところで突っ立っていないで座ったらどうだ?」
「あ、うん。今座るよ」
 近くにある木を背もたれの代わりにして地面に腰を降ろす。
「……」
「……」
 それ以来二人の間に言葉はなくなった。今の状況から雑談をして楽しむという雰囲気ではないのだが、互いの間に全く会話がないのも困りものである。
 そうはいっても、フィーア自身も会話に自信があるわけではなかった。フィーアたちにとっての日常は過酷な訓練がほとんどで穏やかな日常というものはほとんど存在しなかったからだ。
 だからこそ、この任務に参加している誰もが生き残った先に存在する穏やかな日常を夢見てこの日々を生きてきたのだった。
 そんな想いを胸に抱きながら、フィーアはふと空を見上げる。煌めく星々に囲まれながらその一部を黒く染めた月がぽつりと夜空に浮かんでいた。
 あそこには地球を捨て、新たなる土地を求めて旅立って行った人々がいる。地球を捨てた彼らをこの星に残った人類の中には嘲笑したり侮蔑したりした人もいた。諦めるのはまだ早い、なぜそうまでして新しい土地を求めるのかと。
 しかしそんな人々に旅立って行った者たちはこう言った。
「では、貴方たちにはこの星が救えるというのか?」
 その言葉に誰もが黙ってしまったという。そう、残された誰もがわかっていたのだ。どうすることもできないと。
 しかし、今は違う。どうにかすることができるのだ。
 暇になったのかゼクスは小型の電子子機の電源を作動させ、空中に電子画面を立ち上げ、読書を始めた。読んでいるのはおそらく医療関係のデータだろう。
「ねえ、ゼクス。ゼクスはさ、新しい世界ではどんな風に生きたい?」
 ふと、そんな問いがフィーアの口から零れ出た。
「なんだ、まだ任務が始まって一日も経っていないのに、もう成功した後の事を考える余裕があるのか?」
 視線を画面から動かすことなくゼクスは淡々と質問に答えた。
「い、いや。そんなつもりは……。だけど、みんなもしこの任務が終わったらどうするんだろうかなって思って」
 それから少しの間ゼクスは無言でいたが、やがてため息とともに電子子機の電源を切ると、
「はぁ。おれはな、この任務が終わったらお前みたいに心配ばっかりして不安にしている馬鹿共の頭を治療して馬鹿が馬鹿にならないようにするつもりだ。学習能力のないフェンフのように何度も何度も怪我をして俺の仕事の邪魔をしないように怪我をしないようにさせない環境を作って、穏やかにコーヒーでも飲みながら医療の研究をしていることだ」
 言い方は乱暴でちゃんと聞いていないと誤解してしまうかもしれないが、ゼクスの言ってるのはつまり誰かが今みたいに怯えたり不安にならず、かつ怪我を負う心配をしないような世界にしたいということだ。
 それを理解したフィーアは思わず吹き出した。
「ゼクスってさ、ホント素直じゃないよね」
 天の邪鬼で、口の悪い医療担当。そんな彼の「未来」を聞いてフィーアは
(うん。そんな未来に僕たちがするんだよね)
 任務に対するやる気を今まで以上に心に灯した。
「なんだ、人の読書の時間を邪魔してまで、そんな事が聞きたかったのか。いいから黙って見張りを続けろ」
 ゼクスも一応見張りなんだけどとフィーアは内心で苦笑しながら見張りを続けるのだった。
 ゼクスは再び電子子機の電源を入れ、読書を再開した。互いに無言のまま夜は更けて行く。しかし、そこに気まずさなどといったものはもうなくなっていた。

