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「刹那のぬくもり、そして……」

『お土産? そうね~お菓子を買ってきてちょうだい』

勉強の休憩も兼ねて一人リビングで夕食を食べていたとき、隣のお母さんの部屋から話し声が聞こえた。今家には私とお母さんの二人しかいない。おそらく電話をしているのだろう。相手はきっとお兄ちゃんだ。

『千春? 今いるわよ。ちょっと待ってて』

私の名前が聞こえたと思ったら、お母さんがこっちに来て私に受話器を渡した。

「なに?」

「お兄ちゃんがお土産になにが欲しいかって」

「私別にいらないんだけど」

「そういったことはお兄ちゃんに直接いいなさい」

そう言って、お母さんは自分の部屋に戻っていった。私は手渡された受話器の保留を解除した。受話器からは聞き慣れたお兄ちゃんの声が聞こえた。

『もしもし、千春か?』

『そうだけど……』

『明日にはそっちに帰るんだけどさ、土産でなんか欲しいものあるか?』

『別に買わなくてもいいから。ていうか私土産いらないし』

『なんだよ、やけに機嫌悪いな』

『あのさ、私受験生なんだからこんなことでいちいち電話してこないでよ。忙しいんだからさ』

受験まで残り二ヶ月を切り、毎日勉強に明け暮れていた私。人の気も知らないで友人達と旅行に行っている兄が私には腹立たしく、勉強などで溜まったストレスをぶつけてしまった。

『せっかく合格祈願のお守りでも買ってやろうと思ってたのに……』

受話器越しに聞こえるお兄ちゃんの声がほんの少し硬くなる。

その言葉にまた私はイライラしてしまい、ついに気持ちが爆発してしまった。

『いらないって言ってるでしょ! 同じ事を何度も言わせないでよ。お土産、お土産って……。お兄ちゃんなんか帰ってきても私の勉強の邪魔になるだけだから、もう帰ってこないで!』

受話器の電源ボタンを押して通話を切る。怒りが収まらない。二階の自分の部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。自分の中にあるドロドロとした暗い感情を持て余す。もう勉強をする気にもならない。眠気に誘われるまま意識を預けた。

聞き慣れた携帯電話のアラームが鳴り、目が覚めた。時刻は午前七時。今日は夕方まで図書館で勉強する予定だ。教科書やテキストをカバンにつめて家を出た。

図書館は私と同じように受験生がたくさん利用していた。既に席はほとんど埋まっている。僅かに空いている席に座り勉強を始めた。

昼までは苦手科目の数学を重点的に復習する。

一通り進めたところで昼食を買いに近くのコンビニに行くことにした。

昼食を買い、コンビニを出ると遠くで救急車のサイレンが鳴るのが聞こえた。

コンビニから戻り、昼食を取る。買ってきたサンドイッチやおにぎりはあまりおいしくなかった。

昼食を食べ終わり、勉強を再開しようとしたとき、携帯電話から電話の着信音が流れた。

しまった! 電源を切るのを忘れてた。

勉強に集中していた周りの人たちの冷ややかな視線が突き刺さる。私は着信相手が誰かも確かめずに急いで電源を切った。

夕方になり図書館の閉館時間が近づいたため、私は荷物を持って図書館を後にした。

図書館を出てしばらくしたとき、私は昼に着信があったのを思い出した。電話をしてきたのは多分お母さんだろう。内容はきっと夕食を家で食べるのかどうかとかに違いない。

一応確認のために携帯電話の電源をいれる。ディスプレイに不在着信のマークが映し出される。相手を確かめると、予想通りお母さんからだった。

全部予想通り。そう思った私だったけどそこであることに気がついた。

あれ……? 着信履歴が全部お母さんで埋まってる。

最初の連絡の履歴がなくなるほどの着信がそこには映し出されていた。

何か、あったのかな?

私はリダイヤルをした。二、三回のコールの後にようやく電話が繋がる。

『もしもし? お母さん?』

話しかけるが返事がない。しばらく返事を待っているとお母さんのすすり泣く声が聞こえた。

――何かあった。私はすぐに理解した。大抵のことでは動じないお母さんが泣くほどの事態。よほど大きな何かがあったのだろう。

『お母さん、大丈夫? どうしたの』

『ちはる……あのね……お兄ちゃんが、佳祐が……死んじゃった……』

……えっ?

今お母さんはなんて言った?

『家に……帰ってくる途中で……事故にあって……病院に運ばれて……私が着いた時はまだ意識があったのよ……返事をしてくれたのよ』

お母さんが何か言っているが、頭に入ってこない。

死んだ? お兄ちゃんが?

嘘だ。だって昨日の夜には私と電話して、喧嘩して……。それで……それで!!

『お兄ちゃんなんか帰ってきても私の勉強の邪魔になるだけだから、もう帰ってこないで!』

私があんなこと言ったから?

どうしよう? 帰ってきたら謝ろうと思ってたのに……。心配してくれてありがとうって、言おうって……。

涙がジワリと瞳に滲みだす。それが溢れるのに一秒もかからなかった。

「う、うわああぁぁぁ」

人目もはばからず大声をあげて泣いた。周りの人が自分をどう思うかなんて気にもならなかった。

お兄ちゃんが死んだ。もう話せない、謝れない。あの温かい手で私の頭を撫でながら「よくやったな」ってほめてくれることもない。

後悔しても、もう遅い。お兄ちゃんはもう……いないんだ。

罪悪感と後悔に襲われながら私は涙を流し続けた。





「それじゃあ、千春。お母さん行ってくるから」

「うん。気をつけて」

大きく膨れ上がったボストンバックを持ったお母さんを玄関で見送る。

今日からお母さんは単身赴任をしているお父さんのところに数日泊まる。そのため、私は今日から数日の間、一人で留守番をすることになった。

玄関の鍵を閉めて私はリビングに向かった。カーテンを開けると朝日が部屋を明るく照らす。

「おはよう、お兄ちゃん」

部屋の隅にある仏壇に挨拶をする。仏壇にはお兄ちゃんの写真が飾られている。

あの日、お兄ちゃんが死んでから三年が経った。あの後、私は罪悪感や後悔からノイローゼになってしまい受験に失敗した。第一、第二志望校は両方とも落ちて、滑り止めの高校になんとか入れた。

高校に入学した後も、しばらくの間はふさぎ込んでいたけど、時間が経つに連れて少しずつ以前のように戻れた。

元に戻れたのは友達や家族の助けがあったのもあるけれど、一番の理由はいつまでもふさぎ込んでたらお兄ちゃんに怒られそうな気がしたからだ。

高校三年の今、本来なら皆受験に勤しみ、焦っている。だけど私は彼らの中にはいない。

先月に公務員採用試験の面接を受けてきた。結果は一次試験を合格して二次試験の候補に入った。後は次の試験まで待つだけだ。

「お兄ちゃん。私もう十八歳だよ。来年にはお兄ちゃんと同い年だよ。四つも離れてたのにね?」

仏壇に置かれてるお兄ちゃんの写真に話しかける。こうやって毎日写真に話しかけるのがお兄ちゃんが死んでからの日課になった。

「そういえばお父さんってばまた別の場所に単身赴任するんだって。今度は飛行機使わないと行けないところみたい。お母さんは毎日浮気してないかって心配してるし……。まあ、だから今日からお父さんのところに泊まりに行ったんだけどね」

当たり前だが返事はない。

最初の頃はこうやって話しかけるだけで涙が流れたが、今では普通に話せる。教会で懺悔をするのと似たような感じだ。

一通りの報告を済ませた私はリビングに置いてあるこたつの中に入った。お母さんを見送るために早く起きたため、まだ眠い。幸いすぐに眠気が来て私は眠りについた。



「……ぃ。……きろ。」

耳元でなにやら声がする。意識がはっきりしてないため、何を言ってるか聞き取れない。

「……お~い。起きろ~」

そういえばこの声は誰の声だろう? お母さんはもう出たし、私の他には誰もいないはず。そう自覚すると意識が徐々に鮮明になっていく。それにしてもこの声……。

目を開けた私は凍りついた。目の前の光景を理解できない。だって、こんなのあり得ない。

「おい、なんだよ。まだ怒ってるのか? 髪なんか染めて、お前学校どうするんだよ。俺が悪かったって。だから返事してくれよ、千春」

三年前と変わらない姿のお兄ちゃんが目の前にいた。

これは夢だ。現実じゃない。だから、泣いたって問題ない。

「おにい、おにいちゃ……おにいちゃ~ん」

ポロポロと涙がこぼれる。私が急に泣きだしたためお兄ちゃんは慌てだした。

「え、えっ? なに? どうした、千春。なんかあったのか?」

お兄ちゃんはしばらく私が泣くのを見ていたが、やがて私の頭に手を乗せて撫で、慰め始めてくれた。

あぁ、温かい。この感じはお兄ちゃんだ。本物だ……。

頭に触れる手の平の温かさを感じながら、私はお兄ちゃんを抱きしめた。もう二度と目の前から消えないように。

おかえりなさい、お兄ちゃん。

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「刹那のぬくもり、そして……」 2


「それじゃあ、お疲れ。また大学でな」

一緒に旅行をした友人たちと別れて、俺は電車に乗った。

車内は満員とまでは行かないが、座る場所がほとんどないため、肩にかけていた旅行用のボストンバックを床に置き、手摺りに捕まる。

空いている片方の手には家族へのお土産が入った大きな袋がある。中には母さんへ渡す旅行先の名物の菓子と、受験生の妹、千春へ買った合格祈願のお守りが入っている。

……にしても千春のやつ結構怒ってたな。

昨日の電話でのやり取りを思い出して俺はため息を吐いた。

受験前という大事な時期。それも、受験まで日が余りないため、千春もストレスが溜まってたに違いない。

そんな中、旅行先から土産の電話をするなんてことは少々軽率なことだった。千春が怒るのも無理はない。

やっぱ、帰ったらちゃんと謝らないとな。

車内で揺れに身を任せること一時間。目的の駅に着いたため、荷物を持って電車を降りる。

改札口を抜けて駅の外に出る。太陽の陽射しが眩しい。旅行から帰って来たのを祝ってくれているかのようだ。

家に帰るためのバスに乗ろうとバス停へ向かおうとすると、お腹がきゅ~と可愛らしい音を立てた。

そういえば朝から何も食べていない。どこか近くにある店にでも行って飯でも食べよう。

今いる場所から周りを見渡す。少し離れた場所にうどん屋が見えた。よし、あそこにしよう。

横断歩道を歩き、うどん屋までの道の間にある公園を抜ける。

公園を抜けるとうどん屋のすぐ近くにある横断歩道に着いた。ここを通れば終わりだ。

信号は赤、行き交う車が止まるのを待つ。

一応母さんにもうすぐ帰るって連絡入れとくか。

ポケットに入っている携帯電話を取り出す。ちょうどその時、信号が青に変わることを告げる音が鳴った。

携帯電話のディスプレイを見ながら横断歩道を渡る。

……一瞬。

世界が止まった。

背中に強い衝撃。あ、空飛んでる。いたい、イタイ。なにこれ? 車?

あっ……俺、跳ねられた。

ゴキッと嫌な音が響いた。温かい何かを感じる。思考が定まらない。

……なんだか、やけに、さ、む、い、な……。


……あれ? ここどこだ。

「佳祐! 佳祐!」

おかしいな、母さんの声がする。

「しっかり、しっかりしなさい」

「……ぁさ……ん」

うまく声がでないな。それになんだかふわふわする。

「けいすけ!」

…………。



「兄ちゃん、そこどいてよ」

……えっ?

「兄ちゃんだよ、兄ちゃん。俺たち今からブランコ使うんだから」

目の前に小学校低学年くらいの少年が二人いた。

「俺のこと?」

「そうだよ。さっきからずっとブランコに座ってボーッとしてるじゃん。使わないならゆずってよ」

「ゆずってよ」

少年達の言葉を聞いて確認すると、俺は確かにブランコに座っていた。

「うわっ! ごめんね。今退くから」

すぐさまブランコから立ち上がり、待っていた彼らに譲った。

「ありがと~」

二人ともお礼を言うと、早くもブランコを漕いで遊びだした。

やれやれ。ビックリしたな。それにしても、俺はあそこで何してたっけ?

必死に思い出そうとするが、思い出せない。

う~ん。ホント何してたんだろ。

ふと周りを見てみる。子供を連れた母親がたくさんいた。そう、ここは公園だ。

そうだ、そういえば旅行から帰ってきて腹が減ったから飯を食おうとしてたんだった。

ようやく目的を思い出した。たしか、この公園を抜けた先にあるうどん屋に行こうとしてたんだった。

目的を思い出し、さぁ行こうと決めたとき、何か違和感があることに気がついた。

なんか、足りない。

全体的に体が軽い。あるべきものがない。

……荷物がない!?

ついさっきまで持っていた荷物がない。辺りを探してみるが、見つからない。

もしかして盗まれたのかも。だとしたら、最悪だ。バイトで貯めたお金で買ったルイヴィトンの財布がボストンバックの中には入ってる。あれ、高いのに。

それに、お土産! せっかく千春の機嫌直すためにお守り買ってきたのに……。このまま帰ったら、なんか俺が意地になって怒ってるみたいだ。千春のやつ絶対許してくれない。

想像しただけでゾッとした。このままだとまた家に一緒にいるのに無視される。正直あれはキツい。前に無視されたのは千春が作った料理にダメ出しをしたときだ。

素直に美味しいかどうか言ってくれと言われたから、

『俺が作ったのより不味いから頑張れ。なんなら教えてやるぞ?』

と言ったら一週間無視された。あの時は泣きそうになった。

それにしても見つからない。しょうがない、警察に連絡するか。

ポケットに入ってる携帯電話を出して、連絡を入れようとする。

……ない。ない! なんでない!

携帯電話もなかった。服にある全部のポケットを探すが見つからない。

ボストンバック、お土産、携帯電話。荷物は全てなくなっていた。

……そういえば、今何時だ?

携帯電話がないので、公園にある時計を確認する。時計の針は午前八時を指していた。

時間おかしいだろ。こっちに戻ってきたの昼頃だぞ。もしかして、公園で疲れて寝たのか?

よくわからない現象に動揺する。

……もう、家に帰ろう。

いろいろなことが一気に起こり、頭の中で処理が行えない。ひとまず家に帰ることにした。



公園から一時間以上歩き、ようやく家に着いた。母さんの車がない。どこかに出かけたのか?

玄関のドアを開けようとするが、鍵がかかってた。

めんどくさいなと思いながら、玄関近くに置いてある植木鉢の一つを持ち上げ、家の鍵を取り、鍵を開けて家の中に入る。

「ただいま~」

返事がない。千春のやつまだ寝てるのか……。

靴を脱ぎ捨て、リビングに向かう。リビングに入ると、こたつの中に見知らぬ女性がいた。

……えっ? だれ?

近づいてよく見てみると、それは千春だった。髪の色は変わり、長さも長くなってる。髪を染めてエクステでもしたのか!?

「おい、千春」

まさか、これほど怒ってるとは思わなかった。まずい、グレやがった。完璧に受験を捨ててやがる。こんな髪じゃ絶対に受からない。

「お~い、起きろ」

反応がない。

「お~い、起きろ」

もう一度声をかけると反応があった。眠たそうにしながら起きる千春。だけど、俺の顔を見た瞬間、信じられないものでも見るかのような表情を浮かべた。

おいおい、さすがに帰ってきていきなりそんな顔されるのはキツいぞ。やっぱりまだ怒ってるのか……。

「おい、なんだよ。まだ怒ってるのか? 髪なんか染めて、お前学校どうするんだよ。俺が悪かったって。だから返事してくれよ、千春」

千春はしばらく黙ったままだった。

「おにい、おにいちゃ……おにいちゃ~ん」

しかし、いきなり泣き出した。

「え、えっ? なに? どうした、千春。なんかあったのか?」

突然のことに驚くが、ひとまず落ち着かせるために頭を撫でて慰める。

千春は俺の体をギュッと強く抱きしめた。さすがにちょっと恥ずかしい。

気まずさから視線を逸らすと、部屋の隅にある仏壇が見えた。

なに、あれ?

そこには、笑顔で映った俺の写真が飾られていた。

「刹那のぬくもり、そして……」 3

「だから、お兄ちゃんは三年前に事故で死んじゃったんだよ」

リビングの椅子に座り、目の前にいるお兄ちゃんに向かって私は教える。

「いや、でも俺は生きてるぞ?」

訳が分からないといった顔でお兄ちゃんは答えた。端から見たら何を言ってるのだろうという会話だが、私達にとっては大真面目だ。

「でも、私は三年前にお兄ちゃんの火葬をして、遺骨をお墓に入れたんだよ」

「うわ、なにそれ。目の前にいる本人に言うことじゃねえだろ」

「だってホントのことだし……」

「う~ん。ますます訳が分からんな」

今の状況が理解できないのか、お兄ちゃんは頭を抱えて悩みだした。

お兄ちゃんが再び私の前に現れて一時間。再開の感動から思わず泣いてしまった。それも号泣。

お兄ちゃんにもすごい慰めてもらって甘えてしまった。冷静になってみると、すっごく恥ずかしい。

ひとまず落ち着いた私は鼻水と涙にまみれた顔を洗面所で洗い、リビングに戻って自分の遺影を見て苦笑いをしていたお兄ちゃんに現状説明をした。

「もしかしたら幽霊なのかな? それだったら納得がいくし」

「いやいや。お前さっきおもいっきり俺に抱きついてたじゃん。触れてるから違うだろ」

「ちょっと、そのことはもういいでしょ。それに触れてるのは私の霊感が強いからかもしれないじゃん」

「お前漫画の読みすぎ。悪いがお前にそんな力はない」

ひどい。そんなに否定しなくてもいいのに。あくまで例えで言っただけなのに。それに、私そんなに漫画読まないし。

「じゃあなんだって言うの?」

私の問い掛けにお兄ちゃんはう~んと唸り、

「タイムスリップとか?」

私の予想よりよっぽど非科学的なことを言った。

「却下。お兄ちゃんくだらなすぎ。私の予想よりひどいじゃん」

「そうか? あながち外れてないと思うけどな」

子供のようにお兄ちゃんは無邪気に笑う。

やっぱり目の前にお兄ちゃんはいるんだと改めて実感して、私もつられて微笑んでしまう。

「そういえば母さんいないけど、どっか行ったのか?」

何気ないお兄ちゃんの問い掛けに私ははっとする。

……そうだ! お母さん! お兄ちゃんがここにいることがお母さんにもわかれば、お兄ちゃんの存在が確かに存在することが確定するはず。

私は自室に戻り、携帯電話を持ってきて電話を掛けた。宛先はお母さん。

車で移動中で着信に気がつかないのか、お母さんはなかなかでない。

早く、早くでてよ。

そう思うと同時に電話が繋がった。

『もしもし?』

『もしもし、お母さん?』

『どうしたの、千春? 何かあった?』

何かあったなんてものじゃない! お母さんも驚くことだよ。

そう伝えたいのをグッと我慢した。今にわかる。

『実はお母さんに紹介したい人がいるの』

『なに、誰なの?』

そこで私はお兄ちゃんに電話を渡した。

お兄ちゃんは、「代わるの?」と小声で尋ねたので、返事の代わりに電話を押しつけた。

『あ~えっと、母さん?』

緊張しているのか、お兄ちゃんは視線を辺りにさ迷わせている。その光景がおかしくって私は笑ってしまった。

『えっ……あ、はい』

お母さんの声が聞こえないため、どんな話しをしているのか聞こえない。こんなことならスピーカーにしておくんだった。

『いえ、違います』

『そうです……』

『はい、わかりました』

しばらくお兄ちゃんの返事を聞いていてあることに気がついた。

何か違う。会話に違和感を感じる。

……そうだ、敬語。お兄ちゃんの会話がずっと敬語なんだ。

なんで? これじゃあ他人の会話だ。

『ああ、そうですか。それじゃあ千春に代わります』

そう言ってお兄ちゃんは私に携帯を返した。通話はまだしている。

『お母さん?』

『なによ、紹介したい人って男友達のことだったのね』

お母さんの言葉に私は絶句する。

違う、違うよ。お母さん、何でわからないの?

『お母さん、わからないの?』

『わからないって、なにがよ?』

『今の電話の相手お兄ちゃんなんだよ……』

『……なに言ってるのよ、千春。私が佳祐の声を間違えるわけないわ。今の電話の声は佳祐とは全く違ったわよ』

『えっ!?』

『あんたやっぱりまだ無理してるのよ。この間あの子の命日だったし……。しばらくゆっくりしてなさい』

『ちょっと、まっ……』

私が答えるまえに通話は切れた。

私は携帯を握りしめたまま呆然とその場に立ち尽くした。

どういうこと? お母さんがお兄ちゃんのこと間違えるわけないし、冗談を言ってる雰囲気でもなかった。

それに、お兄ちゃんだってわかってなかったけど、存在は認識していた。

私はアイコンタクトでお兄ちゃんに意見を求めるが、お兄ちゃんも理解できてないのか、困ったとお手上げのジェスチャーを私に返すだけだった。

なら、一体目の前にいる“彼”は何なのだろうか?

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『ちょっと、まっ……』

千春の静止の言葉が途中で途切れた、おそらく今ので通話も切れたのだろう。

今の会話からわかったことに千春は困惑しながら、俺にアイコンタクトをした。おそらく今の出来事の意見を求めてるのだろう。

残念ながら俺にも今起こってることはわからない。いや、認めたくない。

千春の変わりようを見たため、今自分がいる場所が少なくとも俺の知っている場所とは違うということを少しはわかってたつもりだった。

だから、死んだ家族からの電話なんて信じてもらえないかもしれないと、千春から受話器を渡された時、俺は少し緊張していた。

『あ~えっと、母さん?』

第一声にでた言葉は自分でもマヌケなものだと思う。結局出たのはいつもと変わらない言葉だった。

『あら、あなたは?』

『えっ!? いや、俺は……』

『聞いたことない声ね、千春の友達? それともあなた千春の彼氏?』

……聞いたことない声?

なんだよ、それ。ちゃんと聞いてくれよ。

昨日電話したばかりだろ? いや、ここでは三年前だっけ?

……どっちでもいいよ。息子の声を忘れるなよ。

『もしもし? もしかして言いたくないことだったかしら?』

電話ごしに聞こえる声の感じからわかってしまう。通話先の相手、母さんにとって、今の俺は自分の娘が受話器を渡して初めて会話をした“他人”なんだと。

ああ、母さんには俺のことがわからないんだな。

そう実感するとともに、なんだか体から力が抜けた。

『聞こえてないのかしら……もしもし?』

『えっ……あ、はい』

『あ、聞こえてるみたいね。あなた千春の彼氏?』

『いえ、違います』

『そう。だったら学校の友達?』

違うよ。俺はこいつの兄貴だよ。そう言いたかった。だけど、今の母さんにこんなことを言ってもしょうがない。ここでの俺は“他人”だ。なら、それに相応しい態度をとろう。母さんを困らせたくないから……。

『そうです……』

『そう。それじゃあその子と仲良くしてあげて』

『はい、わかりました』

『一応、私車を運転してるから、そろそろ千春に代わってもらってもいいかしら?』

『ああ、そうですか。それじゃあ千春に代わります』

こうして、母さんと俺の会話は終わり、俺という存在を正常に認識できてるのは千春だけだとわかった。まだ一人しか確認していないが、おそらく他の人も同じだろう。他の人に俺は“佳祐”として認識されないだろう。

いったい、なにが起こってるんだろうか? 俺には……わからない。



「一度着替えてくるわ」

空気の悪くなったリビングから逃げ出すように俺は自室へと向かった。

千春は止めなかった。

二階にある三つ並んだ部屋。その中の左の部屋に入る

旅行に行く前まで使ってた、俺の部屋だ。

部屋に入ると、ヒンヤリとした空気が肌に触れた。昔屋根裏部屋に入った時と同じ空気。

長い間人の温もりから離れ、放置されてきた空気だ。

クローゼットを開けると、中には綺麗に折り畳まれた服があった。

一番上に畳まれてある服を手に取る。……つい先日俺が着ていた服だ。

それは、ホコリをかぶっていてもう何年も人の手に触れられてないようだった。

ああ……理解したよ。今度こそ、ちゃんと。

俺は、死んだ。

服を覆うホコリを手で払い、今着ている服を脱いで新しいものに変える。

「ふぅ」

ため息を吐きだす。落ち込んでもしょうがない。とりあえず今俺のことを唯一認識できてる千春といろいろ相談しなきゃいけないな。

温もりのない自室を後にして俺はリビングに戻った。

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「一度着替えてくるわ」

そういってお兄ちゃんはリビングを出ていった。私に心配させないためか、お母さんとの話についてはなにも言わなかった。

電話なんて……しなければよかった。

そんな考えが頭に浮かぶ。あのまま昔みたいに接していて、今起こってる現実から目を背けていれば、こんなに悩まないで済んだに違いない。

お母さんにはお兄ちゃんはわからなかった。でも、私には目の前にいるのが確かにお兄ちゃんだってわかる。

死んだ人が目の前に再び現れる。冷静に考えればそんなことはありえない。自分一人にしか存在が確認できてなければ、そんなものはただの妄想だと笑いとばせたかもしれない。

でも、いるのだ。確かに、ここに。自分だけじゃなく、他の人にもその存在は確認できている。

それならどうして“彼”のことをお兄ちゃんだと、私は認識できてお母さんはできなかったんだろう?