リミットまで残り118時間。

 フィーアとゼクスが未来について話し合った日々から既に二日が経った。その間の進行中比較的小型のモンスターと接触はしたが、未だに大型のモンスターとの接触はなかった。なるべくモンスターとの遭遇率が低いルートを通っているので、当たり前と言えば当たり前だが。
 しかしその代償として進行のペースは当初の予定よりも大幅に遅れていた。予定では今日に着いてるはずの目的地だが、未だその半分ほどしか進んでいなかった。
 そのため、本来なら急速に当てるはずの夜も、無理を押して行進を続けていた。
「なあ、アインスよ。そろそろ一度休息をとってはどうかのう。皆疲れておるようだし」
「いや、本来ならそうしたいところだが、今の状態で休息を繰り返していると下手をすれば間に合わない可能性が出て来る。ここは無理をしてでも行進を進める」
「ん。そういうことならしかたがないのう」
 一列になった列の先頭と最後尾で会話をする二人。戦闘を歩くのはアインスそして最後尾に護衛約のフェンフ。
 アインスから順にツヴァイ、ドライ、フィーア、ゼクス、フェンフと続いていた。
 そして会話が途切れた今。再びさっきまでのように無言の行進が続く。この一日で会話があったのは数えられるほど。方向の確認をアインスとツヴァイが話したのと、他の隊の現在の状況確認のためアインスとドライが確認作業をし、そして今のフェンフとアインスとの会話だけだ。
 一日ただ行進するだけなら訓練を積んできたメンバーの誰もが(ゼクスは例外)休息を取らずとも無理を通せるが、昨日からずっと歩き尽くめだったため、さすがに皆の顔に疲労が見えた。
「そう言えば、みんなクリスマスって知ってる?」
 重くなりつつあった隊の空気を和ませようとツヴァイがふいに皆に問いかけた。
「クリスマス? えっと、それってなんのこと?」
 問いかけられた言葉はフィーアにとって聞き覚えのないものだった。前を歩くドライにも確認をとるが、ドライも小首をかしげていた。しかし、その言葉を知らないのは二人だけの用で、他の三人はみな知っているような態度をとっていた。
「ふん、そんな事も知らないのかお前等。いいか、クリスマスというのは……」
 小馬鹿にした態度でゼクスが説明しようとしたところ、
「クリスマスっていうのはだな、昔のとある宗教の偉人の生誕を祝う記念日の事をいうんだぞ」
 ゼクスの言葉を遮るようにフェンフが説明をした。
「なっ! お前、このおれがせっかく説明をしてやろうとしていたのを邪魔して」
「いいではないか。誰が説明しても減るもんでもあるまいし」
 言い争いを始めた二人に変わってアインスが説明を続けた。
「今ではそんな言葉も記念日もほとんど無くなっちまったけどな。まあ、こんな世の中じゃしょうがないともいえるが。とまあ、簡単に言うとクリスマスっていう日にはみんなで騒いで楽しんでいたってことだよ」
「それはちょっと簡単にしすぎなきもするけれど……。まあ、アインスが言ったみたいに大まかに言ってしまえばみんなでその日を祝って穏やかに過ごしていたらしいわ」
「へ~。そんな日が昔はあったんですね」
「そうね、今で言うとちょうど任務が終わった翌日がこの日に当たるわね」
「ちなみにな、クリスマスの前日の事をクリスマスイヴというらしいぞ」
「そうなんだ。ちなみにフェンフはどこでその言葉を知ったの?」
「ん? わしは基地の書庫にあったデータから適当にコピーした『イヴに世界とキミと』という書物からな。ちなみに恋愛ものだぞ」
「いや、内容までは聞いてないから」
 フェンフの容姿に似合わない趣味にフィーアが苦笑していると、その前を歩いていたドライが顔を後ろに向け、
「その内容はどのようなものだったのですか」
 と、実に興味深そうに尋ねていた。
「どうした? 興味があるのか?」
 ニヤニヤと笑みを浮かべて顎をさすりながらフェンフはドライを見下ろしていた。
「まずその気持ち悪い笑みを止めてください。背筋が寒くなります。それから問いかけられた質問には迅速に答えるように」
「了解、了解っと。そうだのう、まあざっくり説明すると恋人がそのクリスマスイヴの夜に甘い時を過ごして、お互いの愛を確かめ合いながらクリスマスを迎えるというものだのう」
「ふむふむ。なるほど、それで二人は幸せのまま終わったの?」
「いいや、その次の日にはきっぱりと別れて終わってしまった」
「なにそれ! 救いも何もないじゃないか! 何でそんな話題を今するんだよフェンフは!」
「お、おおう。そんなに怒るなフィーア。ちょっとした冗談ではないか」
「勘弁してよ。さすがに冗談にならないってそのオチは」
 心臓に悪いと、フィーアは呆れてため息を吐く。他のみなも似たような反応をしていた。
「ま、まあ。書物ではそんなオチだったかもしれないけれどさ、俺たちは最高の結末を自分たちの手でつかみ取ればいいだけだって。フィーアもそんな気にするな」
 すかさずアインスがフォローをいれる。こういった気配りはさすがというべきだろう。
「いや、そんなに心配はしてないよ。皆と一緒だからね」
「お、言うようになったな。それじゃあフィーアにはドライの荷物を少し持ってもらうとするか。雑談をして誤魔化していたようだけど、ドライ。お前もう結構限界がきてるだろう」
 アインスにそう言われてドライを見ると、たしかに額に脂汗が滲んでいた。
「心配ありません。この程度なら問題ないです」
「ん~そうはいってもな」
「アインスもミーティングの時に言ったじゃありませんか。一瞬のためらいが自分を死に導くと」
「ま、たしかにそういったが、それはあくまでそいつが死んだらの話だ。生きている間は助け合うのが仲間ってもんだろ」
「しかし……」
「いいから、早く荷物持ってもらえ。無駄に時間が過ぎるのが好きなお前じゃないだろ?」
 アインスのその一言で観念したのか、渋々ドライはフィーアに荷物を手渡した。
「気をつけてくださいよ。一応これらの扱いについてはあなたも学んでいるのでこんな事言う必要はないでしょうけど」
「うん、ドライもあまり無理しないで。アインスも言ったけど、僕たちは仲間なんだから」
「……わかりました」
 ドライから荷物を渡されたフィーアはそれを肩に背負った。
 そして、さっきまでのように全員が歩き出そうとした。