解けない謎はまた謎を呼び、より複雑なものになっていく。

たった一、二時間ほどの出来事なのに慣れないことに頭を使ったせいか、ものすごく疲れがきた。それにお腹も減ってきた。

ああ、そういえば今日はまだご飯食べてなかったなぁ。

壁にかけてある時計を見ると朝食を食べるには遅くて、昼食を食べるには少し早かった。

何か軽く食べようかと思ったが、冷蔵庫の中にはいま食材が何もなかったことを思いだす。

そうだ、お母さんが数日分の食費に一万円くれたんだった。

こたつの上に置いてある財布を手に取り中身を確認する。貰ったお札が一枚と元からあった小銭がいくらか入っていた。

食材を買いにいって家でご飯を作って食べようか、外で食べようか考えていると、着替えを終えたお兄ちゃんが戻ってきた。

「お待たせ。とりあえず着替えてきたけど、今からどうする?」

「どうしよう?」

「そういえば、お前飯食ったか?」

「まだだよ。でもお腹すいた」

「う~ん、冷蔵庫に何かあるかな?」

お兄ちゃんはそう言って冷蔵庫の中を見るが、当然中には何もない。

「ちょうど今外食にしようか食材を買ってきて家でご飯作ろうか悩んでたところなんだ」

「そっか、じゃあひとまず外でるか」

「いいよ」

二人一緒に外に出る。

玄関の鍵を閉じようと植木鉢を持ち上げたとき、

「そういえば鍵の置き場所変わってなかったんだな。三年経ってるなんて知らなかったから今になって驚いたよ」

とお兄ちゃんが笑いながら言った。

言われてみると確かに鍵の置き場所は私が中学生のときから変わっていない。

だけど、それがどうしたのだろう? そう思っていると私の疑問にお兄ちゃんは答えた。

「覚えてるか? まだ千春が中学生になったばかりのころ俺が鍵持ったまま遊びに行っちゃったことがあっただろ」

お兄ちゃんの話している出来事を記憶の底から拾い上げる。言われてみれば、そんなこともあったかもしれない。

「そのとき母さんはちょうど出かけてて、家には誰もいなくてさ。夜になって俺が帰ってきた時、お前玄関前で座って待ってたんだよ」

「……そうだっけ?」

そこまで鮮明に覚えてない。いい加減な記憶だ。

「そうだよ。それ見て俺はすごい焦ったよ。絶対怒ってると思ったからな。だけど、お前帰ってきた俺に何て言ったと思う?」

何て言ったんだろう? 全然わからないや。

「『お兄ちゃん暫くの間、私の買い物の荷物持ちね。異論は認めないから』って言ったんだよ。それから一ヶ月くらいの間ずっとお前の買い物の荷物持ちさせられたよ」

「へ~。そんなことあったんだ。お兄ちゃんよく覚えてるね」

「まあな。夜風を浴びて寒そうにしているお前を見て罪悪感でいっぱいだったからな」

そんなに気にするようなことでもないのに。今の私が言うのもなんだけれど、たぶんそんなに怒ってなかったと思う。それよりも一人でずっと待ってて寂しかったんだろうな、きっと。

「でもなんで急にそんな話をしたの?」

「う~ん。口に出すと照れくさいんだけどな……」

お兄ちゃんは視線を私から反らして照れながら言った。

「知らなかったとはいえ、今までずっと一人にさせてただろ? それに理由はよくわからないけど、一度死んだ俺がこうしてここにいる。だから、さ。またお前の荷物持ちをしてやろうと思ったんだよ。そんだけ……」

よほど照れくさいのか、最後の方は声がだいぶ小さくなり顔も真っ赤になっていた。そんな一生懸命なお兄ちゃんを見て私は苦笑する。

「お兄ちゃんってばクサすぎ。青春ドラマじゃあるまいし」

「ああ~もう。だから言いたくなかったんだよ」

ますます顔を赤くするお兄ちゃん。そっぽを向いて顔の赤さを隠していたが、自分でもおかしいと思ったのか、お兄ちゃんも笑いだした。

空にわたしとお兄ちゃん、二人の笑い声が響き渡る。

やがてお互い笑い疲れ、

「そろそろ行くか」

「うん。行こっか!」

私達は行き先も決めてない外出を開始した。

「刹那のぬくもり、そして……」 6



家を出てから数十分。俺と千春は駅近くにあるデパートの中のファーストフード店に来た。

昼時ということもあり、店の前には人の列が出来ている。千春には先に席を取っておいてもらい、俺は列に並んで順番が来るのを待ちながら、メニューを見て何を買おうか悩んでいた。

「席取れたよ」

席を確保した千春が戻ってきた。そして、俺と同じようにメニューを見始める。

少しずつ人の列が消化されはじめ、俺の番まで後二人となったところで買うものが決まった。千春の方を見ると、どうやら既に何を注文するのか決まってるようだった。

「私チーズバーガーのセットで飲み物は烏龍茶ね。あと、これ」

千春は注文するものを俺に伝えると財布を手渡した。

「ああ。そういえば俺金持ってなかったな」

いつもと同じ感覚でいたため、自分の手元にお金がないことを忘れていた。

「そうだよ。今のお兄ちゃんは一文無し」

「そうだよな~。でも俺の部屋に隠してある通帳が母さんに見つかってなかったら金はあるぞ」

クローゼットの中に母さんに見つからないように隠したバイト用の通帳。旅行に行った時に三万円ほど引き出したが、そのままの状態ならば、まだ五万ほど残っているはず。

「そうなの? それならよかった」

「なにが?」

「だってお母さん食費一万円しか置いていってないもん。元々私だけが使う予定だったから、お兄ちゃんがいるとお金もたないから……」

……悪意はないんだろうな、きっと。だけど聞く側からしたら、

『あ、お兄ちゃんが帰ってきたせいで私の数日分の食費が足りなくなる。どうしようかな?』

と受け取れなくもないな。

……駄目だな。中三の時の冷たい千春のイメージしかないから、今の千春が言うことが思ってもないことを言ってる気がしてしょうがない。

「お兄ちゃん、順番来たよ」

千春に言われて前を見ると前にいた人は、もう注文を終えており、俺の番が来ていた。

俺はレジの前に行き、二人分の注文をした。それから一分も経たない内に商品はきた。

「ほら、お前の分」

待っていた千春に商品を渡す。

「財布は?」

「席に着いたら渡すって。返さないとでも思ってるのかよ」

「いや、だって昔はよく私のもの取っては泣くまで返してくれなかったから」

「そんなことあったか?」

思い当たる節はあったが、敢えてとぼけてみる。

「あった。私が小学生の時はしょっちゅうやってた」

テーブルに商品を置き、席に座る。

「いや、そんな昔のことは覚えてないな」

注文したフライドポテトを数本手で掴んで食べる。

「それ嘘でしょ。家を出る前に鍵のこと言ってたもん。その時の事を覚えてて、この事を忘れてるわけない」

チーズバーガーを小動物のように少しずつ口にしながら千春が言う。

「いや、そんな全部は覚えてないから」

千春にばれないように平静を保とうとする。

「あ、鼻がピクピクしてる。嘘なんだ」

あ~ばれた。

「ばれたか。本当は覚えてるよ。ほら、財布」

持っていた財布を千春に返して俺は白状する。

「はい、どうも。それにしても、その癖治らないね」

千春の言う癖というのは俺が嘘をつく時、問い詰められると、鼻が動いてしまうものだ。今はだいぶ抑えられるようになったが、時折こうして抑えることができずに嘘がばれる。

「うっせえ。勝手に動くんだからしょうがねえだろ」

「それがなければ、もう少し上手く嘘つけるのにね」

「いいんだよ。俺は嘘をつかない男なんだ」

「なに言ってるんだか。や~い鼻ピクピク」

なんか変なあだ名をつけられた。しかも小学生レベルの。これでからかってるつもりか?

「なにが鼻ピクピクだよ。お前なんか小学四年生までおねしょしてたじゃねえか」

飲んでいた烏龍茶を吐き出しそうになり、千春はむせた。

「ちょっと、それは言わないでって」

「お前が鼻ピクピクって言わなければいいぞ」

「……はぁ。わかったわよ」

俺の提案に千春は半ば呆れ気味にため息を吐き、観念した。

勝った。これぞ兄の意地。歳が近くなっても妹は兄に勝てないんだよ。

「なにちょっと誇らしげにしてんのよ。しかもドヤ顔っぽくてむかつく」

「いや、別にお前を言い負かせたことを誇ってなんかないぞ。それにドヤ顔ってなにかわからないから」

「まあいいや。なんか馬鹿らしくなってきた」

千春は残った少しのポテトを食べた。俺はジンジャーエールを飲み、口の渇きを潤す。

その後はお互い黙々と食事を取った。

隣にあるゲームセンターからこっちに人が向かってきたのは食事を終え、二人でゴミを捨てに行き、これからどうしようかと考えていた時のことだった。

「ハル~」

誰かを呼ぶ声が聞こえて辺りを見ると、制服姿の女子高生が二人と男子が一人こっちに歩いてくる。三人の中の一人は見覚えがあるが残りの二人は見たことはない。おそらく千春の知り合いだろう。

「あっ明衣。それにゆーちゃんと柴田くん」

三人に気がついた千春が返事をする。

「ヤッホー」

「こんにちは」

「どうも」

三人それぞれが挨拶を交わす。

「みんな課外の帰り?」

「そうだよ~。もうせっかく冬休みになったのに、イヤになっちゃうよ」

「しょうがないよ。わたし達受験生なんだもん。ね、拓海くん」

「ああ。もうセンターまで一ヶ月ないからな」

「そっかぁ。やっぱりみんな忙しいよね」

「そうだよ。この就職組め。ハルも勉強しろよ~」

「いや、私勉強してないわけじゃないから」

「あれ? そうなの?」

俺は四人が話し合うのを少し離れた位置で聞いていた。センター試験とはずいぶん懐かしい単語が聞こえてきて、みんな頑張ってるなと内心感心していた。ちなみに俺は推薦で受かったので記念受験でしかセンター試験を受けてない。当時は友人に八つ当たりされたりしたものだ。

「ところでハル。さっきから気になってたけど、この人は?」

それまでの雑談から一転。急に話の矛先が俺の方に向いた。

「えっ? あ、あ~この人は」

突然の問いかけに千春は動揺していた。何故なら、この場には俺が死んだことを知っている人がいるため、俺を兄と言えないのだ。

「もしかして……」

「いや、違う。なにを考えてるのかはわかるけど、ちがうから」

明衣と呼ばれている少女が疑惑の視線を千春になげかけている。たぶん俺を千春の彼氏かなにかと勘違いしてるのだろう。そして千春も都合のいい言い訳が思い浮かばないで焦っていた。

「そ、そうだ。ゆーちゃんは見たことあるよね、こいつ」

ゆーちゃんと千春に呼ばれた女の子。正確には立花優里に千春は救いを求めた。彼女は親同士の仲が良かったため昔からよく家に遊びに来ていた。当然、俺とも面識がある。彼女が母さんと同じでなければ俺だと気がつくはずだ。

「えっと……」

「ほら、家に来たときによく見たでしょ?」

なにその扱い。俺は観葉植物か何かか?