――その時だった。

「おい、何か聞こえないか?」
 緊張した声でゼクスが問いかける。その言葉に他のメンバーも辺りを見渡して警戒態勢をとる。
「フェンフ、何か聞こえるか?」
「いんや、わしは何も聞こえないが。空耳という可能性はないか? ゼクスよ」
「いや、それはない。今もずっと聞こえてる。小さいがこれは息づかいだ。まだ距離はあるが俺たちを見ているぞ! 気をつけろ」
「そうか、わかった。みんな、気をつけろ。何かいるぞ」
 アインスはそう言うと、周りを警戒しながらゆっくりと歩を進め始めた。
 ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。鼓動は早く、息は緊張で切れ切れになった。じわりと肌にまとわりつく嫌な空気。なにかとてつもない不安が隊の周りを覆っていた。
 反応にいち早く気がついたのはツヴァイとドライだった。
「下よ!」「下です!」
 声とともに全員が飛び上がる。しかし、一瞬反応が遅れたゼクスの足首に触手のようなものが巻き付いて、浮いていた身体を地面に叩き付けた。
「……クッ!」
 とっさに持っていたレーザーナイフで触手を切り取ろうとしたゼクスだったが、触手の皮膚が厚いのか、刃が皮膚に通らない。
「マズい! フェンフ!」
 名前を呼ばれたフェンフの行動は早かった。触手の先にある本体めがけて銃を連射した。
「どうじゃ、これで少しは・・・」
 大人しくなる。そう言いかけてフェンフの言葉は止まった。触手の先、奥の大岩に隠れていたのだろう本体がゆっくりその姿を現した。真っ赤な血のような赤い瞳、大量の体毛に覆われた顔から隠れ見える鋭く長い牙。四本足で佇むその全長は三メートルを超すだろう。身体の末端にある尾は五つの触手から別れており、尾の端には別の生き物のような顔と牙が存在している。
 その姿に誰もが息をのんだ。あれは、マズい。人の手に負える者じゃないとそう思わせてしまうほど、圧倒的威圧感だった。
「……いいか、フィーア。合図をしたらお前とドライで先に駆け抜けろ」
 銃を構え、相手を牽制しながら、アインスが告げる。
「え……」
 突然のことにフィーアは戸惑った。
「俺たちはしばらくここであいつの相手をする。その間にお前等二人で先に進むんだ」
 それがどれだけ危険なのかという事をフィーアは理解していた。そして、その選択によって誰かが犠牲になるという結末も……。
「そんな顔をするな。なに、俺たちもすぐに追いつく。だから、お前たちは先に行け。ドライなら常に連絡を取ってくれるから他の隊の状況もすぐに知らせてくれる」
 不安な想いがいつの間にか表情に出ていたのか、アインスはすぐにそれに気がつきフィーアをなだめ、そして諭した。
 大丈夫だから、と。
 きっとまた全員で再開するからという想いで。あるはずのない未来を口にして。
 それがわかっていたからこそフィーアは、
「わかった。みんな、気をつけて」
 それだけを言い残してドライとともに先に進んだ。そして二人が駆け出してすぐ、後ろから大量の銃撃音が鳴り響いた。
 ただの一度も振り返ることなく、前へ、前へと二人は進む。


 フェンフのフォローによってどうにか触手、もとい尾の拘束から抜け出したゼクスが呟く。
「いいのか? あんな無責任な事言って。あいつのことだからきっと本気で信じてるぞ」
「いいではないか。信じているのならその信頼に応えるのがわしらだろう。それともお前さんはこの状況でもう諦めておるのか?」
「馬鹿いえ、この程度のことでおれが諦めるわけないだろうが」
「その意気じゃ、その意気」
「くっ! 馬鹿にしやがって」
 二人の間に叩き付けられる尾をよけながら、会話は続く。
「しかし、どうしたものか。実際この状況はマズいと思うぞ。ツヴァイお前はどう思う?」
「わたしもそう思うわ。相手がこの一体ならある程度応戦して散開して逃げるっていう手もあるけれど。わたしたちの交戦している音を聞きつけて他のモンスターが来る可能性も高いわ。そうなったら逃げる事なんてほとんど不可能に近くなると思う」
「そうか。じゃあ、今すぐ俺たちもあいつ等の後を追うか、ここでこいつの相手をするか、どっちを選ぶ?」
 アインスの問いかけに三人は顔を見合わせ、
「そりゃ、もちろん」
「今ここで」
「こいつの相手をするに決まってるわ!」
 毒の塗られたナイフをモンスターの空いた口元を狙ってツヴァイが投げつけ、そのすぐ後に、麻酔銃を構えたゼクスがモンスターに向かって銃を発砲する。そして最後に二人に気を取られていたモンスターの横腹に大量の銃弾をフェンフが撃ち込む。
 血を吐き出し、モンスターの身体がよろめく。しかし、倒れるまではいかなかった。
「なるほど。見た目同様体力のほうも化け物みたいだな。今まで狩ってきたモンスターとは桁が違うぜ」
「そうじゃのう、こんなやつがいたらいくらわしらが逃げてもすぐに追いつかれそうだのう」
「だからこそわたしたちが残ってるんでしょう?」
「ああ、今ここでこいつにフィーアとドライの後を追わせるわけにはいかないからな」
 フィーアたちが走り去った跡を守るように四人がモンスターの前に立ちふさがる。
「さあ、みんな。俺たちで世界を救おうか」
『了解!』
 アインスの言葉を号令に、四人はモンスターに立ち向かって行った。