「ごめんなさい、わかりません」

「そっかぁ……。ところでゆーちゃん。お兄ちゃんの顔覚えてる?」

「佳祐さんのことですか? 覚えてますけど」

「この顔見て似てると思わない?」

千春は俺の顔を掴むと優里ちゃんに近づけた。

「え~っと、たしかに少しは似てますけど」

「そう。ならいいの」

千春は掴んでいた俺の顔を離し、少しだけ落ち込んだ。俺は何故か優里ちゃんの横にいる男に睨まれた。

「……で、結局その人だれ?」

再び明衣と呼ばれている女の子からの質問がきた。千春は未だになんと答えればいいのか悩んでいる。

……しょうがないな。困っている妹に助け船を出すか。

俺は千春の友人の三人に向かって、

「こんにちは、千春の従兄弟の佐山壮介です」

と自己紹介をした。

「刹那のぬくもり、そして……」 7



「へ~。それじゃあ、壮介さんはこっちに遊びに来たついでにハルの面倒見ることになってるんですか?」

立ち話しも何なのでという明衣の提案で私達は飲み物を買って再び席に着いた。私とお兄ちゃんと明衣は四人席に座って、柴田くんとゆーちゃんは隣の二人用の席に座った。明衣は自称私の従兄弟の“佐山壮介”に興味があるのかさっきから質問攻めだ。ちなみに私はいつボロが出るか心配中。

「ついでって言うより、ホテル代を浮かすために面倒見ることになってるんだよ。さすがに数日とはいえ未成年の女の子一人にはできないからね」

「ちなみに壮介さんの歳はいくつ何ですか?」

「俺? 十九だよ」

「なんだ~。あたし達と一つしか変わらないじゃないですか。しかも未成年じゃないですか。なんだか接し方が歳が離れた感じだったからもっと離れてるかと思いましたよ」

「あ……あ~。そうだね」

ほら、さっそくボロが出始めた。そこは二十二と言うべきだよ。

……確かにお兄ちゃんとの関係をどう説明しようか思い浮かんでなかったけど、すぐにばれそうな設定なんて言ってもしょうがないのに。

かといって、「この人は死んだ私の兄です」なんて言ったら頭がおかしくなったのかもしれないと思われるし……。

しょうがない、ひとまず皆に不審に思われないようにフォローをしていこう。

「そういえば大学ってどう? やっぱり忙しいの?」

さりげなく話題を逸らすことでフォローをする。私のフォローに気がついたお兄ちゃんは話を合わせた。

「う~ん。その気になれば忙しくもできるし楽にもできるな」

「どういうことですか?」

受験生の明衣は大学に関する話題にさっそく乗ってきた。

「基本的に大学は自分の必要な講座にでて単位が取れれば問題ないから、必要最低限の講座しか取ってない人なんかはそうでない人に比べて自由な時間は多いね」

「それじゃあ、そういった時間で友達と遊んだりできますね」

「そうだね。ただその場合は友達も空いてないといけないから都合が合わないことも結構あるね」

「そうなんだ~。じゃあ遊んでばかりいられないですね」

大学生活の現実を聞き、期待していたものと違うと知った明衣はガックリとうなだれた。お兄ちゃんはそんな明衣を見て苦笑した。

「まあ、なにも友達と遊ぶことだけが全部じゃないから。空いた時間はバイトに使うことだってできるし」

「なるほど。言われてみれば、確かにそうですね」

「……あの。壮介さんはどこの大学に通ってるんですか?」

それまで隣で話を聞いていたゆーちゃんがお兄ちゃんに質問をした。気になるのか柴田くんも聞き耳を立てている。

「俺の大学? えっと……」

言っていいものだろうかとお兄ちゃんは瞳で私に訴える。私は、そんなの自分で考えろという意味を込めて無言の返事をする。

「国公立大学とだけは言っておくよ。あんまりレベルが高いところじゃないから恥ずかしくて言えないし」

「え~。いいじゃないですか。言ってくださいよ。国公立ってだけで既にレベル高いんですから。あたし達なんてみんな私立ですよ。その時点でレベル上ですって」

「……おい、上村。言っておくがこの場にいる中で私立受けるのお前だけだからな。おれと優里は国公立だぞ」

「え!? あ、あれ~。そだっけ? だって私立受けるって言ってたの聞いたよ、あたし」

「いや、それ滑り止めの話しだから」

「うそっ!? だってユウはそんな事言ってなかったよ」

明衣は心底驚いたような表情を浮かべ、嘘であって欲しいという望みと共にゆーちゃんに返事を求めた。しかし、ゆーちゃんは返事をするのが気まずいのかチラチラと明衣の顔を見ては視線をそらし、告げる。

「ごめんね、めいちゃん。『みんな私立受験するんだよね』ってあんまり嬉しそうに言ってたから、なんだか言いだしづらくて」

ゆーちゃんの返事を聞いた明衣は彼氏に振られたかのように呆然とした。

でも、よくよく考えたらもうちょっと経てば、どっちにしろ分かることなんだけどね。だって私立と国公立って受験の日程期間が少し離れてるみたいだし。

明衣ってば今日までそのことに気がつかないなんて。やっぱりちょっと天然が入ってるな。

空気の抜けた風船のようにしょんぼりしている明衣に私達は何て声をかけてあげればいいのかわからずにためらっていると、

「まあ、私立だから国公立より悪いなんてこともないし、あまり気にしなくてもいいんじゃないかな? 自分の行きたいところに行くだけなんだし」

お兄ちゃんが励ましの言葉を口にした。

「そ、そうですよね! いや~壮介さんは話が分かるな」

「その言い方だとおれたちは話が合わないって聞こえるんだが」

「あれ? 別にみんなに向かっていったつもりはないんだけどな~」

からかうように笑いながら明衣は言う。

「うぅ。めいちゃん、もう許して」

「ええ~どうしよっかな。ユウってばあたしのこと騙してたしな~」

「いや、それはお前が気づかなかっただけだ」

「別に嘘ついたわけでもないしね。明衣が勝手に勘違いして喜んでただけだもんね」

「そこ、余計な突っ込みをいれない。あたしは今ユウと話してるんだから」

明衣は私達の突っ込みを軽くあしらうと、口元に手を当てて何かを考え始めた。そして、何かを思いついたのか嫌な笑みを浮かべた。これは明衣が何かをおもしろいことを企んでいる時の笑みだ。こんな時は大抵ろくでもないことを明衣は言いだす。

私の予想通り明衣は本当にろくでもないことを口にした。

「じゃあ、あたしを騙した罰としてユウには好きな人にキスをしてもらいます」

明衣の発言にこの場にいる二名が固まったのを感じた。それが誰なのかは言うまでもない。

「いや、罰とかお前が勝手に言ってるだけだから。別にやらなくていいだろ」

「そ、そうだよね。わたし悪いことしてないもんね」

「いいじゃん。そこの彼氏彼女さん、あたしにキスを見せてよ。それともまだしてないとか?」

「それぐらいもうしたっつうの!」

と、そこまで言って自分が何を言ったのかに気がついたのか柴田くんは口をつぐんだ。恥ずかしさから頬がほんのり紅潮しているのがわかる。ゆーちゃんは言うまでもなく、柴田くん同様に顔を赤くしてうつむいていた。

二人の反応を見て、明衣は満足そうにしている。おそらく最初から今のような反応が見られれば満足だったんだろう。

嵌められたことに気づいた柴田くんが明衣に対して何か言おうとしたとき、私達のやりとりをそれまで見ていたお兄ちゃんが間に入ってきた。

「あ~。楽しく話すのはいいけどもう少し声のボリューム落とそうな。さっきから周りの人や店員がこっち見てるから」

お兄ちゃんに言われて私達は周りの様子を伺う。何人かの人が迷惑そうにこっちを見ていた。

「……アハハ」

こうなった一番の原因の明衣は現在の状況を理解してただ笑っていた。



「それじゃあ、またねハル。それに壮介さん」

「うん。またね」

「おれたちも失礼します」

「じゃあまた何かあったら連絡するね、ちはる」

「わかった。二人もまたね」

雑談を終えてデパートを出た私達はそこで別れた。空はもう青色から赤褐色に染まっていた。

「いつの間にかこんなに時間が経ってたんだ」

まだ昼を少し回ったくらいだと思ってたから私は驚いた。

「まあ、日が短くなってるから時間が経つのが早く感じるっていうのもあるんだろうけどな」

私の隣を並んで歩くお兄ちゃんが言う。

「そういえばお兄ちゃん、なんなのあれ?」

「あれって?」

「私の従兄弟っていう設定。ボロ出まくりだったじゃない」

「いや、まあ。だけど設定は悪くなかっただろ? そりゃボロ出てたけどさ」

「う~ん。ギリギリ及第点に届いてないかな」

「きびしい審査だな」

「身内ですから」

隣を歩くお兄ちゃんと私。こうして隣に立たれて、私はあることに気づいた。

「お兄ちゃんさ」

「……ん?」

「背、縮んだ?」

「バカ、縮むわけないだろうが。単にお前がでかくなっただけだよ」

昔はお兄ちゃんの胸元くらいが私の頭の位置だったのに、今ではお兄ちゃんの肩に私の頭がある。

「……えへへ」

「お前、なに急に笑ってるんだ?」

「いや、私も成長したんだなって実感してたらつい」

「まあ、確かに大きくなったよな」

お兄ちゃんは私の全身をじっと見た。そして今までの私の身長と比較する。しばらく昔の私との比較をしていたお兄ちゃんはやがて、何かに納得した。

「そっか、そうだよな」

「なに?」

「今のは独り言だ。気にすんな」

「ふ~ん。ならいいけど」

それからお兄ちゃんは何かを考えてるのか黙り込んでしまった。隣にいる私は会話がなくてつまらない。仕方なく周りの景色を見ながら歩いていると、電柱に貼ってあるポスターが目についた。

「あ、これ」

電柱に近づきポスターに書いてある内容を読む。

「千春、どうした?」

私を追ってお兄ちゃんが近づいてくる。

「ほら、これ見てよ」

私はポスターに書かれている内容をお兄ちゃんに見せた。

「なになに? クリスマス記念撮影コンテスト!! クリスマスに撮った写真をコンテストに応募してインターネットで投票。投票数が多ければ豪華景品あり。……なにこれ?」

「よくわからないけど、そういったイベントがイブとクリスマスの二日間にあるんだって」

「ふ~ん。意外とおもしろそうだな。それに場所も指定してあるな」

「うん。ポスターに書いてあるのだと、駅近くのクリスマスツリーの下みたい」

「あのやたらイルミネーションや飾りをくっつけてるおっきいツリーか」

「そうそう。ここからそんな遠くないし、せっかくだからちょっと見に行かない?」

「いいぞ。ついでに晩飯の材料を買ってくか」

「もちろん支払いは私のお金でね」

「正確には母さんの金だけどな」

私とお兄ちゃんは晩ご飯の献立をなににするのか話ながらツリーの元に向かった。



ポスターを見てから十数分程歩いたところで私達はツリーの元に着いた。見上げなければ全体が見えないほど高くそびえ立つクリスマスツリー。係の人が取り付けたイルミネーションや飾りに加えて、ツリーの下の葉の部分には一般人が付けたとわかる手製の飾りや、カップルの愛の誓いが書かれた板もくっついてたりした。七夕じゃないんだからと私は心の中で突っ込みを入れる。

「ここで写真撮るのか」

お兄ちゃんがツリーの周りをうろつきながら呟く。

「そうみたいだね。夜になればここのイルミネーションもライトアップされるし、相当綺麗な写真になると思うよ」

「……なあ、俺達もイブかクリスマスにここで写真撮らないか?」

「え~やだよ。恥ずかしいし」

「いいだろうが。どうせお前イブもクリスマスの両方とも暇だろ」

断言しなくても……まあ実際暇なんだけど。

「だいたいなんで急に撮ろうなんて思ったの?」

「だってこのコンテストおもしろそうだし。得票高ければ景品でるんだろ? だったらやったほうが楽しめていいだろ?」

「は~しょうがないな、お兄ちゃんは。いいよ、どっちかで写真撮ろ」

「さすが俺の妹」

そう言ってお兄ちゃんは私の頭を軽く叩く。

「ちょっと、頭叩かないでよ」

「痛かったか?」

お兄ちゃんは私の頭を叩くのを止めて髪の毛を優しく撫でた。

「……くすぐったい」

「そうか。じゃあ止める」

お兄ちゃんの手が頭から離れる。さっきまで頭にあったぬくもりは冷たい外気に触れて刹那も保たずに消えてしまった。

「じゃあ買い出しに行くか」

明るく笑いながらお兄ちゃんは先を歩き始めた。

そんなお兄ちゃんの後ろ姿を見て、さっきまでなんとも思わなかったのに、突然私の脳裏にある考えが浮かび上がった。

お兄ちゃん、もう居なくならないよね?

根拠のない不安を胸に抱き、私はお兄ちゃんの後に続いた。

The day when it faces it. end

「Arrangement of memory」1



夢を見た。懐かしい夏の出来事だ。

暑く、肌を突き刺し焦がす程の太陽光が降り注いでいる。今年の夏は、まだ始まったばかりなのに、早く秋になってくれと思うほどの猛暑だった。

ついさっき買ったばかりのペットボトルのジュースは既に空になっていた。飲み物を買っては飲み干し、買っては飲み干しと繰り返す。これじゃあお金が幾らあっても足りないな。

空のペットボトルをゴミ箱に捨てる。

日射病になると面倒だと思い、木陰に移ろうとするが、あいにく木陰は他の客人で満員だった。

仕方なく近くにあるベンチに座る。ベンチに座った瞬間、それまで自覚してなかった疲れがどっと押し寄せてきた。

あ~疲れてんな。

ただでさえ猛暑によって体力を奪われているのに、ここ数日はバイトが毎日あった。体を騙しながら頑張っていたが、どうもここに来て限界がきたらしい。

ちょっとだけ……寝よ。

マナーが悪いのは分かっていたが、疲れと眠気に逆らうことはできず、そのまま横になり、ベンチで眠ることにした。

目を閉じると、待ちわびていたというように意識は途切れた。



額にひんやりと冷たい何かが触れているのを感じ、俺は目を覚ました。

ゆっくり目蓋を開けると、明るすぎる日差しは少し影を潜め、暗闇が徐々に面積を増やし始めていた。

額に感じる冷たい何かを手に取る。水滴を垂らしている白い女性用のハンカチがそこにはあった。そして、このハンカチには見覚えがあった。

「あ……起きた? こんなところで寝るなんてよっぽど疲れてたんだね」

背後から聞き慣れた声が聞こえた。俺は上半身を起こし、声の主の方を向く。

「香織?」

後ろを向いた先にいたのはいつもより少しだけ気合いの入った服装をしている市川香織がいた。

「そうだよ。誰だと思ったの?」

「いや、別に誰とも思ってないけど……。ところで、なんでここにいるの?」

「もしかして寝惚けてる? 今日みんなで一緒にご飯食べに行こうっていってたでしょ?」

香織に言われて思い出した。そうだ、今日は久しぶりにいつものメンバーで飯を食いに行くんだった。

予定を思い出したところで、ポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認する。既に六時を過ぎていた。集合時間が五時半だったから大遅刻もいいとこだった。

「ヤバッ! みんな今どうしてる?」

現状を理解すると、それまで霧がかかっているようだった思考が一気にクリアになった。

「みんな先にお店に入って軽くご飯食べてるよ。そんな中で私は食事を我慢して一人で佳祐の捜索をしてたの。なにか私に言うことは?」

「ごめんなさい。それと待たせて悪かったな」

「素直でよろしい。それじゃあ、みんなのとこに行こっか」

「そうだな」

先に食事を始めている友人の元に向かって二人で歩き始める。

「そういえば、なんで俺がここにいるってわかったんだ?」

連絡もできなかったのに俺を見つけることができた香織に理由を尋ねた。

「別にここにいるって確信してた訳じゃないよ。ただ佳祐ってよく公園にいるから、今回もいるかな~て思ってお店の近くの公園探してみたの。そしたら案の定いるんだもん。あんまりあっさり見つかったから、思わず笑っちゃった」

俺を見つけた時のことを思い出したのか、香織は笑いだした。

「悪かったな、単純な男で」

「いいと思うけどな、単純な男の方が」

「ミステリアスな部分があった方がモテるだろうが」

「そうなの? それじゃあ佳祐はモテないね。裏表ないもん」

「うるせえ」

互いに軽口を叩きあいながら黄昏の下を二人で進む。

友達以上恋人未満の関係。先に進むか、後ろに下がるか決めることができずに停滞の日々を過ごしていた夏の日の記憶。

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「思い出は少しずつ薄れて」

「祈りを貴方に、手紙を君に」 二章「思い出は少しずつ薄れて」



カーテンの隙間から射し込む朝日の眩しさで俺は目を覚ました。布団を被っているのに、どうにも寒いなと思っていると、部屋のドアが開いており、そこから冷たい空気が流れ込んでいた。

昨日の夜にしっかり閉めていたと思っていたから、どうして開いてるのかと思ったが、よく考えたら夜中に一回トイレに行っていた。おそらく、その時にしっかり閉めなかったんだろう。

「……それにしても、懐かしい夢見たな」

珍しく、起きても夢の内容を覚えていた。うろ覚え程度だが、誰の夢だったかは分かる。

香織のやつ、今どうしてんだろうな?

ここは俺が死んでから三年後の世界だ。となると、今の香織は大学四年。就職活動に失敗してなければ、今ごろ落ち着いて毎日過ごしてるだろう。

彼氏とか、できてんのかな?

自分で言うのもなんだが、俺と香織は中々いい関係だった。少なくとも友達よりは上だったはず。どちらかが告白していたらきっと恋人同士になっていた……と思う。

あくまでこれは俺が感じてたことで、香織にはそんな気はなかったのかも知れない。そうだとしたら、自惚れもいいとこだ。

それでも、今の香織に彼氏ができていたら、やっぱり嫉妬する。別に彼氏だったわけじゃないが、彼女と親しかった男としては悔しい。

……会いに行こうかな?

よっぽど自宅は変わってないだろうから、行こうと思えば行くことはできる。お金も昨日帰ってから調べて見つけた。

どうする?

行けよと背中を押す声と行っても意味がないだろうと言う声が頭に響く。

色々と考え、しばらく悩んだ末に結局行かないことにした。理由はいくつかあり、一つはまず会いに行っても俺のことを認識できないだろうと思ったからだ。それに今の香織には香織の生活がある。そんなあいつの所に、死んだはずなのに生きている得体の知れない存在の俺が行ったところでしょうがないだろう。

よし、行かないって決めたし、とりあえず、飯食おう。

朝食をとるために俺は階段を降りてリビングに向かう。

洗面所で顔を洗った後、キッチンに入った俺は、鍋に入っている豚汁を温め直す。冷蔵庫からキャベツの千切りとコロッケを取り出す。これらはみんな昨日の夕食の残りだ。

それらとは別に冷蔵庫から卵を二個取り出し、空いているガスコンロの上にフライパンを乗せて油をひく。換気扇を回し、コンロに火を点ける。油が少しずつ表面に広がる。卵をキッチンテーブルの角に軽くぶつけてひびをいれる。油が十分広がり、フライパンが温まったところで殻を割り、卵を二個フライパンの上に落とす。

ジュッという音と共に卵白が固まりはじめる。俺はフライパンに蓋をし、目玉焼きが出来上がるのを待つ。

待ってる間に再び冷蔵庫を開けて、中から牛乳を取り出す。食器洗い機の中にある洗い終わっているコップを手に取り、牛乳を注ぐ。

……あれ? 一杯分しかないな。

予想していたより牛乳は残っていなかった。冷蔵庫の中にある飲みものはこれだけしかないため、このままだと朝食の時の飲み物がない。

リビングの壁にかけてある時計を見ると、時刻は九時半。スーパーはもう少ししないと開かない。

しょうがない。コンビニに買いに行くか。

コップに入ってる牛乳を飲み干して、出来上がった目玉焼きを皿に乗せ、豚汁とフライパンを温めていたコンロの火を切る。

それにしても、千春のやつまだ寝てるのか? 冬休みだからって寝すぎだろ。

様子を伺うためにリビングを出て二階の千春の部屋に向かう。

二階にある三つの部屋。一番右が荷物置き場。左側が俺の部屋。そして、真ん中の部屋が千春の部屋だ。

千春の部屋の前に立ち、ノックをする。

コンコン、コンコン。

ドアを叩く音が周りに響く。返事はない。仕方なくドアを少し開けて、中の様子を伺う。

「お~い、ちはる~。朝だぞ~」

部屋の中はカーテンが閉めきられており真っ暗だ。音を立てないようにして中に入る。

ベッドの横に行くと、寝間着のジャージを着て、穏やかな顔をして眠っている千春がいた。

「……ぅ……おに……ちゃ」

むにゃむにゃと何か寝言を言っているが、何を言ってるか分からない。そんな千春を見てるとイタズラ心がふつふつと湧いてくるが、それを抑えて千春を起こす。

「おい、起きろ。もう朝だぞ」

肩をやさしく叩いて起こそうとするが千春は起きない。

「こら、飯できてるんだから早く起きろ」

今度は肩を揺する。かなり強めに。

「……ぅ、ぅん?」

今度は効果があったのか、うっすらと目蓋を開いて千春が起きた。

「あれ? ……おにいちゃん?」

「そうだよ。もう朝だ。飯できてるから早く降りてこい」

「あ~うん」

まだ寝惚けてるのか、千春はボーッとしながらベッドから抜け出そうとする。しかし、ベッドの外の冷たい空気を感じた瞬間、またベッドの中に戻ってしまった。

「さむい。あともうちょっと寝かせて」

千春は冬特有のベッドのぬくもりという誘惑に誘われてしまった。

「だめだって。そうやってるとお前また寝るだろ。俺今からちょっと出かけるからその間にお前飯食っとけ」

「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

起きがけのトロンとした上目遣いの瞳で千春は俺を見つめる。こうして見るとちっちゃな子供みたいだ。

「ちょっとコンビニに行ってくるから留守番してろ」

「うん。わかった」

千春はそう返事をすると、今度はきちんとベッドから出た。

「じゃ、行ってくる」

眠そうに目蓋を擦る千春の頭をポンポンと軽く叩いて俺は部屋を後にした。

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「思い出は少しずつ薄れて」 2


「祈りを貴方に、手紙を君に」二章「思い出は少しずつ薄れて」



私を起こすと、お兄ちゃんは部屋を出ていった。

コンビニに行くって言ってたけど、何を買いに行くんだろう? 雑誌か何かかな?

少しだけ気になったが、すぐにどうでもよくなった。あんまり考えてもしょうがない。お兄ちゃんが帰ってくれば分かることだ。

私は椅子にかけてある上着を羽織り、朝食のできているリビングに向かった。

リビングに入ると温め直した豚汁の香ばしい匂いが漂っていた。キッチンテーブルには昨日の夕飯の残りとお兄ちゃんが作った目玉焼きがあった。

ひとまず料理を運ぶのを後にして私はこたつの電源を入れてテレビを点けた。テレビから流れる朝のニュースではクリスマスの特集で各地の観光スポットの紹介をキャスターがしている。私はそれを見ながら、こたつの上のテーブル部分に料理を運ぶ。料理を運び終わったら、食器棚から茶碗を二つ取り出してご飯と豚汁をそれぞれの茶碗によそう。そして最後に冷蔵庫から飲み物を取り出そうとしたところで、私はなぜお兄ちゃんがコンビニに行ったのか理解した。

あ……飲み物ないや。だからお兄ちゃん買いに行ったのか。

お兄ちゃんが帰ってくるまでご飯を食べるのを待とうと思ったが、せっかくまだ食事が温かいのに冷めてしまってはもったいないと考え、先に食べることにした。飲み物の変わりは豚汁がある。

ご飯と豚汁を運び、温まり始めたこたつに足を入れる。こたつから発せられる熱が冷えた足にじんわりと染み渡る。

テレビのチャンネルを何度か変えて何か面白い番組がやっていないか探すが、どこもいい番組がなかったので、ニュースを見ることにした。

玄関のチャイムが鳴ったのは食事を終えて食器を洗ってた時だ。

こんな朝から誰だろう?

セールスマンだろうかと考えながら濡れた手を拭いて玄関に向かう。

「は~い」

ほんの少し扉を開けて、扉の先にいる人物を確認する。

「久しぶりね、千春ちゃん」

扉の先には笑顔で私に挨拶をする香織さんがいた。

「香織さん。どうしたんですか?」

突然の来客に私は驚いた。

「ちょうど今日バイトが休みで暇になったから佳祐のお墓参りに来たの。今はその帰り。それで千春ちゃんがいるようだったら久しぶりに会いたいなと思って……」

「そうだったんですか。前もって連絡してくれればよかったのに」

「確かにそうね。アポなしで来るのは失礼だったわね」

「あ、いえ。別にそういう意味じゃ」

「……ふふ。いいのよ、どうせ来るなら電話やメールで連絡しとくんだったわ。でも、それをしなかったおかげでいいもの見れちゃった」

いいもの? なんのこと?

私がそう思ってると香織さんが私を指差して言った。

「千春ちゃんってば普段家にいるときはそんな格好してるのね。ジャージ似合ってて可愛いわよ」

香織さんに指摘されて私はようやく気がついた。……私、まだ寝間着のまんまだ!!

「あ、あのすいません。中に入って待っててください!」

私は香織さんを家に上げるとすぐに私服に着替えるために自室走った。

部屋に入り寝間着を脱ぎ捨て私服に着替え、香織さんの待つ一階に戻る。香織さんは玄関で待っていた。

「お、お待たせしました」

「お疲れさま。別に着替えなくてもよかったのに」

「だ、だって恥ずかしいじゃないですか。寝間着なんですよ、あれ」

「そうなの? でも普段はあれを着て家にいるんじゃないの?」

「そうですけど……」

「私は気にしないけどな~」

「私が気にするんです! もしかして香織さん私のことからかってます?」

「あっ、わかっちゃった? 実はちょっとだけ」

「ひどいですよ~」

「だって千春ちゃんてからかうと面白いんだもん」

「香織さん、私のことそんな風に思ってたんですね」

私の反応に香織さんは苦笑し、

「まあ、佳祐の妹さんだしね」

と、少し寂しそうに呟いた。

「あ、こんなところで立ち話もなんですから」

そう言って私は香織さんをリビングに案内する。

「お邪魔します」

香織さんは靴を揃えて脱ぐと私の後に付いてリビングに入った。

「えっとこたつと椅子がありますが」

「千春ちゃんに合わせるわ」

「じゃ、じゃあこたつでいいですか?」

「ええ。かまわないわ」

香織さんは着ていたコートを脱ぎ、綺麗に畳んで持っていたカバンの上に置いた。たったそれだけの仕草なのにどことなく気品が漂うのを感じる。

「どうかした?」

余程じっと見つめていたのか私の視線に気づいた香織さんはちょっと照れながら私に尋ねた。

「えっと、改めて香織さんって綺麗なんだなぁって思って」

「あら? そんな風に思ってくれてたの? お世辞でもうれしいわ」

「お世辞なんかじゃないですよ。その、なんていうか、香織さんって、できる大人のイメージみたいなのが私の中にあるんですよ。だからどうやったらそんなに綺麗になれるのかなあって」

上手く言葉が見つからず、しどろもどろになりながら話す私の話を香織さんは笑いもせず聞いてくれた。

「……綺麗ね。自分ではそう思わないけどな。でも綺麗になりたいなら、あることをするといいわよ」

「あることって?」

「うん。ぶっちゃけ恋」

……恋?