リミットまで残り100時間。

 フィーアたちがアインスたちと別れてから既に半日以上が経った。アインスが言った通り、二人はひたすら目的地に向かって進んでいた。これまで目的地へのルートを確認していたアインスとツヴァイの役目をフィーアが代わりに果たし、連絡役はこれまで通りドライに任せている。
 奥に進むに連れてより酷い環境が次々と目の前に広がって行く。鼻を駄目にさせるような腐敗臭。照りつける日射し。それとは真逆の冷たい空気。木々は枯れ、岩と砂でできた土地だった。しかし、少し先の景色には多い茂る森が見える。環境そのものが狂っていた。
 特殊なマスクとフードをかぶり、二人は無言のまま進んで行く。時折、ドライが定時連絡として他の隊の状況を知らせてくれるほか、二人の間に言葉はなかった。
 重苦しい空気が漂う中、先に口を開いたのはドライだった。
「そろそろ休憩を入れてはどうです? もうずっと歩き尽くめですし。幸いここならモンスターが現れればすぐにわかります。遮蔽物などほとんどありませんし」
「……そうだね。一度休憩しようか」
 荷物を地面に降ろし、二人はその上に腰掛けた。歩みを止め、立ち止まってしまったフィーアの頭には考えまいとしていた事が次々と浮かんできた。
「みんな、どうしてるんだろう。大丈夫かな? ううん。きっと大丈夫だ。すぐに追いつくって言っていたし。僕たちはそれを信じて進むしかないんだ」
 フィーア自身それがどれほど可能性の低い希望だという事は理解していたが、口に出さなければ心が折れてしまいそうな想いだった。
 覚悟はしていた。……そのはずだった。
 仲間を一人も失わないで世界を救おうなどということが、どれほど傲慢かということをここに来て思い知らされただけなのだ。
 送り出されたものは先に進むしかない。それが二人の義務であるから。
「そうですね。きっとみなさん大丈夫だと思います」
 慰めにもならない同意の意見を言葉にしてフィーアとドライの間に言葉はなくなった。
 しかし、冷静に努めよう努めようとしていたフィーアはだからこそ気がつかなかった。
 ドライがずっと通信を続けていた事によって得ていた情報を。それを動揺して冷静ではないツヴァイに伝えて絶望しないようにしていた事を。
 他の隊もフィーアたちと同じようにほぼ全滅に近い状況になっているという事を。