「あ、今なに漫画みたいなこと言ってるんだって思ったでしょ」

「お、思ってませんよ」

実はちょっぴり思ったり。

「そう? でも案外外れてるわけでもないわよ、これ」

「そうなんですか?」

「ええ。だって好きな人ができれば、その人に振り向いてもらえるようにって色々と努力するじゃない。化粧を変えてみたり、ダイエットして体型をよくしたり、他にも色々ね。それが結果的に綺麗になることに繋がる。綺麗になるってようするに何かの目的を達成する途中で生まれる副産物みたいなものなのよ」

香織さんの考えを聞いて私はすごいと思った。私は今言われたことなんて考えたことなかったし、彼氏だってできたらいいな~程度にしか思ってなかったからだ。

「やっぱり香織さんはすごいです。私そんなこと考えたことなんてないですもん」

「でも、これは私の考えだから、これが正しいってわけじゃないからね」

「それでも参考になりました」

私も何か綺麗になるための目標を見つけようかな~。そんなことを思っていたところで私はあることに気がついた。

「あれ? ということは香織さん今恋してるんですか?」

今話してくれたことを香織さんに当てはめるとそういう考えに至った。

「う~ん。してるといえば、してるのかな?」

その答えを聞いて、私はものすごい興味が湧いた。香織さんが恋してる人って一体誰だろう? やっぱり格好よくて頭もいいんだろうか?

「え~どんな人なんですか? 教えてください」

香織さんは腕を組んでしばらく悩んだ後、

「う~ん。まあ、いいよね」

と言って、その相手を教えてくれた。

「……え、えええぇぇ!!」

香織さんの恋の相手は私の予想より遥か上を行く人物だった。

「そ、そんなに驚くこと?」

「そりゃ驚きますよ。だって全然釣り合わないじゃないですか。これこそまさに月とスッポンですよ!」

「酷い言われようだなぁ」

私の反応が予想外だったのか香織さんはどう答えればいいか困っていた。

だけど、私からしたらそれだけその相手が予想外だったのだ。香織さんみたいな人がよりによってなんで……。

「ただいま~。千春飲み物買ってきたぞ~」

と、そこで飲み物を買いにコンビニに行っていたお兄ちゃんが帰ってきた。そう、今の話しの“当事者”が。

「なあ、車庫に車止めてあったけど誰か来てんのか?」

コンビニの袋に入った飲み物を持ちながらリビングに入ってきたお兄ちゃんは、私と一緒にこたつに入っている来客に気がついてその場に固まった。

香織さんも突然入ってきたお兄ちゃんを見て固まっている。

……そうだ、私以外にはお兄ちゃんは見たことがない人間に見えるんだった。

そのことを思い出した私は固まったままお兄ちゃんを凝視する香織さんに説明をしようとする。

「あの、香織さん。この人は……」

私の従兄弟です。そう私が答える前に香織さんは私が全く予想してなかった言葉を口にした。

「け……佳祐?」

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「思い出は少しずつ薄れて」 3


※今回の話はエロくはないですが、ぶっちゃけあれです。甘いです。読んでて恥ずかしくなるかもしれません。なので、そういった話が苦手な人はご注意を。



「祈りを貴方に、手紙を君に」二章「思い出は少しずつ薄れて」



なんでここに?

それが家に帰ってきた俺がリビングで千春と一緒にいる香織を見て、最初に思ったことだった。

まさかコンビニに出かけている間に人が来てるなんて思いもせず、しかもそれがついさっきまで会いに行こうかと考えていた相手だったため、なおさら驚いた。

だけど、それ以上に驚いたのは、

「お前……俺のこと分かるの?」

「け、佳祐だよ……ね?」

香織が俺のことを認識できていることだった。

お互い、何から話せばいいのかわからずに困惑する。

何か一言。喉元まで言葉は出かかっているのに、その一言が出てこない。

何か、何でもいいから何か。

お互いその場に固まった状態で、ようやく出た言葉は俺のものだった。

「き、綺麗になったな」

言ってから、しまったと後悔する。確かに会話のきっかけになる一言が欲しかったが、これは予想外だ。つい思ってたことを口にしてしまった。

俺の言葉を聞いた香織は思考停止していた。そしてようやく言われたことの意味を理解したのか、納得したような表情を浮かべた。

「やっぱり兄妹なんだなぁ」

香織は苦笑しながら呟いた。

その言葉の意味がわからず、俺は香織に尋ねた。

「なんのこと?」

「……なんでもないよ」

答えをはぐらかし、香織はその場に立ち上がる。そしてゆっくり俺に近づいてきた。俺の目の前まで来た香織はそのままじっと俺の顔を見つめてきた。

「な、なんだよ?」

俺の顔を覗き見る香織の顔があまりにも近かったため、問いかける際に声が少し裏返ってしまった。からかわれるかなと思ったが、香織はそんなことは眼中にないというかのごとく俺を見てさらには体を触ってきた。

「おい、お前なにしてんだ?」

返事をしない香織。あまりにもベタベタと触ってきたので、さすがに少し鬱陶しくなり、体に触れる手を退けようかと考えていると、俺が退ける前に香織は触れている手を離した。

「うん。佳祐だ」

「いや、だからさっきから俺だっていってるだろ」

「それは最初からわかってたってば。そうじゃなくて……ちゃんと生きてる佳祐だってこと」

そこまで聞いて俺はようやく香織が何を言いたかったのか理解した。

そうだった。俺死んでたんだ。そりゃあ説明も何もしないでいきなり現われられたら本物かどうか確かめたくなるわな。

「こういった時になんて言ったらいいかわからんが……とりあえず、ただいま」

「もう、なによそれ。意味が……わからないよ」

それまで平然としていた香織が突然俺の服の胸元を掴んだ。見ると、目元に今にも零れそうな大粒の涙を溜めている。声は若干かすれ声になっていて、心なしか肩が震えている。

まて、まてまてまて。マズいって! このままだとこいつ泣く!! というよりこの状況は昨日の千春と一緒だ。

俺は今にも泣き出しそうな香織を見つつ、奥にいる千春にSOSを送る。しかしSOSを受け取った千春は気まずそうにしながら俺から視線を外した。

「あ~うん。ごめん、お兄ちゃん。さすがに私ここで空気読めないことはしたくない」

千春へ送ったSOSはよくわからない返事によって却下された。

そして、遂に目の前にいる香織の我慢も限界を迎えた。

「うぅぅ。け、けいすけ~」

ポロポロと瞳から涙をこぼす香織。顔を俺の胸元に埋めて泣きじゃくる。それこそ子供のように。

「バカバカ。なんで……死んじゃったのよ。ずっと……待ってたんだよ? ……バカぁ」

俺の胸を何度も叩きながら、今まで心の奥底に溜まっていたものを吐き出すかのように香織は俺への文句を言いながら泣いていた。

……あぁ。俺って、こいつにこんな悲しい思いをさせるようなことをしちゃったんだな。

それはきっと香織だけじゃなくて、千春や母さん、父さん。それに俺と親しくしてたやつらをこんな気持ちにさせちまったのか。

そう思った瞬間、無意識に香織を抱きしめていた。

「ごめん、ごめんな香織」

「けいすけぇ。けいすけぇ~」

抱きしめられた香織はさっきよりも更に強く俺にしがみついた。

「そんなに強く掴まなくっても大丈夫だって。ちゃんといるだろ?」

「……うん。うん。あったかい」

「まったく。あんま泣くなって。美人が台無しだぞ」

「むりだよ。それに、けいすけの前なら私美人じゃなくてもいいよ」

うわぁ。ヤバイって。今のこいつ自分がなに言ってるかわかってないだろ。

香織へのいとおしさから、理性が飛びそうになる。今にもキスしそうだ。それを必死に抑えて、香織を落ち着かせる。

「もうそろそろ大丈夫か?」

呼吸も落ち着き、俺の服に染みていく涙も止まった。もう落ち着いただろうと考えて、香織を少し引き剥がす。

「……うん」

真っ赤に充血した目を擦りながら香織は少しだけ俺から離れた。それでも、片手はまだ俺の胸元を掴んでいる。

「ちゃんと俺がいるって確認できた?」

「……うん」

「じゃあ、ひとまず話し合いするために座るか」

香織を連れて千春のいるこたつに行こうとするが香織はその場から動かない。

「香織?」

「佳祐、ごめん。私もう我慢できない。キス……して」

…………えっ!?

「キス?」

「そうだよ、キス。……してくれる?」

そう言って香織は潤んだ瞳で俺を見つめ、俺がキスをするのを待っている。

俺は奥にいる千春をちらりと見た。千春はこの光景に照れているのか顔を赤くして、こっちをチラチラ見ては視線をそらしている。

千春のやつがいると、面倒だな。

千春のことだ、ここで俺がキスをしなければヘタレと罵り、したらしたで叫び喚く。どっちにしても面倒なことになる。

しょうがない、こうなったら……。

「香織、俺の部屋行くぞ」

香織の返事も待たず、少々強引に手を引いて部屋に向かう。千春のやつが追いかけてきたが、追いつかれる前に二人で部屋に入り、鍵を閉めた。

「とりあえず、ベッドに座れよ」

香織は黙って頷きベッドに腰掛ける。そしてそのまま目を閉じて俺を待つ体制になった。

心臓がやたらドキドキする。べつにファーストキスでもないのに、なんでこんな。

一歩、また一歩。香織に近づき、やがてお互いの吐息がかかるほど顔が近づいた。

それほど近づいたところで俺は香織の目元に残る涙の後を見つけた。

「まったく。泣きすぎだよ、お前」

そう言って、俺はまず涙の跡を消すように香織の目元にキスをした。

「……ん」

くすぐったそうにする香織。そんな香織を見て更に鼓動が早まった。

涙の跡を消し終えると、次に首にキスをする。少し強く香織の首を吸って口を離す。俺がキスをした部分はほんのり赤くなった。

「キスマーク、付けられちゃったね」

香織は嬉しそうに、無邪気な笑みを浮かべる。

……限界だった。

今度こそ香織にキスをした。口と口のキス。香織の柔らかい唇が触れる。香織の熱を直に感じる。

どのくらいそうしていたのだろう? 短くも感じるし、長くも感じたキスをどちらともなく終えて俺たちは離れた。

互いの間に沈黙が漂ったが決して悪いものではなく、むしろ心地よかった。

いつまでも続くと思った沈黙は香織の一言によって終りを告げた。

「ねえ、佳祐」

「なんだよ」

「私と、付き合って」

「いいのか? 俺……生きてるのかよくわからないんだぜ」

「佳祐は、生きてるよ。大丈夫私が保証する」

自信満々な香織の返事に俺は苦笑した。

「なんだか頼りない保証だな」

「そんなことないって。私の保証はすごいから!」

「そうですか」

「そうだよ。だから、わたしにす……」

香織に最後まで言わせずに俺は二度目のキスで口を塞いだ。

「お前言い過ぎ。こういうのは男が言うもんだろ」

「そうなの?」

「そうなんだよ」

「じゃあ、私に言ってよ。その言葉」

「……好きだよ、香織。ずっと前から好きだった」

「うん。私もだよ」

お互いに気持ちを確かめ合い、俺たちは三度目のキスをした。

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「思い出は少しずつ薄れて」 4


「祈りを貴方に、手紙を君に」二章「思い出は少しずつ薄れて」

バタンと目の前で勢いよくドアが閉まり、お兄ちゃんと香織さんは二人でお兄ちゃんの自室に入った。

いきなり逃げるから、ついつい追いかけてしまったけど、よく考えたら私に追いかける理由はなかった。

香織さんの好きな人が、まさかお兄ちゃんとは思わなかったけど、あの様子ならお兄ちゃんも香織さんのこと好きみたいだし、問題ないよね。

二階から再びリビングに戻り、依存性の高いこたつのお世話になる。

さっきの騒動でただ一人空気を読まずに報道を続けていたニュースキャスター。その姿を映しているテレビ。私は今ごろ上で行われているであろう出来事を想像して、わざとテレビの音量を大きくした。

これで、よし。ひとまず上で大きな音が聞こえてきても問題ない。二人共もう大人なんだし、きっと“やること”はやっているはず。

これだけ気をつかってあげてるんだ。香織さんが帰ったらお兄ちゃんに何か奢らせよう。きっと文句は言わないだろう。

こたつに身体を入れてカタツムリのように頭だけ出してそのままだらける。

一度部屋に戻って漫画を取って来ようかな~と考える。しかし、ここから出ると寒い。

……どうしよう?

決められないままゆっくり時間だけが過ぎていく。

あ~あったかいなぁ。それに、ちょっとねむたくなってきたかも。

こたつのぬくもりに身を委ねていると自然と眠気が湧いてきた。

二人共しばらく戻ってこないだろうし、ちょっとだけ寝よ。今日はまだまだ時間があるし、ここに戻ってきたらお兄ちゃんが起こしてくれるはずだ。……たぶん。

そんな予想を勝手にして、私は座布団を枕代わりにして眠りに就いた。



髪の毛に何かが触れていると感じた私は目を開ける。最初はピントが合わず、ぼやけていた視界が次第にはっきりとしてくる。

……香織さん?

視界には優しい表情を浮かべて私の頭を撫でている香織さんがいた。

「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」

私が起きたことに気がついた香織さんは、私を起こしてしまったことを気にしたのか、申し訳なさそうに謝った。

「いえ、あまり寝すぎてもよくないですし、起こしてもらえて助かりました」

私は上半身をこたつから出して起き上がると、その場で背伸びをした。指や首の関節がポキポキと音を鳴らす。時計を見るとここで寝てからまだ二時間しか経っていなかった。私の隣には香織さんがこたつに足を入れてテレビの番組を見ている。お兄ちゃんは何故か見当たらない。

お兄ちゃんはどこに? そう香織さんに聞こうとして、止めた。どこにいようときっと戻ってくるはずだ。香織さんがここにいるなら、なおさら。

私の考えていることを察したのか、香織さんはくすりと笑った。

「そんなに心配しなくても佳祐なら昼食の材料を買いにスーパーに行っただけよ」

「いえ、別に心配してるわけじゃ……」

内心お兄ちゃんがいないことでほんの少しだけ不安になっていたのだが、香織さんの指摘をそのまま認めるのも癪だったので否定の言葉を口にする。

「そう? それならそういうことにしておこうかな」

こちらを見つめながら、どこか含んだ物言いをする香織さん。私は完全に弄ばれていた。

「それはそうと、香織さんの方こそどうなんです。あれだけの仲を私の目の前で見せておいて、まさか何もなかったなんていいませんよね?」

やられっぱなしもどうかと思った私は反撃にでた。

私の問いかけに、それまでの余裕はどこにいったのやら、香織さんは頬を赤らめて首元に手を添え、急に黙り込んでしまう。その様子はとてもさっきまで目の前で私をからかっていた年上の女性には見えず、恋する少女に変わっていた。

更に注意深く香織さんの様子を伺うと、やたら首元を気にしていて、何度も手で擦っていた。見ると、首筋には蚊に刺された後のように赤みを帯びて少し腫れた跡があった。

あ。あれキスマークだ。

私がキスマークを見つけたことに気がついたのか、香織さんはさっと顔を背ける。

「なんで顔を背けるんですか、香織さん」

私は香織さんに近づき、首を押さえている手を引き剥がそうとする。

「ちょ、ちょっと千春ちゃん」

「お兄ちゃんとはどこまでいったんです? 少なくともキスはしましたよね。ここに跡が残ってますし」

「そんなのは千春ちゃんが気にしなくてもいいの!」

「いいじゃないですかぁ。身内の恋愛事情は気になるものなんですよ」

「ちょっと、やめなさい」

まるで猫のように、私と香織さんはじゃれあった。

「……なにやってたんだ、お前ら」

私たちはお兄ちゃんが帰ってくるまでじゃれあった。もちろん服や髪の毛はぐちゃぐちゃになっている。

存分にはしゃいだ私たちは帰ってきたお兄ちゃんを見ると、どちらともなく笑いだした。そんな私たちを見てお兄ちゃんは不審そうにしている。


この時になってようやく、私と香織さんにも、日常が帰ってきた気がした。

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「思い出は少しずつ薄れて」 5


「祈りを貴方に、手紙を君に」二章「思い出は少しずつ薄れて」

対向車線を流れるようにトラックや軽自動車などが走っている。
それらとは別に、文字通り流れていく景色を眺めながら俺はため息を吐いた。

「なあ、どうしても会わなくちゃだめか?」

現在自分が乗っている車。その運転席に座り、運転している香織に声をかける。

「だめ。もしかしたら、皆分かるかもしれないでしょ」

「もし分かんなかったら、どうするんだよ」

「その時は……どうしよう?」

「おれに聞くなよな」

香織の言葉を聞いて頭が痛くなる。もちろん実際は痛くないが、痛いと錯覚を起こしそうなほど今の状況は俺を悩ませていた。

そもそも、事の発端は自宅で昼食を食べ終え、一息ついていた時のことだった。

「ねえ、佳祐。この後ってなにか用事ある?」

少し遠慮がちに、俺の様子を伺いながら香織が尋ねた。

ついさっき、互いに告白した影響もあってか、二人とも顔を見合わせることができないでいた。

そのため、問いに対する返事は必然的に顔を背けながらになった。

「な、ないけど」

今までの流れから、これはデートの提案が来るんじゃないのか! と内心期待する。

隣にいる妹は兄の考えが分かっているのか、笑いを堪えるのに必死のようだった。

茶化すんじゃねえよと声には出さずに鋭い視線を千春に投げかける。やれやれと両手を裏返して挙げ、呆れたというジェスチャーを千春はとった。

「それじゃあさ、この後私と出かけない?」

来た! デートの誘いが来た!!

告白は自分でしておいてデートの誘いは向こうにさせるってどうなの? と頭の中で冷静を保っている自分の一部がツッコミを入れるが、悲しいことに沸き上がる興奮と抑えきれない高揚感の前では無意味なものであった。すぐさまそんな考えは消え去り、

「うん。出かけよう」

なんの躊躇いもなく賛成の言葉を口にした。

「なら準備してきて。私ここで待ってるから」

「わかった。ちょっと待っててくれ」

そう言って俺は自室に向かい、クローゼットの中にあるダウンジャケットを取り出して羽織り、折り畳み式のブランドの革財布をポケットにしまって、香織の元に戻った。

「お待たせ。準備できたぞ」

「じゃあ、行こっか」

置いてある荷物を手に取り、香織が立ち上がる。

「留守番、頼むな千春」

一人だけ取り残されるため、少しだけ不満そうにしている千春にお願いする。

「ハイハイ、任されました~。あ、香織さん今日はありがとうございました。また来てくださいね」

俺と香織で態度が違う千春に二人して苦笑する。これでも一応気を遣ってくれてるのだろう。

「お邪魔しました。また来るね、千春ちゃん」

千春に軽く手を振りながら香織は玄関を出る。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

靴を履き、千春に留守を任せて俺は香織の後に続いた。

香織が乗ってきた車の助手席に乗り、家を出る。

「ところで、これから何処に行く予定なんだ?」

家を出てから数分が経ったころ、今からの予定が気になった俺は香織に尋ねた。

「……えっとね」

すぐさま答えが返ってくると思ったら、何故だか香織は口籠もっていた。頬を掻き、少し申し訳なさそうにしている。まるで自分の失敗を隠して、それがバレないか気にしている子供のようだった。

「なに? もしかして何も考えていなかったとか」

「違うよ。ちゃんと予定はあるよ」

「それなら、なんで言わないんだよ。もしかして着いてからのお楽しみとかなのか?」

「確かにサプライズがあるといえばあるけど。これ聞いて怒らない?」

俺が怒るような何かがあるのかよと口には出さず、心の中だけで叫ぶ。何か言うにしてもひとまず話を聞いてからだ。

「ああ。怒らないから言ってみろ」

怒らないという言葉を聞いて安心したのだろう。香織は、

「実はこの後皆と会う約束してるの」

と笑顔で答えた。

香織の言った皆が誰なのか俺はある程度予想がついたが、それでも確認のために聞き返した。

「皆って誰のこと?」

「遠野君に、千里に、金子君」

香織の口から出てきたのは大学で仲良くしてた友人達で、俺にとっては一昨日まで一緒に旅行に行ったメンバーだった。

「マジかよ。それでお前何処に行くのか中々言わなかったのか」

「うん。だって佳祐、このこと話したら行かないって言うと思ったから」

確かに今の俺のことがあるから、事前にこのことを話していたら俺は行かなかったかもしれない。香織は俺のことが分かっても皆が俺だと分かってくれる保障は何処にもないからだ。正直あまり気は進まない。

しかも、二人だけのデートだと思っていたため、元からそうじゃなかったという事実も同時に告げられて気持ちも盛り下がった。

そして現在に至る。

「ねえ、やっぱり怒ってる?」

目の前の信号が赤になり、車が止まる。

「別に怒ってないよ」

「うそばっかり。さっきと全然態度違うよ」

「いや、ホントに怒ってないって。ただ……」

「ただ……なに?」

「ちょっと怖いだけ。皆が俺の事を分からなかった時の反応が」

少し躊躇いつつも香織に心情を吐露する。

「そう、だよね。ごめん、私自分の考えを押しつけてた」

「いいんだよ。言い訳を作って、いつまでも逃げててもしょうがないし。もし、分からないなら説明して理解して貰うようにするだけだ。あいつらなら、きっと理解してくれるよ」

「うん。その時は私も説明を手伝うよ」

信号が青に変わり、再び車が動き出す。

何か大事な決断をした気がした。心の奥で、それまで固まっていた何かが溶けていくのを感じる。

大丈夫。千春も香織も分かってくれたんだ。今の俺は一人じゃない。これまでとは違う。

「ただ、一つだけ文句を言うなら」

隣でビクッと肩を震わせた香織にたった一つの不満を伝える。

「せっかくの初デートは二人だけでしたかったな」

一瞬香織は驚いた表情を浮かべて固まった。そして、すぐに優しく笑った。

「じゃあ皆と会うまでに二人でどこか行こっか」

「こっちは元からそのつもり。どこへなりとも連れていけ」

「どこでもいいっていうのが一番困るんだけどなあ」

「それぐらい我慢しろ。俺の期待を裏切った罰だ」

「もう、分かったから、そんなに責めないでよ」

文句を言い合い、軽口を叩き、思い出話しをして盛り上がる。車内にはリズムのよいBGMが流れる。二人を乗せた車は再会までの僅かな時間の寄り道を楽しんでいた。


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「思い出は少しずつ薄れて」 6

「祈りを貴方に、手紙を君に」二章「思い出は少しずつ薄れて」

玄関を出ていく二人を見送り、私は一人家に取り残された。

「留守番か……」

昨日まで当たり前だと感じていた行為。それが今では当たり前ではなくなってしまった。

リビングに戻るがすっかり手持ちぶさだ。

う~ん、部屋に戻っても特にやることもないし、私も出かけようかな?

そんな風に考えていると、携帯電話の着信音が聞こえてきた。

急いでリビングから自室にある携帯電話を取りにいく。電話の相手は明衣だった。

『明衣、どうしたの?』

『あ、ハル。今何してる?』

『別に何もしてないよ。どっちかと言うと、暇を持て余してたのかな?』

『むむむ。昨日は自分も勉強してるって言ってたくせに』

電話越しに、明衣が不満そうに唸っている。

『勉強は夜にちゃんとやってるってば。明衣の方は今日も課外?』

『そうだよ、さっき終わったばかり。それで今から皆で少し遊びに行こうかなって話してたとこなんだ。よかったらハルも来ない?』

『ちょうど出かけようと思ってたし、行く! どこに行けばいい?』

『じゃあ〈Lilac〉に来て。たぶんあたし達の方が着くの早いと思うから中で待ってるね』

『わかった。それじゃあ、また後でね』

通話を終え、すぐさま出かける準備をする。

家の戸締まりの確認をしっかりとして、私は皆に会うために〈Lilac〉に向かった。

家を出ると、冷たく澄んでいる風が頬をなでた。まだ昼過ぎということもあり、少し遅めの昼食を取りに周りにある飲食店に向かう会社員の姿がちらほらと見える。私は、せわしなく道路を駆け抜ける車を眺めながら歩を進める。

香織さんとお兄ちゃんは今ごろデートを楽しんでるんだろうな~。

ほんの少し前に出かけていった二人を思い出し、私は苦笑する。

奇跡という現象があるとするならば、きっと今の状況のことを言うに違いない。死んだはずの兄が生き返り、兄の友人で死んだ後もずっと彼を想っていてくれていた人と兄が再会してお互いの想いを通わせあった。たった一日でこんな状況になるなんてことは奇跡というほかないだろう。

再会したときの二人の反応は凄かったなあ。

もう会うことはないと思っていた人が目の前に現れて驚愕の表情を浮かべたままその場に固まった香織さん。

自分のことが分からないと思っていただけに香織さんが正しく認識できたと分かった時のお兄ちゃんの反応。

まるでドラマのワンシーンを見ているようだった。

それにお兄ちゃんに会った後の香織さんの態度。それは今まで私が見てきた“大人”の見本の様な存在の香織さんとはかけ離れたものだった。

だけど、それは私が知らなかっただけで、きっと今まで香織さんの心の奥底でくすぶっていた気持ちが表に出てこなかっただけに違いない。

私も……いつか二人みたいになれるかな?