 リミットまで残り48時間

 リミットまで残り48時間を切ろうとしていた。覆い茂る木々の群れを抜けて、目標地点までフィーアたちはようやく辿り着いた。
 森を抜けた先にあったのは巨大な水晶が地面から生えている不思議な光景の土地だった。
 その幻想的な景色におもわず二人は立ちすくんで目を奪われた。
「……すごい」
「……はい」
 目的地へと辿り着いた喜びなど忘れて、二人はただただその場に立ちすくんだ。
「僕たち、やっと辿り着いたんだ」
 感慨深そうにフィーアが呟く。
「ええ、やっと辿り着いたんですよ」
 フィーアの手をそっと握りしめてドライが頷く。ヘリの時には驚き慌ててしまったその行動も今のフィーアに撮ってはただ温かくありがたいもので、ドライが寄せた手をフィーアはぎゅっと握り返した。
「……行こう。設置ポイントはもう少し先なはずだ」
「そうですね。行きましょう」
 二人は手を握りしめ合ったまま機械の設置ポイントへと向かい始めた。
 歩き始めて気がついたことがあった。水晶だと二人が思っていたものは近づいてみると違うのだと理解した。見た目は水晶のように見えるが、その中にはいくつもの光が漂っていた。
「これ、なんだろう?」
「どうでしょう? わたしたちは水晶だと思っていたようですけど、どうやらこれは違うようですね」
「うん。なんだかこの結晶自体が生きているようにも思えるんだけど気のせいかな?」
「いえ、わたしも似たような事を思っていました。たぶん、この結晶は生きているんでしょう」
 よくわからない水晶、もとい結晶について考察しながら、二人は辿り着いた設置ポイントにて機械の設置をしはじめた。
「他の隊の様子はどう?」
「大丈夫です。今のところ、わたしたちを含めて四つの部隊が設置ポイントに辿り着きました。後の二部隊もおそらく今日中に着く予定です」
「そう。それならもう地球は大丈夫そうだね。これで僕たちのやったことも意味があったんだって誇る事ができるよ」
「そうですね。月に逃げて行った人たちに唾を掛けてやりましょう」
「いや、それはちょっと……」
 苦笑しながらもフィーアはドライとともに色々な事を話した。
 これまでの訓練。楽しかった事、辛かった事、逃げ出したいと思った事があった事など。
「意外だな~ドライは絶対に訓練から逃げ出そうなんて思ったことないと思っていたのに」
「心外です。わたしだって人間なんですから嫌な事から逃げ出したいと思う気持ちの一つや二つは当然あります」
「ごめん、ごめん。でもそれならどうして訓練から辞退したりしなかったの? そうできる機会は今までいくらでもあったはずなのに」
 フィーアの言う通り、この部隊に入るための訓練は応募による自主的なものだった。やめたい者は切り捨て、それでも残って厳しい訓練を耐え抜いた者たちの中から選ばれたのが今のメンバーたちだった。辛く投げ出したいと思ったら、いつだってそうすることができたのだ。
「……はぁ。やっぱりあなたには自覚が足りてないですね」
 問いかけたフィーアの顔を見てドライがため息を吐く。どうやら本気で呆れているようだ。
「えっ? なんでそんな態度をとるの。僕関係ないはずでしょ?」
 フィーアのそんな態度にドライはとうとう我慢の限界が来たのか、少し怒鳴り気味にこう答えた。
「わたしが諦めなかった理由についてあなたは覚えてないでしょうね。ええ、そうでしょう。あなたにとっては本当になんともないようなことでしたから!」
「ちょっと、ドライ。そんな怒鳴らないでくれよ。もしモンスターが近くにいたら気づかれる」
「大丈夫です。辺り一面水晶だらけならモンスターが来てもすぐに気づけますから」
 話を逸らそうとしたフィーアの言葉をあっさりと論破してドライは続けた。
「あれはわたしたちがまだ訓練生だったときの事です。わたしは他の人に比べて思った以上に結果が出せずに落ちこぼれの烙印を押されかけていました。そんな時、わたしは既に落ちこぼれ扱いされていた一人の訓練生の噂を聞いたのです」
「それって……」
「そう、あなたのことです。落ちこぼれの烙印を押された者はたいていその後の訓練について行けず訓練をやめてしまうということは誰もが知っていました。それなのに、ただ一人周りに馬鹿にされてもずっと訓練に参加し続けるあなたにわたしはほんの少し興味を持ちました」
 そこまで話してドライは一度言葉を止めた。そして、大きく息を吸って話を続けた。
「ほんとうに、最初はただの興味でした。あわよくばわたしも自分より下にいる人の姿を目にして自分はまだ大丈夫なんて言い聞かせようだなんてことも思っていました。しかし、トレーニングルームに一人残って訓練を続けているあなたの姿を見てわたしは考えを改めました」
「どんな風になったの?」
「それまでわたしはたいした努力もしていないのに周りが自分より上だったというだけでどこか諦めた感じがありました。でも、いくら下にいても努力を続けて一歩ずつでも先に進もうとしているあなたの姿を見てわたしは何の努力もしていない。まだ全力を出していないという事に気がついたんです。どうせやめるのならやるだけやってからやめてやろうと、その時わたしは思ったんです」
「それで、その後の結果は」
「ええ。おかげさまでわたしは部隊の通信担当に選ばれる事ができました。わたしにとってみればあなたは恩人のようなものなんです」
「そんな、おおげさだよ。僕は何もしていない。それに、今だって仲間に助けてもらってばかりの落ちこぼれさ」
「いいえ、そんなことはありません。あなたはこの隊の希望なんです」
「どうして……。僕なんてどのエキスパートにもなれないでふらふらと色々な分野のサポートしかする事ができないのに」
「あなたは他の人のサポートしかできないと思っていますが、言い換えればそれはどの分野の知識も経験もあるということです。つまり、最悪あなた一人でもこの目的地にたどり着ければどうにでもなったんですよ」
 ドライの口から告げられた事実にフィーアは動揺した。
『残る時間はだいたい168時間だ。このミーティングが終わり次第俺たちは目的場所に向けて出発する。目的地までは約三日で着く予定だが、おそらく道中でトラブルが起こると思われる。最悪一人でも目的地にたどり着けば俺たちのミッションは達成だ。いいか、誰が死のうと振り返るな。気に留めるな。一瞬のためらいで死ぬ事になるのは自分だ! そこのところを常に気をつけておけ。――以上だ』
 今になってアインスが任務前にミーティングで言っていた言葉が思い浮かぶ。あれは、メンバー全員に言っていたのとはべつにフィーア自身に向けて言っていた言葉でもあったのだ。
「もしかして、みんなこのことを知っていたっていうの? 僕一人でも生き残っていればどうにかなるって……」
 フィーアの言葉にドライが頷く。
「ええ。あなたは自分がみんなのサポートをしていると思っていたかもしれませんけど、実際は逆だったんですよ。私たちがあなたのサポートをしていたんです。だから、あの時みんなあなたに全てを託してモンスターの足止めをしてくださったんですよ」
 それはあまりにも唐突でフィーアが受け止めるには大きすぎる真実だった。
「なんだよ、それ。勘弁してよ。みんながそんな風に考えていたなんて僕だけが知らなかったなんて。そんなのってないよ。そうだとわかってたら……あんな、あんな別れかた……」
 目元から零れ出る涙を隠す事もせず、ただただフィーアは泣き続けた。ドライはそんなフィーアの背に周り後ろから彼を優しく抱きしめた。
 機械の設置は終わり、あとは時間になるまで他の隊の準備を待つ事と、機械を死守するだけとなった。
 悲しい別れを埋めるように優しい思い出に身を委ねながら時間は過ぎて行った。

 リミットまで残り1時間。
 機械の周りからあまり離れないようにしながら二人は警護についていた。あと一時間。それですべてが終わる。
 既に他の隊も設置を完了しており、機械に設定されている起動時間を後は待つのみだった。
 そんな中、フィーアは一人空を見上げ、これまで隊のメンバーと友に過ごしてきた日々を思い出していた。
『おい、どうすればお前は包帯の巻き方を間違えれるんだ。やはり、俺以外の人間が医療に手を出すべきではないんだ……』
『いくらなんでもそれはひどすぎるよ。それにゼクスってホント自信過剰だよね』
『ふん。結果が出ているからいいんだよ。お前だっていつまでも馬鹿にされるくらいだったら包帯の巻き方の一つでも覚えて役に立て』
『はいはい。わかったよ……もう』
 医務室でゼクスに医療技術を教わりながら励ましてもらったこと。
『おう、フィーア。どうしたそんなにじっと銃を見つめて』
『あ、フェンフ。実は……なかなか的に弾が当たらなくってさ。やっぱり僕は才能がないんだろうなって思ってて』
『はっはっはっ! なんだ、お前さんそんなことで悩んでおるのか。いいか、銃を撃つのに才能なんてものは必要ないんだぞ』
『それじゃあ、何が必要なのさ?』
『それはな、相手を撃つ覚悟とそれを可能にするための反復練習のみだ。覚悟がなきゃいざって時に体がすくんじまってうごけない。反復練習をしておかないと、いざ覚悟ができていても相手に当たらない。だからこそこの二つが重要なんだよ』
『そうなんだ……』
『おうよ。だから自分に才能がないなんて悩む前に一発でも多く的に当てる練習をするんだな』
 そういって射撃場から去っていったフェンフ。あの言葉にどれだけ勇気付けられたかわからない。
『あら? フィーアどうしたの、こんなところに座って』
『あ、いや。なんでもないよツヴァイ。ちょっと休憩してたんだ』
『ふ~ん。そうなんだ。訓練を頑張るのもいいけれどきちんと休んでおかないと体が持たないわよ』
『アドバイスありがとう。そういえば今日はアインスはいないんだね』
『え? さっきまで一緒にいたんだけど……どこにいったのかしら』
『お~いフィーア! 受け取れ』
『うわっ! アインス! いたのなら声かけてよ。それと急に飲み物投げないでよ』
『ああ、悪かったな。でもそれ飲んでおくといいぞ。疲労回復にいいからなそいつは』
『あら、アインスフィーアのことに気が付いていたのね』
『まあな、こいつ最近オーバーワーク気味だから少し休ませておかないといけないと思ってな。というわけで、フィーア。お前今日はこれ以上の訓練はさせん。隊長命令だぞ』
『横暴だなぁ……』
 フィーアだけでなく、隊のメンバー全員のコンディションを見極めて、適切な指示を与えてきたアインスとツヴァイ。
 みんなとの思い出は泡のように浮かんでは消えていった。
 今日の空は青く澄み渡っている。このまま何事もなく機械が作動すればこの澄み渡った青空の下でいつまでも穏やかに暮らせるようになるだろう。
「あと少し。あと少しで世界は少しずつかつてのように戻っていくんだ。僕たちが世界を救うんだよ。……みんな」
 そう呟いてフィーアは拳を握り締めた。今ある世界の終わりと再生。その実感が少しずつ彼の中に湧いてきているのだった。
「ドライ。そっちは何か異常はない?」
 機械を挟んで反対方面にいるドライにフィーアは声をかける。
「……」
 しかしドライの返事はなかった。
「ドライ?」
 不審に思ったフィーアはドライの方に向かった。そしてその背後に近づいたとき、ようやくドライが返事をしなかった理由がわかった。
「なるほどね。世界がもうすぐ変わるっていうときなのにドライは本当に変わらないよ」
 そこには立ったまま電子画面で本を読んでいるドライがいた。
「……フィーア。いつから後ろに?」
 ようやくフィーアに気がついたドライが返事をした。
「ついさっきだよ。返事がないから様子を見にきたんだ」
「そうですか。それはすいませんでした」
「それで? 一体何を読んでたの?」
「ええ……前にフェンフが言っていた『イヴに世界とキミと』という話を。実に興味深い話でした」
「それってツヴァイがいっていたクリスマスに関するものだっけ?」
「ええ。どうも今の私たちで言う今日がこの物語でのクリスマスイヴで、明日がクリスマスと呼ばれているようですね」
「フェンフたちもそういっていたね」
「それで、クリスマスの日にはある言葉を言ってみんなでその日を祝うんだそうです」
「へ~。それってどんな言葉なの?」
「それは       です」
 ドライのいった言葉を聞いてフィーアは笑い声を上げた。
「それはまた、面白い言葉だね。そっか。それは確かに今の僕たちにぴったりな言葉になるだろうね」
 そんなフィーアを見たドライも口元に微かに笑みを浮かべ、
「はい。きっと、そうなるはずです」
 と呟くのだった。


 もうすぐすべてが終わる。そんな風に思う気持ちがきっと強かったのだろう。
 だからこそ、常に最悪を想定しておかなければならないはずの二人は、このとき確かに油断をしていた。