傍にいるのが当たり前で、一緒に楽しんだり、泣いたり、時には喧嘩したりして、最後には笑っていられるような……そんな関係。

そうなるには、まず最初にそんな関係になれるような相手を見つけないといけないんだけどね。

現時点でそのような相手が周りに一人も居ないことを思い出して、私は白く濁ったため息を深く、深く吐き出した。



自宅を出て暫く歩き、ようやく目的地である〈Lilac〉が見える程の距離にまでやってきた。残り少しのお店までの距離を小走りで駆ける。入り口の前に着くと共に、店内から明衣が出てきた。

「あっ、ようやく来た。もうみんな中で待ってるよ」

「そうなの? 待たせてごめん」

「いいよ、いいよ。実は言うほど待ってないから」


明衣と一緒に店内へ入る。

店内は隅々まで掃除が行き届いていて、清潔感漂い、それでいて飲食スペースに設けられた各テーブルにはアロマキャンドルや可愛らしい動物の小物が置かれており、オシャレな雰囲気を醸し出している。

その他にも観葉植物などが一見目立たない様な場所にひっそりと置かれ、さり気なく店内に自然の柔らかい空気を持ち込んでいた。

「いつ来ても、このお店の雰囲気ってすごくいいね」

〈Lilac〉に来るのは久しぶりだったが、以前来たときと同じく店内の空気はとても心地よかった。

「やっぱり? それ、あたしも思った。何て言うのかな……言葉にできない癒しがあるよね」

「あ、それわかるかも」

明衣と話ながら歩き、皆が待っている席に着く。

「なに話してたの?」

空いている席に座ると、ちょうど向かい側に座ってミルクティーを飲んでいたゆーちゃんに尋ねられた。ゆーちゃんの隣にはそこにいるのが当たり前のように柴田くんが座っていた。

「えっとね。このお店ってすごく雰囲気がいいよねって話し。久しぶりに来たけど店の中に入った瞬間になんだか空気が変わるな~て思って」

私の言葉にゆーちゃんと柴田くんの二人が「確かに」と呟く。

「言われてみると、そうかもしれないね」

ゆーちゃんが隣に座っている柴田くんに話を振る。

「そうだな……。おれはこういう店にあんまり来ることがないけど、この店は確かに感じがいいと思うな」

と皆で〈Lilac〉について褒め称える。皆ケーキなどは先に買って飲み物を既に注文していたので、私も飲み物を頼んだ。アイスティーだ。

「そういえばハル、今日は壮介さんと一緒じゃないんだね」

……壮介? ああ、お兄ちゃんのことか。一瞬誰のことかわからなかった。

「そもそもこの場に誘ったのが私だけの時点で気がつくと思うんだけど」

そこに気がつかない明衣は単に天然で間が抜けているのか、それとも本当にバカなのか……。

「なに~明衣ってば気になってるの?」

「いんや、ただの好奇心。ハルってばあの人に妙に懐いてるみたいだったから珍しくて気になっただけ」

「懐いてる? そうなの?」

「あたしに聞かれても……。ユウはどう思った?」

「え~と。私は昔佳祐さんと仲良くしてた頃のちはるみたいに感じました」

ゆーちゃんの言葉に私はドキッとする。的を得た発言、というより真実そのものだから、その観察眼に舌を巻いた。長年幼なじみやってる訳じゃないな。その割りには学校のクラスはあまり同じにならないけど。

「あ、あ~ハルのお兄さんか。あたしはその時のハルを知らないからなぁ……」

高校からの付き合いである明衣は当然お兄ちゃんのことを知らない。しかもお兄ちゃんのことで一時期物凄く荒れていた私を知っているだけに、滅多にこの話題に触れようとしない。今の私なら大丈夫だとわかってるゆーちゃんは、様子を見ながら今みたいに時折話題に出してくる。

「でも、ゆーちゃんの言うとおりかも。あの人にはお兄ちゃんと同じ感じで接してる」

実際はお兄ちゃんへの接し方そのものだけど、それは口にしない。

「お待たせしました」

お兄ちゃんの話が出たせいか、少しぎこちなくなりつつあった空気を店員さんの一言が断ち切る。目の前には私が注文したアイスティーが置かれた。

「この話はそろそろ終わりにしよっか」

私の提案に皆無言の返事をした。

次の話題をどんなものにしようか誰もが黙って考えていると、それまで私たち三人の会話に入れていなかった柴田くんが話を切り出した。

「そういえば最近噂になってる話し、皆知ってる?」

「それってどんな噂?」

柴田くんの話題に明衣が食い付く。

「おれも友達から聞いた話しだから詳しくは知らないんだけど……」

柴田くんが一旦言葉を切り、一拍間を置いて次の言葉を紡ぎだした。

「なんでも死んだはずの人間が生き返ってるって噂が立ってるんだってさ」

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「思い出は少しずつ薄れて」 7


小説は追記より



こんばんは、建野海です(*^□^*)

「思い出は少しずつ薄れて」を更新しました!!

約二週間ぶりです。やっとこの章のタイトルを書くことができました。長かった(´;ω;`)

予定では次の千春視点の回でこの章は終わるつもりです。

今回の更新は前回より早いですし、間に一個短編書いてますから少し遅くなったのはしょうがないですよね(*´∇`)

……すいません。ホントはもう少し早く更新することができました。漫画を読むことに夢中になっていて、更新遅れました。

文句は夢中になって読むことになった「僕等がいた」に。

あ、ちなみに「僕等がいた」は次の記事で久々に不定期漫画紹介します(´∀`)

さて、話は変わりますが実はこの記事でなんと100記事目です。

ブログを再開してはや半年ほど。単純計算だと180日ほどです。

毎日一記事書いていたら180記事になっていたのに……。80日も書くのをサボっていたんですね(;´∩`)

それはそうとして100記事目です。自分はどちらかといえば怠け者なのでこんなに沢山記事を書くとは思いませんでした。

これもこのブログを訪れてくれる大勢の方々のおかげです。

一次創作というジャンルばかり書いている自分に小説の指摘や感想をくださり、ありがとうございます。

いつも執筆の励みにさせていただいています。

長文になってしまいましたが、これからもよろしくお願いします。

……ついでにかなり長くなってきた小説も(_´Д`)ノ~~

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「思い出は少しずつ薄れて」 8

小説は追記から


おはようございます、建野海です。

二章「思い出は少しずつ薄れて」今回で完結です(´∀`)ヤッター

長かった、長かったです。構想は頭の中にあるのに、それを文章にできないもどかしさ。酷かったです。

今回の更新の間に短編を書いてみたりしましたが、全然駄目でした。文章が出てこなくて困ってました(´;ω;`)

ですが昨日の昼頃から急に文が頭に浮かんできて、引っ越ししながら文を書いて、ついさっきようやく書き終えることができました。

この小説を読んでくださっている方。待たせてしまってすいません
゚。(p>∧
これからも良い話を書いていけるように頑張ります。(なるべく早く)

次回は間章を挟んでその次から三章に入ります。脳内の予定ではここが折り返し地点の手前くらいです。

章のタイトルは次回更新の際に公開します。

よろしくお願いします。

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「Arrangement of memory」2

小説は追記から


こんばんは、建野海です。

間章 「Arrangement of memory」を更新しました。

今回は佳祐がまだ小さかった頃の思い出の一つです。

あまりいい思い出と言えませんが、子供の頃に経験した人もいるのではないでしょうか?

現実を知り、子供は少しずつ大人に成長していく。でも、心が成長について行けてないと捻くれて、訳もなく反発してしまう。

所謂反抗期ですね~(*´∇`)

そんな反抗期の一部を描きながら次の第三章「イブの夜風はやさしく包み」に続く話しになっています。

佳祐が忘れている言葉は何でしょうね?

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「イヴの夜風はやさしく包み」

こんにちは、建野海です(*^□^*)

小説の続きを更新しました。文章量は今回少なめですが……。

そういえば、そろそろこの小説の正式タイトルを決めたいと思います。一応今のタイトルは第一章のタイトルなので。

さて、今回第三章「イヴの夜風はやさしく包み」が始まりました。これで物語は折り返し地点を迎えるよていです。まだしばらくありますが、頑張ります(´ψψ`)


ちなみにArrangement of memory 2 が訂正するところが多いので、また時間を見つけて改稿するつもりです。

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「イヴの夜風はやさしく包み」 2

 小説は追記から。

 こんにちは、建野海です。約三ヶ月ぶりに本編を更新しました。

 長らくお待たせして申し訳ありませんでした。もう長いこと放置していたので話を忘れてしまった場合はもう一度一話から見直してください……なんて。(冗談です、すいません

 今回のお話では千春が佳祐の力になろうと決意するお話です。「思い出は少しずつ薄れて」の最後にも少しだけ書いたのですが、かつて佳祐のことで一度後悔をしている千春は二度と同じことを繰り返したくないと考えています。なので、佳祐の力になりたいと思うのですが、精神的には断然彼のほうが上なので、なかなか上手くいきません。

 そんな中でも、不器用ながらに必死に自分の思いを伝える千春。今回はそんな千春を描いたほんの少しだけやさしい物語にもなっています。

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「イヴの夜風はやさしく包み」 3

 小説は追記から。

 こんばんは、建野海です。「イヴの夜風はやさしく包み」を更新しました!

 今回の話は新しい出会いを書きました。内容は読んでいただければ分かりますが、若干佳祐がピンチになっておりますw

 前半はこれまでの話の流れからちょっぴりシリアス。後半部分は少しだけドタバタとしたものになっています。

 今回新しく登場する子はよく探してみるとどこかで見つかるかもしれません。それに、一応隠している秘密もありますよ。結構露骨に書いてるので気づく方は多いかもしれません。

 ネタばれになるのであまり深くは書きませんが、一言だけ言うと。

 ちびっ子は書いてて楽しいです! 無邪気さがいい!


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「イヴの夜風はやさしく包み」 4

 小説は追記から。

 こんばんは、建野海です。

 「イヴの夜風はやさしく包み」の四話目更新です!

 今回は千春視点です。時間軸は前話の佳祐と少しだけかぶっています。ここで描かれる千春はちょっと心配になるようなことになっていますがこれもちゃんと考えれば理由があるので後々明らかにする予定です。

 さて、今回の話でもちびっ子大活躍!? 内容は見てもらえばわかりますが。相変わらずテンション高めの内容かな? 後半。ちびっ子がいるだけで話が明るくなるんですから不思議です。

 今回で一話前のちびっ子の伏線(伏線でもないですけど)が明らかになっています。といっても、この二人も物語り上重要なキャラクターのようなので、後々すごいことになるのかな?(そのときになるまで秘密ということで)

 それはそうと、なんだか最近主人公の立ち位置にしているはずの千春が何故かメインヒロインの役割を得ているような気がしてなりません。なんでかな? 香織を出していないからだと思いますが……。

 というわけで、影が薄くなりつつある香織に一言コメントをいただいてきました。

「あ、佳祐? 私のこと忘れてないよね? 千春ちゃんと遊ぶのもいいけど、私のことも気にかけてほしいな……。早く出番がほしいよ、佳祐……」

 ……見ていて切なくなるので早く迎えに行ってあげて佳祐~。

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建野海

Author:建野海
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名前:建野海

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好きな食べ物: 和菓子、洋菓子などデザート類。

趣味: 読書、ツーリング、ゲーム、ピアノ、映画鑑賞。

好きなマンガ:
ワールドエンブリオ
修羅の門
     3月のライオン
     エリアの騎士
     フルーツバスケット

好きな小説:ダレンシャン
      白夜行
      スロウハイツの神様
      向日葵の咲かない夏
      白い巨塔など。

好きな映画:プラダを着た悪魔
      ワイルドスピード
      僕駐
      インセプションなど。

好きなゲーム:キングダムハーツ
       テイルズ
       ルーンファクトリー
       ゼルダの伝説など

好きなアーティスト:福山雅治
          宇多田ヒカル
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