「――えっ」
「――なにっ」
 とてつもない衝撃が二人の身体を襲った。何が起こったかなど考える余裕もなく身体中に走る痛みに考えを支配される。
(痛い、痛い。なんだ? 何が起こったんだ。マズイ、頭から血が流れてる。早く止血しないと。そうだ、ドライはどうなってる? ドライ、どこだ?)
 ぼやけた視点をすばやく元のピントにあわせて、視界をクリアにする。腰に巻きつけておいた特性のウエストポーチから応急セットを取り出し、すばやく止血をする。包帯の巻き方はゼクスに散々注意されて教わった。止血も今のフィーアには簡単なものだった。
 砂埃の舞う中、辺りを見回しドライを探す。自分を襲った何かにも注意を払いながら一歩一歩前に進む。
 そんな中、ふいに何かやわらかいものを踏みつけた。すぐさま下を向くと、それはドライの腕だった。
「ドライ!?」
 倒れているドライを抱き起こし、状態を確認する。
(これはひどい。右手と左足の骨が折れてる。これじゃあまともに動くこともできない)
 ただでさえ未知の相手が近くにいるというのにこの状況は最悪だった。どうにか持っている応急セットでフィーアはドライの折れた手足を固定し、身体を無事な水晶に持たれかけさせた。
 砂埃はまだ消えない。
「――ぁっ。フィーアで……すか。すみ……ません。ミス……を」
「いい。しゃべらないで。しゃべるだけ無駄な体力を消耗する。どんな相手かはわからないけど僕たちを襲った相手がまだ近くにいる。僕は今からそいつの……相手をする」
「ムリ……です。おそらく……今の相手は……」
「うん。僕も大体予想しているよ。でもここでそいつと戦っておかないと、もしそいつが機械を破壊したら今までのすべてが無駄になってしまう。あと一時間もないんだ。その間でも時間を稼いでおけばたとえ僕が死んだとしても世界は救われる」
「しかし……」
「もう嫌なんだ! みんなは僕のために命を懸けてここまで連れてきてくれたんだ。なら、ここで僕が……逃げるわけにはいかないっ!みんなの想いに応えるためにも! だから、ドライ。君はここに残っていてくれ」
「……わかりました」
 決意を固めたフィーアをドライはアインスのようだと感じた。
「じゃあ、いってくるよ。ドライ」
「はい、頑張ってください」
 そして砂埃がようやく消えた。そして、フィーアの前方。百メートルほど先には以前対峙したモンスターがいた。かつてフィーアたちを逃すためにアインス、ツヴァイ、フェンフ、ゼクスが対峙した、あのモンスターが。
「やあ。また会ったな。お前がここにいるってことの意味が理解できないほど僕は馬鹿じゃない。みんなは僕を逃がしたあとお前に負けたんだ。そして……」
 一歩、また一歩とゆっくりとモンスターがフィーアに近づいてくる。
「みんなが命を懸けてくれたおかげで僕はこうしてここに機械を運ぶことができた。あと少し、あと少しなんだ。みんなの願いが。僕たちの願いが叶うまで……。それをお前に邪魔させるわけにはいかない」
 モンスターに合わせるようにフィーアもまた一歩、一歩と進んでいく。
「だから、お前はここで。僕が……倒す!」
 その言葉を引き金に、両者は同時に駆け出した。
 勢いで勝るのはもちろんモンスターのほうだった。太く逞しい四本の足で地面を蹴り、一気に距離を縮める。
 それに対してフィーアは腰にかけてあった銃を抜き、照準を定めて相手に向かって銃を構えた。
(銃を撃つのに必要なのは覚悟と反復練習だったよね。フェンフ!)
 勢いよく近づく相手に怯むことなく、冷静に照準を合わせた。
 パンッと乾いた音が響き、鮮血が宙に舞う。フィーアの撃った銃弾がモンスターの左目に当たった。そして、痛みに耐えかねたモンスターはそのまま横に進路を変えて水晶の束に激突した。
「どんなに硬い皮膚に覆われていても絶対に柔らかい部分は存在するんだ。そこを突けば、勝機はある」
 身体の上に乗った割れた水晶の破片をふるい落とし、モンスターは咆哮した。耳を劈くようなその咆哮にフィーアはおもわず立ちすくんでしまう。
 残った片目でフィーアを睨み付けると、モンスターはフィーアに向かって突進してきた。鋭く大きな牙がフィーアの目の前に近づく。
(マズイ!)
 必死に身を捩り、回避する。しかし、モンスターの尾の一つがフィーアの横腹を掠めた。
「クッ! ぅぅっ」
 尾の先にある小さな牙に横腹を抉られた。ほんの少しとはいえ肉が削げている。急いで身を隠し、応急キットを取り出して手当てをする。
(どうする。どうすればいい。最悪あと一時間の間時間を稼げればいいが、そんなに戦う前にこっちが力尽きるのが確実に早い。しかも、向こうの注意が機械にいつ向かうかなんてこともわからない。どうすれば……どうすればいい)
 痛みのせいか考えが定まらない。手元にあるのは応急セットと銃。それから手榴弾と閃光弾が一つずつ。あとはサバイバルナイフが一つだ。
(こうしている間にも血が流れて動きは鈍くなり始めている。決着をつけるなら早いうちでないとだめだ)
 フィーアが更に考えを深めようとしているとき、背後で水晶の割れる音が聞こえた。
「っ! ヤバイっ!」
 急いでその場から逃げ出すフィーア。フィーアがその場から離れてすぐ、フィーアが隠れていた水晶はモンスターの尾の一振りで砕け散った。
 モンスターは片目になったためか、フィーアの姿を見つけるのに苦労しているようだ。
(やるなら、今しかない!)
 フィーアは閃光弾を取り出し、ピンを抜いた。そしてそれをモンスターの前方高くへと投げて目を塞いだ。すぐさま、目を閉じてなおまばゆい光が辺りを覆い尽くした。
 しばらく眩しい光で慣れなかった目も、しばらくすると視界がはっきりし、モンスターの目が眩んでいることを理解した。
「今だっ!」
 手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。そしてモンスターの口内に向かって投げつけた。外が駄目なら中から。そう判断しての行動だった。
 しかし、モンスターは手榴弾が口元に入る直前、後ろにあった尾でそれを掴み、尾についていた牙で手榴弾に噛み付いた。
「なっ!? そんな……」
 今の行動で尾と、すぐ近くにあった顔に爆風がぶつかり、モンスターの尾は全て千切れ飛び、牙も折れたが、それだけだった。絶命させることはできなかったのだ。
 わずかな望みを絶たれて、フィーアはその場に倒れこみそうになった。だが……。
(いいや、諦めるな。アインスや、ツヴァイならこんなとき冷静に事態に対応したはずだ。落ち着け、相手は無傷じゃない。傷を負ったんだ。もしかしたら逃げるかもしれない。しかし、逃げなかったらどう対応するか考えるんだ。今残っている武器はナイフと銃だけ。これじゃあダメージは与えられても致命傷にはならない。なら、ならどうする)
 と、そこまで考えてフィーアはモンスターから少し離れた位置に落ちた牙、そして今の爆風で燃え散ったモンスターの体毛。さらに、隠れていたモンスターの傷跡に気がついた。
「あれは……」
 先ほどまではモンスターの体毛で隠れていたであろう傷跡。明らかに何発もの銃撃を打ち込まれてまだ直りかけの傷跡がモンスターの下腹に見えた。
 それがアインスたちがつけた傷だと気がついてフィーアは今にも泣き出しそうになった。
(みんな。こんな時にまで僕の手助けをしてくれるのか……)
 そして、ならばと。新たな決意を胸に秘める。
「ここで、こいつを倒して世界を救う! もうみんなが僕の心配をしなくても大丈夫だってことを証明してみせる!」
 ナイフを取り出し、狙いを定めてモンスターのもう片方の目に投げつけた。怪我で動きが鈍っていたモンスターはそれをよけることができず、とうとう両目とも失った。
 フィーアはナイフを投げると同時に走り出し、身をかがめて落ちている牙へと近づいた。そして牙を片手で拾うと、走った勢いそのまま、モンスターの下腹に向かって身を投げた。
 目が見えなくとも自分に近づいてくる脅威に気がついたのか、モンスターが右前足を振り上げてフィーアに向かって振り下ろした。
 重なると思われた二つの軌道は上から降りてくる軌道をすり抜けて直線状に進んでいく軌道が対象へとぶつかった。
「う、おおおおぉぉぉぉぉぉぉ」
 叫び声をあげてフィーアは治りかけのモンスターの傷口にモンスター自身の武器であった牙を埋め込んだ。
 痛みに耐えかねたのか、モンスターは絶叫をあげた。身体を振るい、フィーアを自分の身体から弾き飛ばした。
 弾き飛ばされたフィーアは水晶に頭を打ちつけた。強く頭を打ち付けたせいか、意識が徐々に奪われ、視界が暗くなり始めた。
 そして、最後に視界が完全に暗くなる前にフィーアが見た光景は倒れ行くモンスターの姿だった。
(やった、やったよみんな。みんなの敵は、僕がとった。だから、もうみんな僕の心配をしないで。これからはもうみんなの手を借りなくても大丈夫だから)

………

……



 目を開けると空が明るかった。暗闇が空全体を覆っているはずなのに、明るい光が空に向かって昇っていてそれが周りを明るくしていた。
「……これは」
 ついに世界の崩壊が始まったのだろうかとフィーアはまず考えた。しかし、すぐに考えを否定した。世界の崩壊が始まっていたらとっくに自分は死んでいるだろうと考えたからだ。
「フィーア。起きましたか?」
 ふと、すぐ横から声がした。痛みで動かない身体に鞭を打ち、必死に起こすと、そこにはドライが座っていた。それだけで理解した。
「そっか、僕たち生き残ったのか」

 リミットから12時間後。

「ええ、そうです。あなたが頑張ったおかげで機械は作動しました」

 かつての世界ではクリスマスと呼ばれた日が訪れた。

「僕だけの頑張りじゃないさ。他の隊の人や、この機械を開発してくれた研究者、それからこの地球に残ってくれた僕たちの先人。そして、ここに来るまでに命を懸けて機械を守ってくれたみんながいたからこそ、今の成功があるんだ」

 自然災害により、地球は荒廃し、周りの生物が環境に適応して進化していく中、人類は進化に取り残され、捕食されるまでになった。

「そうですね。でも、わたしはあなたのおかげで世界が救われたのだと思っています」

 この星を離れ、新しい星で新しい人生を始めるようになった人とは別に、この星に残り、かつての姿を取り戻そうと努力し続けた人々がいた。

「ドライ……」

 そして、世界が終わるとされていたこの日。六つの隊の活躍により世界は救われた。

「もうわかっているとは思いますが、世界が救われたなら遠慮をする必要もありませんよね。私たちはもう……自由なのですから」

 死んでいったものも大勢いた。しかし、生きているものは、死んでいったものの想いを受け継ぎ、先に、未来へと進んでいった。

「うん。僕も同じ思いだ」

 そして今、それぞれの機械から放たれた光が空へと昇り、地表へと降り注いでいた。これは自然災害を管理するために人が作り出したナノマシンの欠片だ。それが膨大な量空へと舞い上がり、世界に降り注いでいる。

「メリークリスマス、フィーア。あなたのことを愛しています」

「僕もだ、ドライ。ずっと一緒にいてくれ」

 そして、そんな光に包まれて一人の少年と一人の少女がとある地上で心を繋ぎ、身体を抱き合わせた。

 二人は甘く、溶けてしまいそうな口付けを交し合い、互いに手を握り締めて空を見上げた。

 どこまでも続いていく光は全てのものを祝福しているかのようだとフィーアは思った。

「Merry Christmas.
and new -- the world -- Welcome!」

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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
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     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
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      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
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好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
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